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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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番外編⑧  ブラックスターズ狂⑥

『やりました太刀川、プロ入り初のサヨナラホームラン!自身の完投勝利アシストにもなりました!』


『あと一つのアウトがとれなかったペンギンズ、やはり歩かせるべきでしたね』


 試合はブラックスターズの土壇場での逆転劇、3ー2で決着した。そのホームランボールを手にしながら、星菜と真凛も勝利の歌に加わっていた。


「あなた……さっきのキャッチ………もしかして経験者だった?」


「バレましたか。でも中学までですけどね。だから野球については知っていたんですが……先輩がいろいろ教えてくれるのを聞きたくて黙ってました。楽しそうに話している顔も見たかったもので……」


 道理でしっかりした理論があったわけだ、と星菜は納得した。まあブラックスターズの選手についてほとんど知らなかったのは確からしいので、昨日の説明も無駄ではないだろう。



「さて、ブラックスターズは勝ちました。明日から……楽しみですね」


「あっ!そ、そうだった……!どうしたものかしら………」


「私の家ならハマスタに近いって喜んでたじゃないですか。引っ越してきてくださいよ。実はすでにこんなものも………」


「……え……?ああああっ!?」


 星菜は腰を抜かしそうになった。真凛が鞄から取り出したのは婚姻届、しかも星菜の書くべき箇所以外は証人の欄以外全て埋まっていた。


「最後に先輩は認めたはずです、この試合に勝ったら………」


「い、いや、そうだけど……いつから?」



 用意周到、ずっとチャンスを伺っていたであろう真凛の凄さに驚くしかなかった。こうなると全てが計算通りだったのではないかと疑ってしまう。結果的にギリギリの勝利になったとはいえ、太刀川の登板試合が勝率の高いことを理解していたのだから、この日を目標に様々な出来事をコントロールしていたと。


(太刀川と桶川の投げ合い……まず勝てる試合。逆に昨日は試合前から厳しいかもって雰囲気だった。その後私を怒らせて自分を襲わせることで一歩も引けない賭けに持ち込んだのだとしたら……!?)


 星菜がいろいろと考えていたところで、球場のスタッフが近づいてきた。普段あれだけ騒いでもスルーされているのに何の用なのかと思ったが、もしかしたらアレか、という理由があった。



「突然すいません、ただいまのホームランボールを持っていますか?」


「ええ……ここに」


 太刀川みちのホームランボールはなぜか100パーセント回収される。本人が望んでいるのか、球団がそうしているのかは明らかになっていないが、なぜか代わりにもらえるのは本人ではなく木谷をはじめとした人気者のサイン入り使用済みグッズ。それなら喜んで交換だと星菜は渡そうとした。ところが、


「もしこの後お時間よろしければ、なのですが、選手へのボールの引き渡しを直接していただくことはできますか?」


「………へ?」


 こんな話は聞いたことがない。超大物ルーキーのプロ初ホームランや、個人または球団、リーグ通算○○号のホームラン、何かの新記録……そういうことならわかる。



「……まさかとんでもない記録のホームランだったとか!?は、はい!できますとも」


「……………」


 真凛としては記念の日に自らが掴んだボール、結婚指輪のごとく生涯の宝にしようと考えていただけに、そのまま持って帰りたかった。しかし選手に会えるというのならさらなるドラマが始まりそうで、承諾した。




「太刀川みちの初サヨナラホームラン………今後は珍しくもなくなるでしょうが偉大なる歴史の第一歩、これは大勢の人々が知るべき事柄です」


 スポーツ新聞の記者やカメラマンもいた。どうやらこのホームランを世間に注目させるためにこうしてボールを手に入れた客をわざわざ呼んだらしい。


「球団の幹部や職員ではなくなぜ木谷が説明しているのでしょうか……?」


「さあ……さっぱりわからないわ」


 主役であるはずの太刀川は照れくさそうに棒立ちしているだけで、無関係なはずの木谷が話し続けている。星菜たちだけでなく記者たちも意味がわからずどう質問したらいいかわからずにいた。



