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閑話 伝説の幕開け

 会話劇はテンポよく書けるので、すごく楽しかったです。正味2時間くらいで一気に書いちゃいました。


※ 閑話は、本編とは一切関係ありません。ただの私のストレス解消です。すみません。

「いやっほおおおおぉ! ついに手に入れたぞー!!」


 いつものようにドアを蹴破らんばかりの勢いで、工房の裏口から入ってきた悪友を、ライノスはじっとりとした目で見つめた。


 師匠から託されたやりかけの仕事を作業卓に置き、小さく息をついた後、彼は目をキラキラさせたくせ毛の少年に話しかけた。


「相変わらず騒々しいな、クルト。今日はどうした? また、川できれいな石でも見つけたのか?」


「いつの話ししてるんだよ、ライノス。そんなの、12のときに卒業したってば。」


「たった2年前じゃねえか。」


「いいんだよ、細かいことは! そんなことより聞いてくれよ! 俺、船を手に入れたんだ!」


「・・船? もしかして砂上船か?」


「その通り! 今日から俺も、船長ってわけさ!」


 興奮した様子で話すクルトに対して、能面のような表情を見せるライノス。


 さて、今度は一体、誰に騙されているんだろうか?


「なんだよ、その目! さては信じてないな!?」


「(お前のどこに信じられる要素があるんだよ・・・。)」


 今、心に思ったことを、彼は決して口には出さない。言葉にすれば、何倍もめんどくさいことになると知っているからだ。


「まあ、その、なんだ。とにかくおまえの船って奴を見てから、続きを話そうや。」


 背の高い細身の少年は、作業卓に手をついてのっそりと立ち上がった。


「お、そうこなくっちゃ! さすがライノス、話が早いな!」


 こうして2人は、クルトが住み込みで働いている船大工工房へと向かった。







「・・・あー、思ったよりちゃんとしてるな。どうしたんだ、これ?」


 予想外のものを目にして、ライノスは確かめるように口を開いた。


 目の前にあるのは、三角帆の小型砂上船。かなり古いが、素人目で見る限り、航行には問題なさそうに見える。


「親方に譲ってもらったんだ。ほら、この間、交易商人のトム爺さんが引退しただろう?」


「いや、だろう? って言われても、俺知らんけど。」


「親方がトムじいさんから買い取ったんだって。それを俺が更に買い取ったってわけさ。」


「買い取ったって、一体いくらで? お前、金なんか持ってないだろう?」


「おいおい、俺を見くんびんなよ。俺だって10の時から、親方のところで船大工見習いとして働いてきたんだぞ。」


「!? おい、お前まさか、その稼ぎ全部このボロ船に突っ込んだんじゃないだろうな!?」


「ん? 突っ込んだけど?」


 全力で「?」を顔の周りに浮かべる悪友アホに、頭を抱えてうずくまるライノス。


「大丈夫かライノス? 昼に食った豆、やっぱり傷んでたんじゃないか?」


「いや、そうじゃねえ。それに、痛いのは腹じゃなくて頭だ。」


 ライノスは子犬のようにまとわりついてくる悪友を、手で遠ざけながら立ち上がった。


「一応、聞いといてやる。このボロ船で、お前一体、何やるつもりなんだ?」


「何って・・・お前頭いいのにバカだなライノス。砂上船ふねでやることって言ったら、交易に決まってるじゃん。」


 あっけらかんというクルトに、ライノスは半ば諭すように問いかけた。


「いいかクルト。交易ってのは、売りもんがあって初めて成立するんだ。無一文のお前が、どうやってそれを仕入れんだよ?」


 すると、クルトは途端に笑い出した。


「なあんだ、そんなことか。いくら俺だって、そこまで考えなしじゃないぜ。ちゃんと当てはあるんだ。さ、こっちこっち。」


「(なんか、俺こいつに振り回されてるな。これはやばいパターンかも知れない。)」


 ライノスはそう思いながら、クルトに連れられて街の通りを歩く。


 目的地の交易船ギルドがあるのは、街の表通り。交易で栄えるこの街を象徴するような巨大な建物だ。


