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19 朝食とトイレ 前編

ちょっと長かったので、2つに分けました。

【大陸歴1415年5月6日】


 ユーリィたちが水浴びをしている間、俺は桟橋の上で、魔物たちがザコ敵狩りをするのをぼんやりと眺めていた。


 流石に美女たちが全裸で水浴びするのを観察するわけにはいかないと思ったからだ。


 はい、嘘です。俺はそんな聖人じゃありません。


 このラッキーすけべな状況をじっくり楽しみたかったというのが、俺の本心です。






 あの場を離れたのは、別の理由がある。


 どういうわけか、仲良く水浴びをするユーリィたちの様子に、言いようもない不安を感じたからだ。


 うまく言えないけれど、なんかこう、胸がざわざわするような感じ?


 もしかしたら、彼女たちの姿から、美南と友里のことを連想してしまったからかもしれない。


 なぜ、二人のことを考えると、こんなにも胸がざわつくのか。俺が陥っているこの奇妙な状況と何か関係があるのか。


 二人の安否が現在不明である現実が、俺の不安を掻き立てる。一刻も早くこのゲームを脱出ログアウトして、二人に会いたい。






 俺は闇雲にメニュー画面を開いた。何もしていないと、不安に押しつぶされてしまいそうだったからだ。


 メニュー内には、いくつかのアイコンが新しく増えている。せっかく今、一人なのだし試してみることにした。


 まず、俺にしか見えない立方体を設置するアイコン。


 俺とユーリィはこの立方体の範囲内でしか移動できない。いわばこのゲームの、一番基礎となるアイコンだ。


 このアイコンには全く変化がなかった。ただ、設置できる立方体の上限がまた増えているみたいだ。この集落内でまだ設置していない場所に、後で設置してまわることにしよう。


 次に、魔物を呼び出すアイコン。これは、呼び出せる魔物の種類が増えていた。早速、灰色のドクロがついたアイコンを試してみることにした。


骸骨船員スケルトンパイレーツの召喚には、触媒となる人骨と100DPが必要です。よろしいですか?』


 ナビさんの問いかけに「YES」と念じるとすぐに、魔法陣が現れた。ただ、いつもの赤い魔法陣ではなく、紫色の不気味な魔法陣だ。






 魔法陣の中からニュルっと姿を現したのは、錆びた曲刀を手にした白い骸骨だった。


 現れた骸骨は、骨をカタカタ鳴らしながら、俺の周りを徘徊し始めた。真っ黒い眼窩の奥には、濁った黄色い光が灯っている。


 正直、見た目がかなり怖い。夜中、コンビニ帰りに突然こいつに出会ったら、全力ダッシュで逃走一択だ。


 これはいわゆるスケルトンってやつだな。この手のゲームでは、よく見る敵モブだ。


 ただ、どう見ても強そうには見えない。はっきり言えば、かなり貧相だ。


 現在の主力はアリ太郎部隊で、数の上では十分な戦力が確保できている。このスケルトンを呼び出す理由がない。


 単体の強さでは、スナザメや大サソリには到底及びそうにない。せっかく呼び出したけど、ちょっと、使い所が思いつかない。こいつ、どうしたもんかな。


 俺はちょっと困ってしまい、カタカタ歩き回るスケルトンを眺めていた。すると、こっちに向かってすごい勢いで走ってくる足音が聞こえてきた。






「御使い様、危険です! その者から離れてください!!」


 何事か叫びながら桟橋の階段を駆け上がってきたのは、昨日俺が助けた子どもの姉らしき、若い女性だった。


 彼女は、俺を庇うように、スケルトンと俺の間に体を滑り込ませた。


 すると、驚いたことに、スケルトンは彼女に向かって、ゆっくりと曲刀を振り上げた。


「やめろ!!」


 俺が脳内でそう叫ぶと、スケルトンの動きがほんの一瞬止まった。しかし、次の瞬間には再び女性に襲いかかった。


 こいつ、もしかして、敵味方関係なく、人を襲うタイプのモブか!?


 スケルトンは大きく振り上げた曲刀を、女性目掛けて振り下ろした。


 彼女はそれを素早く躱すと、一歩踏み込んでスケルトンの間合いに自分から飛び込んでいった。すごいこなれた動きだ。






「不浄なる魂よ、シャーレ様の導きを食らいなさい!!〈不死者払いターンアンデッド〉!!!」


 その細身のどこから出したのと思うくらいの大声で、彼女が叫ぶ。


 彼女は大きく振りかぶった右拳を、スケルトンの胸に叩き込んだ。


 右拳がスケルトンに触れた瞬間、彼女の手が青白い光を放った。すると、スケルトンはバラバラに砕け散り、光の粒となって消え去った。






『迷宮領域内で人間による魔獣の討伐が実行されました。速やかに核を安全な場所に退避させてください。』


「御使い様がご無事で何よりでした。怪しい気配を感じ取って、すぐにここまで走ってきたのです。」


 ナビさんの警告メッセージと、荒い息を吐きながら、満足そうに何かを話しかけてくる女性の声が重なる。


 一体全体、どうなってるんだ、これ?


