This is the Zodiac speaking 弐
プロメテウスの灯火の会場までは十蔵さんに車で送って貰うことになった。
「依頼主のその少女は会場に着いたら大時計の前で待っていて欲しいと言っていた」
「大時計?」
「会場である瓊筵館のシンボルみたいですね」
リンクルが2人に写真をみせる。どうやらホールに大時計があるようだ。大時計はとても精巧な作りだ。
「へぇ〜すごいな」
「うん!すごく綺麗!」
瓊筵館の内装に心を踊らせる2人にスマホを預けてリンクルは考えた。
あの少女はどうして一緒に行ってくれる人を探してるんでしょうか?やはり1人だと目立つからでしょうか?
それに招待状を3枚持っていたことも気になるところですね。もし少女が変命者殺しの仲間で、僕らをおびき寄せるための罠だったとしたら……。
いくらパラティシリィが居るとはいえ、あまり3人で行動はしない方が良さそうですね、稀梨華ちゃんはエルピーダを今使うと危険ですし、朝火も変命者殺しには太刀打ちできないでしょうから。
すると車が停まった。どうやら会場の瓊筵館に着いたようだ。レッドカーペットが敷かれている。
「おっ、レッドカーペット!」
「すごい!本格的!」
十蔵が咳払いをした。
「2人とも、いくらパラティシリィが居るからと油断してはならないぞ」
「それと朝火、その口調はやめろ。変装がバレる」
十蔵が呆れたような面白がっているような声で言う。久しぶりの平和な日常に稀梨華も自然と口角が上がった。
「なっ、わーったよ。車でたら大人しくする」
「よろしい」
「リンクル、2人を頼んだ」
「もちろんですよ」
車のドアが空いた。リンクルが先に出て、次に稀梨華が出る。
「エスコートするよ、朝火」
手を差し出した。一見すれば紳士的、だが稀梨華は今にも吹き出しそうで声が震えてる。
「別にいらねーよ!」
小声で叫ぶが、ここでエスコートを断ったら変な目で見られるかもしれないと思い、結局稀梨華の手に自分の手を重ねる。
「2人とも早く行きますよ」
「はーい」
会場に入るとまず目に入ったのは豪華な豪華なロビーだった。そこの受付で招待状を見せるのだろう。
「うわっ見て。あの女の人、全身ハイブラなんだけど」
「あっちの男もすごいぞ、あの腕時計とか絶対億超だろ」
「やはり世界中の資産家達が集まるだけあって、上流階級の人が多いみたいですね」
ロビーにはハイブランドの新作のバッグや、大きなダイヤモンドが沢山ついたネックレスを付けている人や、高級腕時計、ハイブランドの靴を身につけた人が沢山いる。
「うわぁ……私あの人達に勝ってる?イケメン?」
「様になってるとは思いますよ。スーツも安物ではないですし」
「あぁ。それにその指輪」
「あぁ、これね」
指輪と言うのは東京の災厄の件で助けて貰った男の人に貰ったものだ。エルピーダが込められているようで、これのおかげで死ななかった。
でも、最初はブラックダイヤだったのに力を使い果たしたからか、ひと段落着いて改めて見た時には透明でダイヤモンドみたいになっていた。
「にしても凄いよなそれ。それも絶対1億くらいの価値あるぞ」
「うん、でもなんで色が変わるんだろ?」
黒い時も特別感があって好きだったけど、こっちの透明な方は太陽の光を当てるときらきらひかるから気に入ってる。
「むしろ本来の姿がこれなのかもしれませんよ」
「本来の姿?」
「どういう事だ?」
「仮説ですけど、元々ダイヤモンドだった指輪に闇のエルピーダの力を込めて黒くしていたとか」
「なるほどな〜」
「たしかに……」
改めて指輪を見る。こんなに高価なものを知らない人に渡すくらいだからお金持ちな人なんだろうし、もしかしたらここに居るかもって思ったけどそれらしい人は居ないんだよね。
