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130 包囲防衛戦 ⑤

 ダイエットは順調ですが、ドーナツの誘惑に負けそうになっています。


*子どもに対する残虐表現があります。苦手な方はご注意ください。読みたくないよという方は、一言あらすじををお読みください。


【一言あらすじ】避難民を守る自警団結成、カム一行が救出作戦始動、ユーリィ暴走

【大陸歴1415年11月20日 早朝】


〈 レオニス視点〉


「とりあえず、一息入れましょう。」


 レオニスはそう言うと、桟橋の中に設けられた水場に寄りかかった。


 先程まで、彼と一緒に桟橋を駆け回っていた配下の男たちも、荒い息を吐きながら頷く。


 今までずっと走りっぱなし、しゃべりっぱなしで、もうこれ以上動けそうにない。


 しかし、その甲斐あって、今は避難者たちの混乱も少し落ち着きを見せ始めている。






 レオニスは配下たちに給水をさせた。


 最後に自分も水を口に含む。


 冷たい水のおかげで、痺れた頭がすっきりとし、明晰な思考が徐々に戻ってくる。


 今、桟橋の地下空間と大倉庫には、武装したパトラの分身体たちが、警戒に当たってくれている。


 彼が短時間で混乱を収めることができたのには、物言わぬ彼女たちの存在が大きく貢献していた。


 ただ、パトラの分身体も無限ではないはず。


 これだけの数が避難者たちの治安維持に割かれていれば、当然、街の防御は薄くなっているはず。


 一度それを確かめたほうがよいかも知れない。


 レオニスがそう考えていると、不審者を追ってその場を離れていたディエゴが戻ってきた。






「間者はどうでしたか?」


「俺が見つけた連中は、船乗りたちに協力してもらってふん縛ってあるぜ。どうするかは後で決めてくれ。他にもいるかもしれんが、今のところは大人しいもんだ。」


「助かりました。ディエゴさん、ありがとうございます。」


「礼はいい。それより、外の様子は大丈夫なのか?」


「ええ。私もそれを案じていました。おそらく街の警備が手薄になっています。入口は御使い様の魔獣たちが守ってくれていますが、押し破られたらひとたまりもありませんね。」


 逃げ場のないこの空間に敵が侵入したら、それこそ阿鼻叫喚の混乱を引き起こしかねない。


 レオニスの言葉に、ディエゴが眉を寄せる。


「今はいいが、またいつ混乱が起きるか分からない。鳴りを潜めてやがる連中が、敵を引き込む恐れだってある。」


 ディエゴの指摘はもっともだ。だが、今は絶対的に手数が不足している。


 一体どうすればよいのか・・?


