12 初めての仲間 前編
ちょっと長くなってしまったので、分けるかどうか悩みましたが、結局そのままにしました。読みにくかったらすみません。
【大陸歴1415年5月5日 早朝】
〈十四郎視点〉
日が昇り始めても、女の子は眠ったままだった。よほど疲れていたのだろう。ついさっきまで、死にかけてたんだから、無理もないよね。
俺は、女の子の周りに砂のかまくらを作り、日差しから彼女を守った。そして、入口にスナハンドたちを配置し、彼女の安全を守らせることにした。
日が昇ると、また例によって魔物たちが襲いかかってきた。俺は女の子から魔物を遠ざけるため、最初に作ったかまくらの方に移動した。自分を囮にして、魔物たちを引き寄せるのだ。
今はすでに、立方体を作るアイコンは反応しなくなっている。上限に達してしまったようだ。
集落まではあと200mくらい。あそこまで行くためには、もう少し魔物を倒して、レベルを上げる必要があるだろう。だからといって、あの子の側で魔物と戦うわけにはいかないからね。
あの子は、俺がこのゲームに閉じ込められてから、初めて出会った人間だ。もしかしたら、脱出するための手がかりが見つかるかもしれない。まあ、多分NPCだろうから、望みは薄いと思うけど。
最悪でも、集落に行く前の情報収集ができるだろう。彼女が俺の所にやってきた経緯をメタ的に考えるなら、むしろ、こっちのほうがメインな気がする。
俺はそんなことを思いながら、魔物との戦いを続けた。そして、昼を少し過ぎた頃、やっと女の子が目を覚ましたのだった。
〈少女視点〉
悲鳴が響く中、あたしは冷たい砂の上で必死に足を動かした。後ろから迫ってくるのは、あたしの村の男の人を皆殺しにした砂賊たち。
奴らは逃げ惑う村の女たちを追い詰め、次々に捕らえていった。
あたしは闇雲に走り続けた。逃げるあてなんてない。ただただ、恐ろしかった。
でも、大人の足に子どもが敵うわけがない。あたしはすぐに捕まった。砂の上に押し倒されたあたしに、血に塗れた男たちの手が迫ってきて・・・。
あたしは悲鳴を上げて飛び起きた。でもすぐに、さっと頭を押さえて蹲った。
悲鳴を上げたら見張りの男に「うるせえ!」って鞭でぶたれてしまうからだ。あたしは、怒鳴り声に続いて襲ってくる痛みに備え、体に力を入れた。
でも、いつまで経っても、怒鳴り声も痛みもやってこなかった。あたしは恐る恐る目を開けて、まわりを見た。
そこは薄暗い船倉じゃなかった。狭い船底にぎゅうぎゅうに押し込まれて、身を寄せ合う子どもたちの姿もない。
ここ、一体どこ?
あたしがいたのは、小さな洞窟のような場所だった。大きさは、お父さんが狩りの時に使っている一人用のテントくらい。あたしはその真ん中で、砂の上に一人で座っていた。
ぐるぐる回る頭を必死に動かして、あたしは記憶を辿った。
確か半月くらい前の夜、あたしは砂賊の奴隷狩りに捕まって、村のこどもたちと一緒に船倉に閉じ込められた。でも、食べ物はおろか、水さえ満足にもらえず、あたしはすぐに病気になってしまったのだ。
弱ったあたしは、病気になった他の子と一緒に砂漠に捨てられた。
その時は、このまま砂漠ザメに食べられてしまうんだろうなと、ぼんやりした頭で考えていたんだけど・・・。
あたしは、ここがどこなのかを確かめるため、唯一の出口に近づこうと立ち上がった。その拍子に、体にかけられていた赤い毛布がずり落ちた。
ふと見ると、その横に同じ毛皮の赤い服が置いてあった。
「これ、火炎狼の毛皮!?」
あたしは驚いて、思わずその毛布を手に取った。火炎狼は、群れで家畜や人を襲う恐ろしい魔獣だ。でも、その毛皮には魔力があり、暑さや寒さを防いでくれる。
村で一番狩りが上手だった父さんは、火炎狼の毛皮の外套を持っていた。あたしも一度だけ、着させてもらったことがある。
そのときは、昼なのに太陽が全然暑くなくなって、すごくびっくりした。
めったに手に入らない品で、フラシャールの街から来る交易商人さんたちが、すごいお金を払って買っていくのを、何度も見たことがある。
あたしが手に取った毛布は、すべすべした毛皮が丁寧につなぎ合わされていて、一目見ただけですごく良い品だと分かった。まるで、あたしのおばあちゃんが作った毛布みたい。
あたしに裁縫を教えてくれた、大好きなおばあちゃん。あたしはあの夜、おばあちゃんが砂賊に殺されたことを思い出し、思わず泣きそうになった。
でも、ぐっと涙をこらえて、熱い目を手の甲でゴシゴシこすった。泣くよりも先にやることをやれと、父さんがいつもあたしたちに言っていたのを、思い出したからだ。
服もすごく上手に仕立てられている。こんなすごい品を、あたしに被せてくれたのは、一体誰なんだろう? もしかしたら、父さんがあたしを助けてくれたのかな?
