9 新たなる強敵 後編
後編、短くなっちゃいました。
【大陸歴1415年5月3日】
眼前に迫るサソリの毒針を見て、俺が覚悟を決めたその時、砂の中から何者かが飛び出してきた。
俺はそいつとひと塊になって、その場から弾き飛ばされた。激しい衝撃に視界が大きく歪む。
『核が深刻なダメージを負いました。すぐにその場から退避してください。』
ナビさんの声に続いて、赤い警告表示が視界に流れた。俺は何とか体勢を立て直し、すぐに巣穴の外へと逃れた。
サソリは、毒針が刺さったサメの体をもう一度砂に叩きつけ、ハサミで止めを刺した。我が身を犠牲にして、毒針に体当たりをしたのは、あのサメだったのだ。
『核を回復させるには5000DPが必要です。よろしいですか?』
おなじみのナビさんの問いかけに「YES」と返事をした瞬間、俺の中から何かがごっそりと失われる感覚と引き換えに、俺の体の痛みがすーっと消えていった。
「(ありがとう助かったよ、ナビさん。あと、サメたちも、本当にありがとな。)」
俺は生き残ったサメたちに、礼を言うと、すぐにメニューアイコンを開いた。使うのは、アイテムを生成するアイコンだ。
これまでの戦闘で、たくさんの素材が手に入ったからか、生成できるアイテムがずいぶん増えている。今までは、使う機会がなかったから触っていなかった。けれど、今はこいつを倒すために、アイテムが必要なのだ。
アイコンにはそれぞれ、絵とともに短い文字が添えられている。多分、どんなものが作れるのか、書いてあるのだろうけど、当然、俺は読むことができない。
だからといって、俺が今欲しいアイテムが一体どれなのか、すべてのアイコンを試している時間はない。俺は祈るような気持ちで、ナビさんに念じてみた。
「ナビさん! 細くて鋭い片手武器が欲しい! 3つ頼む!」
俺は今までナビさんに積極的に何かをしてくれと頼んだことはなかった。だから、彼女がそれに反応してくれるかどうかは、まったく分からない。だが、今の俺には、彼女が反応してくれることに賭けるしかなかった。
『砂漠アリ・リーダーの大牙を使用し、刺突短剣を3本生成します。生成には、300DPが必要です。よろしいですか?』
ナビさんの確認メッセージに、俺は祈りを込めて「YES」と答えた。魔法陣に光が集まり、それが形を成していく。
湧き上がるように現れた三振りの短剣を見た俺は、心の中で思い切りガッツポーズをとった。
「サンキュー、ナビさん! 愛してるぜ!!」
俺はナビさんにそう念じた後、すぐに砂の中に隠れているスナハンドたちを呼び寄せた。スナハンドたちの持っている砂のこん棒を、針のように鋭い短剣に持ち替えさせた俺は、スナハンドたちを再び砂の中に潜ませた。
その時にはすでに、大サソリは、アリ太郎の作った巣をあらかた破壊してしまっていた。巣の中にいたちびアリ太郎たちも、すべてサソリの胃袋に消えてしまった後だった。
巣から這い出してきたサソリは、かなり怒っているようだ。爛々と輝く目で、周囲を取り囲むアリ太郎軍団と、俺のことを睨んでいる。
空っぽの巣を散々ほじくり返して、お目当てのものが見つからなかったことに腹を立てているに違いない。いい気味だ。
俺は慎重に距離をはかりながら、サソリに再び接近した。
「ざまあ見やがれ、このサソ公め! 悔しかったら、ここまで来てみな!!」
そう念じながら、挑発するように体を揺らすと、サソリはハサミを振り上げて、こっちに向かって突進してきた。
俺は隊長アリたちに命じて、俺の前を守るように、部隊を整列させた。すると、サソリはアリたちの前で、急制動して立ち止まった。
思った通りだ。こいつの体格なら、このまま突っ込むだけで、アリたちを簡単に踏み潰せるはず。
だが、そうなれば、弱点である腹の下をアリたちに晒すことになる。それだけは絶対にしないだろうと、俺は踏んでいたのだ。
突進を邪魔されたサソリは、苛立たしげに尻尾を大きく振り上げた。進路を塞ぐアリたちを一気に薙ぎ払うつもりなのだろう。それもこれまでの行動からお見通しだ。
奴は尻尾の遠心力に負けないよう、足をしっかり踏ん張って、砂の上にベッタリと体を伏せている。
この時を、待ってたぜ!!
