13 初めての仲間 後編
こっちは後編にしました。(題名が思いつきませんでした)
【大陸歴1415年5月5日】
〈少女視点〉
「!! 危ない!!」
嫌な気配を感じたあたしは、咄嗟に御使い様を胸に抱えて、その場を飛び退いた。
次の瞬間、御使い様のいらっしゃった辺りの地面が急激に盛り上がり、砂の中から何か巨大なものが飛び出してくるのが見えた。
小さな洞窟があっという間に破壊され、巻き上がった砂と、太陽の光があたしたちに降り注ぐ。
あたしは、御使い様を抱えたまま、その場を離れようと、熱い砂の上を走り出した。
でも、いくらも進まないうちに、見えない壁のようなものに突き当たってしまい、先に進めなくなってしまった。
戸惑って一瞬動きを止めた直後、あたしは何者かに、強い力で足首を掴まれた。
あたしを捕まえた何者かは、あたしを砂の上に引き倒そうとした。あたしは御使い様を巻き込まないように、抱えていた御使い様を手放した。
足首を強く引かれ、あたしは砂の上に倒れた。それと同時に、あたしは流れるような動きで、腰につけた短剣を引き抜き、足首を掴む何者かを斬りつけていた。
反射的に体が動いたことに、あたし自身が驚いてしまった。一応、あたしは父さんから護身用にと、刃物の扱い方を教えてもらっていた。でも、実際に短剣を使うのは、これが初めてだったからだ。
もしかしたら、御使い様が授けてくださった、この短剣の力かもしれない。いや、きっとそうに違いない。あたしはそう思った。
御使い様が守ってくださっているんだと気付いたことで、勇気がどんどん湧いてくる。そのおかげであたしは、砂煙の中で動く巨大な影を、落ち着いて観察することが出来た。
「こいつ、流砂イカだ!!」
先端が木の葉のように広がった、特徴的な2本の長い触手と、その奥で蠢く8本の脚。直接見るのはこれが初めてだけど、その恐ろしさは、村に滞在していた交易商人さんたちから、何度も聞かされている。
でも、流砂の中に隠れて砂上船狙うはずの魔獣が、なぜこんな所に?
そんな疑問をよそに、大イカは長い触手を、あたしに向かって伸ばしてきた。灰色の触手は、あたしの胴体ほどの太さがあった。
でも、片方の触手は、先端がきれいに断ち切られ、紫色をした血が滴っている。
あんなに太いものを、あたしが簡単に切り落とせたなんて、到底信じられなかった。すべては、御使い様が下さった、この短剣の力のおかげだと思った。
大イカは、先端のない触手を、強く砂に叩きつけた。衝撃で舞い上がった熱い砂が、あたしに襲いかかる。
思わず目を瞑った一瞬の隙を突いて、大イカは腕ごと、あたしの胴体をもう一方の触手で捕らえた。
恐ろしい力で締め付けられ、骨がギシギシと軋む。そのせいで、あたしは、短剣を取り落としてしまった。
砂に飲まれて消えていく短剣を拾おうとしましたけど、ぜんぜん身動きが取れない。それどころか、あたしはイカの触手に掴まれたまま、体を高く持ち上げられた。
天地がひっくり返り、頭がクラクラする。大イカは素早い動きで、あたしを自分の方へ引き寄せた。あたしを捕えようと待ち構えているたくさんの足の動きを見て、背中がゾクッっとした。
あたしは必死に藻掻いたけど、触手はいっこうに緩まない。それどころか、ますます強く締め付けてくる。
左肩からボキッと嫌な音がして、あたしは思わず悲鳴を上げた。
それでも、あたしが絞め殺されなかったのは、御使い様の胸当てが、あたしの急所を守ってくれていたからだ。そうでなければ、熟れたナツメヤシの実みたいに、ぐしゃっと握りつぶされていたに違いない。
あたしの目の前に大イカの脚と、その奥にある大きな口が見えてきた。
あたしを一飲みに出来そうな、その口の中には、鋭い牙がずらりと並んでいる。そのすぐ上にある、十字型をした瞳で、大イカはあたしをじっと見つめていた。
あたしは左肩が痛むのも忘れ、必死に体を捩った。大イカは暴れるあたしを更に高く持ち上げた。きっとこのまま、あたしを砂に叩きつけて弱らせるつもりだ。あたしは衝撃に備え、両目を大きく開いて、体に力を込めた。
しかし、次の瞬間、大イカのすぐ近くの砂の中から、なにか大きなものが姿を現した。それはなんと、砂漠大サソリだった。
昼は滅多に姿を見せない大サソリが、突然出てきたことに、あたしはとても驚いた。でも、それ以上に驚いたのは、大サソリが大イカに向かって突進し、大きな2つのハサミで、大イカを斬りつけたことだった。
大サソリは、毒針の付いた長い尻尾を、ぶんと振り回した。尻尾は、あたしを捕まえていた大イカの触手を切断し、あたしは勢いのまま、空へ打ち上げられた。
でも、すぐに、見えない壁に突き当たり、放り出されずにすんだ。
上から大イカの姿を見たあたしは、ハッとした。大イカに襲いかかっていたのは、サソリだけじゃなかった。砂漠の掃除屋として知られる、獰猛な砂漠大アリたちが、イカの体の周りに纏わりついていた。
そこであたしは、気が付いた。これは、偶然ではない。御使い様が、あたしを助けるために、砂漠の魔獣たちを遣わしてくださったんだ!!
