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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第一章 前半戦
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第24話 影のMVP

「……どんな場面だろうと使ってもらえるところで結果を出す、それがプロですから。まあ本音はもっとスタメンで使ってほしいって思ってますけど……えへへ」


 時間は3分くらいだった。でも確かに地上波のニュース、スポーツコーナーのなかでわたしの特集が放送された。けっこうたくさん質問に答えたけれどインタビューはたった1分程度に凝縮されていて、テレビ番組を作る大変さを改めて知った。


 プロ入り前から注目を集め、プロでもたった一か月でその才能を発揮するスーパールーキー、木谷都。その彼女と同い年の控え捕手が近ごろファンの間で有名になっている。そんなスタートで始まったわたしのプレー集は活躍シーンよりも珍プレーばかりだった。


 押し出しサヨナラ死球に悶える場面、エス子の暴投に飛び跳ねているところ、相手投手の送球が頭に当たったラッキーヒット、足が遅すぎたのが幸いした盗塁成功、内野安打……。


『木谷が最近の選手の体型なら太刀川は一昔前によくいた体型……数十年前の選手と比べても小さいが』


 この足の短さをばかにされている?と思ったらすぐにプロ初ホームランの映像が流され、


『もしチームが違えばスタメンの座を勝ち取っているだろう』


 わたしの打球がみやこ以上にホームランバッターの資質を感じさせるものだという誉め言葉をもらった。でもこれは半分ネタみたいな感じでわたしと仲良しの狂スポがすでに似たようなことを書いている。確かこんな内容だった。



『太刀川の2本のホームランはいずれも相手エース格の心を砕く完璧、圧倒的なもので、レギュラーの座を争う木谷はもちろん、日本の主砲大筒や長崎よりも飛距離、弾道いずれもアーチストと呼ぶにふさわしい気がする。黄金ルーキーが活躍する裏で無名の晩成選手がついに覚醒したかもしれない。正捕手の座を掴むのは厳しくても、いまの太刀川ならセ・リーグでナンバーワンの代打と呼んでもいいような気がする』



 気がする、かもしれない……それらを多用することで半分ジョークです、と言っている。いつもくだらない記事を書くのに協力しているお礼のつもりなのかな。でもこういうニュースの積み重ねやテレビで取り上げられた効果は、火曜日の試合で確かに出た。



「太刀川選手~!頑張って~!」

「今日もいいところで打ってくれよ、みち!」


 今日はヒュウズが登板、わたしのスタメンがすでに公言されていたとはいえ、みやこと並んで歩いているところにわたしへの声援が飛ぶのはこれが初めてだった。


「だんだんあなたの存在感が増している証。実力に加えて人気も手にしつつある。あとは熱しやすく冷めやすいファンたちをどう自分のものにし続けるか……」


「あはは、芸能人じゃないんだから。わたしみたいなちんちくりんでも活躍すれば人気が出るしみんな応援してくれる。特別なことをしなくていいんだよ」


「………確かに。ただ、あまりあなたが有名になると変なファンが寄ってこないかとても不安になる。その身体を欲情の目で見つめ時には撫でまわすような……」


 それはみやこのことでしょ、と言いたくなったけど我慢した。この間のシャワー室での事件以来、試合後のシャワーや寮のお風呂は常にみやこがわたしに合わせてくるようになった。周りの人たちの目が『疑念だったものがとうとう確信になった!』と言ってくるかのようで、いよいよ噂を聞いた球団の偉い人たちによってわたしが闇へ消し去られる日も近くなってきたと頭を抱えるしかなかった。



「……今日もキャッチャー防具装備の手伝いが必要なときは私に任せてほしい」


「……どうしようかな。手つきがいやらしいからなぁ、みやこは」


「くっ、わかった。あなたに誤解されないように注意する。だから……」



 わたしとみやこが練習中も試合の間も常にそばにいて話している姿に、ある雑誌やネットニュースではわたしたちが互いに損得勘定で相手を利用していると書かれていた。わたしは注目を集めるみやこの近くをキープすることで自分の知名度も上がり、さらにみやこから技術を盗む。崖っぷち選手にプライドなんかないというわけだ。


