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129 包囲防衛戦 ④

 花粉症のせいか、頭が重くて辛いです。誤字があったらすみません。


*子どもに対する残虐表現があります。苦手な方はご注意ください。読みたくないよという方は、一言あらすじをお読みください。


【一言あらすじ】拷問される三姉妹、選択を迫られるユーリィと十四郎。

【大陸歴1415年11月20日 早朝】


〈バグラ視点〉


 絶望に顔を歪める赤い毛皮の少女。


 バグラは少女に見せつけるように、あえてゆっくりと右腕を引き上げた。


 バグラに髪を掴まれている幼子おさなごが、苦鳴を上げてもがく。


「痛えのか? じゃあ、離してやろう。」


 あえて高い位置に持ち上げてから、バグラは幼子の髪を離した。


 手足を背中に曲げて縛られている彼女は、受け身を取ることもできず、頭から固い甲板に落下した。


 ゴンという鈍い音が響く。


 幼子の額に走った裂傷から、どくりと血が溢れ出した。


 痛みと衝撃に、細い体がびくりと跳ねる。


 しかし、きつく猿轡を嵌められているため、泣き声を上げることも、助けを求めることもできない。


 赤い毛皮の少女の顔が、さらに歪む。


 今にも泣き出しそうな彼女の様子に、バグラは愉悦の笑みを浮かべた。






 揺さぶりとしちゃあ、十分だろう。


 ここからは交渉の時間だ。


 バグラは曲刀シミターの刃先を足元の幼子の顔に向けた。


 恐怖で幼子の目が見開かれる。


「やめて! 殺さないで!!」


 赤い毛皮の少女の絶叫を楽しみながら、バグラは曲刀を幼子に振るった。


 少女の息を飲む音がはっきりと聞こえた。


 しかし、直後に上がった幼子の泣き声を聞いて、少女は複雑な表情を見せた。


 バグラは曲刀で断ち切った幼子の猿轡を、右手で取り除いた。


 血の滲む幼子の額を長靴で踏みつける。足の下の幼子の喉から、甲高い悲鳴が漏れた。


 十分に悲鳴を上げさせた後、バグラは大声で赤い毛皮の少女に呼びかけた。






「聞こえるかぁ、小娘!! 聞こえるなら返事しろ!」


 船と外壁の距離はおよそ50歩(35m)ほど。


 相手に弓兵がいないことは確認済み。他の飛び道具はぎりぎり届かない距離だ。


 もっとも、オルワの魔法で、飛び道具そのものは無効になっているのだが。


 この距離なら、自分の声もこのガキの悲鳴もきちんと聞こえているはず。


 それでもあえて尋ねたのは、交渉の主導権がどちらにあるのかを明確に示すためだった。






 赤い毛皮の少女が、横に浮かんでいる光の玉に一瞬目を向ける。


 どう返事をするか、迷っているようだ。御使いとやらと相談しているのかも知れない。


 しかし当然、そんなゆとりを与えるつもりはない。


「返事がないなら、もっといい鳴き声を聞かせてやらなきゃならねえな。」


 バグラが足に力を込めると、幼子の口から更に悲鳴が上がった。


「聞こえてるわ! だから、もうひどいことしないで!!」


 涙の滲む目で訴える赤い毛皮の少女。


 バグラは幼子から足を離した。幼子の悲鳴が止み、代わりに激しく咳き込む音が響く。


 不自由な身体を震わせ、嗚咽を漏らす彼女の様子を見ることすらないまま、バグラは赤い毛皮の少女に向き合った。






「一体、何が望みなの?」


「俺が望むのは、お前だ小娘。俺の奴隷になれ。」


 バグラがそう言った途端、少女の隣に浮いていた光の球が激しく揺れた。


 少女は光の球に一瞬目を向けたが、すぐにこちらへ向き直った。


「あたしが奴隷になればいいのね?」


「ああ、それでいい。そうすりゃ、この街には手出ししねえよ。ガキも返してやる。お前ひとりが大人しくしさえすれば、みんな助かるんだ。どうだ、悪い話じゃねえだろう?」


 少女は黙り込んでしまった。


 バグラは続けた。


「俺は待たされるのが嫌いでな。さっさと決めてくれねえと。」


 バグラは長靴で幼子の身体を踏みつけた。細い手足が捻じ曲がり、骨が軋む。


 嗚咽していた彼女の喉から、長い悲鳴が上がった。


「このガキが、長く苦しむだけだ。」


 少女の動揺が目に見えて大きくなる。


 バグラはその様子を楽しみながら、少女が次の答えをじっくりと待ち続けた。






〈十四郎視点〉


「御使い様、あたし、あの男の奴隷になります。」


「ダメだ、ユーリィ! そんなことをしても、何の解決にもならない!」


「でも、そうしないとハナが・・!」


 バグラの卑劣なやり口で、ユーリィは完全に動揺してしまっている。


 しかし、奴の要求を飲むことは絶対にできない。


 ユーリィだけを望んでいると言っているが、そんなわけがないからだ。


 奴の望みは、ユーリィを思い通りに操ることで、結果的に俺の力を得ること。


 それは、この街のすべてを奴に支配されることと同じだ。






 もちろん、俺にとってユーリィは大切な存在。


 しかし、心情面を排除して考えるなら、この世界ゲームにおける仲間キャラの1人に過ぎないとも言える。


 そして、仲間キャラですらないハナは、物語ストーリーの中心には関係がない。ただの一般人モブだ。


 だから話は簡単。割り切って見捨ててしまえばいい。


 今、バグラの船は、俺の領土のすぐ側まで来てくれている。


 魔獣たちの細かい制御も、十分可能な距離だ。


 魔獣軍団で一斉に奇襲をかければ、バグラを殺すことも可能かもしれない。


 この世界からの脱出ゲームクリアを第一に考えるなら、この選択は迷うまでもない。






 だが、この選択をすれば、確実にハナは死ぬことになるだろう。


 その選択を、ユーリィは受け入れられないに違いない。


 そして何より、子どもを見殺しにするという選択を、俺自身が絶対に受け入れられない。


 では、一体、どうすればいい?


 世界ゲームか、それともハナの生命か?


 突きつけられた選択を前に、俺は心の内側から、じっとりと濁った渦のようなものが全身に広がっていくのを感じた。






〈デケム視点〉


 デケムは嗚咽して震える幼子を前にして、血が縮むほど拳を握りしめていた。


 これはこの街を手に入れる交渉に必要なこと。


 そうしなければ、この街を足がかりにしたフラシャール軍が、ペルアネゲラを襲うことになる。


 理性ではそう分かっていても、感情を抑えることは容易ではない。


 頼むから、早くバグラの要求を受け入れてくれ。


 デケムは名も知らぬ赤い毛皮の少女に、心のなかでそう呼びかける。


 彼は固く目を閉じ、奥歯を噛み締めて幼子の苦鳴に耐えた。


 




