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28 言葉を話す魔物

 次回と次々回は、主人公が出てきません。(予定)

【大陸歴1415年5月13日 深夜】


 この世界ゲームに閉じ込められてから、初めて聞いた日本語。


 俺はそれを発した相手の正体を確かめるべく、目の前にいるアリ人間に日本語で問いかけた。


「お前か?」


 俺の問いかけに、アリ人間は小さく頷くような仕草を見せた。


 マジか。このゲームに閉じ込められてから10日あまり。やっと、日本語を話す相手を見つけたと思ったら、なんとソイツはアリ人間だった。


 どうなってるんだ、これ?






「お前、日本語が分かるのか?」


 俺の問いかけに、アリ人間は困ったように首を傾げた。


「ニホンゴ? ナニ? ワカラナイ」


 日本語を話しているのに、日本語が分からない? そんな馬鹿な。


 すると、俺のその思考を読み取ったかのように、アリ人間は再び俺に向かって話しだした。


「ワタシ カンガエ ツタエル」


 なるほど。その言葉でピンときた。


 このアリ人間は、ナビさんと同じように、俺の思考を直接読み取って、それに対して反応しているんだ。


 多分、アリ人間の思考を受け取ったときに、俺自身がそれを日本語に変換しているんだろう。


 ん、待てよ? でも、それなら、ナビさんも、俺に日本語で話しかけてくれそうなものだ。


 一体どういう仕組なんだろう。うーん、分からん。






 ふと見ると、ユーリィが、驚いたような顔で俺とアリ人間を交互に見ていた。どうやら彼女にも、このアリ人間の言葉が伝わっているようだ。


「お前は、誰にでもこうやって、声を出さずに話しかけられるのか?」


「チガウ ナカマダケ アナタ コノ メス ナカマ」


「仲間? あたしが?」


 ユーリィが驚いた調子で何か言った。多分、アリ人間の言葉に反応したのだろう。まあ確かに、急に魔物が喋りだしたら、そりゃ驚くよね。


 でも、アリ人間は、ユーリィの驚きなど意にも介さず、俺に向かってこう言った。


「ワタシ コ ウム」


「子? お前、女王アリなのか。」


「ジョオウ? ワカラナイ アンゼン バショ ホシイ」


 ふむ、難しい単語は理解できないらしい。だが、コイツの言いたいことは、だいたい理解できた。子どもを産むから安全な場所に連れていけってことか。






 ここらで一番安全といえば、ユーリィたちの集落だけど、流石にあそこで魔物を増やされたら困るなあ。


 かと言って、コイツ一人(?)砂漠に放り出したら、すぐに死んじゃいそうだし。


 ある程度、集落から離れていて、俺が様子を把握できる場所となると・・・。


 最初に砂のかまくらを作った辺り、このゲームのスタート地点がいいかもしれない。


 俺が女王アリにそう伝えると、女王は小さく触覚を震わせて「イイ」と返事をした。


 スタート地点は、ここから東に1kmあまり移動した場所だ。すばしこいユーリィはともかく、俺と女王アリが移動するには、ちと危険すぎる。


 俺は、護衛のための魔物を呼び出すことにした。


 冷たい砂の上に、光り輝く魔法陣が現れ、そこから次々とアリたちが現れる。


 呼び出したのは、将軍アリを頂点とする部隊一つ分(将軍アリ1、隊長アリ3、兵隊アリ12)のアリたちだ。


 突然出現したアリたちを見て、ユーリィは目をまん丸にして驚いていた。


 そういえば、ユーリィの前で魔物を呼び出したのは、これが初めてだっけ。


 彼女もこのゲームのキャラなのに、この反応はちょっと意外な気がする。






 将軍アリを中心に、アリたちが整列し終えた。すると、女王アリは、眼の前に控える将軍アリに向かってぴょんと跳び上がり、まるで馬にでも乗るかのように、その首にまたがった。


