第66話 2勝目
「うおおお―――――――――っ!!」
「うぐぁ……!」
大差がついた試合での敗戦処理。最初のイニングでいきなりホームランを打たれて立ち上がりこそ不安だったけど、その後は先発したゴーレムズ戦よりずっと楽だった。
『この回もジャガーズは三者凡退!なんと7球でスリーアウト!一発狙いのバットからはゴロとフライしか出ません!』
西宮打線から球を見る、繋いでランナーを溜めるという意識は消え失せていた。こんな点差なんだから好き勝手振り回しても許されるせいかな。
その間、わたしたちのほうはヤケにならずにコツコツと得点をを稼ぐ作戦で徐々に西宮に迫る。
『押し出しです!我慢して勝ち取った四球だ!』
『右打ち!前進守備をしていないジャガーズ、バックホームはしません。一塁アウトの間にランナーホームイン!』
みやこは中距離打者だし紀子さんももう40歳、どちらも本塁打王が狙えるホームランバッターとは呼べない。他の野手はもっとホームランが出ないから点差が開いてもみんな大振りにはならなかった。じわりと西宮を追い詰めた。
そして八回表、ついに……。
「いけえぇ〜〜〜〜えっ!!」
『あ―――!!センターもレフトも一歩も動けない!左中間への特大アーチはなんとスリーラン!太刀川の第1号は8ー8となる同点スリーランホームランになりました―――っ!』
「………やった!ついに振り出しに戻した!」
ネクストで見ていたときから、これは打てるかもという予感はあった。その通りになって嬉しさがあふれたけれど、打たれた相手のことを思えばガッツポーズは我慢だ。特にこの球場は悪名高い甲子園。無駄に刺激することは避けないと。
『最大7点差を追いつかれたジャガーズ、甲子園は荒れています!』
序盤で勝利確実、余裕を持って試合を眺めていたジャガーズファンのヤジが鳴り止まなかった。わたしのホームランボールをキャッチしたのもジャガーズのファンだったみたいで、
「こんなもんいるか!アホタレ―――っ!」
グラウンドに投げ返された。そのボールはすぐにわたしたちのベンチに届けられた。
「………回収する手間が省けた。運がある」
みやこは喜んでいた。わたしの活躍で気分がいいからなおさらのようだ。この回は同点までだった。
「おおおりゃあああ――――――!!」
「うあっ」 「きゃっ!」 「………!」
早打ちになっていたジャガーズはいざ追いつかれてから元のバッティングに戻そうとしても遅かった。今日のわたしは6イニングを投げてたったの65球、被安打はホームランを含む2、失点1。奪三振は少なかったぶん四死球なしだった。試合展開と相手に助けられた日だった。
打撃では2安打3打点。八回のホームランが打席に入る前から打てそうだなと思ったのはジャガーズの投手の調子が悪かったから。小刻みな継投で逃げ切ろうとしてきたけど、たくさんリリーフを使ったら一人か二人はコンディションが悪い投手がいる。だから一人で投げきれるロングリリーフは貴重だ。
『奈村紀子、フルスイングだ―――っ!打球は大きい!入るか、入るか、入った、入った、入った―――っ!!』
九回表、とうとう勝ち越した。となると抑えの川崎さんがマウンドに上がる。序盤の大敗ムードを考えると、まさか今日登板になるとは予想できなかったはず。それでもしっかり肩と心の準備を終えて登場した。今日は危なげなく三者凡退に仕留めた。
『ゲームセット!ブラックスターズ、敵地で大逆転勝利となりました―――っ!先発リッチは大誤算でしたが二番手の太刀川が流れを引き寄せるピッチング!最後は奈村紀子が決勝打を放ち、ジャガーズを破りました!太刀川が2勝目、セーブは………』
敵地甲子園だからお立ち台は一人だけ。となると紀子さんが選ばれるのは当然だった。信じられない敗北に激怒するジャガーズファンがスタンドの至るところで暴れていたり騒ぎながらゴミや応援グッズをグラウンドに投げ捨てる異様な空気、ベテランの紀子さんだからこそ平然とインタビューを受けられる。
『年俸500万円での契約、早くも結果が出ていますね』
『チームが決まらないなかで拾ってもらえた感謝の力で打ちました。女40、まだまだこれから一花咲かせてやりますよ』
わたしだったら早く終わらせてこの場を去りたいと思うような状況でも動じていない。この精神力があればもっと上を目指せそうだけど、経験や年月を重ねないと無理かもしれない。
「出場の機会さえあれば投打に活躍できる……首脳陣もこれで理解できたはず。私の失策でプランが狂ったかと悔やんだところをみち、あなたの圧倒的な力が助けてくれた」
マイペース調整が災いして開幕ローテーションもレギュラーも逃した。だけど投手としてはいまのところいい方向に進んでいる。
「普通にローテーション入りしていたら開幕投手になれたとしてもまだ1登板、でもわたしは2回投げて2勝……ラッキーな展開になってるよ。これが正解だったと思う」
「そう言ってくれるとますます救われる。確かに始まったばかりではあるものの2勝はリーグトップ。ただし今日のような大逆転劇は滅多にない、よってローテーション投手の座を早めに奪い取る必要がある」
自分が一番チームに貢献できるのはこのポジションだとわたしはすでに気持ちを切り替えていたけれど、みやこはまだ最初の予定を諦めていなかった。もちろん先発に回るように監督や投手コーチから言われたらそれに従うだけだ。
「……まあ一ヶ月くらいしてからかな?」
「私はそこまで時間はかからないと考える。おそらく先発はリッチが最初に脱落する。野手としてのポジションもサード、ファースト……外野はどこでもチャンスがある」
