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23 学びと進捗

 いつもよりは、ちょっと短いです。

【大陸歴1415年5月12日 昼前】


 俺が畑と水路を作った日から5日が経った。あれからも、ユーリィたちはせっせと農作業に精を出している。


 俺が農具を作ったことで、作業効率がかなり上がったとユーリィはとても喜んでくれた。


 畑ができた翌日には、この廃集落に備蓄してあった赤い種を撒き終わった。今はみんなで野菜の苗を育てているところだ。


 この赤い種は一粒が1cm弱程度。30cmくらいの麦の穂のような房状の茎に、びっしりと種となる実がついている。


 この実を粉にすることで、ユーリィたちの主食である薄焼きパンの原料になるらしい。


 つまり、彼女たちは貴重な食料を、種籾として使っているということだ。食糧不足は深刻になりつつある。


 いざとなったら、俺がアイテム生成アイコンを使って食糧を生成することもできる。


 ただ、それがどのくらいの量を、どれだけ長く供給できるのか、今の俺にははっきりと分からない。


 だから、小さな子どもたちのためにも、食糧が枯渇する前に、安定供給ができる体制を作りたい。






 種を蒔く前、女性たちは協力して、広い畑に畝を作っていった。畝の幅は40cmくらいだろうか。


 そこに子どもたちが、15cm位の間隔で種を撒いていく。


 最初に棒で小さな穴を開け、そこに5,6粒の種を入れていくのだ。これをやるのは、比較的大きな子どもたちの仕事。


 種を撒き終えたら、小さい子どもたちがそのあとをしっかりと踏み固め、かめで水をかける。


 懸命に畝作りを大人たちに比べ、小さい子どもたちはまるで泥遊びでもしているみたいに、きゃっきゃと笑いながら作業していた。


 それを見て、大人たちの顔にも笑みが浮かぶ。俺も思わずうれしくなってしまうくらい、平和で微笑ましい光景だ。


 ちなみに、なんで種を撒いた後を踏み固めるのかは、分からない。一応、ユーリィに聞いてはみたものの、予想通り言葉が通じなかった。


 農業について知りたかったので、これは少し残念だ。言葉の壁を早く何とかしたい。






 なお、このとき、作業している女性や子どもたちに混じり、ツチマンたちの姿も見えていた。


 彼らの役目は、種をほじくり返しに来る小鳥たちを追い払うこと。言うなれば、動くカカシだ。


 本当は彼らにも、女性たちの手伝いをしてほしかったのだが、彼らは女性たちの指示をまったく受け付けなかったのだ。


 彼らを動かすには、俺が直接指示をしなくてはならない。でも、俺では畑作りのノウハウが分からないから、指示出しができない。


 というわけで、彼らにはカカシとしてがんばってもらっているというわけだ。


 細かい指示は理解できない分、一度命令したことには忠実に従って、休むことなく働き続けるので、カカシとしてはかなり役立っているようだ。






 俺は今まで、この砂漠は植物や生き物の住んでいない不毛の世界だとばかり思っていた。


 でも、今回やってきた小鳥たちを見て、それが間違いだと分かった。


 そういう目で見ると、小さなトカゲやネズミ、昆虫や地虫など、実に様々な生き物たちがいることに気付かされた。


 よく考えれば、魔獣たちだって何かを食べているわけだから、完全な不毛の地で生きていけるわけがない。


 ただ、これまでは襲いかかる魔獣の姿ばかり見ていたので、他の生き物の姿を意識していなかった。


 ドラクエだって、街の外ではモンスター以外の生き物に出会わないもんな。


 この世界もゲームなんだから、そういうもんだと思いこんでいたわけだ。このリアルさも、制作者のこだわりなのかもしれない。







 制作者のリアル過ぎるこだわりは、他にもある。


 彼女たちが種を撒いた畑からは、今朝になってようやく小さな芽が出始めたところだ。この分だと、収穫までには、まだまだかなり時間が掛かると思う。


 この手のゲームってあんまりやったことがないけど、こういうのって、種を撒き終えたらすぐに成長して、作物を収穫できるものだと勝手に思っていた。


 登場人物キャラクターの生活の様子も含め、このゲームはこういうところがやたらリアルに作られている。うっかりすると、ゲームの中だっていうことを忘れてしまいそうだ。


 ゲームが好きな人なら、この没入感に浸りきってしまうかもしれない。でも、俺は、この状況を楽しむ気持ちのゆとりを持てずにいた。






 ユーリィたちが楽しそうに毎日を過ごすのを見れば見るほど、このゲームから一刻も早く脱出ログアウトしなくてはという思いが強くなる。


