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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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第65話 惨敗続き

 開幕二戦目の土曜日はデーゲーム開催だ。わたしはベンチスタート。先発登板した翌日だからというわけじゃない。単にスタメンになれるポジションがない。オープン戦では打線爆発だったいまのチームにわたしが割って入るのは難しかった。


(……これが現実……昨日は夢みたいだったなあ)


 海の向こうからも初勝利を祝うコメントが届いた。チームメイトだった大筒さんとヒュウズがそれぞれアメリカでの試合の後のコメントでわたしに触れてくれた。


 ちなみに二人は違うチームに入団している。やはりチームの仲間だったセトや去年オールスターで勝負した大仁田もチームはバラバラだった。むこうは球団数が多いからそうなるのは当たり前で、その4人ではヒュウズが活躍できそうで後は厳しいかもと評価されていた。まだ始まったばかりだからここから逆転はあるだろうけど。



「そう、シーズンはまだこれから………」


 来週には今中さんも復帰できるから、わたしはまた敗戦ロング担当に戻った。実績をもっと積み重ねないとローテーションの一人にはなれない。こちらもオープン戦でみんな活躍しているから、しばらくは声がかからないはず。 



『昨日快勝したはずのブラックスターズが苦しい!今日は一方的にやられるだけ!六回表が終わって9ー1!先発の東山が炎上、6番木谷のタイムリーヒットしか安打もないという悲惨な展開!』


 

 本来なら今日みたいな試合でわたしは投げるはずだった。四回か五回から試合の最後まで投げて、他の投手たちの負担を減らす。昨日の緊急登板のせいでこの土日は投手としては計算されないことになっていた。


「ストライク!バッターアウト!」 


「ありゃ〜………当たらない……」


 この六回裏、ランナーなしの場面で投手の代打として送り出されたけどあっさり三振してしまった。いくら活躍の余韻に浸らずにすぐに気持ちを切り替えなきゃといっても、わたしもチームも別人みたいにダメになる必要はないのに……。



『試合終了!13ー2!ゴーレムズが圧勝で対戦成績はタイ!先発田郷は七回1失点の好投、4番の田沼がホームラン含む5打点の大活躍でした。敗れたブラックスターズは投打共に醜態を晒しただけの無様な敗戦です』


 昨日みたいな1点差勝ちでも1勝は1勝、これだけ大差で負けても1敗は1敗。明日勝てばいいだけだ。意外とわたしたち選手にダメージはない。


「東山の調子、悪かった?急成長してたのに」


「明らかに緊張していて球が高かった。コントロールミスするにしてもボール球になればいいのに全て真ん中に入ってしまった。スピードは安定していたとはいえあの程度では……」


 試合後はまっすぐマンションに帰っていた。みやこと二人暮らし、去年までみたいに先輩たちに奢ってもらって限界まで食べて飲むことはほとんどなくなるだろう。


「明日の試合後はあのお店を貸し切ってある」


「わたしとみやこが初めていっしょにご飯を食べたお寿司屋さんだね?楽しみだなあ!」


 二人の時間を大切にしたいというみやこの希望を尊重している。家で食べても外に行くときもわたしのためにたくさん料理が用意されるから、以前のほうがよかったとわたしが思うことはない。わたしもいまが幸せだ。おいしい食事のためにも明日は勝つ!お互いの活躍を褒め合いながらいい気分で夜を過ごしたいと誓った。





『これはセカンドゴロ!太刀川、ベンチの期待に応えることができませんでした!』


「………芯を外されちゃったか………」


 ゴーレムズとの大事な3戦目、わたしは二日続けて凡退。初打席初ヒットで10割だった打率も2割5分、凡庸な数字になった。


『まあここで太刀川が打ってもどうにもならないと言えばそれまでなんですが………八回裏で8ー0では………』


 今日も大敗だった。先発の前橋さんは五回まで1点しか取られずに粘ったけど、打線が見殺しにした。そして六回、ロメックとフォックスに連続エラーが出てチーム全体の何かがプツンと切れてしまった。一挙7失点で試合は壊れた。



「期待させておいてこのザマか―――っ!!」

「新浦帰れ!ラメセス連れ戻してきなさいよ!」

「レズレイプしてやるわ―――――っ!」 



 憎きゴーレムズに負け越し、元横浜の井上が勝ち投手、梶田と長崎がホームランという、ブラックスターズのファンにとって最悪の試合になった。チームメイトたちはお酒をいっしょに飲んでくれる女の人がたくさんいるお店に消えていった。わたしとみやこは二人でお寿司、あの超高級店にいた。


「ははは、惨敗すぎてもう笑うしかないね。悔しくないぶん、お寿司と日本酒に集中できるよ」


 わたしのせいで負けた、とかならこの最高の味を最高に楽しむことはできなかった。でもあれじゃあ……ねぇ?