「おう、クルト! この間は助かったぜ! また、今度屋台に顔を出してくれ。」


「あら、クルトちゃん。今日はお友達と一緒なのね。ほら、このスイカ、2人でお食べなさい。」


 道行く先でクルトに声かけてくる露天商たちの間を抜け、2人は交易船ギルドの門をくぐった。






「おや、クルトちゃん、いらっしゃい。また、船乗りたちに話を聞きに来たのかい?」


 クルトに気づいて声をかけてきたのは、優しそうな中年女性だった。


「こんにちは、カレンさん。今日はカレンさんに用事があってきたんだ。」


「あたしに用事? それに、後ろの子は?」


「あ、俺、こいつの幼馴染でライノスっていいます。ブラマンク付与術師工房で、徒弟として働いてます。」


「ああ、あんたがライノスくんかい。クルトちゃんからいつも聞いてるよ。『俺の一番の親友だ』ってね。」


 恥ずかしさに顔を赤らめたライノスが咳払いしている間に、クルトは受付係の女性に話し始めた。


「カレンさん、前に言ってた依頼さ。あれ、俺やってみたいんだ。」


「やってみたいって・・。あれは船がなきゃどうにもならないよ。」


「俺、船を手に入れたんだよ!」


「まあ、そうだったの! おめでとう、クルトちゃん。ついに、夢が叶ったんだね!!」


 互いの両手を合わせて盛り上がる2人。


 一人取り残されたライノスは、さっと手を上げてその間に割り込んだ。


「ちょっと待て、クルト。俺にはまったく話が見えないんだが。」


 クルトに「しばらく黙ってろ」と釘を刺してから、彼は受付係に向き直った。


「あの、カレンさん、依頼って何のことですか?」


「あなたは文字が読めるわよね。ほら、あそこに書いてある、あれよ。」


「郵便交易船?」


「そう、南砂海道のオアシスに、手紙とちょっとした生活必需品を届ける定期船よ。ギルドから船乗りに委託してるんだけど、儲けが少ないからって、やりたがる人がいなくてね。最近は、滞りがちになってるのよ。」


「これなら元手もいらないだろ? それに人助けにもなるんだ。こんなん、やるしかないだろ。」


 それを聞いた受付係がくすくす笑って言った。


「クルトちゃんらしいわね。クルトちゃんは、いつも他人のために走り回ってばっかりでちょっと心配だけど、あなたみたいなお友だちが一緒なら安心ね。」


「ふはあ?」


 驚きのあまり、おかしな声を出すライノス。だが、このままではマズイとすぐに立ち直り、彼は受付係に断りを入れた。


「えーっと、ちょっと失礼します。」


「? はい、いってらっしゃい。」


「(クルト、ちょっとこっち来い。)」


 耳打ちするライノスに、ぽかんとした顔を向けるクルト。


「どうしたんだ? 今から出発の日程をカレンさんと・・・。」


「(いいから、こっち来い!)」


 まだなにか言ってるクルトを無理矢理引きずって、2人は物陰で話し始めた。


「なんかさっき、俺が、お前と『一緒に』依頼を引き受けるっていう風に聞こえたんだが?」


「? そりゃ、そうだろ。お前と一緒に旅に出るんだから。」


「はあ、何だそりゃ!? 俺聞いてねえぞ!?」


「え、だって、前から言ってたじゃん。『お互い大人になったら、2人で砂海を旅しよう』って。」


 目を両手で覆い、天を仰いで絶句するライノス。絞り出すような声で、彼はようやっと悪友に問いかけた。


「言った。確かに俺、言ったよ。でもそれ、お前のおふくろさんが生きてた頃の話だよな? もう10年も前だぞ。」


「そう! 俺たち、たった10年で夢を叶えたんだ! すげえと思わねえか!?」


 クルトの瞳が放つキラキラした光を見て、ライノスは眩しそうに目を細めた。


 こうなっては、こいつ絶対に止まらない。でも、止めなきゃ絶対にマズイ。


 無駄だと思いながら、彼は悪友を説得しようと試みた。


「なあクルト、今からでも遅くねえ。船は親方に返して、もう少し準備をしてからにしねえか?」


「いや、そりゃ無理だ。俺、親方の工房とこ辞めてきちゃったし。住み込ませてもらってた部屋も、今朝引き払ってきた。」


 こいつ、自ら退路を断ってきてやがる・・・!!