 一方のみやこはマイペースすぎるためにチームで孤立しているという悪いイメージを消すために同い年のわたしと仲がいいふりをしていると。真相を知っているわたしたちからすれば怒る気にすらならず、笑えてしまう。まさかわたしたちの関係を一番正確に発信したのが全く信用されなかった狂スポだったなんて誰もわからないだろうなぁ。



「リーグ戦が再開してから初のスタメン……いくら関係ないとはいってもいつも以上に注目を集めている試合!打撃でも守備でもいいところを見せてやる!」


「素晴らしい意気込みね、みち。あなたが本気になれば誰も勝てない」


 個人としてもチームとしても大事な一戦だ。再び手に入れたヒュウズの専属捕手の座、もう手放したくない。キャッチャーとしてわたしがこの先使えるかどうかを試されている。


 チームも前半のどん底から抜け出して、あと1チーム落とせばAクラスが見えてくる。ゴールデンゴーレムズを落とすことができれば最高にうれしい。ミルルトファンにありがちなゴーレムズ嫌いの精神はプロ入り後もわたしのなかに強く残っていた。



 さて、その試合の結果は……う~ん、よかったといえばよかったし、ダメだと言われても反論できない……そんな不思議なものになった。まずは守備。相手は盗塁してこなかったから盗塁阻止の機会はなし、後逸もしなかった。大きな失敗はなく、ヒュウズは前回の炎上から立ち直って6回を3失点にまとめた。ただ、これもまた評価に難しい内容だった。


『打った~!ゴーレムズの若き4番田沼、なんと三打席連続ホームラ―――ン!若大将は今日も大活躍だ!』


 去年の新人王、今年二十歳の『田沼侑たぬまゆう』。同じく二十歳のミルルト村下も恐ろしいけれど、この田沼はさらにその上を行く。ゴーレムズの『原田辰美はらだたつみ』監督が現役時代の自らの愛称、『若大将』の二代目に指名した怪物は二年目のジンクスなど無縁だ。おまけに美人で性格がいい、誰からも愛される、歌もうまい。まさに完璧超人だ。


 その田沼に三連続で一発を浴びた。全部ソロホームランだったのは助かったし、サインはヒュウズが出しているからわたしに非はないとしても何かできたはずだ。間を空けたり投球後の返球を少し普段と変えてみたり。全く工夫もなくいいようにやられてしまった。



 そして今日のバッティング。これも活躍できたと胸を張って言えるかどうか……。まず第一打席、今日はラメセス監督にしては珍しく9番に投手のヒュウズを入れたからわたしは8番。1アウト二、三塁という好機で打席に立った。


『これはショートゴロ!しかしホームは間に合わない!一塁へ送られてアウト!ブラックスターズ、内野ゴロの間に先制!』


 前進守備されていたらランナーは帰ってこられなかったと思う。わたしの打球が速い、そんなデータが出回ったおかげで敵は警戒していつも通りの守備シフトだった。それがわたしたちにはラッキーだった。内野ゴロ、でも打点が記録された。



『太刀川打った!サード町田、ホーム送球!しかし荒川の足が速い!』


 一打席目もランナーは俊足の荒川さんだった。今回は相手が欲張ってホームに投げてオールセーフ、フィルダースチョイスが記録された。打率は落ちちゃったけれどエラーじゃないから打点がついた。そして第三打席、めったに見られない光景が目の前にあった。



「うりゃあっ!」


 1アウト満塁の大チャンス、ゴーレムズのエース、菅の直球に詰まらされた。力のないセンターフライ、どんな足の速い走者でも帰ってこられない浅いフライになりそうだった。


『センター追う!これは意外と面白い打球になった!捕れるか!?落ちるか!?』


 ふらふらとした打球は微妙なところに飛んだ。センターを守る田沼は守備もうまい。でもセカンドが無理な深追いをしたせいで衝突を避けるために一直線に打球を追えなかった。


『あ―――っと!田沼落とした!スライディングキャッチでグラブに入りかけたが……』


 それを見た三人のランナーは慌ててスタートを切る。ボールを拾った田沼は二塁に投げた。二塁はアウト、それ以外のランナーはどうにか間に合ってそれぞれ先に進んだ。わたしも一塁に残って、二死一、三塁になった。そして一人生還したから……。