 

「開幕カードを負け越しただけ、まだいろいろ結論するには早すぎるのはわかっている。しかし…」


 3試合でチームのヒット数の合計はたった8本、そのうち3本はみやこだ。合計スコアは5ー23。どんな内容でも1敗は1敗にすぎないとしてもあまりに酷い。


 長打が打てなくても守り勝てたらいい、新浦監督の最初の方針だった。いまはホームランどころかヒットすら打てない、守れないの状態だ。


「ひとまず仕事のことは忘れて食べるぞ――っ!」


「そうね。みち、いっぱい食べる姿も素敵だわ」


 来週は甲子(えん)がわ、それに広島と連続で関西の試合だったい。みやこと二人でゆっくり食事をする機会もなイカ。いまのうちに楽しんでおこうに。次の連戦にはチームも復活するはずわいがに……遅くとも週中トロには………。 






「…………」 「…………」 「………………」


 西宮ジャガーズ、ラメセス政権の間はずっと苦手にしていたチームだ。監督が交代してその流れも変わるかと楽観していたのは甘すぎた。


『今日もブラックスターズは大敗!オープン戦はマグレだったことを証明してしまいました!』


 わたしの出番はなし、序盤で試合は決したのでみやこは休養のため下げられ、その後投手陣はますます爆発炎上した。大差が開いてからも相手の先発ピッチャー黒柳に丁寧に投げられてしまい、内野ゴロの1点しか奪えず。ちなみにロメックの来日初打点だった。


『16ー1!ブラックスターズは明日、最後の砦として新外国人リッチが先発します!』


 ほんとうに後援会の皆さんや井上さんたちが開幕戦を選んでくれてよかった。こんな試合を見せられて長い道のりを帰る……どんな空気になるのやら。


 いや……応援団やファンはちゃんと毎試合スタンドにいる。わたしたちからすれば長いシーズンの1敗でもお客さんは………。そろそろ勝たないと。わたしからローテーションの席を奪ったリッチが先発だから明日は勝つはずだ。得点は1だったけど今日はヒットも出ていた。巻き返しの兆しがある。







「みっちゃん。肩の準備をしておいて」


「………はい」


 さすがに頭の悪いわたしでもわかった。ブラックスターズは他の十一球団にまんまと騙されていたことを。


『ようやく初回のジャガーズの攻撃終了!リッチ、いきなり5失点!いや、5点で終わって助かったと言うべきか……』


 敵チームの若手選手や新外国人をわざとオープン戦や練習試合で好き勝手させておいて勘違いさせる。これはよくある話だ。だけど横浜の場合、活躍できなかったわたしを除く全ての選手が泳がされていた。しかも調子のピークをみんな早めにしたものだから、悲惨な状況になっていた。


『リッチはこの回も打たれて二回でもう7ー0!三回の表に打席が回るのでまあ代打でしょう』


『ブラックスターズは太刀川が準備していました。バッティングもできる太刀川ですから彼女が代打として出てそのまま投手に入るでしょう』


 

 この回もあっさり2アウト、リッチのピンチヒッターはわたしだった。まだ三回、少しでも選手を節約しようと思ったらこうなる。


「…………きたっ!」


 簡単に追い込まれてから一球釣り球を挟んだ4球目、甘いストレートを振り抜いたら打球は伸びて左中間を破った。今シーズン初のツーベースだけど、欲を言えばもっといいところで打ちたかった。



「………ん!?」


 わたしのヒットは無駄にならなかった。1番に入った石河さんが放った飛球はライトポール際にまで伸びて……。


『入った!入りました!風に乗ったか!石河の今季第1号ツーランホームラン!』


 西宮の台湾人投手、チュンが楽勝ムードで気が抜けていたところを叩いた。これで5点差になった。まだ試合は三回、まだまだ決まらないぞ!わたしのロングリリーフが大事になってきた。


 指名打者がないセ・リーグだとどうしても試合を捨てたロングリリーフだとしても2回は打席に立たない。だから3イニングか4イニングが限界だ。でもわたしなら最後までいける。そのうち打線が反撃していい試合になればリリーフピッチャーの先輩たちに後を託すことができる。5点差ならわからない。この流れを台無しにするようなピッチングをしなければ!