 戦慄とともに、大きく諦めの息を吐くライノス。


「(分かってんだよ! こいつがこうなっちまったら、俺が一緒にいかなきゃならないってことは!! でなきゃ、こいつ、どこにでも勝手に飛んでいっちまうんだから!!!)」


 子どもの頃からずっとそうだった。伊達に、突っ走るクルトを止められず、これまで様々な騒動に巻き込まれてきたのではない。


「はああ、師匠になんて言ったらいいんだろう?」


 10歳で徒弟になってから4年もの間、身寄りのない自分を我が子のように可愛がってくれた恩師の顔を思い浮かべ、彼は深い深い溜息を吐いた。






「ああ、そうか。気をつけて行ってこいよ。」


「へっ?」


 恐る恐る伝えた暇乞いに対する師匠の返事が、あまりにもあっさりしていたため、ライノスは拍子抜けしまった。


「あの、ブラマンク師匠、俺ってそんなに出来の悪い弟子でしたか?」


 俺は師匠に必要とされていなかったのか、と衝撃を受けた彼は、思わず師匠にそう尋ねた。


 付与の手を止めた老付与術師は、かけていた眼鏡を薄くなった白髪頭にひょいと乗せて、作業卓から顔を上げた。


「いいや。お前は俺の育てた弟子の中でも一番の出来だ。出来れば俺の工房を引き継いでほしいと思ってた。本当なら、引き止めたいところだ。」


 嘘の嫌いな師匠に正面からそう言われたライノスは、すっかり混乱してしまった。


「えっ、じゃあなんで・・・?」


 戸惑う愛弟子の姿に、ブラマンクはニヤリと微笑んだ。


「そりゃあ、お前の顔に書いてあるからさ。『俺もあいつと一緒に行きたい』ってな。」


 思わず顔を両手で擦ったライノスを見て、ブラマンクは声を立てて笑った。


 そして、ひとしきり笑い終わると、ライノスを自分の側に座らせて話し始めた。


「お前の友達のクルト、ありゃあ、不思議な子だ。いつも馬鹿みたいにヘラヘラしてるくせに、いつの間にかどんな奴の懐にだってするりと入ってくる。」


 決して人付き合いがよいとは言えない師匠が、クルトを知っていたことに、ライノスは驚きを隠せなかった。


 その様子を慈しむように見ながら、老付与術師は話を続けた。


「あいつに船を譲ったトムはな、俺の古い友人なのさ。あいつの船に最初に鮫皮を張ってやったのも俺だ。」


 驚きに目を見張ったライノスに、ブラマンクは小さく頷いてみせた。


「あいつはいい船乗りだ。だが、気難しくてな。商売気がないのも災いした。若い頃、一緒だった女房と子どもはあいつに愛想尽かして出て行っちまったよ。以来、奴はずっと一人で黙々と仕事をこなしてた。」


「そうだったんですね。」


「ああ。だがなあ、あれはいつの頃からだったか。あいつがよく笑いながら話をするようになったのさ。『フィントのところに変なガキがいる』ってな。」


 フィント船大工工房にはたくさんの見習いや徒弟がいる。だが、変なガキと言われて思い当たるのは、たった一人しかいない。


「あいつはよく言ってたよ。あのガキみたいな息子がいたら一緒に旅をしてみたかったとな。だから、最後の旅を終えたとき、クルトに船を譲ったんじゃねえかな。」


「最後の旅って・・まさか、トムさんは・・・。」


 師匠の言葉を聞いたライノスは、神妙な顔で尋ねた。しかし、それを聞いたブラマンクは、笑いながら大きく手を振ってみせた。


「ああ? いやいや、勘違いすんな。あいつはまだピンピンしてるよ。」


 ホッと胸を撫で下ろすライノス。我が子のような弟子の、そんな優しさを愛しく思いながら、彼は殊更に明るい調子で話を続けた。


「どうも、取引先の小間物屋のおかみと懇ろになったらしくてな。船を降りて、店を手伝うことにしたんだとさ。最近は一緒に呑むたびに惚気がひどくて、参っちまってるよ。」


「トムさん、この街で世帯を持つことにしたんですね。」


「ああ実は、トムとおかみの間を取り持ったのも、クルトらしいぞ。本人には、そんな自覚が全然ねえようだがな。」


「クルトがですか?」


 大きく頷いたブラマンクは、そのゴツゴツした手を、どしんとライノスの肩に置いた。


「なあ、ライノス。俺も長いこと、いろんな交易商人を見てきた。こすっからいやり方で成り上がる奴もいたが、そんなのは所詮長続きしねえ。結局、商売で成功するやつってのはみんな、人に好かれやすい性質たちの奴ばかりだ。クルトはな、それがずば抜けてやがる。」


