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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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第67話 二人で勝つ!?

 投手力を中心に守り勝つ野球。開幕3カード目にしてすでに新浦監督の理想とは真逆のチームが完成した。助っ人二人を中心に、走塁や守備は気にせず打ちまくることを狙った打線、つまりラメセス前監督のときと何も変わらないチームだ。


「ストライク、バッターアウト!チェンジ」


「あ、ありゃりゃ………」


 だから今日はわたしもライトでスタメン出場できた。でも4打数1安打、最低限の一日一善をしただけに終わった。それよりも2三振の内容が悪く、またベンチに戻りそうだ。



『何でもないファーストゴロ……あ――っと!フォックスが後逸!トンネル――――――!』


『ライトの太刀川、三塁に大遠投!これはいい球が………だがサードのロメックが捕球できません!三塁でアウトどころかランナーはホームへ!おそらくロメックのエラーになるでしょう』


 

 チームも打てないし打たれる、走れないし守れないの厳しい状態だ。運よく打線爆発しないと勝てない………苦しい。


『ブラックスターズ、コイプリンセスに連敗!明日のゲームの予告先発はブラックスターズが中3日でリッチ!前回は序盤でKOされただけに本来の実力が出せるかどうか!勝ち越しを決めたコイプリンセスは瀬良と発表されています………』


 試合後、わたしとみやこはホテルで監督に呼び出された。わたしたちが今年から正式に二人で一つの部屋を使っているのはもう知っているはずだから、もしかするとみやこの采配批判がバレたんじゃないだろうか。それかわたしの打撃が思ったよりよくないことか……いや、でもそういう理由なら二人揃って呼ばなくてもいい。わたしたち二人に用があるんだ。




「二人とも、アタイは明日の試合を最後にこのチームを壊す。やるなら早いほうがいい………それを伝えたい」


「チームを壊す……なるほど、私も賛成です。私とみち以外にその方針を伝えていますか?」


「コーチたち、それにノリと武美には話してある。チームが分裂する危険もあるから先手は打たないと」



 紀子さんと石河さん……野手陣の最年長とキャプテンをすでに仲間にしていた。それから監督は、来週の試合からは助っ人野手の二人のどちらかしか先発で使わず、そのうち二人ともベンチか二軍に下げると言った。みやこの願い通りだった。


「そして二人を呼んだのは、みっちゃんは明日でロングリリーフを卒業、来週の土曜から先発ローテーションに入ってもらいたいから、そのお願いのためだよ」


 卒業?まだ水曜の1試合しかその役割で投げていないのに。開幕戦の緊急先発はノーカウントだ。


「わたしが先発に?誰の代わりに………」


「リッチだよ。おそらく明日も炎上するから、みっちゃんには2番手で投げてもらう。みんなを納得させるような投球をしてほしい。ヨロシク!」


 新外国人助っ人を三人揃ってこんな序盤で見限る。投手としても野手としても彼女たちの代わりになるわたしが活躍できないと監督の立場が危うくなる。球団の偉い人たちはせっかく獲得してきた助っ人たちをもっと使ってほしいわけだから、わたしが監督やみやこの考えが正しいと証明する必要がある。



「そしてローテーションに入った後……みっちゃんには常に中5日で投げてほしい!先発の駒が足りないのを補ってもらう……体力には自信があるらしいけれど、肩や肘のこともあるからこれは同意がなければやっちゃいけないと思ってね」


 中5か……いまの日本の野球は中6日が基本だ。だから同じ投手の投げ合いが増えて、ライバル関係ができる一方で飽きてつまらないと言われることも。曜日が決まっていれば調整しやすいし、中6でしかも球数も100前後で降板するケースが増えているから故障の可能性は少ないという利点はある。


 わたしは構わない。中4でもいいくらいだ。あとはみやこが過保護にならなければ決まりだ。



「みちの頑丈な身体なら問題ないでしょう。みちは今年25勝を目標にしています。中5日であれば達成できますから、ぜひそれで」


「おっ、いいね!25勝してくれたらAクラスは確実だ。そこからリーグ優勝まで押し上げるのはアタイたちの仕事だ。そのためにも明日の卒業試験、二人で気合い入れて合格を目指せ!」



 わたしが日本一の選手になるというみやこの夢、背番号18を渡してくれた監督の期待、応援してくれるチームのファンや後援会の人たち……みんなのことを思うと力がみなぎってきた。




「明日は曇り……小雨が降るかもしれないという予報だった。難しいピッチングになることが予想されるから……」


「うん、風邪に気をつけないとね」


「………だからいまのうちに暖まっておきたいのだけど………いい?」


 

 みやこの誘いに乗って、ベッドで抱き合いながら眠った。明日も試合があるからただ抱き合うだけ、それで十分お互いのパワーとやる気が満たされる。プロレスごっこはまた今度だ。






『広島打線が今日も絶好調!制球に苦しむリッチを攻めて初回から元気のないブラックスターズを圧倒しています!』


 一回裏、1アウト満塁でもう3ー0。次は8番打者というタイミングで新浦監督が動き、わたしはブルペンで最後の球を投げ終えた。皆に送られてフィールド目指して駆けていく。


