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2800年後のあなたへ  作者: 執筆の管理人
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This is the Zodiac speaking 参

瓊筵館の大ホールから少し離れたところにある大きな庭園の隅の方にあった東屋に4人は身を寄せていた。


「ひとまずここにいましょう」


「あぁ、そうだな」


「うん……」


本当は瓊筵館の外に出たかったが招待客を逃がさないためか瓊筵館を囲むように火の手が回っていた。そしてどういうわけだか消火活動に来る消防隊や怪我人を搬送する救急車も来ない。


「それでは依頼の詳細を聞きましょうか」


少女は頷きぽつぽつと話し始めた。3人は黙って少女の声に耳を傾けている。


「はい……まず私は結城華子(ゆいしろはなこ)です、年は9歳です」


「両親は……私が生まれてすぐ蒸発して、ずっと年の離れた兄と一緒でした」


「兄は……すごく頭が良くて、お医者さんなんです!あと、面倒見が良くて……自慢の兄なんです」


「でも、私が夏祭りの花火が見たいって言って、でもお兄ちゃんは忙しいから、写真を撮ってお兄ちゃんに見せようと思って……近所の子達と一緒にお祭りに行きました」


「何かあっても足はとっても速いから逃げれば大丈夫だと思ってました……」


「でも……待ち合わせ場所に行く前に誰かに攫われたんです、その後のことはよく覚えてなくて、目が覚めたら……重度のエルピーダ枯渇症になってました」


これには黙っていた3人も突っ込まずにはいられなかった。


「攫われた!?」


「エルピーダ枯渇症!?」


「重度のエルピーダ枯渇症なら病院から出れない程だと思いますが……」


華子はこくりと頷いて続けた。


「そうです、私はその日からずっと入院生活でした」


「でも治療法もなくて、そんな時兄が私を治してくれるかもしれない人が居るって言ったんです、でもその人は闇医者で地下病院に勤務してるらしくてエルピーダ枯渇症の未承認の薬があるって」


闇医者と未承認の薬という言葉にリンクルの目が鋭くなる。



「でも、私とお兄ちゃんはこれで治るならって賭けて、お兄ちゃんは医者をやめて私を地下病院に連れて行ってくれました」


そう言うと言葉が詰まったのか、続きの言葉は暫く出てこなくて、代わりに小さな手が力強く握りしめらた。


「ゆっくりでいいんだぞ」


朝火が華子の背中を優しくさすり、稀梨華はうんうんと頷き、リンクルは情報を分析する。


華子の再び手が開かれた時手のひらに赤い三日月が作られていた。


「でも、でもそれがダメで、あいつのせいで……私のせいでお兄ちゃんはゾディアックに仕立てられあげたの!」


「治療なんて嘘なんだ!わたし見ちゃったんです、あいつは本物の殺人鬼で、地下病院で私を……エルピーダ枯渇症の人達を集めて人体実験してる!」


「人体実験だって!?」


朝火がさすっていた手を止めて、驚いた声を出す。


「そんな……」


人体実験……この言葉を聞くと自分の過去を思い出す、私も人体実験の被験者なんだ。


「華子さん、そいつの目的がなにか分かったりしますか?」


リンクルがかがみ、座っている華子と目線を合わせる。怯えさせないように。


華子は頷いたが言葉が出ない、涙に透明な膜が張ってきて、今にも決壊しそうだった。


「無理なら……」


リンクルが言いかけると、華子は声を震わせ泣きそうなのを堪えて、自分を落ち着かせるように大きく息を吸って吐いた。


「大丈夫です、言えます、言わなくちゃ……」


「あいつの目的は人をエクロス化させることです」


その言葉が華子から発せられた瞬間、3人の呼吸が止まった。


「……え?人を……エクロスに?」


最初に反応したのは稀梨華だった。


「そんな非人道的な事が……」


続いてリンクル、そして朝火が膝をついて倒れた。口元を手で覆っていて顔面は蒼白。


「朝火!?」


稀梨華が驚き駆け寄る、リンクルは華子のそばを離れずに冷静に言葉をかけるが温かみと同情が混じっている。


「トリビアさんのこと、思い出したんですね」


その言葉にハッとした。少し前に語られた朝火の過去の一部分。


「……あぁ」


その声はいつもの元気さがなく、悲しみと怒りが凝縮されていた。


「朝火お兄さん……?具合悪いですか?」


華子が心配そうに声をかけた。



「……大丈夫だ、ただ……俺昔犬飼ったんだ、トリビアって名前の」


「俺の相棒で俺の光だった、でも……突然変異でエクロス化しちまって……」


声はいつもの半分もいかないボリュームだった。


「……トリビアは1億歩譲ってしょうがなかったにしてもそれが人為的に行われてるって事だろ!?しかもやっと治るかもしれねぇって、

やっと見えた希望を持った華子ちゃん達に!」


小さかった声は段々と感情がこもり最後は爆発し、叫ぶように怒ったように声を荒らげた。


「朝火……」


すると華子が立ち上がり、崩れ落ちた朝火の事をぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう……怒ってくれて」