『打ちました―――っ!伸びる伸びる!殖田の打球はレフトスタンド最前列だ!8番の殖田、プロ六年目で通算2本目のホームランだ―――っ!!』


「あ…………あれ?」


『太刀川はプロ初失点!お世辞にも強打者とも好打者とも呼べない殖田に打たれた………ゴーレムズ戦の投球はやはりまぐれだったのか!点差はすぐに6点に広がりました―――っ!!』



 みやこが言うには、敵の中軸を抑えて下位打線に打たれてしまうのは昭和の大投手たちにありがちなことだそうだ。昔の英雄たちの悪いところだけを受け継いだわたしの無駄な被弾で追い上げムードはぶち壊し、新浦監督は早々に試合を捨てる決定を下した。


「ちょうどこの攻撃で5番まで回る。疲れのせいで打てないのかもしれない、助っ人二人は下げよう」



 開幕5試合目、いまだ二人合わせてヒット1本、打点1、当然本塁打なしのロメックとフォックスを休養させることになった。結果が出ていないとはいえこんな早くに休ませるのは、今日はもう終わり、と公言しているかのようだった。


『佐々野はセカンドゴロ!チェンジ!この佐々野にも今シーズンヒットがまだありません!』

 

 四回裏、ブラックスターズはクリーンナップ全員が退いた。スタンドにいる数少ないファンたちからため息が聞こえてきた。

 


 4 石河

 8 上里

 5 柴山

 3 奈村

 7 荒川

 2 木谷

 9 中園

 6 大和

 1 太刀川



 守備固めの柴山さんがロメックに代わり3番サード、代打要員の紀子さんがフォックスに代わり4番ファースト。佐々野さんまで下がって代走の切り札荒川さんがそのまま5番レフトに入った。一発の魅力がある三人が同時にいなくなったけれど、守備力は確実に上がっていた。


「こうなったらやりたい野球をやる。あの助っ人二人は動きが鈍すぎて大量失点の原因になっていた。みっちゃん、この布陣なら打たせて取るピッチングができる!」


「あはは………ありがとうございます」


 エラーになる以前に打球に追いつけない、早々に諦める、目測を誤って打球に触れないから記録はヒット………守備を軽視していたラメセス監督時代より酷かった。試合を諦めたふりをして、本来目指していた守備走塁を重視したメンバーでどこまでやれるかを見るために、新浦監督も大胆に動いた。



「外人たちが消えたおかげで楽になった。みち、点差は考えずにどんどんストライクを入れていきましょう」


「そうだね…試合が長引くのは嫌だしね」




 ペナントレース開始早々に脱落かと思われたブラックスターズ。実はこの試合のこの場面こそが運命の別れ道だった。

 ボルジア・リッチ(横浜ブラックスターズ投手)


 期待の外国人投手。オープン戦で素晴らしい投球を見せ、みっちゃんの代わりにローテーションに入った。


 元になった選手……2011年に来日した外れ助っ人。震災の影響で一時帰国、再来日したが正直戻ってこないほうがよかった。新沼と組んで2ラン暴投をしたり、何の役にも立たなかった。こんな選手が元ネタということは……?



 黒柳 (西宮ジャガーズ投手)


 変則投げのブラックスターズキラー。右投右打。ランナーを出しながら抑えていく技巧派で、ブラックスターズは手玉に取られている。短髪だが、毛根はしっかりしている。


 元になった選手……阪神のエース候補のあの投手。なぜかベテラン扱いされ、年上の選手からもさん付けで呼ばれることも。なぜか『もう間に合わない』とか『もうダメそう』と言われることも。帽子のあるなしでイメージが大きく変わる選手。

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