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27 新たなる進化

 うおおぉ、年末進行に突撃だー!(ヤケクソ) というわけなので、いつもより少しお話が短めです。すみません。

【大陸歴1415年5月13日 深夜】


〈十四郎視点〉


 強敵との戦いを終えた俺たちは、月明かりに照らされながら、集落へ向かってゆっくりと進んでいた。


 俺とユーリィが移動できるのは、俺の領地内だけ。砂の上に敷かれた幅5m程の細い一本道だけだ。


 俺は意識を向けることで、領地である立方体を見ることができる。風景の中に、薄っすらと光る緑の枠線みたいなものが見えるのだ。


 でも、ユーリィはどうなんだろう? ふと疑問に思ってしまった。


 黙って歩くのも何なので、俺は言葉の練習も兼ねて、覚えたての現地語で彼女にそのことを尋ねてみた。


 お互いに苦心讃嘆しながらの会話の結果分かったことは、どうやらユーリィには領地の境界が見えていないらしいということだった。


 ただ、見えない壁があることは、彼女にもなんとなく感じられるそうだ。


 彼女は実際に、見えないはずの壁を手で触りながら、俺にそう教えてくれた。


 ちなみに壁は全然硬くなく、ふわふわした感触らしい。彼女にとっては壁というより、進むのを邪魔する力場のような感じなのかもしれない。


 それを聞いて、俺は少し安心してしまった。もしかしたら、ユーリィが移動するたびに頭をぶつけて痛い思いをしているんじゃないかと思っていたからだ。


 彼女はゲームのキャラクターに過ぎない。けれど、それでも子どもが無意味に痛い思いをするのは、子を持つ父親として放っておけないもんな。


 その後、ユーリィにいろいろな言葉を教えてもらいながら歩いていると、彼女の左腕に装備されていた小盾が、溶けるように消えた。


 でも、驚いた彼女が慌てて左手を掲げると、すぐにまた小盾が現れた。この盾はユーリィの思う通りに着脱可能のようだ。


 さすがはゲーム。こういうところは、便利でいいね。普段から腕に盾なんてつけてたら、生活しにくいだろうからなー。






 集落までは残り200mほど。青くて大きな月はすでに頭のてっぺんにある。視界内の時刻表示を確認すると、ちょうど日付が変わったところだった。


 早くユーリィを休ませないと。子どもがこんな時間まで起きてちゃダメだよね。俺は彼女に少し急ごうと伝えた。


 ユーリィが砂を蹴るリズミカルな音に混ざって、後ろからガサガサと砂を掻く音がする。音の主は巨大な将軍アリだ。


 将軍アリは、俺たちを守るように、ピッタリと後ろをついてきてくれている。


 唯一の生き残りであるこの将軍アリは、酷い有様になっていた。前足の一部が欠けているし、殻のあちこちがひび割れている。立派な角の先端も欠けてしまった。それだけ激しい戦いをしてくれたってことだ。


 こんなに痛々しい姿なっても、この将軍アリは俺たちを守ろうとしてくれている。その様子に、俺はじんと来てしまった。


「ありがとな、将軍。また、すぐに部下たちを呼び出してやるからな。」


 コイツがただのゲームのキャラで、後ろからついてくるのもゲームの仕様なんだってことは、分かってる。


 でも、目の前にいる将軍アリを見ていたら、ごく自然にその言葉が出てきたのだ。


 将軍アリは、まるで俺の言葉が分かったみたいにその場に立ち止まると、俺に向かって頭を下げて、小さく体を動かした。


 なんか心が通じ合ったみたいで、ちょっとうれしいな。


 だが、次の瞬間、将軍アリの体が突然激しい光を放ち始めた。これまでに一度も見たこともない輝き方だ。


 一体何が起こったんだ!?