華子の大きな目から涙が零れ、声は震え掠れている。


稀梨華の手にも華子とお揃いの三日月が作られる、胸が張り裂けそうになった。自分も軽度とはいえエルピーダ枯渇症である。エルピーダ枯渇症には華子ちゃんが言ったように治療法なく対処療法で、重症なら死ぬか、エクロスになって死に至る病。


やっと見えた希望、本当にその通りだ、本当にその通りなら良かったのに、結果は人体実験、しかも死にたくなくて、エクロスになりたくなくて来たのに、治療じゃなくてエクロスになるための実験を受けるなんて……。



「華子ちゃん、君もその実験の被験者なら……」


朝火が掠れた声を出した。


「そうです、私はもう大量のエクロス化の薬を打たれてます……もう、長くないです」


その言葉がさらに場の空気を暗くさせた。


「……クソが」


朝火が悪態をつく。彼の過去を考えれば無理もないだろう。


華子は稀梨華とリンクルに向き直った。そして静かに言葉を紡いでいく。


「お兄ちゃんはその事を早くに知ってしまったんです」


「でも、私は気づくのが遅すぎました。あいつはお兄ちゃんにゾディアックになって瓊筵館を襲わせ、その対価に私を解放すると取引を持ちかけていました。その時です、偶然聞いてしまって私は真実を知ったんです」


「運の悪いことにそれがあいつにバレてしまって、濃度の濃い薬を打たれました、皮肉なことにあいつが打つ薬は最初はエルピーダ枯渇症を改善させるんですよ、でもそれは一瞬ですぐに寝たきりになる」


そこまで言うと華子は稀梨華、リンクル、そして最後に朝火を見て頭を下げた。


「貴方達のことはあいつが電話をしている時に聞いて、こっそりデータベースに忍び込んで調べさせてもらいました、あの災厄を解決に導いたって!」


「どうかお兄ちゃんを助けてください!私はお兄ちゃんには幸せになって欲しい、ゾディアックになんてなって欲しくないんです!」


服の裾を掴む手に力が入る。


急にこんなこと言っても……朝火お兄ちゃん達を困らせちゃうよね、だって相手は……あんなに恐ろしい人なんだし……断られても当然……。


握りしめられた手にふと温かみを感じだ、顔をあげると朝火お兄ちゃんが手を添えている。


「大丈夫だ、俺たちが助ける」


「うん!絶対悲しい結末になんてさせない!」


「そうですね、僕達はパラティシリィに顔見知りもいますし、最新の治療を受ければそのエクロス化もとめられるかもしれません」


それを聞くと華子は表情をぱっと明るくさせて涙ながらに笑った。


「ありがとうございます……!」


その笑顔を見て3人も安堵した表情を見せた。


「では作戦会議としましょう」


「辛い話にはなりますが話を聞く限り、いつエクロス化してもおかしくない状況なんですよね」


「はい……あの、…… もし私がエクロスになってしまったら、なるべくお兄ちゃんの目に入らない所で殺して欲しいんです」


その言葉にまた3人の呼吸が止まった、こんな小さな子供が言う言葉では無い。


「そんなこと……」


「そんな事絶対させねぇよ!」


「朝火……」


「……」


稀梨華が言いかけた時朝火が叫んだ、リンクルは様子を冷静に眺めているが目の奥に怒りが見える。


「俺たちが絶対そんな事させねぇし、そんなこと言えないくらい幸せな人生にしてやるよ!」


「……え?ほんと?」


「うん、私たちに任せて!ね?リンクル!」


僕にも話を振るんですか、という顔をした後肩を竦めて言った。


「そうですね 、僕達に任せて下さい」


「っ……ありがとうございます!」


それから作戦会議を続けたが館内の状況が分からない以上勝手な事をする訳には行かない。


「でもプロメテウスの灯火にはパラティシリィが呼ばれてるんだろ?」


「そうだよね、でも戦闘音は聞こえないし……」


「ものすごく静か……ですよね」


あの大きな爆発の後から戦闘を感じさせるような音は聞こえてきていない。


「人質とか?」


「そうですね、しかしパラティシリィなら一瞬で制圧できる気がしますが……」


あまりいい作戦は思い浮かばなかった。



パラティシリィとイロアスの上位隊員が呼ばれているからイロアス本部とも連絡は取れているはずだし……。


でもそれにしては増援が来る気配もない、瓊筵館は周りに何も建物がない場所にあるから人目に付きにくいと言ってもあれだけ大きな爆発ならネットでも何か呟きがありそうだけど……。