「おい、セプテム、やれ。」


 バグラの呼んだ名前を聞いて、デケムは閉じていた目をカッと見開いた。


「バグラ、止めろ!」


 デケムは思わず声を上げた。


 黒いフード付き外套を纏った男は、そんなデケムを軽蔑するように見つめた。


「あんたに止められる筋合いはない。これは俺の仕事だ。」


 セプテムと呼ばれた細身の男は、バグラの足元にいる幼子を掴み上げた。


 セプテムを見た幼子の顔が歪む。シャーレからこの男に連れ出された時の恐怖を思い出したのだろう。






 この男は『七面』の異名を持つ腕利きの密偵。


 この作戦にあたって、バグラが大金を支払って雇い入れた男だ。


 デケムもザイヤードの片腕だった時に噂を聞いたことがあるほどの、裏の世界では名が知れている。


 しかし、生粋の嗜虐嗜好家サディストであるこの男を、デケムはどうしても受け入れることができなかった。


「あの赤い毛皮の娘に、うんと言わせればいいんだな?」


「ああ、できるだけ早く決着をつけたい。」


「それならぴったりの余興ゲームがある。残りのガキも使わせてもらうぜ。」


「殺すなよ?」


「それはこいつら次第だ。」


 セプテムは懐から、刃が捻じくれたように波打っている、奇妙な短刀を取り出した。


 そして、床に転がっている残り2つの麻袋に手をかけた。






「やめて! 妹たちにひどいことしないで!」


 その途端、ずっと嗚咽をしていた幼子が、火が付いたように叫び声を上げた。


 幼子の叫びは、赤い毛皮の少女にも聞こえたようだ。彼女は食い入るようにこちらを見つめている。


「そうか、この2人はお前の妹たちか。それならますます楽しめそうだ。」


 セプテムが袋を切り裂くと、中から更に幼い2人が姿を見せた。


 姉と同じように手足を折り曲げられて縛り上げられている。


 単に拘束するだけなら、他にも方法はあるはず。しかし、セプテムはあえてこの方法を選んだ。


 デケムはそのやり口に、吐き気を催すほどの悪意を感じた。






 一番幼い妹は、おそらく4歳前後だろう。


 彼女は狭い袋の中で不自由な姿勢を長時間続けたせいで、身体を動かすこともできないほど衰弱していた。


 セプテムは妹2人の猿轡を外すと、あえて外壁からよく見えるように、舷側へ縛り付けた。


「これでいい。お前はこっちだ。」


 セプテムはそう言うと、船首に繋がる帆綱に小さな滑車2つを吊るし縄を通した。


 それを長姉の手足を縛っている革紐に繋ぎ、彼女をそのまま船から放り出す。


 幼い姉妹と少女の悲鳴が同時に上がる。


 長姉は妹たちの目の前で苦しい姿勢のまま宙吊りとなった。


 そして、滑車につながった縄を中心にくるくるとその場で回転した。






 セプテムは満足そうに頷き、帆綱に先が輪になった縄を引っ掛けると、その輪を宙吊りになった長姉の首に通した。


「やめて! 何するの!?」


「ハナねえちゃんをたすけて!!」


 セプテムが何をしようとしているか察した幼い妹たちが、必死に懇願する。


 セプテムはそんな2人の顔の前に、2本の綱を突き出した。


「俺がこの綱を離せば、お前たちのハナ姉ちゃんは死ぬ。さて、お前たちはどうする?」


 幼い妹たちは一瞬顔を見合わせた後、2本の綱の両端をしっかり噛み締めた。


 セプテムが手をゆっくり離すと、幼い2人の顎に、姉の全体重がかかった。


 滑車で多少軽減されているとはいえ、その負荷はあまりにも大きい。


 舷側に縛られた身体が上に引き伸ばされ、激しい痛みが2人を襲う。


 しかし、2人は口から血の混じった泡を吹きながらも、姉を救うため、必死に縄を噛み続けた。






「リナ! ニナ! やめて! 縄を離して!!」