そもそもローブで顔もわかんないし、身長と声ぐらいしか判断要素がないな。
「とりあえず受付に行きましょうか」
「あぁ、ほかの招待客も続々来てるしな」
「混んだら嫌だもんね」
受付に行って招待状を見せて身体検査を受けた。
「はい、承りました。あと本会場では各お客様に控え室がございますのでご活用ください」
鍵を渡し丁寧にお辞儀をする。
大時計に行く途中にその控え室があるらしいので、早速その控え室とやらに行ってみることにした。
「それにしてもどこもかしこも豪華だよな」
「ね!ロビーにあったシャンデリアとかどのくらいするだろ?」
「そうですね、これだけの資産家たちが集まる会場ですからそれなりの……ストップ」
曲がり角に差し掛かったところでリンクルが手で2人を制する。
「え?」
「どうしたんだよ?」
リンクルは振り返って目線を曲がり角の奥の方に向ける。その声には聞き覚えがあった。
「はぁ……正装には慣れねぇな」
「隊長はそういう襟の詰まった服、苦手ですもんね〜」
パラティシリィの皇とその部下の姫野だ。皇は稀梨華とリンクルと朝火の事をよく知っているだろう。そして姫野は稀梨華とリンクルに会っている。
変装と言っても稀梨華とリンクルは服装と髪型を変えて、朝火はウィッグの違和感を無くすために元の髪色に近いウィッグを被って服装とメイクをしただけだ。
イロアスは警察とも連携しているし、警察で習うような事も一通り習うためバレる可能性はある。
「げっ……まじかよ」
「どうする?1回戻る?」
「そうしたいですが、依頼人の少女との待ち合わせもありますし……」
「なんか演技でもする?」
「この構成でなにか出来ますかね」
ポニーテールの燕尾服の男と赤髪の女と外国のお坊ちゃまのような少年。
「うーん……」
「もうそのまま走って突っ切るか?」
「そのピンヒールで走れるならいいんですけどね」
「うぐっ……」
痛いところをつかれた。しかし皇と姫野の声は近づいてくる。
「やばい、こっち来るけど!?」
周りには何も無い。来た道を戻るのが最前か……。
「やっぱり戻りましょ……」
リンクルが言いかけた時、突然全てのシャンデリアの灯りが落ちた。
「なっ!?」
「停電!?」
するとリンクルが2人の手を掴んだ。
「慌てないで、じっとしていてください」
リンクルの声に2人はうなづいて電気が復旧するのを待つ。
「もしかしたら奴が来たのかもしれません」
リンクルの声が強ばった。
「奴ってゾディアックか?」
「てか、そもそもゾディアックって何なの?」
「記者会見では犯行予告があったとしか言われてませんし、詳細は分かりませんね……」
しばらく待ってみるが電気は普及しない。皇達の声も聞こえないことから、あっちも様子見をしてるんだろう。
「…… なぁ、正直に言って皇さん達と合流するか?」
「ゾディアックがすげー怖い殺人犯とかだったらどうすんだよ」
「ちょっと朝火!怖いこと言わないでよ」
「悪かったって、でもマジでそうなるかもしんねぇだろ?」
小声で言い合う二人の周りを警戒しながらリンクルは考える。
まだ電気が復旧しない状況を考えると何かが起きているのは明白ですね。それにゾディアックが何者か分からない以上もう少し安全なところに逃げたいところだ。
ここは周りに何もないし、稀梨華ちゃんはエルピーダ枯渇症でエルピーダが使えない。パラティシリィである皇達と行動を共にするのが最善か。
「2人と合流しましょうか」
「だな」
「やっぱりそっちの方が安全だよね」
すると朝火と稀梨華の手を誰かが掴んだ。そして思いっきり引っ張られて走らされる。