「ネットにもそれらしき上がってないですね」


「じいちゃんに聞いてみたけど日本支部イロアスも慌てた様子は特にないらしい」


「と言うことは……外部に連絡が取れてない?」


「もしくは取れない状況にあるのか……」


瓊筵館は相変わらず燃えているし、その周りにも延焼は広まっている。今は安全とはいえこのままここに居ては4人も危ない。


「やっぱ通報するか?」


「でも通報したら人質を殺すとかだったらどうしよう……」


「それはそうなんだよなぁ」


「リンクルはどう思う?」


「そうですね……」


確かに通報したら人質を殺すと脅している可能性はある、下手に動くのは危険ですがこのままここにいても事態は良くならない。


「あくまで様子見という体で行きましょうか」


「華子さんは僕たちから離れずに稀梨華ちゃんはエルピーダを使わないように。何か起きたら僕と朝火で対処します」


「任せとけ!」


リンクルが頷く。


「瓊筵館にはいくつか裏口があります、爆発が起きたのは大ホールなのでそこから離れた旧館の裏口から行きます」


「皆さん準備はいいですか?」


「もちろん!」/「おう!」


「皆さんの足を引っ張らないように頑張ります!」


4人は旧館に向かって急いだ。



同刻 瓊筵館大ホール ──────



爆発で外壁は崩れ落ちているが中はそれほどでも無かった。招待客の人々の腕には同じ腕輪がつけられていて、心拍表示と真ん中の装飾にタイマーのように時間が表示されている。時間は24時間ちょうど、そこから進む事も戻ることもなく、とまっている。


ホールの真ん中には黒いマントに黒のシルクハット、手には近未来型の銃が2丁。ゾディアックだ。


「お集まり頂き感謝します。紳士淑女の皆様」


「僭越ながら私からささやかなプレゼントを皆様に配らせていただきました」


「僕は美しいものが好きでね、中でも優雅なダンスは素晴らしい!」


「そこで」


ゾディアックが指を鳴らすとどこからともなくエクロスがあられた。その数およそ30体。人型のエクロスで稀に幼児程度の知能が現れる。当然招待客は叫び逃げ惑う。イロアスの上位隊員やその上のパラティシリィは臨戦態勢になるが。


「shut up!」


ゾディアックが叫ぶとシンと静かになる。


「彼らは監視役です。皆さんが楽しめるようにゲームを用意しました」


「ルールは簡単、その腕輪に表示されている心拍が130(過緊張ライン)を超えた場合腕輪が爆発します」


招待客が恐怖で息を飲んだ。


「あぁ、まだありますよ。」


ゾディアックがもう一度指を鳴らすと優雅な音楽が流れ出す。


「その腕輪にはバイオセンサーも埋め込まれていて静止している状態でも爆発します」


「そして最後に!エルピーダ感知センサーも搭載されていてエルピーダを使った場合も爆発します」


招待客達は完全に萎縮し、泣き叫ぶ者、絶望する者、怒鳴る者など沢山だ。


「さぁそろそろゲームの開幕だ!」


ゾディアックがカウントダウンを始める。



「面倒な事になったな、白瀬」


「うん、厄介だよこれは」


パラティシリィにして第二機動隊隊長の皇と第零機動隊隊長の白瀬が端の方で話していた。


2人の腕にもあの腕輪がはめられている。

その腕輪を白瀬が睨む。


「僕たちだけならまだしも、招待客が全員人質になるのは厳しいね」


「あぁ、電波もやられて増援も期待できない」


「……後はあいつらに賭けるか」


「あいつら?」


「嬢ちゃんたちだよ。誰かに外に連れ出されたみたいだがここに来てた」


「あ〜イロアス襲撃トリオの事か」


「なんで嬉しそうなんだ。まずいだろ、嬢ちゃんは樹の娘だろ」


呆れたように白瀬を見る皇、緊張感がないのはいつもの事だった。


「そうだけど、あの3人には期待してるんだ。特に稀梨華ちゃんは奇跡を呼ぶ力があるよ」


「ほう、あの子にそんな力があったとは」


横から現れたのは紫髪の日本刀を携えた男。

パラティシリィであり第六機動隊隊長の雷門。


「雷門、そういえば稀梨華ちゃんとリンクルに分身消されたんだっけ〜」


面白いネタを見つけたとばかりに口角が上がる。


「貴方は本当に緊張感がない。もうそろそろカウントダウンが終わりますよ」


カウントダウンは10秒前を切った。


「とりあえず俺は姫野と観察しながら踊る。お前らは二人で踊ってろ」


皇は自分の部下であり、第二機動隊副隊長の姫野と合流した。


「では僕も副隊長と、貴方とダンスは気が向かないので」


そう言って雷門も行ってしまった。そこへ息を切らして走ってきた青みがかった黒髪を揺らした少女。稀梨華の親友でありイロアスの少尉。


「あ、久しぶりだね。雫少尉」


「白瀬隊長……あの、さっき稀梨華って」


カウントダウンは残り3秒前。雫の手を取る。


「踊りながら話そうか」


「……はい」



全滅まで残り 23:59:59


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