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14 彼女の名前

次回、集落での戦闘回です

【大陸歴1415年5月5日】


〈十四郎視点〉


「ユーリィ! ユー、リ、ィ、!」


 目の前にいる女の子は、自分の顔を指差しながら、満面の笑みでそう言った。


 その瞬間、俺の脳内に、これまで見たこともない様々な映像が浮かび上がった。


 鳴り響くサイレンと交通規制をする警官たち。怒号と悲鳴の響く幹線道路から、灰色の雨空へ立ち上っていく黒煙。垂れ下がった電線から放たれる、紫色の火花。


 映像は、まるで走馬灯のように、断片的に浮かんでは消えていった。恐ろしい悪寒が俺を襲い、目の前が暗くなっていく。


 俺はその恐怖から逃れようと、必死に辺りを見回した。そんな俺を、女の子は不思議そうな顔で見上げていた。


 不意に、怒りとも、悲しみともつかない感情が沸き上がり、俺の心がざわついた。脳内に霞がかかったようになり、思考がまとまらなくなる。


 目の前の小さな女の子が、急に憎くてたまらなくなった。俺の中から目に見えない、何かどす黒いものが流れ出していく。


 それに反応したスナハンドたちが砂の中から飛び出し、彼女の足首を掴んで砂の上に引き倒した。


 殺してしまえ。さもなくば、お前は再び、あの絶望を味わうことになるぞ。


 俺の中にいる知らない誰かが、俺の声でそう囁きかけてきた。動揺して、身を竦ませる彼女の細い首に、スナハンドたちが迫っていく・・・。






『領域内の魔力圧が、急激に上昇しています。(コア)内の魂の強制鎮静を実行・・・エラー。』


『迷宮核制御システムが作動しません。魔力暴走の危険があります。核内の魂侵食プログラムを再起動・・・エラー。』


『プログラムが見つかりません。迷宮核の魔力暴走まで、惑星標準時であと80秒。迷宮領域内の戦闘員は、速やかに退去してください。』 


 突然、視界いっぱいに赤い警告メッセージが表示された。同時に、ナビさんの声と警告音が俺の脳内に鳴り響く。


 メッセージと警告音にハッとして、あたりを見る。女の子は、心配そうな顔で俺を見上げていた。


 俺に対する信頼と心配が溢れたその瞳を見て、脳内の霞が一気に晴れた。周囲に満ちていた禍々しい力は、波が引くように俺の中へ戻って行った。


『領域内の魔力圧が正常に戻りました。』


 視界に表示されていた赤いメッセージと、脳内に響く警告音が消え、ナビさんが落ち着いた声で何か言った。


 俺は、女の子の体を押さえつけていたスナハンドたちを、砂の中に隠れさせた。


 俺は今、この子を殺そうとしたのか?  


 一瞬前の自分の行動を振り返り、俺は激しく動揺した。その原因は明らかに、彼女の名前を聞いたことだ。


 彼女はユーリィと名乗った。俺の娘の友里ゆりと響きが似てるな、面白い偶然もあるもんだ。そう思った辺りまでは、なんとなく覚えている。


 でも、その後のことは、ほとんど思い出すことが出来なかった。


 なぜ俺は、自分の娘と似た名前だというだけで、この女の子を殺そうなんて思ったんだろう?


 こんな場所ゲームに閉じ込められてしまったことと、何か関係があるのだろうか?


 いくら考えても、答えが出るはずがない。俺は、俺自身の行動が気味悪くて仕方がなかった。


 一刻も早く、このゲームから脱出ログアウトしなくてはという気持ちが、ますます強くなる。


「大丈夫ですか、御使いトシュロー様?」


 俺はハッとして、ユーリィを見た。俺が自分の考えに没頭している間も、彼女は俺に話しかけ続けてくれていた。


 言葉は分からない。でも、俺のことを心配してくれている気持ちは、はっきりと伝わってきた。俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 俺は、スナハンドたちを呼び出し、身振りでもう安心だということを伝えようとした。


 彼女はキョトンとした表情で、俺とスナハンドたちを何度か見た後、やっと少し笑顔を見せてくれた。


 ふう、何とか伝わったみたいだ。俺はようやく、胸の使えが取れたような気がした。






 こうやって改めて見ると、やっぱりユーリィはきれいな子だ。友里だってユーリィと同じくらい可愛いけれど、人種が違うので、さすがに似ても似つかない。


 強いて共通点を上げるなら、薄茶色の髪と瞳くらいかな。名前が似ているのも、単なる偶然なのだろう。


 もちろん、俺の愛娘、友里だって、親のひいき目を差し引いても、かなりの美幼女だと思う。幸いなことに、平凡な顔立ちの俺には全く似ておらず、妻の美南に瓜二つだ。


 美南は小さい頃から、美少女と持て囃されていた。友里もその血をしっかり受け継いでいる。目がぱっちりした可愛らしい顔立ちは、まさに天使そのものだ。


 なに、親バカだって?