 ユーリィが短剣を構え、俺をかばうように抱えて将軍アリへ向き直った。


 彼女の腕に再び現れた小盾に守られながら、俺は目の前の光景を、ただ呆然と見つめることしか出来ない。


 そのとき、俺の脳内にナビさんの声が響いてきた。







『迷宮レベルの上昇により、系統進化選択が解放されました。進化先を選択してください。』


 声が終わると同時に、俺の視界に半透明のウインドウが浮かび上がる。


 そのウインドウに、シルエットで示されている三体の魔物の姿。足の数や形状から見て、おそらくアリだろうということは、すぐに理解できた。


 俺がウインドウの中の魔物に視線を移すと、そのアイコンが反転して輝き出す。どうやらこれは、選択画面のようだ。


 おそらく、将軍アリの進化演出なのだろう。この中からどれか一つの進化先を選べということなのかもしれない。


 眼の前の将軍アリは、光を放ったまま静止した状態だ。俺が選択を終えるまでは、きっとこのまま何じゃないかな。






 危険なことは起こらなそうだと判断した俺は、短いカタコトの言葉で、ユーリィにそのことを伝えた。


 彼女は俺の言葉を聞いて、一応、武器をしまった。それでも相変わらず、俺と将軍アリの間に立ったままだった。


 まあ、突然こんなことが目の前で起きたら、彼女に限らず、誰だって警戒してしまうものだ。


 俺は改めて、ウインドウの中の魔物の姿を観察してみた。


 シルエットの傍らに、文章が書いてあるが、当然俺は読むことができない。


 数字はある程度読み取れるものの、どれもさほど差があるようには思えなかった。きっと、どれを選んでも、強さはそんなに変わらないということなのだろう。


 横に並んだ三体の内、一番左側のシルエットは、全体的にずんぐりしたフォルムをしていた。見た目的に、なんとなく力や防御が高そうな感じがする。


 真ん中のシルエットは、アリの背中から羽が生えていた。手足や尾の先は鋭く尖り、アリとハチをかけ合わせたような姿だ。


 そして一番右。これはなんと、2本足で直立していた。見た目もほっそりしていて、アリと人間を合わせたような感じだ。


 少し迷ったが、俺は一番右のシルエットを選択することにした。


 だって、この中だと一番、結果が予想が出来なかったからだ。それに、アリ人間なんていかにもゲームぽくって、ちょっと興味あるじゃん?






『選択中の魔獣は、特殊召喚制限が課せられます。また、個体維持のために、継続してDPを消費する必要があります。迷宮核コアの存続が危うくなる場合がありますが、本当に進化させてもよろしいですか?』


 ナビさんがいつものように、俺に何かを確認してくれている。ただ、相変わらず意味はサッパリだ。


 日常会話をなんとか聞き取れるくらいの語彙力しかない俺にとって、彼女のコトバは難しすぎる。


 だから、俺はいつものように、頭の中で短く「YES」とだけ伝えた。


 俺の返事に反応し、眼の前の将軍アリが強い光を放ちながら変化し始めた。巨大な体がグッと縮み、ほっそりした人型へと変わっていく。


 光が消えたとき、俺達の前に立っていたのは、ユーリィより少し大きいくらいの背丈の、一人(?)のアリ人間だった。


 胴体や顔は、完全にアリそのもの。まんま直立したアリだ。ただ、手足は普通のアリとは大きく異なり、人間の手足に近い形をしていた。


 本来、アリは6本足だが、このアリ人間には、手2本、足2本しかない。手の先には、鉤爪状なった4本の指がついている。






 アリ人間は、辺りの様子を探るように少し頭をかしげ、ピクピクと触覚を震わせた。その様子も、普通のアリそっくりだ。


 ていうか、コイツ、弱そうじゃね? 


 将軍アリが進化したから、すごい強い魔物がでてくるかと思ったのに、正直拍子抜けだ。コイツになら、生身の俺でもギリ勝てそうな気がする。


「ソウ ワタシ ヨワイ」


 突然、俺の頭の中に女の声が響いた。ナビさんとも違う、柔らかみのある声。しかも、久しぶりに耳にする日本語だった。


 俺は思わず辺りを見回した。当然誰もいない。俺はドキドキしながら、眼の前のアリ人間に心の中で問いかけた。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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