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18 戦いの夜が明けて

 休日って最高じゃないですか!(なお明日は休日出勤です)

【大陸歴1415年5月6日 早朝】


〈ユーリィ視点〉


 御使い様がトゥンジャイの命を救うため、奇跡を起こしてくださった翌日の朝。あたしは夜が明ける少し前に目を覚ました。


 砂海の朝は急激に気温が下がる。ひどい匂いのする粗末な寝床から体を起こしたあたしは、思わずブルっと体を震わせた。するとその気配で、隣に寝ていたお母さんが目を覚ました。


「おはよう、ユーリィ。」


「おはよう、お母さん。」


 あたしたちが目を覚ましたのを皮切りに、周りで寝ていたおばさんたちや、小さな子たちが次々と目を覚まし始める。


 村を遠く離れたこんな場所にいても、起きる時間がいつもと変わらない皆の様子が妙に可笑しくて、あたしは小さく笑ってしまった。


 お母さんが不思議そうに顔を覗き込んだので、あたしは理由を話した。すると、お母さんも「本当にそうね」と笑ってくれた。


 こんな風に笑いあったのは、村から連れ去られて以来初めてのことだ。家族揃って食べた最後の食事の様子が瞼の裏に浮かび、胸がぐっと熱くなる。


 あたしは溢れそうになる涙を隠すため、両目をゴシゴシとこすった。そして、御使いトシュロー様を探すために日干しレンガの小さな家を出た。






 御使い様の姿は見えなかった。けれど、なぜかあたしには、御使い様のいる場所がすぐに分かった。昨日、あたしが砂賊の頭目と戦った、あの桟橋の辺りにいらっしゃる。


 この力を授かってからというもの、あたしは御使い様と目に見えないつながりのようなものを感じていた。


 離れていても場所がわかるのも、きっとそのつながりのおかげだ。あたしはさっきまで痛んでいた胸が、じんわりと暖かくなるのを感じた。


 太陽が顔を見せないこの時間は、まだ空気が冷たい。月が明るいので、仕事をするにはうってつけの時間。


 あたしたちは村にいるときも、この時間に起きて外仕事を済ませるのが、毎日の習慣だった。太陽が昇ったら、暑すぎてひっくり返ってしまうからだ。


 朝の薄闇の中、あたしは砂の上を走って桟橋へ向かった。明け方の湿った砂はものすごく冷たい。


 けれど、あたしには御使い様がくださった毛皮の靴があるからへっちゃらだ。あたしは湿った砂をぎゅっと踏み鳴らして、御使い様のところへ急いだ。






 御使い様はすぐに見つかった。あたしがさっき感じた通り、桟橋の上でふわふわと漂っていらっしゃる。


 隣には、昨日御使い様が魔法陣から呼び出した、砂の人形がいた。けれど、あたしの姿に気が付くと、すぐに姿を隠してしまった。


「おはようございます、御使い様。」


 あたしは桟橋の日干しレンガに跪くと、額をつけて朝のご挨拶をした。


 御使い様からお声は返ってこなかったけど、その代わりに小さく左右に体を揺らしてくださった。


 お言葉は聞こえないけれど、なんだか少し困っていらっしゃるような気持ちが伝わってきた。


「どうかなさったのですか? もし、お望みのことがございましたら、何なりとおっしゃってください。」


 あたしが地面にひれ伏すと、御使い様はより一層、小さな体をフルフル震わせ、あたしの周りをくるくる飛び回った。


 さっきよりもずっと困っていらっしゃるみたい。もしかして、あたしがこうしているのがダメなのかな?


 あたしが立ち上がって御使い様を見上げると、ようやく御使い様はあたしの顔の前で止まった。


 さっきよりも安心していらっしゃる気配がする。あたしもホッとして、御使い様に向かってニッコリと笑った。






 その後、あたしは御使い様と一緒に皆のところに戻った。皆は、井戸の周りで朝ご飯の準備をしていた。


 けれど、御使い様の御姿に気が付くと、すぐに仕事の手を止めて、地面に体を伏せた。


 御使い様を初めて見る小さな子たちは、不思議そうな顔で宙に浮かぶ御使い様を見つめていた。


 けれど、おばさんたちがすぐにその子達を抱き寄せて、体を伏せさせていた。


 その様子をご覧になった御使い様は、また、小刻みに体を震わせた。あたしは、御使い様がまた困っていらっしゃるのを感じた。


 だから皆に、「御使い様は、仕事に戻りなさいとおっしゃっています」と伝えた。


 皆が立ち上がって一礼し、仕事に戻るのを見た御使い様からは、安心したような雰囲気が伝わってきた。


 すごい奇跡を起こす神様の御使い様なのに、この方は皆に平伏せられるのが、あまりお好きではないらしい。


 御使い様の、謙虚で優しい御心を感じて、あたしはますますこの方のことが好きになった。






 皆が仕事に戻る中、あたしたちの方に近づいてくる二人がいた。トゥンジャイと、彼の姉のフーリアおねえちゃんだ。


 おねえちゃんは、御使い様の前に跪くと、トゥンジャイと二人で、手を胸の前で組んで祈りの姿勢をとった。


「御使い様、この子の命を救ってくださり、本当にありがとうございました。お約束どおり、私は残りの生涯すべてを、シャーレ様のために捧げます。」


 おねえちゃんがそう祈りを捧げた途端、あたしは彼女の体から、薄い光が放たれたのに気がついた。


「おねえちゃん、その光は・・・?」


 あたしの問いかけに、おねえちゃんはまっすぐこちらを見つめながら答えた。


「昨夜、不思議な夢を見たの。私はシャーレ様の前に立っていたわ。平伏した私にシャーレ様は、『あなたの心のままにお進みなさい』とおっしゃったのよ。」


 すごい! あたしが驚いているのを見て、フーリアおねえちゃんは優しく微笑んだ。あたしはそれを見て、おとぎ話に出てくるシャーレ様みたいって思った。


「朝、目が覚めると私の体には、これまで感じたこともないような、不思議な力が満ちていたの。きっと、生涯お仕えしたいという私の願いを、シャーレ様が聞き届けてくださったのだと思うわ。」


