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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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番外編⑥ ブラックスターズ狂④

「はい、ありがとうございます。では…」


 星菜と真凛はその日、普段通り出勤し普段通り勤務していた。昨晩に何があったか察する人間はいないだろう。


「明日プロレス見に行きたいからもし仕事が残ってたらお願いできるかな?」


「はい、その代わり……」


「わかってるって。今日まで横浜で試合があるんでしょ?今日はいいよ。あ~……早く明日にならないかな。グレート・オカンとメスプレイのタッグ、楽しみだなぁ〜………」


 女子プロレス好きの同僚との間で話がまとまり、星菜は今日も試合開始前にハマスタ到着をほぼ確実にした。そして真凛も、


「先輩、私も定時で上がれます」


 二日続けてハマスタに同行することになった。今日の試合は二人にとって特に重要な一戦だった。





「……申し訳ないっ!!いくらあなたがブラックスターズと私のブラックスターズ愛を侮辱したとはいえ……取り返しのつかないことを!」


「あはは、顔を上げてくださいよ。私が煽りすぎたのがいけないんですから。それにまあ……こうなるように仕向けたというか………」


 真凛がなぜか嬉しそうに話しているので星菜はひとまず安心したが、星菜はブラックスターズさえ絡まなければ真面目すぎる人間だ。後輩を襲ったことをひどく後悔し、自分を責めていた。


「責任は取る………しかし私なんかといっしょにいたらあなたは不幸になる。ブラックスターズに人生を捧げたこんな狂人……本来なら腹を斬って償わなければならない!」


「…………はい?」


「でも私はもう一度ブラックスターズの日本一を見るまではどうしても死ねない………そこで提案させてほしい。私の貯金300万円を謝罪のために支払い、会社もやめて二度とあなたに会わない、それで許してはもらえないかしら!?」


「………何でそうなるのかなあ」



 そうじゃないだろう、と真凛がその後いくら説得しても星菜は応じない。いつまでたっても話が進まず埒が明かないので、真凛は一つの賭けを申し出た。


「わかりました………それなら私たちの未来と運命、ブラックスターズに決めてもらいましょう」


「え?どうやって?」


 星菜の人生で第一の場所を占める、横浜ブラックスターズに全てを託すと言い出した。



「もしブラックスターズが勝ったら私たちは明日から同棲しましょう。互いに相手をよく思っているんですから、細かい不安や自責の念なんか忘れろってブラックスターズが背中を押してくれている、そう考えるんです」


「………も、もし負けたら?」


「終わりにしましょう。先輩のお金を受け取ります。ただし会社をやめるのは私のほうです。先輩への恋心も捨てるんですから新しい土地に行きたい…そのためのお金にします」



 星菜は迷った。こんなことで二人の一生に関わる選択を決めていいのか。もしチームが勝ったとして、自分とこれまで以上の仲になる真凛は果たしてほんとうに幸せなのか。将来激しく後悔するのではないか………しばらく悩んだ。


 しかしずっと黙っていても会社に遅刻するだけだ。星菜は意を決して首を縦に振った。


「わかった。そうしましょう」





 そして一日の仕事が終わり、二人は決戦の地へ向かった。星菜は最も期待を寄せる正捕手、木谷都のユニフォームを持参し、真凛は今日の先発投手でありチームのエースとなった太刀川みちのユニフォームを買ってその場で着ていた。


「太刀川………独特のセンスね」


「ダメですか?投手として8勝2敗、野手としてもすでに55打点、文句なきチームの中心だと書いてありましたよ」


「活躍しているうちはいいけどね………あんな小さい体じゃ真の一流にはなれない。華もないし……背が低くてもあなたみたいに美少女って言えるレベルならもっと人気も出そうだけど」


「………まったく先輩は、そういうことをサラリと言うからなぁ………」

 

 

 先発投手太刀川みちは昨日までは4番に座っていた。今日は投手のため9番になっているが打撃で手を抜いたりしないので打順が下がっても期待度は落ちなかった。 


「先週負けてるのよ、太刀川……そろそろボロが出てもおかしくないわ」


「そうでしょうか?エラー絡みの失点で自責は0、しかも打線の援護なく敗戦ですから悲観することはないでしょう」


「………ま、まあ確かに」


「ミルルトの先発は桶川、明らかにブラックスターズが有利ですよ」


 その後もぺらぺらとデータや相性の話をしたり、ブラックスターズの選手についても詳しくなっている真凛。まさか以前からプロ野球に詳しく、黙っていただけではないのかと聞いてみたところ、予想外の答えが返ってきた。



「いえ、仕事の時間に勉強しました。ブラックスターズの主力選手の背番号と守備位置は完璧に覚えました。応援歌もあと少しで10曲歌えます」


「………す、凄いわね。いつの間に……」


「将来結婚したときのためにいまからできることはしておかないと。調べてみるとブラックスターズにどんどん興味が湧いてきて、これなら二人共通の趣味を楽しめそうです」


「………………」


 趣味ではなく人生だ、と言い返すこともできなかった。真凛は本気だ。こうなったら試合に勝った場合、自分も覚悟を決めなければ……星菜はようやく決意した。



(チームが勝つべきなのか負けるべきなのか、なんて考えるのは初めてね。何も考えずいつものように応援しようかな)


 とりあえずいまは応援だ。せっかく球場に来たんだから余計な悩みは忘れよう……星菜は両の頬を叩いてから気持ちを切り替える。


(そう、私の人生にとってブラックスターズ以外は全ておまけだ!こんなことで応援を躊躇ってたまるか!)


 自分を奮い立たせ、ブラックスターズの勝利だけを願う。今日の先発太刀川みちは正直そこまで期待していない選手だった。長年のファンのくせに見る目がないことを証明してしまった存在なだけに、素直に応援できなかった。


「………そんなちっぽけなプライド……チームの勝利のためならいらない!」


 頑張れ頑張れ太刀川、応援団のコールに腹の底からの大声で加わった。隣を見ると、真凛も星菜に負けず劣らずの声援だった。




『打った―――っ!これは大きい!』


「あ?」 「はぁ?」



 初回表、その初球だった。ミルルトペンギンズの先頭打者、山本コウの流し打ったボールはそのままスッとレフトスタンドに吸い込まれた。内野安打の多い非力な打者だった。



「あ――――――!!だから太刀川なんて信用できないのよ!大した実績もないくせに大物ぶって雑魚相手に被弾する!何度繰り返すのよクソチビ!珍獣!まぬけカス!」


 いきなりのビハインドに星菜がプッツンした。周りもブーイングを飛ばしたり早くも泣き喚く客までいたりしたので悪目立ちはしていなかった。



「レズレイプしてやるわ――――――!!」



 ハマスタ名物となってしまった星菜の十八番が早々に響き渡る。いつものことかともはや慣れてしまった周囲の客や警備員は、今日は早いな、と思うだけだった。

 次回、ブラックスターズ狂編はひとまず最終回です。

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― 新着の感想 ―
[一言] レズレイプさん見る目ないな。意外だ。一点取られただけで、エースで4番に暴言吐きすぎ。ろくなファンじゃない。後輩ちゃんが彼女を変えるのかな?
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