 急展開過ぎて、状況が飲み込めない。


 ただ一つ確実に言えるのは、あのスケルトンがかなり危険な奴だということだ。


 無差別に人間襲いかかるようなやつを、集落の中に放たなくて本当によかった。


 灰色のドクロがついたアイコンには、うっかり触らないように気をつけよう。この女性に感謝だな。






 それにしてもこの女性、見かけによらず、結構すごい力があるみたいだ。きっと、この人がユーリィに続く二人目の仲間キャラクターなのだろう。


 昨夜の子ども救出イベントは、彼女が仲間になるためのフラグだったに違いない。ユーリィが戦士なら、彼女はさしずめ武闘家ってところだろうか。


 こうやって仲間と領地を増やしていくのが、このゲームの最終目的ゴールなのかもしれない。


 目の前の女性、おそらく20歳前後だと思われる細身の美女は、ニコニコしながら俺をじっと見つめている。


 身長は160cm弱。細身の体つきで、穏やかな顔つきをしている。笑っている今は、完全に糸目状態だ。


 ユーリィが薄茶色の髪と目をしているのに対し、この女性の髪は金色に近い薄茶色で、目も灰色がかった青色だ。


 水浴びを終えて、身ぎれいになったことで、やや大人びた美貌がより一層際立っている。いい匂いのする油を塗った濡れ髪が、妙に色っぽい。






 俺は新しく仲間になった彼女に対して、脳内で「これからよろしく」と話しかけてみた。日本語は通じないと思ったけど、こういうのは気持ちだからな。


 ただ、彼女は俺の言葉に対して、何の反応も示さなかった。ユーリィとは違い、彼女には俺の言葉は伝わらないらしい。


 彼女とユーリィは、何か違いがあるのだろうか。今のところは、まったく見当もつかない。


 もしかしたら、何か仲間関係のイベントが起きるかもと思って、しばらく待ってみた。


 でも、俺にとって気まずい時間が流れただけで、特に何のイベントも発生する気配はなかった。


 俺は彼女と一緒に、ユーリィの所に戻ることにした。






〈ユーリィ視点〉


「えっ、桟橋に不死者アンデッドが現れたの!?」


 フーリアおねえちゃんの話を聞いたあたしは、思わず声を上げてしまった。


 一緒に話を聞いていたお母さんや他のおばさんたちも、不安そうな表情で視線を交わしている。


 不死者は、放置された死体が呪いに侵されることで生まれると言われている。命あるすべてのものを憎み、襲いかかってくる恐ろしい怪物だ。


 あたしも小さい頃は、父さんやおじいちゃんからよく「悪いことをする子どものところには、不死者がやってくるぞ!」と脅かされていた。


 どの村でも、人が亡くなると、その遺体は必ず火で燃やして完全に灰にしてから埋葬する。その人が不死者となるのを防ぐためだ。


 不死者は廃棄された村や砦、大きな戦いがあった場所などに多く現れるらしい。


 フーリアおねえちゃんが見たという不死者もきっと、昨日死んだ砂賊たちの遺体から生まれたに違いない。


 おねえちゃんの話では、不死者は御使い様のすぐ側にいたそうだ。


 あたしたちが水浴びをしている間、御使い様が桟橋に行っていたのは、不死者が現れるのを知って、あたしたちを守ろうとしてくださったのかもしれない。


 あたしがそう言うと、フーリアおねえちゃんも「あたしもそう思うわ」と大きく頷いてくれた。


 お昼ごはんの準備をしながら、あたしたちは「しばらくは不死者に気をつけよう」と話し合った。


 集落の周辺に現れた不死者の気配は、フーリアおねえちゃんが感じ取れるらしい。


 けど、注意するに越したことはない。水汲みをする小さな子たちにも、絶対に一人にならないように言い聞かせなくちゃ。






「ユーリィ、不死者もそうだけど、他にも心配なことがあるのよ。」


 そう言って、お母さんが話してくれたのは、村へ帰るための手立てについてだった。


 元々あたしたちの住んでいた村は、フラシャールの街から騎鳥で2日ほど移動した辺りにあった。


 比較的街から近く、交易のための砂上船が多く立ち寄る、賑やかな村だった。


 それが、砂賊たちの襲撃に遭ったのが、今から大体16日くらい前。途中、砂嵐で足止めを食らったことを差し引いても、ここはあたしたちの村から、砂上船で10日以上離れた場所にある。


 徒歩はもちろん、騎鳥で移動することだって、到底無理だ。


 それに今あたしたちは、船を持っていない。そもそも、女であるあたしたちは、砂上船の操作の仕方が分からない。


 砂上船を操って、村の外に出るのは男の仕事。女の事後とは村を守ることだからだ。


 本当は、一刻も早く村に帰りたい。でも、今は他の場所から船がやってくるのを待つしかない。


 幸いなことに、この廃村には、砂賊たちがある程度食糧を蓄えていたので、すぐに飢えてしまうことはない。


 ただ、いつ助けが来るのか分からない以上、このまま何もしないというわけにはいかない。それが、お母さんの考えだった。


 御使い様は今も、あたしたちの頭上にいて見守り、助けてくださっている。


 けれど、御使様がいつまでもあたしたちのお側にいてくださるわけではない。


 村に帰れる保証がない以上、今のうちにこの場所で、あたしたち自身の力で、生活できるようにしていかなくてはならない。


「神々は、自ら立つ者にのみ、道を示してくださると言いますものね。」


 フーリアおねえちゃんの言葉に、皆は顔を見合わせて大きく頷いた。


 早速、あたしたちは今後の生活について話し合い、小さい子たちも含めて皆で仕事を分担することにした。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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