 同時に、隊長アリの一匹が、俺とユーリィの前に進み出て、その体を低く地面に伏せた。


「ノッテ」


 俺の頭に女王アリの言葉が響いた。おそらくその言葉は、ユーリィにも聞こえたのだろう。


 彼女は一瞬ためらった後、俺を胸に抱えると、隊長アリの首に跳び乗った。


 女王アリがさっと手を降る。俺達を乗せた隊長アリを含む部隊は、女王の操る将軍アリに従い、すごい勢いで砂の上を走り始めた。


 夜風がびゅうびゅうと音を立てて過ぎていく。体感だけど、多分時速50kmくらいでてるんじゃないかな。ものすごい速さだ。


 ユーリィが心配だったけど、意外なことに彼女は、足で器用にバランスを取って、上手に隊長アリを乗りこなしていた。


 驚きに目を見張りつつも、瞳と口元には子どもらしい無邪気な笑みが浮かんでいる。彼女の楽しそうな様子に、俺も微笑ましい気持ちになった。


 そういえば、あの海賊みたいな連中も、デカい二本足の鳥を上手に乗りこなしてたっけ。


 きっとあの鳥は、この世界ゲームでは一般的な乗り物なのだろう。さしずめチョコボってところか。もちろん色や見た目はぜんぜん違うけどな。


 アリの乗り方が上手なところを見るに、ユーリィも、あの鳥に乗ったことがあるのかもしれない。






 ほんの数分で、目的地であるゲームのスタート地点に到着した。


 隊長アリが止まるとすぐに、ユーリィは俺を抱えたままポンと砂の上に飛び降りた。


 俺は覚えたばかりの現地語で彼女に「ありがとう」と伝えた後、二人で一緒に女王のところへ行った。


「ス ツクル」


 女王は俺にそう言うと、後ろに控えていた将軍アリたちの方を向いて、小さく触覚を震わせた。


 すると、将軍たちは弾かれたように動き出し、協力してその場に穴を掘り始めた。


 ちっぽけな女王に巨大な将軍アリや隊長アリが従っているのは、なんだか奇妙な感じだ。でも、きっと、これが彼らの自然な姿なのだろう。


 ただ、将軍アリたちは図体がデカいからか、せっかく掘った穴を崩してしまい、遅々として作業が進まなかった。


 戦闘に特化した彼らは、あまり巣作りが得意ではないようだ。


 俺はまた魔法陣を起動し、巣作りが得意なちびアリ太郎たちを20匹ばかり呼び出して、彼らの仕事を手伝わせた。






 巣作りが得意なちびアリたちの活躍で、ようやく巣作りが順調に進み始めた。どんどん穴が出来上がっていくのを見ていた女王は、急に俺の方を振り向いた。


「カンシャ アナタ アルジ」


 女王はそう言うと、俺の前で両足を折り、体を小さく折りたたむような仕草をした。見ようによっては、お辞儀をしているようにも見える。


 どうやら、満足してもらえたようだ。


 空を見ると、天空に浮かぶ青い月は、次第に西の空に傾こうとしていた。


 俺はユーリィと一緒に、集落へ戻ることにし、女王に別れを告げた。


 すると、女王はまた、隊長アリを俺達の前に進み出させた。帰りも送ってくれるらしい。


 コイツ、意外と気が利くなあ。


 隊長アリのおかげで、あっという間に集落にたどり着くことができた。これで少しは、ユーリィの睡眠時間を確保出来そうだ。


 俺はユーリィが再び寝床に就くのを確かめた後、一人で外壁の門を出て、再び砂漠へ向かった。


 今夜はいろんなことがいっぺんに起こって、流石に疲れてしまった。でも、眠ることができない俺は、休むことができない。






 このゲームに閉じ込められてから、もう10日。いくらゲーム内の時間とはいえ、流石に時間が経ち過ぎている。


 現実世界の俺のこと。愛しい家族である南や友里のこと。


 一人でいると、不安が次々と湧き上がり、居ても立ってもいられない気分になる。しかし、それをどうすることもできない。


 いくら楽観的な俺でも、あれこれ考えざるを得ない状況だ。それなのに、不安で思考はまとまらない。


 こういうとき、体が自由に動かせるなら、大声を出して暴れるなり、寝て気分を変えるなりできるだろうに。


 だけど、これでへこたれる訳には行かない。俺はなんとしても、このゲームから脱出ログアウトしてやるんだ。そのために準備をしなくては。


 俺は溢れ出る不安を無理矢理飲み込み、メニューアイコンに視線を向けた。


 そして、ゲーム攻略を進めるための新たな軍団を、次々に呼び出していったのだった。



種族:迷宮核ダンジョンコア

名前:澤部十四郎

迷宮レベル:8


総DP:9049

獲得DP/日:7240

消費DP/日:6223



種族:迷宮守護者

名前:ユーリィ

職業レベル:5(ガーディアン)

強打L3 突撃L3 短剣術L5 

暗視L1 反射音探知L1 締め付けL1

操船L1 登攀L2 騎乗L2 詐術L1

 

装備:守護者の剣

 (自動回復L2)

   守護者の鎧

 (斬撃被ダメージ軽減L1 酸耐性L2

  熱耐性L1 炎耐性L1 毒耐性L2

  土魔法耐性L1)

   水鏡の円盾

 (光線攻撃反射L5 石化耐性L5

  魔法耐性L2)



種族:人間

名前:フーリア

職業レベル:2(デザートシャーマン)

危機感知L1 自然の祝福L1

不死者払いL2



蟻人アントノイド:クイーン】

種族:人型魔獣族

属性:土属性

召喚コスト:3000DP

維持コスト:3000DP/日

保有スキル:〈熱耐性〉〈酸耐性〉〈昆虫種魅了〉〈産卵〉

アントノイドは人型の魔獣種であり、その生態は蟻に酷似している。彼らは巣を基盤とする社会を形成するが、クイーンはその中で唯一、繁殖を担当する役割である。アントノイドには、独立した雄個体が存在しない。クイーンの体内には精子嚢があり、その中に生殖機能のみを残した雄個体が、寄生する形で存在している。クイーンはこの精子を利用して生殖を行っている。クイーン自身は攻撃・防御能力をほとんど持っていないため、産卵が始まると自ら動くことはなくなる。定住する巣を形成した後は、その中で生涯産卵を続けるのみとなる。生まれたアントノイドは、役割によって様々な形態に分化していくが、どの個体もクイーン自身の分身である。彼らは言語を持たないが、思念を介して意思の疎通を行うことができる。そのため、一体のアントノイドが知り得た情報を、瞬時にすべての個体で共有することも可能である。そのことから、アントノイドはある意味、その社会全体で一個の生物と言える存在である。また、その思念を活用することで、他の昆虫種を魅了し、意のままに操る事もできる。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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