でも、あたしはすぐに頭を振って、その考えを振り払った。父さんはあの夜、あたしと母さんを逃がすために砂賊と戦い、あたしの目の前で殺された。
あたしは、その場に毛布と服を戻すと、出口の方に向かった。でも、その時、突然足元の砂から、何かがぴょこんと飛び出してきて、あたしの行く先を塞いだ。
「きゃっ!!」
あたしは小さな悲鳴を上げて、尻もちをついた。でも、柔らかい砂の上だったので痛くはなかった。あたしは、目の前のものを見た。
「砂で出来た手?」
目の前にいたのは、砂でできた人間の腕だった。大人の男の人くらいの大きさの腕が3本、サボテンみたいに地面からニョッキリと生えている。あたしは咄嗟に身を守りながら、後ずさった。
でも、腕たちは、その場でゆらゆらとゆっくり揺れているだけで、私に何かする気配はなかった。最初は不死者か、魔獣なのかと思ったけど、違うみたい。
あたしは思い切って、腕に近づいてみた。腕は特に危険な様子は見せなかった。でも、あたしが出口に近づこうとすると、手を大きく振って、通せんぼしてきた。
「外に出るなってこと?」
あたしは腕に話しかけてみた。でも、腕たちはゆらゆら揺れているだけだった。当たり前だけど、言葉は通じないみたい。
あたしが腕を見ながら、どうしようかと迷っていると、突然薄暗い洞窟(?)の中が、少し明るくなった。
驚いて顔を上げた私の前にあったのは、一抱えくらいの大きさをした、光の玉だった。
〈十四郎視点〉
女の子が目を覚ました気配を察知した俺は、スナハンドたちに女の子を足止めさせ、すぐに女の子がいる砂のかまくらの方に向かった。
入口から中に入ると、スナハンドたちから少し離れたところで、女の子が俯いて立っているのが見えた。元気になった彼女を見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。
女の子は目線を上げて俺の方を見ると、すごく驚いた顔をした。ゲームのキャラとは思えないほど、リアルな表情だ。まるで本物にしか見えない。
このゲームの開発者の技術はマジですごい。性格はネジ曲がっているけどな。
とりあえず、俺は女の子に話しかけてみることにした。まずは会話しないと、イベントも始まらないと思ったからだ。
「はじめまして。俺は澤部十四郎。君の名前はなんて言うんだい?」
話しかけるって言っても、俺は声が出せない。だから、いつものように念じるだけだ。
その途端、彼女はすごく驚いた様子で、辺りをキョロキョロと見回したあと、俺の方を二度見した。
何だこの反応。このゲームの会話は、念じるのがデフォだと思ってたけど、違うのか?
俺がもう一度念を送ると、彼女は目を皿のように広げて、俺の方をじっと見つめた。
昨日は暗かったから、気づかなかったけど、この子すごくきれいな顔をしてる。いわゆるスラブ系の顔立ちって言うのかな。
目がデカくて、鼻がすっとしている。現実では滅多にお目にかかれない程の美幼女だ。けど、ゲームのキャラなら、まあこんなもんかもしれない。
彼女は俺をじっと見たまま、何かを話しかけてきた。でも、残念なことに、俺には彼女の言葉がまったく理解できなかった。
言葉の感じから、ナビさんと同じ言語を話しているのが、なんとなく分かる程度だ。
キャラとの会話なら日本語でできるんじゃないかと、一縷の望みを持っていた俺は、盛大に肩を落とすことになった。
くそっ、誰か日本語化パッチあててくれよ!