 真剣な表情でそう言った師匠の言葉に、ライノスは素直に頷いた。


 確かに、クルトはアホだが、それ以上に思いやりのある優しい奴だ。彼は誰よりもそれをよく知っていた。


 老術師は、ライノスの目をじっと見つめながら言った。


「あいつはきっと、すげえ商人になる。だが、どうにも危なっかしいからな。お前みたいな堅物が隣にいりゃあ、安心だろう。」


 老術師はニコリと微笑んだ後、軽く目をしばたたかせた。そして小さく鼻を啜ると、生涯最後の愛弟子にこう問いかけた。


「お前もそう思ってるからこそ、俺にこうやって暇を告げに来たんだろう?」






 2日後、クルトとライノスは、再び交易ギルドを訪れていた。


「よし、旅立ちに向けて、早速準備するか!」


「しっかり頼むぜ船長。何しろ俺も昨日から無職なんだからな。」


「無職じゃないだろ。ライノスは俺の相棒なんだから。俺達はもう交易商人だ。2人でいっぱい交易やって、いろんな人を喜ばせようぜ!」


「出航もしてねえのに、気が早すぎるだろ、アホクルト。」


 悪びれずにケラケラ笑うクルトに、ライノスは小さく肩をすくめて尋ねた。


「ところでお前、船の動かし方知ってんだよな?」


「馬鹿にすんな! 伊達に船大工工房で修行してないぞ。修理から操船まで、バッチリこなせるさ。」


 そこまで言った後、囁くような声で彼はこう付け加えた。


「・・・ただ、航路図は読めないけど。」


「はあ!? それじゃ行き先もわかんねえじゃねえか! 出航したらどうするつもりだったんだ!」


「いや、ライノス賢いから、航路図も読めるかなーって。へへへ。」


「へへへじゃねえ! どうすんだ、このままじゃ俺達、砂海で骨になっちまうぞ!」


 激しくクルトに詰め寄るライノス。


 すると、そこに割って入った人物がいた。2人の話をニコニコしながら聞いていた、受付係のカレンである。


「ねえ、クルトちゃん、ライノスくん。それならちょうどいい人がいるわ。一度会ってみない?」






「はじめまして。オイラは航路図士のマオっていいますにゃ。」


猫人ケットシー族か。」


 ライノスの言葉に、小さな帽子を被ったマオはニンマリと笑っていった。


「そうですにゃ。目は人間よりずっといいから、どんな小さな星も見逃しませんにゃ。」


「マオさん、乗ってた船が大砂蟲サンドワームにやられちゃったらしくてね。隊商キャラバンが一時解散しちゃったんですって。船の修理が終わるまでの期間限定だけど、2人に協力してくれるそうよ。」


 カレンの言葉に頷いたクルトは、柔らかな毛の生えたマオの手を取ると、深く頭を下げた。


「俺はクルト。こっちはライノスです。マオさん、よろしくお願いします。」


「こっちこそですにゃ。こう見えても、砂海には結構詳しいですにゃ。南砂海道は比較的安全な航路だし、どーんと大船に乗ったつもりで任せてほしいですにゃ!」


 こうして同舟の仲間となった3人は、その後、着々と出航準備を進めていった。






「ギルドから依頼された物資は積み込んだし、手紙も預かった。だいたい準備は終わったな。」


「船の準備もバッチリですにゃ。」


 互いの仕事を確認し合うライノスとマオ。それに対して、クルトは一人、難しい顔していた。


 だが、ライノスはそれをあえて無視していた。彼は知っていたからだ。


 あれは絶対に良からぬことを考えている時の顔なのだ。下手に触れば、絶対に巻き込まれてしまう。


 だが、そんなこととは知らない善良な猫人は、何気なくクルトに問いかけてしまった。


「どうしたんですかにゃ、クルトさん? そんな顔して?」


 クルトはパッと顔を上げると、2人の仲間を見ながらこう切り出した。


「せっかくだから俺、村の人達にもっと喜んでほしいんだ。ついでに、なんか持っていける交易品はないかな?」


「今更そんな事言われても困るにゃ。もうあんまり積み込むゆとりはないですにゃあ。」


「どうにかなんないかなライノス?」


 ほら、やっぱり巻き込まれた。そう思いながらも、彼は厄介な親友に、自分の考えを伝えた。


「・・・それなら針がいいんじゃないか。」


「針? 縫い物に使う?」


「ああ、品質の高い針は、辺境じゃなかなか手に入らないらしいんだ。あれならかさばらないし、保管もしやすい。俺の付与術で折れにくくもできるしな。」


「ああ、なるほど! それなら僕は、お茶をオススメしますにゃ。」


「お茶か。確かにそれはいいな。」


「何がいいんだ、ライノス?」


「僕が説明しますにゃ。茶葉の密閉壺は、とっても重くて運ぶのが大変なんですにゃ。袋に入れると軽いけど、茶葉が傷んじゃうから、交易には使えないですにゃ。でもライノスさんの付与術があれば、傷みなく遠くまで茶葉を運ぶことができるのですにゃあ。」