 いやいや、客観的に見ても美形だから。何しろ三歳児健診の時には、母娘そろってマタニティ雑誌のモデルにスカウトされたこともあったくらいだ。


 もっとも、美南は「目立つのはキライだから」って、その場で断っていたけれど。






 その時、不意にくうっという小さな音がして、俺は懐かしい記憶の世界から、現実に引き戻された。


 ふと見ると、ユーリィが赤い顔でお腹を押さえている。安心したら、お腹が空いてしまったようだ。


 捨てられた時の様子を考えても、ユーリィがまともな食事をさせてもらっていたとは思えない。


 さっきの詫びも兼ねて、俺が何か食べ物を出してやったほうがいいかもしれないな。


 俺はアイコンを操作して、新しい砂のかまくらを作った後、ナビさんに脳内で話しかけた。


「ナビさん、ユーリィになにか美味いものを出してやりたいんだ。あと、飲み物も。なんかあるかな?」


『獣肉の岩塩焼きと水袋の生成には、それぞれ50DPが必要です。よろしいですか?』


 ナビさんのいつもの問いかけに対して、俺は力強く「YES!」と返事をした。






〈ユーリィ視点〉


 あたしが自分の名前を伝えた後、急に御使いトシュロー様の様子が変わった。それまで、穏やかで温かな白い光を放っていらっしゃったのが、怖い感じのする赤色になったのだ。


 あたしには、御使い様がすごく苦しんでいらっしゃるように見えた。まるで、血の涙を流しているようだと思った。


 もしかしたら、さっきの戦いでどこか怪我をしたのかもしれない。


 あたしがそう思って見上げていたら、急に砂の腕たちがあたしを地面に引き倒した。でも、あたしはそんなことが気にならないほど、御使い様が心配で仕方がなかった。


 あたしは心の中で、女神シャーレ様に、「どうか御使い様をお救いください」と必死に祈った。その甲斐があったのか、御使い様はまたすぐに、元の白い光にお戻りになった。


 あたしがホッとしていたら、どこかに姿を隠していた砂の腕たちが現れ、目の前でおかしな動きを始めた。


 しきりに親指を立ててみせたり、力こぶを作ったりするその様子が面白くて、あたしは思わず笑ってしまった。


 その時だ。あたしのお腹が、きゅうという、情けない音を立てたのは。御使い様の前で、そんな失礼なことをしたのが、恥ずかしくてたまらない。


 御使さまに謝罪しようと、口を開きかけたとき、急にあたしの足元が緑色に光り始めた。その光は大きな四角形と複雑な文様を描き出した。


 これは、魔法を使った時に現れる魔法陣! あたしはこれまでに一度だけ、魔法陣を見たことがあった。


 それは、あたしがまだずっと小さかった頃。まじない師のおじいさんが村へ来たことがあった。そのおじいさんは魔法を使い、井戸の奥にたまった汚れを浄化してくれたのだ。


 でも、その時に見た魔法陣は、あたしの肩幅くらいの小さなもの。今、目の前にあるものとは、大きさも文様の複雑さも、ぜんぜん比べ物にならない。


 魔法陣には、いっぱい文字が書いてある。でも、あたしは文字が読めないので、なんて書いてあるのか全然わからなかった。


 驚くあたしの目の前で、砂がモコモコと盛り上がったかと思うと、あっという間に、小さな砂の洞窟が出来上がった。


 あたしは、自分がしてしまった失礼も忘れ、あたしを包み込むように現れた洞窟を、呆然と見つめた。


 熱い日差しが遮られたことで、家の中にいるみたいに過ごしやすくなった。あたしは御使い様に向かって「ありがとうございます」とお礼を言った。


 すると、今度は、御使い様の浮いていらっしゃる、すぐ下の砂が赤く光り始めた。赤と言っても、さっき御使い様が放っていた、濁った血のような赤じゃなく、朝焼けみたいにきれいな赤色だ。


