第十一話 首相がやって来た
その日はぁ~爺は店の前で青空の下、大きなあくびをして「あ~暇じゃなぁ、景気も悪しいサラリーマンも懐が寂しいんじゃろーなぁ」と呟いていた。
その時であった店の前に黒塗りの高級車が止まった。後ろには更に数台が続き五台の車が店前に横付けとなった。そして三台目の車両の後部ドアから一人の紳士が降りてきた。
「どこかで見たことのある顔じゃなぁ」とはぁ~爺は思った。
付き人らしい男性がその紳士に駆け寄ると
「大泉首相、ここが巷で有名なけったいな爺がいるビックリ屋のようです」と伝えた。大泉首相は店の前に歩み寄り
「うーむ、なるほど、いかにも昭和の香りのだだよってくる懐かしい感じの店だな」とご満悦な様子である。
そして、そのまま店の中へ入っていった。慌てたはぁ~爺は、
「へへー、らっしゃいませ。天下の大泉首相がこんな店へなんの御用でしょう?」と投げかける。
すると首相からは思いもよらぬ言葉が。
「ちまたで有名な店なので一度来てみたかったのです。特に奇妙なおじいさんがいると聞きました。もしかしてあなたですか?」
これを受け、はぁ~爺は思わず「はぁ~~~?」と返してしまった。あっヤバい首相に向かって「はぁ~」はないよなぁと気付き、慌てて「はい、わたくしがこの店の主であり店員でもあります」と言い直した。
「噂通りの風貌ですねぇ、なんとも『こなき爺』のようじゃないですか」と首相は応じた。「ところで、この店は庶民の味方でもあるが、富裕層もターゲットにしていると聞いています。何かお勧めメニューを紹介してください」
はぁ~爺は有頂天になり「かしこー」と言いながら、店内のメニューへ手を向けた。
「コロッケ定食が50円、さんま焼き定食が80円、カツカレーが100円でござります」そして、反対側のメニューへ手をかざし
「一方、こちらは高級メニューでして、大マグロ定食が5万円、ステーキ定食が8万円、フォアグラ丼が10万円となってございます」
これには流石の首相も度肝をくらい
「な、な、なんともユニークなメニュー構成ですね、選択に迷いますな」と言いながら腕組みをする。
「まぁ、庶民の味から、高級料理までなんなりとご堪能くだいませ」とはぁ~爺が催促する。
「では、魚料理と肉料理を頂くことにしよー」「さんま焼き定食、そしてステーキ定食をオーダーします」と首相が言う。
「ははー、かしこまりました」とはぁ~爺が、厨房へオーダーを繋げた。
全国津々浦々いろんな場所を訪問してきた大泉首相もこのような店は初めての様子で、店内をジロジロ眺めている。
「オリナミンCのポスター、きんちょうアースの香取線香、そして棚に並んでいるラムネの瓶など、ほんとレトロだ。これは素晴らしい」と満足気な表情をしている。
お茶を運んできたはぁ~爺に語り掛ける「あなたは、ゲゲゲの鬼太郎に出演していたのですか?」
「めっそうもありません、私はたんなる食堂の主でございます」
「そーですか、巷の噂では、過去に芸能界を経験しているとの話もありましたので」
「はぁ~~~」ついつい、いつもの癖で発してしまったはぁ~爺は慌てて言い直す。「たしかに私のことを『こなき爺』に似ているという人がいますが、けっして妖怪ではありませぬ」
しばらくすると厨房から「さんま焼きあがりー」と声がし、はぁ~爺が料理を首相のテーブルに運んできた。
首相は早速さんま焼きを口へ運ぶと「うまい」と一言。
そして「これこそが庶民の味だ」と続けた。
美味しそうにさんま焼き定食を味わっていると、また厨房から「ステーキ定食あがりー」の声がする。
テーブルに運ばれてきたステーキ定食を見て首相が言う。
「これはどこの牛肉ですか?」
「そりゃもう松坂牛です。黒毛和牛でございます」とはぁ~爺が自慢げに応じる。
ナイフで切り込みフォークで口へ運ぶ首相。
「うまい」とまた一言を発した。「これぞ高級感のある食感だ」
はぁ~爺はご機嫌になり「さすが首相、お目が高い、というかお口がこえていますね」と伝えた。
食事を終えた首相から「今日はいい物を頂きましたし、貴重な経験もできました。ありがとー」とはぁ~爺へ告げられた。
「とんでもございません、首相のお口に合ったようで感無量でございまする」嬉しさの頂点に達したはぁ~爺は、へんてこりんな言葉で応じた。
満足気な表情でテーブルを立った首相に向かい「記念のお写真をお願いぞんじまつる」とはぁ~爺が申し入れる。大泉首相はそれを快く受け、ツーショット写真が撮られた。
最後に首相ははぁ~爺に向かい
「庶民を大切に、そして美味しい料理を続けてください」と告げ車へ戻り、びっくり屋を後にしていった。
さすがのはぁ~爺も、緊張の連続で首相を見送った後は、店の前にしゃがみ込んでしまっていた。
翌日の新聞には、首相の行動履歴として『12:30~13:30 びっくり屋で昼食』と記されていた。