 すると、そこに野太い2つの声が響いた。






「悪いが話を聞かせてもらった。わしらでよければ、ぜひ協力するぞい!」


「職人連中に声をかけて、何かあったらすぐ動けるようにしておこう! わしらも多少は腕に覚えがあるからのう。どうじゃな?」


 長いヒゲをしごきながらそう話しかけてきたのは、丘小人ドワーフの職人ドルガンとリグドだった。


「なるほど、自警団を作ろうということですね。」


 レオニスがそう応じると、ディエゴもすぐに言葉を重ねた。


「じゃあ、俺はさっき手を貸してくれた船乗りたちに声をかけてみる。砂海を旅して魔獣と渡り合ってる連中だ。きっと頼りになるぜ。」


「じっとして不安を抱えているよりも、その方がよいでしょう。共通の目的があれば、団結も生まれるはず。私は冒険者の方々に交渉してみます。」


 ディエゴと職人たちが頷く。しかし、その後すぐに、ディエゴはため息を吐いた。






「こんなときに、カムたちがいりゃあ、頼りになったんだがな。」


「カムじゃと? あの連中、ここに避難しておらんのか?」


 リグドの言葉にディエゴは「ああ」と応じた。


「昨日から『鉄獣の迷宮』に潜ったまんまだ。今朝、俺が船で迎えに行くはずだったんだが、この有様さ。無事だといいんだが。」


 ディエゴの言う通り、あの獣人たちはこの状況を打開する大きな戦力になったに違いない。


 しかし、無い物ねだりをして嘆く暇は今のレオニスには無かった。


「今は御使い様と御子様が、必死に戦ってくれているはずです。私たちもできることを全力でやるとしましょう。」


 レオニスの言葉で、男たちは互いに視線を交わす。


 それぞれの役目を果たすため、男たちはすぐに仕事に取り掛かり始めた。







〈カム視点〉


「なんか、おいらたちの知らない間に、ヤバいことになってない?」


「街が黒い船に包囲されてるの? ヤバいじゃん!」


「黒帆に金の六つ星。六都市同盟の私掠船団だな。」


 仲間たちの言葉にカムは小さく頷いた。


 迷宮地下一階の広間で一夜を明かした彼らは、迷宮を出てすぐの仮野営地でディエゴの船を待っていた。


 しかし、夜明けを過ぎても彼が現れる気配がなかった。


 おまけに仮野営地を守るパトラの黒騎士たちもいなくなっていた。


 そのため、手に入れた素材や鉱石をその場に残し、街の側までやってきたのだ。






 彼らがいるのは、ずらりと並んだ砂上戦艦の後ろ側。


 砂丘の陰に身を潜めて、状況を見守っているところだ。


 砂丘の正面にいるのは、船団の中でもひときわ大きい、3本マストの軍船。おそらくこれが旗艦だ。


 一隻だけ包囲から先行し、南側の外壁にある大扉にギリギリまで接近している。


 外壁の上には、ユーリィと御使い、そして武装したパトラの姿もある。


 敵の旗艦と御使いたちは、交渉中のようだ。






「ねえ、なんて言ってるの?」


 蜘蛛娘アラクネのスパイアが、草原小人グラスフットのピノンに尋ねる。


 彼は大きな耳をピクピクと動かした。


「ユーリィに降参して奴隷になれって言ってるみたいだ。子どもたちが人質に取られてて、御使いもユーリィもパトラも手出しができないみたいだね。」


「なにそれ! ひっど!!」


 人間より遥かに高い聴力を持つカムも、状況を聞き取ることができた。


 攻め込んでいるのはバグラという男。


 『不死身』や『銀鈎』などの異名を持つ、悪逆非道で噂に名高い砂賊だ。






「どうするのカム?」


 仲間たちがカムの顔を覗き込む。


 原則として、依頼がない限り戦争行為には加担しないのが、冒険者の鉄則だ。


 六都市同盟の私掠船が出張ってきているのなら、これは十分に国をあげての戦争行為と言えるだろう。


 しかし、カムが聞いている限り、シャーレはまだどの国にも属していない中立地のはず。


 その点を考えれば、これは単純な砂賊による襲撃と言えなくもない。


 だが、理屈としてはかなり苦しい。


「もし戦争に手を出せば、冒険者としての規範に反する。」


 カムの言葉に、仲間たちの顔は曇った。


 仲間たちが自分と同じ気持ちであることを知って、カムは思わず笑みをこぼした。






「が、俺にはこれが戦争には見えない。砂賊に襲われた子どもの救出。それは、俺たち冒険者の本分だと思う。」


 カムは仲間たちの顔を見回し、尋ねた。


「どうだろう、みんな?」


「もちろん、砂賊退治はおいらたちの仕事さ。ね、ベロー?」


「そうだな。俺は異存ない。スパイアは?」


「んー! もう、あんたたち大好き!」


 スパイアはそう言うと、仲間たちの頬に素早く口づけした。


「そうと決まれば、さっさと行きましょう! カム、もう手は考えてあるんでしょう?」


 突然のことに驚きながら、カムは小さく頷いた。


 風に乗って聞こえてくる幼い悲鳴は、聞くに耐えない。一刻も早く、助け出さなくては。


「では、作戦を説明する。」


 カムの言葉に、仲間たちはいつものように顔を寄せ合った。


 




〈十四郎視点〉


「やめて! 分かったから、もうやめて!!」


「ユーリィ様・・!」


 飛び出そうとするユーリィを、パトラが必死に留める。


「離してパトラさん! 早くしないと、ハナたちが!!」


「ほらどうした小娘! 早くしないと大事な人質が死んじまうぞ!」


 血を吐くようなユーリィの叫びに、黒いフードの男の嘲りが重なる。


 ハナに繋がる縄を噛みしめるリナとニナの顔は、赤黒く変色していた。


 2人は溢れ出た涙と血の混じったよだれで顔中を汚しながらも、噛んだ綱を離すまいと必死に耐えている。


 俺は自分の中で荒れ狂う黒いドロドロした力と必死に戦いながら、フードの男を睨みつけた。


 こちらを向いた男の顔を見た瞬間、俺は思わず声を上げそうになった。






 この男、鷲獅子騒動の時、野次馬の中にいた男だ!


 服装は違うが、こちらを探るように見ていた目つきは見間違えようがない。


 もうあの時から、バグラの計画はスタートしていたのか。


 それに今まで気づかなかったなんて。


 俺は自分の愚かさと能天気さを憎まずにはいられなかった。


 怒りと憎悪が、俺の目を曇らせる。


 しかし、それをあえて抑え込み、俺はユーリィに念話で語りかけた。






「落ち着け、ユーリィ。 今、バグラたちを魔獣たちに襲撃させる。」


「!! そんなことしたら、ハナたちが!!」


「もちろん、ハナたちも助ける! 砂漠ハゲワシに急降下させてハナを掴み上げれば・・!」


 この作戦の成功率は高くない。


 だが、今この状況で、俺が取り得る最善手はこれだけだ。


 ユーリィを止めるため、俺はそれを必死に伝えようとした。


 ところがその瞬間、ハナたちのところから空気を切り裂く音が聞こえた。


 黒フードの男が、リナたちを鞭で打ち始めたのだ。






「悲鳴を上げてみろ! ほら、鳴け!」


 2人の顔が歪み、口から血の混ざったよだれが泡になって吹き出す。


「なあ、いい顔だろう?」


 黒フードの男は、手にした鞭を赤い舌でべろりと舐めた。


「・・これを見るとさ、生きてるって実感するんだよ。」


 鞭の打撃に耐えるニナの口から、溢れた泡に混ざって折れた白い歯の欠片が流れ落ちる。


 それを見た途端、ユーリィの一切の動きが止まった。


 ただ、目だけが、ゆっくりとニナの口元に吸い寄せられていく。


 呼吸すら忘れたように、彼女は微動だにしなかった。


 俺やパトラの呼びかけにも、一切反応しない。しかし、次の瞬間。






「ああああああぁ!!」


 ユーリィは絶叫とともに、凄まじい勢いでパトラを振り払った。


 瞬間的に恐ろしい力を発揮したユーリィの目は、異常な光を帯びていた。


 その目には、もはや俺たちの姿すら映っていない。


 溢れる魔力を全身にまとわせた彼女は、一気に外壁から地上に向かって飛び降りた。


 地に身体を叩きつけるように着地した瞬間、短刀が閃く。


 ユーリィは相手の船を目指し、ただ一直線に突っ込んでいった。


「ユーリィィィィィ!!」


 俺は魂が砕けるほど、彼女の名を叫んだ。


 しかし、俺の必死の叫びも、彼女を止めることはできなかった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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