21 初めての建築
スマホ用のキーボード忘れちゃったので、画面ポチポチして書きました。
【大陸歴1415年5月7日 早朝】
〈十四郎視点〉
翌日、ユーリィたちは夜明け前に農作業を始めた。
ありあわせの棒と石で作った農具を使って、長年放棄されていた畑の土を掘り起こしていく。
畑は砂に埋もれていて、雑草などはほとんど生えていなかったが、乾燥しきった土はかなり硬いらしく、とても苦戦していた。
大人の女性たちが苦労して畑作りをしている傍らで、子どもたちは水汲みをしている。
小さな瓶を使って、代わる代わる泉から水を汲んでは、女性たちが掘り返している畑に水を撒いていく。
撒いた端から、水はあっという間に地面に吸い込まれて消えてしまう。だが、子どもたちは誰一人泣き言を言うこともなく、水を運び続けていた。
朝食が終わり、朝の冷気がすっかり無くなる頃まで作業は続いたが、ほとんど進んだようには見えなかった。
何しろまともな道具がほとんどない上に、素人の俺から見てもすぐに分かるくらい土の状態があまりにも酷い。そのため、恐ろしく効率が上がらないのだ。
やがて太陽が熱い日差しを真上から照りつけるようになると、女性と子どもたちは作業を中断し、屋内に戻っていった。
そして、朝の残り物を食べた後、彼らは身を寄せ合って眠り始めた。
昨日も昼食後は同じように昼寝をしていたので、きっとこれが彼らの生活リズムなのだろう。
あんなにくっついて暑くないのかなと思ったが、分厚い砂のレンガでできた室内は、俺が思ったよりもずっと涼しかった。
日本と違って湿度がほぼないから、日陰にいるとかなり快適なのだ。こうやって昼寝をするのも、炎暑を避けるための、暮らしの知恵なのだと思う。
このゲーム、こういう細かいところがやけにリアルだ。
疲れ切って寝息を立てる子どもたちの様子を見ていると、まるっきり本物の人間そのもので、ゲームの中だということを忘れてしまいそうになる。
ユーリィたちはぐっすりと眠っていて起きる気配がない。日が昇る前から今までずっと畑仕事を続けていたのだから、当然だよね。
俺は眠る彼女たちを残し、一人で建物の外に出た。
集落の周辺では、相変わらず魔物たちが次々と出現していた。アリ太郎軍団を始めとする俺の魔物たちは、今この瞬間も、オートでザコ敵狩りを続けている。
ただ不思議なことにザコ敵たちは、集落には近寄ってこようとしなかった。
どういう仕掛けかは分からないけれど、この集落内は安全地帯のようだ。きっと、これもゲームの仕様なのだろう。
それにもし万が一、魔物が侵入したとしても、すぐにナビさんが異状を知らせてくれる。
昨日の午後、ユーリィたちが集落の捜索をしている間に、俺は手持ちの立方体をすべて配置し終えていた。
この集落はさほど大きくはない。せいぜい直径200mくらいの範囲内に、レンガの家がぎゅっと詰まっている感じだ。
それでも、集落全体に立方体を置くことはできなかった。これ以上はレベルアップを待たなくてはならなそうだ。
しばらくウロウロしたが、ユーリィたちはまだぐっすりと眠っている。
俺はその気配を感じつつ、さっきまでユーリィたちが作業していた畑へと向かった。
乾ききった畑は、砂漠の日差しが容赦なく照りつけていて、恐ろしく熱い。
もし俺が生身なら、絶対に外には出たくない状況だが、幸か不幸か今の俺はアバターだ。汗もかかないし、なんならナビさんが温度を調整してくれる。
俺は自分の身体となった畑の周辺をじっくりと観察してみた。さっき、ユーリィたちが働いているときは、邪魔しないように離れていて、詳しくは見られなかったからだ。
よく見れば、畑の周りには、石や焼き固めたレンガで作った細い道のようなものが張り巡らされている。ただ、砂に埋もれてしまっていて、一見しただけではほとんど見えない状態だ。
俺はスナハンドの進化形(?)であるスナマンを呼び出し、道を覆っている砂を掻き分けさせてみた。すると、道のように見えているレンガの下に、狭い空洞があることが分かった。
「これ、もしかして水路の跡か?」
日本でよく見る側溝のように、蓋あるの水路。いわゆる暗渠ってやつだ。水路の幅はおよそ60〜70cmほど。
水路は広場の真ん中にある井戸を中心に、その周囲にある畑を取り囲むように作られていた。
ただ、中に水は通っておらず、そのほとんどは砂で埋もれてしまっている。かなり長い間、放置されていたらしい。
そういえば、俺が泉を湧かせる前、あの井戸からは、ほとんど水が出ていなかったっけ。
もしかしたらこの集落は、あの井戸の水が湧きでなくなったことで、放棄されたのだろうか?