彼女は俺に何かを問いかけているようだが、俺には理解できない。そこで俺は、スナハンドたちを使って、彼女とのコミュニケーションを試みて見ることにした。
「俺は、澤部十四郎だよ。さわべとしろう。君の名前は何ていうの?」
スナハンドに俺を指ささせた状態で、俺は自分の名前を繰り返した。すると彼女は、何かを確かめるような口調で小さく俺の名前を繰り返した。
『しゃーれっとしゅろー・・?』
異国の発音で聞く日本語は、まったく形をなしていなかった。彼女に、日本語の発音は難しいようだ。こりゃ、前途多難だぞ。
俺がそう思った瞬間、彼女は弾かれたようにその場に平伏すと、そのまま動かなくなってしまった。どういうこと? 何か間違えたのかな、俺?
でも、このまま顔を伏せられていたら会話にならない。困った俺は、とりあえず会話を続けるため、彼女の顔の側に、ぐっと近寄ってみることにした。
〈少女視点〉
目の前に現れた光の玉が放った言葉に、私はすごく驚いた。
シャーレの御使い。光の玉は、確かにそう言った。
シャーレ様といえば、大地母神の眷属で、砂漠の民の守り神。砂漠に恵みを齎してくださる、厳しくも優しい女神様だ。
あたしの家族はみんな、食事の度に、シャーレ様にお祈りを捧げていた。その御使い様が、目の前に現れるだなんて!
あたしは恐れ多くて、顔を伏せていた。すると、御使い様は、あたしの顔の直ぐ側まで、近づいてきてくれた。
同時に、あの不思議な砂の腕が、私に火炎狼の服を差し出した。
「これを着なさいってことですか?」
あたしがそう尋ねると、御使い様は、その丸い体を小さく揺らした。あたしは震える手で、服を身に着けた。
服はすごく軽い上に、あたしの体にぴったりの大きさだった。まるで、あたしのために仕立てられたみたいに・・・。
そこで、あたしはハッとした。あたしを助けてくださったのは、御使い様だ。
そして、御使い様は、あたしにこの服を授けてくださった。これはもう、間違いない。
「シャーレ様が、あたしに使命を下されたのですね?」
あたしの問いかけに、御使い様はまた小さく体を揺らした。あまりの衝撃に、あたしの体はブルブルと震えた。
使命とは、神々が、選ばれた人間に与えてくださる試練だ。使命を受けた人間は、神々から不思議な力を授けられる代わりに、様々な困難に出会うと言われている。
私は村の語り部から、これまでに何度も、砂漠の民に伝わる英雄物語を聞かされていた。
でも、まさか、自分が使命を受けることになるなんて、夢にも思わなかった。あたしは少し考えた後、御使い様に尋ねた。
「シャーレ様は、あたしに、あの砂賊たちを退治しろっておっしゃっているんですね?」
あたしの言葉に、御使い様はまた小さく体を揺らした。あたしは、父さんから教えられた誓いの姿勢を取り、御使い様を見上げて言った。
「砂漠の民の誇りにかけ、シャーレ様の使命を必ず果たします。どうかあたしを見守ってください。」
その瞬間、あたしは体の内側から、熱い力が湧き上がってくるのを感じた。これは、御使い様があたしに与えてくださったものに違いない。
あたしは使命の戦士となった。この力で父さんたちの敵を討ち、さらわれた母さんや村の人たちを助け出す。
そして、御使い様のお導きに従い、砂海に平和を取り戻して、シャーレ様の御心を広めるんだ。
あたしは溢れそうになる涙を必死に堪え、御使い様の丸い体をじっと見つめた。
〈十四郎視点〉
赤い服を着た女の子が、俺の方をじっと見上げていた。彼女は祈りを捧げるように、胸の前に手を組んでいる。
なんとなくだけど、服をもらったことへの感謝と何かの決意のような気持ちが伝わってきた。
今にも泣きそうな表情をしていたけれど、必死に涙を堪えているようだ。辛い目に遭ってきただろうに、すごく健気な子だな。
『守護者の宣誓により、守護者と迷宮との魔力同調率が上昇しました。守護者システムの一部が解放されました。』
ナビさんの声がすると同時に、俺の視界に表示されているメニューアイコンが一つ増えた。アイコンを開いてみると、彼女の全身を映した映像の周りに、無数の文字が表示されている。
いくつかのアイコンも使用できるようになっているようだ。これ、絶対、この女の子のステータス画面だよね。
察するに、今、何かのイベントが進行したのだろう。状況から考えておそらく、彼女が仲間になった的なやつじゃないかな?