 フーリアおねえちゃんは澄み切った瞳で、御使い様を見つめている。隣に立つトゥンジャイは、そんなおねえちゃんを不思議そうな目で見ていた。






 フーリアおねえちゃんは、村の長老様の孫だ。長老様はいろいろなおまじないを使って、村の人達を助けてくれていた。


 フーリアおねえちゃんは、2年前に成人したばかりだし、またそんな力はなかったと思う。けど、トゥンジャイのことをきっかけに、力に目覚めたのかもしれない。


 あたしよりも4つ年下のトゥンジャイは、もうすっかり元気になっていた。昨夜まで死にかけていたとは、とても思えないくらいだ。


 ただ、村で走り回っていた頃に比べると、まだかなり大人しい。


 フーリアおねえちゃんの家は、あたしの家よりも兄弟姉妹が多かった。トゥンジャイはその末っ子として、みんなに可愛がられていたのだ。


 それが急にみんなが死んでしまって、こんなところに連れてこられてしまった。きっとこれまでの出来事と、この見知らぬ場所に不安を感じているのだろう。


 でも、それは、あたしを含め、ここにいる全員が感じていることだ。御使い様がいてくださって、本当によかった。あたしはまた改めて思った。






 朝ご飯は、タカキビの粉で作った薄焼きパンと、乾燥させたナツメヤシの実、そして干し肉を削りいれたスープだった。


 砂賊たちがある程度、この廃村に食料を備蓄してくれていて、助かった。


 久しぶりに皆で顔を合わせて食事をしたことで、ようやく少し皆の雰囲気が穏やかになり、笑顔も見えるようになった。


 食事の間、御使い様は、あたしたちの頭の上を、ふわふわと漂っていた。それは様子はまるで、食べ物をねだりにやってくる砂漠狐の子どもみたい。


 小さな子どもたちは、御使い様が近くにやって来るたびに、歓声を上げて喜んでいた。


 食事の後、あたしたちは皆で水浴びをすることにした。村を出てから一度も水浴びをしていなかったので、見た目も匂いもかなり酷いことになっていたからだ。


 日光が当たるところで肌をさらすのは少し心配だったけれど、昇り始めたばかりの太陽は、まだそれほど熱くない。


 あたしたちは着ているものを脱ぎ、御使い様が作ってくださった奇跡の井戸に集まった。


 昨日から溢れ続けている水は井戸の周りの窪みにたまり、小さな泉のようになっている。太陽の光の下で、薄くなっているけれど、泉の水は今も金色の光を放っていた。


 裸になったあたしたちは、シャーレ様に感謝の祈りを捧げてから、泉に足を踏み入れた。


 泉の水は驚くほど冷たかった。けれど、体を洗っているうちにすぐに慣れてきた。


 あたしはお母さんと一緒に、互いの体と髪を洗いあった。不思議なことに、泉の水はどんなに使っても全く濁ることがなく、ずっと澄んだままだった。


 泉の水には傷を癒す力が宿っているみたいだ。あたしとお母さんの体にあった小さな傷は、体を洗い終える頃には、すべてきれいに塞がっていた。


 あたしたちが体を洗っている間、御使い様はその場を離れ、また桟橋の方に行ってしまった。






 体を洗い終えたあと、砂賊の住処で見つけた香油を使って髪と肌を整えた。他にも、女性用の衣服や簡単な化粧道具なども揃っていた。


 きっと、これらも盗品だろう。あたしたちの前に攫われてきた女性たちの持ち物だったのかもしれない。あたしは、改めて砂賊たちに強い怒りを感じた。


「ユーリィ?」


 あたしの髪を櫛で梳いてくれていたお母さんが、あたしの顔を見てハッとしたように名前を呼んだ。


 あたしは自分でも知らないうちに、涙を流していた。体がさっぱりして落ち着いたことで、気持ちが緩んだのかもしれない。


 あたしの髪を梳いているお母さんも、あたしと同じように泣いていた。


 こらえきれなくなったあたしは、お母さんの胸に飛び込み、声を上げて泣いた。お母さんはそんなあたしを強く抱きしめてくれた。


 あたしを抱き寄せたお母さんの肩も、あたしと同じように、小さく震えていた。



種族:人間

名前:フーリア

職業レベル:1(デザートシャーマン)

危機感知L1 自然の祝福L1

不死者払いL1


【デザートシャーマンについて】

砂漠巫術師デザートシャーマンは、砂漠の精霊に仕える聖職者の一種。砂漠での行動において、身体的な負担を軽減するなどの加護を得ることができる。この世界における聖職者になるには、強固な信念に基づく宣誓を行い、超自然的上位存在(神や精霊など)と契約を結び、加護を得る必要がある。契約を結ぶ存在が、強力であればあるほど、加護を得るためには、より強い信仰や長期にわたる修業が必要となる。また、非常に稀であるが、『神々に愛された者』として、生まれながらに神々の加護を持つ人間も存在する。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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