『あっと!ブラックスターズ、早くもピッチャー交代のようです!リッチはやや不貞腐れた様子でベンチに戻ります』


『たった1アウトとっただけ、27球で交代ですからね。この試合、というよりはこの投手そのものを新浦監督は見限ったのかもしれません』


『太刀川がマウンドに上がります。2試合に投げて2勝、防御率は0.64。こちらもリッチと同じく中3日、6イニング投げた後で少し不安もありますが………』


 前回は相手の早打ちがあったから球数が少なかった。肩は軽いし、今日は卒業試験となると気持ちも高まる。



「………ぐっ!!」


『8番伊澤、ピッチャーゴロ!太刀川はホームに投げてツーアウト!キャッチャー木谷、ゆっくりと一塁に………アウト!ダブルプレーでスリーアウトチェンジ!』


 最高の結果になった。まだ3点差、しかも8イニングも残っている。この間よりはずっと楽だ。


「ナイスピッチング!これ以上ない火消しだわ!」


「みっちゃんのおかげで一気に流れが変わったのがわかる。この試合………勝った!」


 わたしもみんなも、ジャガーズ戦と同じ展開になると思っていた。逆転劇の始まりだ、そう浮かれていた。




『ロメック三振!とにかく変化球が打てません!』


『フォックスの打球は4ー6ー3と渡って併殺!無死一、二塁のチャンスもロメックの三振、フォックスの併殺打で台無し!ブラックスターズ、やっとランナーが出た四回も無得点です』


 最悪の攻撃だ。そして直後の守備でも、



「ありゃっ!?や、やっちゃった!」


『これはいけない!ライトの中園、後逸だ!ただのシングルヒットかと思われましたが……鈴本は一気に二塁も蹴りました!』



「…………ノ、ノォ―――ッ!!」


『フォックス悪送球だ!木谷がジャンプするも遥か上!竹山のファーストゴロを捕ったまではよかったのですが、ホームへの送球がダメ!これで4ー0!連続エラーで広島に追加点です!』


『これは決まったでしょうね。流れがもう完全に広島のものですよ。横浜は勝手に自滅しています』



 ………自責点は0なんだ。それにみんなわざとやっているわけじゃないんだからと気持ちを切らさずに、もう失点はしなかった。監督たちもわたしのピッチングは完璧だと褒めてくれているし、余計な感情は抑えないと………。




「いつまでこのチームの無能どもはみちの足を引っ張り続けるのか。なぜ何もよいものを生み出さないだけに満足せず、腐臭のする汚物を撒き散らすのか……」


 みやこは抑える気がまるでない。ベンチに座るとすぐに怒りを露わにした。自責点はつかないけれど失点になったこと、3勝目が遠のいたことに激しく憤っていた。


「まあまあ、監督も言ってた……本番は来週からだって。あまり怒るとみやこもバッティングが狂うよ」


「それは正しい……なら彼女たちは四六時中何かに怒っているから攻守にまるでいいところがないということになる。頭を金属で殴って記憶を飛ばせばまだましになるかもしれない」


 実はチームの打撃成績は悪くない。ジャガーズ相手に大量点を奪った2試合のおかげで数字だけはよかった。接戦を落とす……つまりここぞのチャンスで打てないからイメージが悪いだけで。


 それを説明したところでみやこは、どうでもいい場面でしか打てない帳尻合わせの連中だの真の役立たずだの言うに決まっている。なら………わたしはみやこにささやいた。



「そうだね。だったらわたしたち二人でやるしかないね。他の7人はもういらない。二人だけでチームを勝たせよう」


「ふ、二人だけ……なんと素晴らしく美しい響き。私とみちだけ……ふふふ、理想の世界ね………とはいえそれで野球の試合に勝つのは」


「簡単だよ。わたしとみやこが残り打席ぜんぶホームラン、相手の攻撃は三者三振を続けたらいける。二人で勝てるんだよ」



 これから五回の攻撃、お互い最低2打席は回る。ぜんぶソロホームランでも4点差を追いつける。そして15連続三振を奪えば当然失点もないわけだから勝てる。まさにわたしとみやこだけで勝つ、単純明快な勝ち方だ。


 うん、わかっている。こんなの絶対に無理だ。だからみやこにもそれに気がついてもらいたかった。チームメイトを信頼する、冷静になる……その二つを伝えたかった。



「どう?できるかな?それとも水曜日のようにみんなで力を合わせていったほうが…………」


「みち、やりましょう。あなたと私の力で。太刀川みちというダイヤモンド以上に光り輝く存在を私が磨き更に輝きを増すようにすれば………」


「………み、みやこ?」



 

 わたしの狙いとは真逆に突っ走るみやこ。しかも失敗から学んでくれたらよかったのに、


『打ちました―――っ!!外野手は一歩も動けません!6番木谷、反撃の狼煙となる第3号ホームラン!』


「か、完璧な打球…………」


 試合の流れをモノにして気が緩んだのか、瀬良がど真ん中に失投した球を叩いてホームラン。4ー1に。



「うお――――――っ!!」


『太刀川の投球はもちろん、木谷のリードも冴えています!三者連続三振!若いバッテリーが横浜に流れを引き戻したか!?』


 投手が含まれていたとはいえほんとうに全員三振。狙っていなかったのに相手のバットが面白いように空を切り続けた。そして次の回はわたしから攻撃が始まり………。


 

「うりゃ―――――――――っ!」


 ホームランよりも出塁を考えて打席に入った。だけど初球からただのボーナスボールが高めにきたものだから………。


『こ、これは豪快!今度は振り返ることすらできません、広島外野勢!太刀川の第2号ホームランは超特大!』



 みやこが勘違いしないか心配な展開になっていく。ホームランは嬉しいし三振ショーは自信がつくけれど、軽い発言のせいで後々大きな失敗に繋がるかもと不安になった。本気でみやこが二人だけで勝とうとしたらチーム崩壊だ。


 わざと凡退したり敵に打たせるわけにはいかないから、仲間の活躍に期待するしかなかった。助っ人問題やローテーション再編以上に今年の横浜ブラックスターズがどうなるかを決めることになりそうだ。

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