この子は、ただのNPCじゃなく、重要なキャラクターだったのかもしれない。
仲間になったのなら、きっとアリ太郎たちと一緒に戦ってくれるのだろう。でも、見た感じは普通の小さい女の子だ。
背格好からいって、多分7〜9歳くらいじゃないかな。さすがに丸腰じゃ危ないよね。何か装備とかさせたほうがいいのかな?
俺がそう考えると、すぐにナビさんの声が脳内に響いてきた。
『守護者の専用装備を生成するには、20000DPが必要です。よろしいですか?』
さすがはナビさん、頼りになるぜ。俺が「YES」と答えると、女の子の足元に、今まで見たことがない銀色の魔法陣が現れた。同時に俺は、体の力を一気に奪われるような感覚を味わった。
俺から抜け出した力が、銀色の魔法陣に流れ込んでいく。すると、刃渡り30cmくらいの小さな短剣と革ベルトのついた銀色に輝く板が、魔法陣の中から湧き出るように現れた。
女の子はすごく驚いた様子で、魔法陣を見つめている。しばらく待ったが、動く様子がなかったので、俺はスナハンドたちを使って、彼女に今できたばかりのアイテムを手渡した。
女の子は、震える手でそれを受け取ると、早速、身につけ始めた。彼女がつけてみて初めて、銀色の板の正体が小さな胸当てだったことに気が付いた。
胸当てをつけ終わった彼女は、最後に刃覆いをした短剣を革ベルトに吊るした。普通のゲームだと、こういうシーンは省略されているものだ。
だから、俺は興味深く、その様子を見守った。このゲーム、かなりリアル志向だよなー。
装備が整うと、一気にゲームのキャラらしくなった。小さい女の子とはいえ、なかなか強そうに見える。
ただ汚れが気になるかな。近寄ると、ちょっと臭うし。風呂に入れてやりたいけど、砂漠の真ん中だと流石に難しいか?
凛とした表情で立っている彼女は、俺の娘の友里よりも少し年上に見えた。まあ、単に、外国人らしいはっきりした顔立ちと、身につけている装備のせいかもしれないけどね。
俺が呑気にそんなことを考えていると、脳内にまた魔物の襲来を告げる警報が鳴り響いた。同時に、俺と彼女が立っていた砂のかまくらの床が、爆発するように盛り上がった。
次の瞬間、女の子が何かを叫びながら俺に向かって突進してきた。俺は彼女に抱えられたまま、地面に倒れ込んだ。
吹き上がった大量の砂が、俺と女の子に降り注いでくる。
その砂で煙る視界の向こう側に見えたのは、俺達に向かって迫ってくる、巨大な生き物の触手だった。
種族:迷宮核
名前:澤部十四郎
迷宮レベル:4
総DP:3221
獲得DP/日:2500
消費DP/日:3
種族:迷宮守護者
名前:???
職業レベル:1(ガーディアン)
強打L1 突撃L1 短剣術L1
暗視L1 反射音探知L1
装備:守護者の剣
(自動回復L1)
守護者の鎧
(斬撃被ダメージ軽減L1 酸耐性L1
熱耐性L1 炎耐性L1 毒耐性L1)
【守護者の専用装備について】
迷宮の呪詛に囚われた守護者の魂を元に、迷宮核の魔力によって作り出された魔法の武具。迷宮の保有するスキルを宿すことができる。これらの装備は、守護者の魂が元になっているため、守護者とともに成長する。また、いつでも守護者の魂内に収納することができ、着脱も任意のタイミングで、瞬時に行うことができる。迷宮核の魔力が継続する限り、守護者の肉体の損傷を回復し続ける効果がある。迷宮核が破壊されると、これらの装備は消失する。
お読みいただいて、ありがとうございました。