 2人の妹が苦悶する様子を見せつけられた長姉は、自分の痛みも忘れ、妹たちに呼びかける。


 けれど、妹たちは決して口を開こうとはしなかった。


「実に、いい顔だ。」


 幼い姉妹の苦鳴を背景に、セプテムはバグラに向かってそう言った。


「流石だな、セプテム。反吐が出るぜ。」


「そりゃどうも。だが、お前も似たようなもんだろう?」


 セプテムの言葉を鼻で笑うバグラ。


 そこでデケムの忍耐は、ついに限界を迎えた。






「止めろ! やり過ぎだ!!」


 猛然と船首に向かって走るデケム。


 セプテムはニヤリと笑って、捻じくれた短刀を構えた。


 しかし、2人が接触する前に、バグラが間に割って入った。


「邪魔するな!」


「何だ、旦那。今さら怖気づいたか?」


「相手は子どもだぞ・・!」


「だからどうした。」


 平然と言い放つバグラに、デケムは一瞬虚を突かれた。しかし、幼い姉の悲嘆を耳にし、すぐに我に返った。






「約束が違う! ここまで痛めつける必要はないはずだ!」


「なあ旦那。砂賊に約束求めてんじゃねえよ。俺たちがやってんのは、名誉をかけた戦争じゃねぇ。食うか食われるかの戦いだ。」


「そんなことは分かってる! だが、これは・・!」


 デケムが反論しかけたその時、シュッと空気を切る音がし、くぐもった悲鳴が上がった。


 セプテムが手にした鞭で、幼い妹たちを打ち据えたのだ。






「セプテムっ!! 貴様ぁ!!」


 飛び出しかけたデケムを、バグラが身体で阻んだ。


「見てらんねえか? だったら目ぇ逸らしてろ!」


「バグラっ!!」


 怒りを顕にするデケムの耳元で、バグラは囁いた。


「(あの小娘に決断をさせるためだ。あと少しなんだよ。見ろ。)」


 外壁の上。赤い毛皮の少女は、真っ青な顔でガタガタと身体を震わせていた。


「(選べねえ顔してやがるだろう。こういう時が、人間は一番壊れやすい。)」


 デケムはバグラと目を合わせた。バグラは目だけで頷いてみせた。


「(あんたが今邪魔すれば、あのガキどもが長く苦しむだけだ。もう少しなんだ。今は堪えてくれ、旦那。)」


「・・くっ!!」


 デケムは奥歯を噛み締め、歯の間から苦い息を吐き出した。






「セプテム、ちと早いが、俺たちは小娘を迎えに船を降りる。ここはお前に任せるぜ。」


「承知した。」


 セプテムは再び鞭を振り上げた。


「おい。」


 低く唸るようなバグラの一声。


「はっ。分かったよ。手加減はする。決して殺すことはしない。だから早く行ってくれ。」


 セプテムはつまらなそうに振り上げた鞭を戻した。






「さあ行こう、旦那。オルワ、お前も来い。」


 デケムは断腸の思いで、苦しみ続ける幼い姉妹から目を逸らした。


 そして、縄梯子を使い、砂の上に降り立った。


 それを見届けたバグラは、オルワを片腕で抱きかかえると、左手の鈎に縄を通して、器用に船から飛び降りた。


 オルワをその場に立たせたバグラは、外壁の上に立つ赤い毛皮の少女に呼びかけた。


「俺はここで待つ。要求を受け入れるなら、扉を開いてここまで来い! あのガキどもが踏ん張れてるうちにな!」


 嘲るようなバグラの言葉。


 もちろん、これが相手を追い詰めるやり方だというのは、デケムも理解している。


 それでもデケムは、一刻も早くこの状況が終わり、あの幼い姉妹が解放されることを願わずにはいられなかった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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