 赤い光は小さな丸い魔法陣だった。その中心から湧き上がるように出てきたのは、2つの革の小物。


 2つの内、1つはパンパンに膨らんだ水袋。獣の角を使った吸口が付いている。お父さんが狩りに持っていくものとそっくりだ。


 もう一つは革包み。中身は分からないけど、中からすごくいい匂いが漂ってくる。あたしのお腹がまた、

きゅうと鳴った。


 砂賊たちに捕まってから、口にしたものといえば、乾燥した野菜クズと、船倉の床にうっすら付いた朝露だけ。


 あたしは口の中に溜まった唾を、ゴクリと飲み込みこんだ。失礼だと思いながらも、革包みからぜんぜん目が離せない。


 すると、砂の腕たちが現れて、包みをあたしに差し出してきた。


「御使い様、これをあたしに下さるのですか?」


 あたしが御使い様にそう尋ねると、御使い様はその丸い体を、小さく揺すった。それを合図にしたみたいに、砂の腕たちがあたしに包みを手渡した。


 あたしは震える手で、いい匂いのする革包みを開いた。中に入っていたのは、白い串に刺さった獣肉の塊。それが何本もある。


 肉は熱々で、脂が滴っていた。まだ焼きたてのようだ。あたしは串を手に取ると、恐る恐る口に入れてみた。


 その瞬間、肉の旨味がじゅわっと、口いっぱいに広がった。馴染みのある味。これは砂漠猟犬の肉だ。


 野生の砂漠猟犬は、群れで家畜を襲う厄介な獣だ。けど、魔獣ではないので人間が食べることができる。


 あたしたちの家族も、お父さんが狩ってきて砂漠猟犬をよく食べていた。お母さんは、肉を捌くのがとても上手で、あたしもよく手伝っていたのだ。


 この串焼きは、お母さんが焼いたものに負けないくらい美味しい。あたしは夢中になって一串目を食べ終わり、すぐに二串目に手をつけた。


 水袋の冷たい水を飲みながら、あたしは瞬く間に串焼きを食べ尽くしてしまった。






〈十四郎視点〉


 最後の一串を食べ終わると同時に、串を持つユーリィの右腕が、こてんと砂の上に落ちた。


 彼女はこくりこくりと舟を漕いだ後、ハッとしたように顔を起こした。でも、またすぐにウトウトし始める。


 そんなユーリィの様子を見て、小さかった頃の友里のことを思い出し、微笑ましい気持ちになった。


 俺はスナハンドたちを使って、ユーリィを砂の上に横たえさせると、その細い体に、毛皮の毛布をそっと掛けた。


 いくらゲームのキャラとはいえ、やっぱり小さな子どもだ。お腹いっぱいになったら、眠くなっちゃうのも仕方ない。


 たくさん食べて、たくさん寝るのは、子どもの成長に欠かせないもんな。うんうん。


 俺は彼女を眠らせた後、砂のかまくらを離れた。俺が近くにいると、敵が寄ってくるからだ。眠っている間に、また、あのデカいイカみたいなやつが襲ってきたら、困るからな。


 本当は、ユーリィから集落のことを聞き出したかった。けれど、言葉が通じない以上、彼女から得られる情報は、もうないと考えていいだろう。


 ならば、俺が直接、集落へ行ってみるしかない。ユーリィが捨てられた時の様子を考えれば、集落にいるのは、ろくでもない連中のようだ。


 場合によっては、戦闘になることも考えられる。ユーリィの安全を守るためにも、注意深く行動しなければならない。


 幸いなことに、俺が設置している立方体は、俺以外には見えない仕様のようだ。だから、集落の中にこっそり侵入して、立方体を設置しつつ、中の様子を探ることにしよう。


 そう考えた俺は、メニューアイコンを操作し、すぐに、集落への道を作り始めたのだった。






種族:迷宮核ダンジョンコア

名前:澤部十四郎

迷宮レベル:5


総DP:5511

獲得DP/日:2880

消費DP/日:3



種族:迷宮守護者

名前:ユーリィ

職業レベル:2(ガーディアン)

強打L1 突撃L2 短剣術L2 

暗視L1 反射音探知L1 締め付けL1

 

装備:守護者の剣

 (自動回復L1)

   守護者の鎧

 (斬撃被ダメージ軽減L1 酸耐性L1

  熱耐性L1 炎耐性L1 毒耐性L1)

お読みいただいて、ありがとうございました。

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