そんな疑問を抱いたところで、俺はふと我に返った。この集落も、所詮はゲームの舞台なのだ。そんなに深く考察しても仕方ない。
今までの流れをゲーム的に考えるなら、仲間を増やしつつ、この集落を発展させることがこのゲームの目的になっているようだ。
ならば、それに沿って進めるのが、よさそうな気がする。ゲームを進めることで、脱出へのヒントが得られるかもしれないしな。
まずはプレイヤーとして、ユーリィたちの活動をサポートしていこう。埋もれてしまった水路を復旧させれば、彼女たちの畑作りもスムーズに進むはずだ。俺は早速、メニューアイコンを開いた。
使うのは、山とつるはしが描かれた建築アイコンだ。俺はアイコンに意識を向け、画面を展開した。
「おお!? 光るアイコンが増えてる!」
たくさん並んだアイコンの中で、以前は一番左上のつるはしアイコンしか、光っていなかった。
その他のものは、すべてグレーアウトしていて、全く反応しなかったのだ。
けれど、今はつるはしの隣に2つ、光るアイコンが増えている。四角いブロック模様のアイコンと、建物のような形をしたアイコンだ。
俺はブロック模様のアイコンに意識を向けた。すると、アイコンは緑色の光の線でできた立方体になって目の前に広がった。
立方体の大きさは、だいたい一辺が50cmくらい。俺が自分の領土を広げるときに使う、目に見えない立方体に似ているけれど、大きさが随分違う。
どうしよう、使い方が全く分からないぞ、これ。
途方に暮れた俺は、試しに立方体を地面の上に置いてみた。すると、その瞬間、ナビさんの声が脳内に響いてきた。
『レンガブロックを生成します。1DPが必要です。よろしいですか?』
言葉の意味が分からないまま、俺はとりあえず「YES」と念じてみた。すると、砂のかまくらを作ったときと同じ、緑色の魔法陣が地面に展開され、その中心に、50cm四方の小さな砂レンガのブロックが湧き上がるように現れた。
なるほど、これはブロックを作るアイコンのようだ。ただ、これを水路全体に一つ一つやっていくのだとしたら、恐ろしく面倒くさいぞ。
それに、建築の知識のない俺には、ブロックをどうやって水路の形に組み合わせればいいのかも分からない。
ブロックづくりはひとまず置いておいて、まずは水路の中の砂だけでも、取り除く方法を考えたほうがいいかもしれないな。
俺は、改めて水路の目を向けた。すると、さっき解除し忘れていた小さな立方体が、視界内の水路の形に変形して広がった。
ハッとした俺の脳内に、再びナビさんの声が響いた。
『迷宮領域内の焼成レンガ、岩石を建材として取得しました。これらの建材を使い、迷宮施設〈蓋付き水路〉を建築します。20DPが必要です。よろしいですか?』
聞き慣れたナビさんの確認メッセージ。俺が「YES」と念じると、さっきよりもずっと大きな魔法陣が出現した。
埋もれた水路は瞬く間に、新たな水路へと生まれ変わった。すげえ!