あたしは胸の奥からなにか熱いものがこみ上げてくるのを感じた。次の瞬間、砂の中に消えたはずの短剣が、あたしの右手の中に現れた。
御使い様が下さったこの奇跡に、お応えしたい!
あたしは、反射的に短剣を両手で構えたまま、空にある見えない壁を、思い切り蹴った。左腕が痛み、泣きそうになったけど、ぐっと奥歯を噛んで悲鳴を飲み込んだ。
「いっけけえええええぇぇっ!!!!」
あたしは構えた短剣を真っ直ぐに突き出し、大イカの目と目の間に向かって突進した。魔獣たちに襲われていた大イカは、すぐに急所に迫るあたしの姿に気づいた。
大イカと私の目が合った。その瞬間、あたしの心に、言葉にならない、大イカの恐怖と混乱とが、伝わってきた。
あたしの突き出した短剣は、大イカの頭に根本まで突き刺ささった。大イカが、デタラメに体を揺すったので、あたしは砂の上にポンと放り出された。
大イカはしばらくそうやって暴れていたけど、いくらもしないうちに、動かなくなった。ブルブル震える大イカの体を、砂漠大アリたちは美味しそうにバリバリと食べ始めた。
その姿を横目に見ながら、大サソリはザクザクと砂を掘り、じきに姿を隠してしまった。やはり、太陽の光が苦手のようだ。砂の奥に消えていくサソリに向かって、あたしは「ありがとう」と声をかけた。
〈十四郎視点〉
突然、トンデモナイ化け物に襲われた俺たちだったが、魔物軍団と、新たに仲間になった女の子の活躍によって、無事、撃退することが出来た。
特に女の子の動きはすごかった。あんなに小さい子なのに、優に20m以上はある、あのでかい触手の化け物相手に一歩も引かないんだから。
おまけに、とどめを刺すときなんか、空中で方向転換して、短剣ごと体当りしていったもんな。さすがは仲間キャラ。普通の魔物よりずっと強い。
ゲーム的には、この子を育成しつつ、他の仲間を探しながら領土を増やしていく感じなのだろうか?
未だにこのゲームの目的はわからないままだ。まあ、別にクリアする気はないから、いいんだけどね。
アリ太郎たちが食べていた触手の化け物が光の粒になって消えると、ナビさんの声が俺の脳内に響いてきた。
『魔獣の吸収が完了。2400DP及び以下の素材、スキルを獲得しました。』
『流砂イカの牙×2』
『流砂イカの爪×2』
『流砂イカの革×20』
『土の魔石(中)×1』
『スキル〈砂吐き〉』
『スキル〈巻取り〉』
『スキル〈締付け〉』
『スキル(砂中移動)』
『迷宮レベルが上昇しました。迷宮領域設置上限が500エリアになりました。』
目の前で化け物の体が消え去ったことに、女の子はすごく驚いていた。でも、それに続いて、もっと驚くようなことが彼女の身に起きた。
『迷宮守護者のレベルが上昇しました。能力上昇に伴い、守護者の肉体の損傷が自動回復されます。』
『核との魂接続により、守護者が新たなスキルを獲得しました。』
ナビさんの声が終わると、女の子の体に再び、金色の光の文様が浮かび上がった。
これは多分、レベルアップ的な演出だろう。彼女は戦闘で左肩を痛めていたみたいだったが、どうやらその傷も、ナビさんが回復してくれたらしい。さすがはナビさん。有能過ぎる。
女の子は左肩を何度か動かした後、すぐに俺の側に駆け寄ってきた。彼女はしきりに、俺に話しかけてくれたが、相変わらず、何を言っているのかさっぱり分からない。
会話イベントが進まないのは、結構なストレスだ。やっぱり、俺がこの子の言葉をある程度、分かるようにならないとな。
そうでなきゃこの先、ゲームが進んだとしても、脱出するヒントを見つけられなさそうだ。
とりあえず、この子の名前くらいは知っておきたい。俺はまたスナハンドたちを呼び出すと、自分の方を指さしながら、自分の名前を何度も繰り返した。
女の子は困った顔でその様子を見ていた。けれど、しばらくすると、彼女の表情がぱあっと明るくなった。
やった! ついに、俺の言うことが伝わったみたいだぞ!
彼女は、満面の笑顔で自分の方を指差すと、自分の名前を俺に向かって繰り返した。それを聞いた瞬間、俺は胸が潰れるほどの衝撃を受けた。
種族:迷宮核
名前:澤部十四郎
迷宮レベル:5
総DP:5621
獲得DP/日:2500
消費DP/日:3
種族:迷宮守護者
名前:???
職業レベル:2(ガーディアン)
強打L1 突撃L2 短剣術L2
暗視L1 反射音探知L1 締め付けL1
装備:守護者の剣
(自動回復L1)
守護者の鎧
(斬撃被ダメージ軽減L1 酸耐性L1
熱耐性L1 炎耐性L1 毒耐性L1)
【流砂イカ】
種族:砂棲魚族
属性:土属性
召喚コスト:2400DP
保有スキル:〈巻取り〉〈締め付け〉〈砂吐き〉〈砂中移動〉
流砂の中に潜んで獲物を狙う巨大な陸生イカ。体長は15m〜30m。砂の中から突然現れ、その長い触腕を使って獲物を捕らえると、砂中に引きずり込んで捕食する。その神出鬼没さから、砂漠を往来する商人たちから恐れられている。なお、流砂イカの革は非常に伸縮性に富む上、強い土の魔力を含んでいるため、様々な魔導具の素材として重宝されている。
お読みいただいて、ありがとうございました。