「やれ!!」
俺の号令で、砂の中に潜んでいたスナハンドたちが、鋭い短剣を一気に上へと突き上げた。
狙うのは、奴の体の中心。脳や神経、心臓などの中枢部が集まっていると思われる辺りだ。もちろん、サソリの心臓がどこにあるかなんてわからないから、当てずっぽうなんだけど。
関節の可動部の隙間に、短剣が深々と突き刺さる。サソリはたまらず、さっと体を跳ね上げた。思わぬ場所から弱点への痛烈な一撃を食らったことで、反射的に動いてしまったのだろう。
だが、それが命取り。俺の狙い通りだ。
「全軍突撃!」
俺が命令を下すと同時に、アリ太郎たちが素早く奴の腹の下に潜り込んだ。
彼らは関節の隙間に鋭い牙を突き立て、そこに直接、体液を噴射した。ジュウという音と共に、肉の焼ける嫌な匂いが立ち込める。
サソリは体を大きくびくんと痙攣させた後、アリたちを腹に食いつかせたまま、仰向けに倒れ込んで動かなくなった。
アリたちは、サソリの腹に群がって、瞬く間にその体を食い尽くし始めた。やがて、サソリの体は光の粒となって、溶けるように消えていった。
『魔獣の吸収が完了。1400DP及び以下の素材、スキルを獲得しました。』
『大サソリの甲殻×2』
『大サソリの麻痺毒×1』
『大サソリの毒腺×1』
『土の魔石(中)×1』
『スキル〈反射音探知〉』
『スキル〈麻痺毒注入〉』
『また、戦闘の結果、新たなスキルを獲得しました。』
『スキル〈短剣術〉』
戦闘結果が表示され、ナビさんの声が響いたことで、俺はようやく息を吐くことができた。あの大トカゲほどではないにしろ、こいつはかなりの強敵だった。
あいつのせいで、ちびアリ太郎たちは全滅させられてしまったし、アリ太郎軍団も半壊状態だ。
俺は残ったアリ太郎軍団を再編するため、部隊を整列させることにした。すると、目の前にいた隊長アリの一匹が、突然光を放ち始めた。
『砂漠大アリ・リーダーがジェネラルに進化しました。』
『迷宮レベルが上昇しました。迷宮領域設置上限が250エリアになりました。』
隊長アリの体はみるみる大きくなっていき、体長2m程の大きさに成長した。2本の巨大な角に加え、全身の殻に鉤爪のような鋭いトゲがいくつもできている。
他の隊長アリたちは、成長した隊長アリに従うように寄り添っている。こいつは、隊長たちを率いる役目を持っているるようだ。さしづめ、将軍アリといったところだろうか?
将軍アリは俺の側に来ると、こちらをじっと見上げた。すると、将軍アリから、言葉にならない強い忠誠と感謝の気持ちが伝わってきた。
ゲームのキャラに過ぎないとはいえ、ここまで一緒に死線をくぐり抜けてきた仲だ。
こうやって好意を向けてくれるのは、素直に嬉しい。よし、早速、将軍アリの配下たちを呼び出してやるとしよう!
俺はメニューアイコンを開いて、立方体を生み出した。そして、昇り始めた朝日の中、西に見える集落に向かう道を作り始めたのだった。
種族:迷宮核
名前:澤部十四郎
迷宮レベル:4
総DP:7874
獲得DP/日:1000
消費DP/日:3
【大サソリ】
種族:昆虫魔獣
属性:土属性
召喚コスト:1400DP
保有スキル:〈酸軽減〉〈反射音探知〉
〈麻痺毒注入〉〈土魔法軽減〉〈麻痺耐性〉〈毒耐性〉
砂漠に住む大サソリ。夜行性のため、昼間は砂の中に隠れていることが多い。あまり視力は良くないが、腹部及び側脚前部に特殊な触覚を持っており、地中の反射音を感じとることで、獲物の位置を正確に知ることができる。肉食であり、砂漠アリの卵及び幼生を特に好む。なお、大サソリの毒腺は、希少な香料の原材料として、非常に高値で取引されている。
【砂漠大アリ・ジェネラル】
種族:昆虫魔獣族
属性:土属性
召喚コスト:1200DP
保有スキル:〈鼓舞(中)〉〈溶解液噴射〉〈酸耐性〉〈熱耐性〉〈突撃〉
砂漠に住む社会性昆虫魔獣。ジェネラルは隊長アリの指揮階級であり、巣の防衛を担当している。共に行動する同族すべての士気・攻撃力・防御力・抵抗力を上昇させる能力を持つ。
お読みいただいて、ありがとうございました。