でも、今できた水路は、畑を取り囲む水路のほんの一部。俺はドキドキしながら、井戸を中心とした水路全体に意識を向けた。
すると俺が予想した通り、目の前に現れた小さな立方体が、全体へと広がっていった。
『迷宮施設〈灌漑水路〉を建築します。500DPが必要です。よろしいですか?』
ナビさんの声に食い気味に「YES」と返事をする。すると、畑全体を覆うほどの、これまで見た中で一番大きな魔法陣が展開され、あっという間に整然とした水路が出来上がった。
埋もれていた砂がすっかりなくなったことで、井戸を中心とした泉から徐々に水が水路へと流れ込み、畑を取り囲むように行き渡っていく。
もっとも、暗渠の中を流れているから目には見えないんだけどね。
俺はそこでようやく、このブロックアイコンの使い方が分かった。このアイコンは、俺の思った通りに形を変形させて、建築を行えるようだ。
出来上がった水路を見る限り、建材も自由に選べるらしい。
こうなってくると、もう一つの建物が描かれたアイコンも試してみたくなる。俺は早速、建物アイコンに意識を向けてみた。
その結果、現れたのは、またあの小さな立方体だった。でも、今度の俺は戸惑ったりしない。これを自由に変形させられると分かっているからだ。
俺は畑に取り囲まれた広場の中心にある、小さな井戸に目を向けた。今の井戸は、粗末な石組みがされただけの、小さな穴。
穴からは水がどんどん溢れてくるけれど、それは今できたばかりの暗渠に流れ込んでしまっている。このままだと、ユーリィたちが水を使うときに、少し不便かもしれない。
俺は皆が使いやすい井戸の形を頭の中でイメージした。
単純に飲み水を汲むだけではなく、多くの人が集まって水浴びをしたり、くつろいだりできるような形。
水の湧き出す場所には、女神の像とかあったら、ファンタジー感があっていいかもしれないな。ついでに泉の周りを石で囲って、石畳も整備しておくか。
あっ、あと洗濯できる洗い場とかもあるといいかも。日差しを避けられるような屋根もあるといいかもね。
俺がイメージするに従って、小さかった立方体がどんどん大きく、複雑な形になっていく。
細かいところにこだわりたくなってしまうのは、デザイナーの端くれとしての性みたいなものだ。
『迷宮オブジェクト〈東屋〉及び〈噴水広場〉の建設には、2000DPが必要です。よろしいですか?』
俺が返事をすると同時に、再び魔法陣が出現し、あっという間に、俺のイメージ通りの建物が出来上がった。
うーん、我ながらなかなか良くできた気がするぞ。初めてにしては、上出来じゃないか、これ。
植物の模様が装飾された丸い天蓋。それを支える12本の柱に取り囲まれた泉の真ん中には、瓶を捧げ持つ女神像。
瓶からはきれいな水が絶え間なく溢れ出す。もちろん、これだけじゃ水路を満たすには全然足りないから、実際は女神の足元にある泉自体から、水が湧き出すようになっている。女神はあくまで装飾だ。
ちなみに女神の服は、女性たちが着ているゆったりした布地の服に似せておいた。少しでも集落の雰囲気に合わせるための、ちょっとした配慮だ。
泉の直径は5mくらい。天蓋は更に大きく、周りの石畳をすっぽりと覆えるくらいの大きさだ。
泉の水を貯めるための石の囲いには、6箇所小さな樋があり、そこから水が流れ出るようになっている。この下に瓶を置けば、自然と水が貯められるってわけ。
こうしておけば、子どもたちが水くみをするときに、重たい瓶をいちいち引き上げなくて済む。
泉の周りは石畳とベンチ。それに、溢れた水が流れる溝を作っておいた。
水は最終的に、広場の外側にある暗渠に流れ込むが、その少し手前に水浴び場と洗い場を作ってある。
すべて石造りだが、小さな子どもたちがぶつかって怪我をしないように、角はちゃんと丸めておいた。
子どもって、ほんと思ってもみないところで怪我するから、こういうところはちゃんとしておかないとな。これくらい配慮は、デザイナーとして基本中の基本だ。
初めての建築が思いの外うまくいったことで、俺は大満足だった。
ただ、周りの建物がしょぼいせいで、この泉だけめっちゃ浮いてるのが少し気にはなる。まあ、それは後から考えるとしよう。
お読みいただいて、ありがとうございました。