まだ5試合終わっただけ。いずれ調子が上がればみんな打ち出すはず……と我慢するのがいいのか、いま調子のいい選手を使わないとチームは沈むだけ……と積極的に動くのがいいのか。女番長新浦梨世は外見とは違って我慢強いし選手を責めない。その決断は翌日明らかになった。
4 石河
6 大和
5 ロメック
3 奈村
9 太刀川
2 木谷
7 中園
8 上里
1 川中
野手として今年初のスタメンに選ばれた。4番のフォックスを今日はベンチからも外してリフレッシュ、明日からの広島戦で活躍を期待すると監督は話した。ロメックや上里さんは使いながら復調を待ち、佐々野さんは一度外して様子を見る。その作戦がよかったかどうかはこの試合の勝敗だけじゃ語れない。シーズンが終わってから判断されることになる。
『打った―――っ!!センター近田、いくら俊足でも前進守備では追いつけない!奈村、それに一塁ランナー太刀川も余裕の生還!バッター木谷は三塁へ!2点タイムリースリーベースヒットです!』
『フェアだ!ラインの上に落ちてフェア!大和、古巣への恩返しヒットになりました!上里、石河がホームイン!』
『川中、五回2失点なら上出来でしょう。大量援護に恵まれてプロ初勝利が見えてきました』
昨日の勢いそのままにチームは絶好調だ。開幕後4試合の貧打が嘘のように打ちまくった。そんななかでわたしは四球3つ、犠牲フライ1本。打数0のまま守備の上手な荒川さんと交代させられた。ミスはなかったけど外野が本職の先輩たちに比べたらまだまだ動きが悪い。慣れていかないと。
『中園も打った!ファースト横っ飛びも捕れません!ブラックスターズの追加点です!』
『石河の打球は……落ちた!猛打賞だ!木谷に続いて石河も猛打賞!横浜の勢いが止まりません!』
『三振!ロメックは三振でようやくチェンジ!』
終わってみれば15ー3。西宮ジャガーズとの連戦は勝ち越し、勝率5割になった。わたしに続いてプロ初勝利となった川中がヒーローインタビューだったけど、ジャガーズファンが発狂しているこの雰囲気では辛そうだった。
「まあそのぶん緊張はしませんでしたが……ハマスタでやりたかったですね。汚い言葉ばかり聞こえてきましたもん」
とはいえチーム状態が確実に上がったところで今中さんが復帰する。本来の開幕投手が広島との初戦に先発、まずは1勝できるから次の試合以降が大事……そんな計算がチーム内にあった。
『試合終了―――っ!ブラックスターズ、ランナーは出すもホームが遠く13残塁で今中を見殺し!2ー1、広島コイプリンセスが接戦を制しました!広島はたったの3安打で2得点でした』
そう簡単にはうまくいかないもので、悔しい負けになった。わたしも八回に代打で出場してサードライナーだった。いい打球だっただけに三塁手真正面だったのが惜しかった。
『横浜は4番のフォックス、それに6番に下がったロメックが大ブレーキになりました。ことごとくチャンスで凡退しましたが…』
『オープン戦だけ見れば日本の投手に適応できそうだと思えるかもしれませんが本番は攻め方も違いますからね、外角変化球どころか何も打てないようでは厳しいでしょう』
二人の助っ人野手たちは世間の評価なんて気にする様子はなく、野球にはこういうときもある、すぐに取り返すから安心してと語り自信を崩していない。
「もう少し焦ってほしいんだけどね……悩みすぎてますます泥沼になるよりマシとはいえ………」
「監督、仕方ありません。ロメックはまだしもフォックスはとんでもない金を使ってます。しかも契約が……」
実は2年総額約7億円!フォックスに投資したお金を考えると簡単には外せない。ちなみにロメックは7千万円くらい。とはいえどちらが日本で成功できそうか聞かれたら………いや、わたしは何も言わないでおこう。悪い意味でどちらも選べないなんて口が裂けても言えないよ。
「あの外国人たちの実力ははっきりした。試合に出せば出すだけチームの黒星が増えるという結論に誰もが達している。金が勿体ないからスタメンで使うという行為は愚かとしか言いようがない………」
みやこははっきり言う人間だった。今シーズンの7試合目が終わって3勝4敗、たった1の黒星先行がこのまま行くと返済不可能な借金になるとみんなわかってはいた。
「まあ契約の問題は複雑だからね……」
「本気で優勝したいのなら潔く失敗を認め、今すぐ7億払ってフォックスを解雇すべき。資金が尽きて新しい外国人を獲得できないとしてもみちがいるのだからそもそも必要がない………みちが4番で出場すれば全ては解決する」
結局みやこの怒りの理由はそこだった。わたしが控えに回っているのはこの二人が出ているからで、レギュラー確保に成功していればどうでもいい問題だったはずだ。それを聞いてみると、
「いいえ、その場合もみちの不利益になる。彼女たちは出塁できないからあなたの打点が少なくなる。前後が貧弱な打者だと敬遠されるため成績の低下どころか調子も下がってしまう……即刻決断すべきだと断言させてもらう」
みやこの考えは固く、新たな火種にならないことを願うばかりだった。
どんなにブラックスターズを情けなく書こうとしても現実のあのチームには勝てませんね。(4月15日時点で3勝13敗2分の某チーム)大ちゃんや名将やる大矢時代を知らないファンは耐えられるのでしょうか?
ファンといえば、また書き溜めがなくなったあたりで番外編を書こうと考えています。毎度おなじみ「レズレイプしてやるわ」の人を主役に何か書きたいです。