「そういえばホームランのシーズン新記録が出たときに選手とファンが写真を撮っていたな。選手は回収したボールを、ファンはサイン入りバットを持って………」


「敵チームのファンだったけどな」


 それをやろうというわけだ。しかし結局のところ、太刀川が初めてサヨナラホームランを打った、それ以外の理由はなく、ここまで騒ぐこともないのに、と心のなかで皆が思う。



「では、まずはユニフォームにサインを」


 星菜と真凛、それぞれのユニフォームに太刀川が直接サインを書く。星菜は木谷のユニフォームなのに太刀川のサインが書かれたので、


「……あの〜……こちらの女性は木谷選手のファンなのでは?木谷選手のサインも添えたら喜ばれるかと………」


 記者が助け舟を出した。星菜もすぐに、


「お……お願いしましゅ!」


 緊張しながらもリクエストできた。それに対し、木谷は不思議そうな顔をしていた。


「……?構いませんが、私なんかのサインが入ると価値は大暴落するのでは……?」


「い、いえ!そんなことありません!」


 もしここで、木谷さんのサインのほうが嬉しいなどと言おうものなら木谷は不機嫌になっただろう。緊張のせいで言葉が少なくなったのが星菜にとっては幸いだった。


「それでは………」


 今度は星菜だけでなく太刀川のユニフォームを着た真凛のほうにまで木谷のサインが入ってしまったが、もう誰も何も指摘しなかった。



「後は今日の試合で使用したバッティング用の手袋などをお渡しして、写真撮影をしたいと思います」


 なぜか木谷の道具が渡されるよくわからない展開だったが、星菜は夢心地だった。明日からいろいろ大変になるがひとまずは夢に酔える。



「サイン……してもらえるんですか」


「ええ。太刀川みちの……希望があれば私も書かせていただきますが」


 すっかり油断しきっていた星菜は、真凛の暴走阻止が間に合わなかった。いや、誰がこんなことをすると予想できるだろうか………。



「では、これにお二人の名前を!」


「…………あ、アエエエ!?」


 真凛が取り出したのは婚姻届だった。おお、と記者たちから声が上がり、太刀川は口を開けながら目を丸くする。そして木谷は予想外の事態ながらも自分の望む方向に事が進んでいるのでニヤリと笑った。


「………素晴らしいです!お二人の新たな門出を祝う最高の祝砲を放った太刀川みち、その名を刻むにこれ以上ない書です!」


 後日印鑑が入った形で返送すると約束し、太刀川と木谷は名前を書いた。すっかり固まってしまった星菜にボールペンが渡された。


「……こっちが未記入ですが……名前だけでも」


 もはや逃げ場はない。自分の名を書くしかできることはなかった。そして婚姻届を手にして記念撮影になった。




(そういえばこの人………レズレイプしてやるわって叫んでる女の人だ。厚木星菜って名前なんだ)


(みち、私たちもいつか堂々と皆の前で誓いを明らかにしたい。しばらくは辛抱の日々が続くとはいえ、私たちの愛は変わらない)


(……そうだね。この人たちに負けないくらいの絆を築いていこう)






 太刀川みちの初サヨナラホームラン、普通ならスポーツ新聞だけのニュースだったはずが、ファンの婚姻届の証人になったという前代未聞の展開が話題になり、一般の新聞や朝の番組でも取り上げられた。太刀川が二人を結んだ天使だと表現する者も出てきて、その知名度や人気は一気にスポーツの枠を超えた。木谷都の計画以上の成果となった。



 そして有名人になったのは星菜たちも同じだ。会社の同僚たちどころか日本中、ネットニュースまで考慮するなら世界中に向けて自分たちの新たな関係を公表したからだ。


「これでもうレズレイプしてやるわなんて言えないねぇ。かわいいパートナーが隣りにいてそんなことは言えないでしょ」


「でもしょーもない試合を見せられたらプッツンするのは相変わらずなんでしょう?どうしてるの」


 新たなヤジはどんなものなのか、そもそも新婚なのに今までと変わらず球場に通い詰めるのはどうなんだという声に、星菜たちは答えた。  



「いや……これまでと変わらずレズレイプしてやるって騒ぐと思う。というかそれ以外不可能」


「………え?」


「……星菜さんの場合、レズレイプなんてどうせ口だけでほんとうにはできっこないって皆がわかっているから許されているんです。今は隣に私もいますから。ですがそれ以外の言葉だと厳重注意を受けてしまって………」



 スタジアムから名物絶叫が消え去ることはないようだ。ブラックスターズがある限り、彼女の命ある限り。

 太刀川みち (横浜ブラックスターズ選手)


 本編主人公。この一件で世間も彼女に注目し始めたが、本人は控えめで謙遜なのでまだまだ自分は不人気だと思っている。月替わり応援歌の5月は、前監督の選手時代の応援歌。目の前にいる敵を一撃で蹴散らす。


 

 木谷 都 (横浜ブラックスターズ選手)


 強引に事を進めた真凛の姿が自分と重なったが、熱い愛の証であり何の問題もないと信じて疑わない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レズレイプの人にスポットを当てた番外編、ラブコメ的にも最高に面白かったです!
[良い点] 後輩ちゃん策士w番外編面白かったです。レズレイプさんのおかげで、みっちゃんが全国区になるとは…。 [一言] 本編再開はいつ頃ですか?
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