「なにっ!?」
「うおっ!?」
走らされる直前で朝火がリンクルの手を掴み、引っ張られ走り出す。
「なんですか朝火」
「俺じゃなくて誰かに手掴まれてんだよ!」
「ね、ねぇ貴方どこに向かってるの?」
腕を引っ張っている誰かに声をかけるが返事は帰ってこない。会場を熟知しているのか真っ暗な空間を迷いなく走り続けること数分、ついに外に出た。どうやら裏口のようだ。
「はぁっ、はぁっ、疲れたー」
「俺もだぜ、ヒールで走るってきっついな」
演技所では無くなった。リンクルは二人の前に出る。雲が流れて月明かりが3人をここまで連れて来た人物の姿が見えてきた。リンクルが細めていた目を開く。
「貴方はもしかして……」
月明かりに照らされた人物は金髪の小柄な少女だった。走ったからか息が上がっていて苦しそうだ。
「もしかして依頼主の?」
「大丈夫か?フラついてっけど……」
少女はこちらへ歩いたと思いきやすぐに膝を着いて地面に倒れ込んでしまった。
「おい、どうした!?」
真っ先に朝火が少女に駆け寄り、2人は後に続く。
「何か持病でもありますか?」
「水持ってるけど、飲めるかな?」
「……大丈夫です、私は平気なんです、でも」
少女は弱々しく呟き、朝火のドレスの裾を掴み顔を上げた。その顔色は青白く汗も滲んでいてとても平気には見えない。少女は大きく空気を吸い込んで声が裏返るくらい叫んだ。
「お兄ちゃんを助けてください!私たち騙されて、それでお兄ちゃんが……!」
少女の言葉に3人は目を合わせる。どうやら依頼主の少女はこの少女のことらしい。
「大丈夫だ、落ち着いて話してくれ」
少女は朝火のことばに頷き、落ち着いて息を整えている。その時静寂を切り裂くように12時を告げる大時計の鐘の音が鳴り響いた。
すると落ち着きつつあった少女の呼吸が悪化し過呼吸を起こす。まるで何かに追われるように。
「どうしたの?大丈夫?」
少女の背中を稀梨華が優しく摩る。
「朝火、いつでも救急車を呼べるように……」
「ダメです!」
急に少女が叫び3人とも驚いて動きを止める。
「ダメなんです……お兄ちゃんを止めてください!止められるのは3人しかいないの!」
少女の叫びが夜に溶けた瞬間、後ろにある瓊筵館の大ホールが爆音と共に大きく爆ぜた。
「なっ!?」
「っ……」
爆風で吹き飛ばされそうになるのを何とか耐えた。
「っ……もしかしてゾディアックが!」
「中の人達は無事なのか!?」
リンクルは静かに少女の方に振り返った。
「止めて欲しいのはゾディアックの事ですか?」
「えっ?」
「嘘だろ……まさかこの子のお兄さんがゾディアック……?」
少女は小さく頷いた。
「でも、お兄ちゃんは良い人なの!お兄ちゃんをゾディアックにした人がいるの!」
「そんな、じゃあ黒幕がまだいるんだね」
「そうですね、ひとまずここを離れましょう」
「あぁ、作戦会議だな」
朝火はヒールの角を折って走りやすくする。
「え、ほんとに助けてくれるの?」
少女が俯き気味だった顔を上げて驚いた様に聞いた。すると3人は目を合わせて軽く笑った。
「あぁ、俺たちに任せろ!」
「私たち結構強いんだよ!」
「知り合いにも結構頼りになる人が居ますしね」
それを聞いて少女は安心したように微笑む。
「ありがとうございます!」
4人は瓊筵館から離れた。
同刻、瓊筵館では……
燃え盛る大ホールの中で仮面をつけた男が慌てふためる人々を見下ろしていた。男は瓊筵館の大ホールの目玉であるステンドグラスを背に館内放送をジャックした。
「Ladies and gentlemen!」
「"This is the Zodiac speaking"」
男は不敵に笑った。