「すっげぇ! ライノスも、マオさんも本当にすげえや。俺全然思いつかなかったよ!」


 明るい太陽のように顔を輝かせて、仲間を称賛するクルト。そんな彼をライノスは眩しそうに見つめた。


「あ、でも、交易品を仕入れる金がない。どうしよう、ライノス?」


「(おお、やっとそれに気づいたか。自分で気づけたのは偉いぞ。)」


 心の中で親友の成長に目を細めながら、ライノスは言った。


「俺の手持ちも、旅の食糧やら消耗品に消えちまったからな。まあ、今回は諦めろ。」


「いえいえ、そういうことなら、その仕入れ分は僕が投資させてもらいますにゃ。」


「マオさん、いくら何でもそれは。そこまでしてクルトに付き合うことないんだぜ。」


「いえいえ、ライノスさん。僕だって交易商人の端くれですにゃ。儲からない話にお金は出さないですにゃ。」


「マオさん、これって儲かりそうなの?」


「はい、クルトさん。針もお茶も、砂海の村では人気が高い商品ですにゃ。でも、南砂海道ではあまり流通していないですにゃ。これはきっと、すごく儲かる気がしますにゃあ!」


「おお、すごい! さすがはマオさん!」


「いやー、そんなに素直に褒められると照れますにゃ。それほどでもないですにゃあ。」


 マオはそう言って長いヒゲをくるくる撫でた。そして、2人に向き直るとこう言った。


「それに僕のことは、マオって呼んでくださいにゃ。」


「じゃあ、俺のこともクルトって呼んでくれ。よろしくなマオ!」


「俺もライノスで頼む。『さん付け』はどうも、くすぐったくていけねえや。」


「いい旅にしましょうにゃ、クルト、ライノス!」


 こうして3人の長い長い冒険の旅は幕を開けた。


 彼らの旅はその後、砂海の史伝詩サーガとして長く語り続けることとなる。だが、このときにはまだ、そのことを知る由もないのだった。


(つづくかも?)



付与術師エンチャンターについて】

物体に魔力を宿すことで、その物体が本来持っている特質を強化・弱化させる術師の総称。その多くは呪文詠唱者スペルキャスターではなく、魔力を直接物体に流して加工する職人クラフトマンである。一般的に、付与エンチャントにおいては専門的な知識よりも、物体の性質を見極める目と対象物との相性が重要視されている。そのため、比較的魔力の素養が低い者でも、修練と経験によってその職に就くことができる。その経緯から付与術師は平民出身者が圧倒的多数を占めており、呪文を操る魔術師ソーサラー、魔力を用いて魔道具の加工を行う魔道具師マギクラフターに比べ、社会的地位は相対的に低い。その術の特性上、対象物の性質そのものを大きく変えるような付与は出来ないとされている。ただ、伝説によれば、かつては空間や時間、概念といった実体のないものにまで影響を及ぼし、世界の理を書き変えるほどの付与術師が存在したとされている。この伝説の真偽は不明であるが、現代の魔法学会においては、単なるおとぎ話であるとして否定されている。



猫人ケットシー族について】

大陸南部の温暖な地域に広く暮らしている獣人族。獣人の性質としては非常に珍しいことに、彼らは単一種族で構成された街や村などの生活基盤を持っていない。彼らは同族同士で暮らすよりも、他種族と共にいることを好んでいるのである。身長は120cm〜140cm程。見た目は完全に直立した猫であるが、意外にも手先が器用で、どんな道具も自由に使いこなすことができる。視力・聴力・跳躍力に優れ、身体能力も高いが、感覚が鋭敏すぎるがゆえに環境の変化に影響されやすいという弱点も持つ。知能が高く、魔法適性も人間と同程度であるため、魔法職として活躍する猫人族も多い。人間との交配が可能であり、半猫人ハーフケットシー族と呼ばれる人々も存在する。人間の見た目に、三角の猫耳・長い尻尾を持つ彼らは、一部の人間族から熱狂的に愛されている。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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