 現実世界の今の俺は、一体どんな状態なのか。妻の美南と娘の友里は、どうしているのか。不安は募るばかりだ。


 脱出につながる情報は、まったく見当たらない。今も、行き場のない焦燥感だけが、胸の奥でジクジクと痛み続けている。


 ただ、そう悪いことばかりでもない。直接の手がかりこそなかったものの、実はそれにつながるちょっとした進展があったのだ。






 俺はこの5日間ずっと、ユーリィたちを見守りつつ、集落内とその周辺に少しずつ移動範囲を広げ、脱出のための手がかりを探し続けていた。


 集落の中を散々うろつき、ユーリィたちを見守ったおかげで、俺はいろいろなことを知ることができた。


 1つ目は、彼女たちの言葉をほんの少しだけど、理解できるようになったことだ。


 「水」「食べ物」「畑」「トイレ」など、いくつかの単語や「ごめんなさい」「ありがとう」などの簡単なやりとり。


 これらの言葉を、俺はなんとか聞き取れるようになった。これは、小さな子どもたちが話す様子を注意深く観察することで、得られた成果だ。


 そのおかげで、ユーリィとはある程度、言葉で意思疎通をすることができるようになった。俺は声を出すことが出来ないため、話し相手は今のところ、彼女だけだ。


 時間はかかるだろうが、この調子で言葉を習得すれば、このゲーム世界のことをより良く理解し、脱出する手立てを見つけられるかもしれない。


 諦めず、前向きに学ぶ姿勢って、大事なんだなって改めて思う。






 そして、2つ目。こっちのほうがより大きな成果と言えるかもしれない。俺はこの世界の数字が読めるようになったのだ!


 俺の視界には、ゲームの画面のように、様々な文字が表示されている。これまでは、それを全く読むことが出来なかった。


 でも今は、数字を完璧に見分けられる。これは、集落内のいろいろな人や物の数を確認し、ナビさんに「ここにいる人の数を表示してくれ」と話しかけることで、学ぶことが出来た。


 そして、その結果分かったことがある。


 この世界ゲームの数字は10進法で表記されていること。そして、アラビア数字と同じ表記法であるということだ。






 数字を見ることができるようになったおかげで、このゲーム内での俺自身のことが少し分かるようになった。


 まずは、俺が魔物を呼び出したり、ザコ敵を倒したりするたびに、大きく増減する数字があるということ。


 これはいわゆるmpマジックポイントみたいなものじゃないかと思う。


 同じ種類の魔物を呼び出すと、この数字がいつも一定の割合で減少することも分かった。


 これによって、魔物ごとに召喚コストが存在するという俺の予想を裏付けることができた。


 ちなみに一番弱いアリ太郎の召喚コストは20で、巨大イカは2400。強力な魔物ほど、召喚コストは高い。


 考えれば当たり前だけど、実際に数値を確認できたのは、今後のことを考えるとかなり大きいと思う。






 あと、これは確信はないのだけど、ステータス内に日時と思われる表示も見つけた。


 それによると現在の日時は1415年5月12日の10時40分。


 西暦なら中世を少し過ぎた辺りってことになる。ユーリィや荒くれ者たちの見た目からしても、ゲームの時代設定としては、よくある中世ファンタジー物ってことなのだろう。


 ちなみにこの世界ゲーム内では、何故か一日の長さが24時間ではなく、28時間に設定されている。


 なんで4時間増やしたのかは、全くの謎だ。きっと、これも制作者なのだろう。






 数字や日時を把握できるようになったことで、俺は自分の領地と戦力をある程度、客観的に把握できるようになった。


 今、集落と周辺の砂漠に配置している立方体の数は全部で750個。現状、おおかた集落の主要部分と外壁周辺を領地とすることが出来ている。


 確証はないものの、この調子で更に領地を広げていき、ゲームが進めば、脱出のための手がかりを掴めるかもしれない。


 ユーリィたちの生活はまだまだ不安が大きいけれど、俺もできることが少しずつ増えている。


 歩みの遅さに焦りは感じるものの、今のところ、ゲームの進行としては割と順調なんじゃないか?


 これなら近いうちにこのゲームから脱出できるかもしれない。今はそれを信じたい。


 だけど、そんな俺の小さな願いは、その日のうちに破られることになった。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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