『これは珍しい!センターゴロになった!記録はセンターゴロ!これで3-3、同点!』


 今日のわたしは3打数0安打、でも3打点という変な結果を残した。押し出しやスクイズ、犠牲フライもない、ぜんぶゴロによる打点だった。


 この攻撃が終わってピッチャー交代となり、同時にわたしも下がった。戸場さんがマスクを被って七回裏からその後6イニング、延長十二回まで中継ぎ7投手をリードして無失点で乗り切った。打線はわたしの3打点以外に得点はなし、つまり3-3の引き分けに終わった。



「……胸を張れる……わけないよね。一回でもヒットを打っていれば勝てた試合だった」


「三振や併殺の可能性もあった。それでは負けていた……みちはしっかり仕事をした」



 打点は稼いだ。あとはヒットが欲しい。来週のヒュウズ登板日までは出場できても代打の一打席しかチャンスがない。捕手としての途中出場や1試合だけやったサード、これをやるような展開になったらゲームが壊れているからチームとしては最悪だ。


「でも楽勝ムードだったらわたしの出番はないだろうしなぁ……ん?」


 ここでわたしは気がついた。みやこが一軍に上がってくる前といまでは考え方が変わっている。第三捕手として自分はこんなものだと思っていたときは自分の出場や活躍は二の次、目の前の仕事をこなすこととチームの勝利さえ叶えばそれ以上は望まなかった。


 でもいま、わたしはチームが快勝するよりもそれなりに苦戦して出番が来ればいいなと考えている。チームがどうでもいいわけじゃないけど、明らかに悪い欲が出ていた。


(……あまり口に出さないようにしないと)


 そしてもう一つ、チームメイトのわたしを見る目も変わってきていた。みんな可愛がってくれるのはこれまで通りだけど、どこかが違う。ただの無害なペットやマスコットじゃない、自分の出場機会やポジションを奪うかもしれない相手だと思っているのが伝わってくる。ようやく仲間であると同時にライバルなんだと認めてもらえたみたいだ。


(そう、これがプロとして当然……五年目でやっとここまで来られた)


 互いに得点はあまり入らなかったけど残塁は多かったせいで夜遅くまで続いたこの試合、帰りの車の中でうとうとしながら自分自身の変化……いや、成長を実感した。




 水曜日、ゴーレムズとの二戦目は七回まで1-1、二日続けての接戦になった。


『これはいった~~~っ!!木谷、横浜ファンが待つレフトスタンドへホームラン!』


『鶴井打った!石河横っ飛び!しかし一塁へは投げられない!タイムリーだ!』


 八回にみやこのホームランで勝ち越してもすぐに追いつかれる。迎えた九回、ゴーレムズは抑えの沢町がマウンドに。わたしがプロ初打点となるサヨナラ死球を受けた相手だ。今日は絶好調で、あっさり三人で片づけられた。こっちは渡久地さんをマウンドに送って、一人ランナーを出したけれど相手のバント失敗にも助けられ無失点で凌いだ。


 二夜連続の延長戦、沢町は回跨ぎで続投した。その先頭打者のところでわたしは代打に送られた。



「………」


 むこうも覚えているみたいで、険しい顔つきになっている。抑え剥奪も噂された失態、苦い記憶として残っているんだろう。それなら揺さぶってやろうとラメセス監督はわたしを起用した。その采配は大当たりだった。


『ボール!ストレートのフォアボール!人が変わったようにストライクが入らない!』


 即代走が出てわたしはベンチに戻った。代打で登場して相手が動揺して四球、一塁に着いたと同時に代走と交代。結果を文字にするとまるで引退寸前の大ベテランみたい。外見は中学生のようでプレーは中年、我ながら変な選手だなと思う。


 でも苦労せずに四球を勝ち取れたのはいい気分だ。流れを考えても待望の勝ち越し点が……。



『音坂打った!セカンド真正面!4-6……3!ダブルプレー!初球打ち実らず!』


 ラメセス流の作戦は二回うまくいくことはなかった。エンドランも送りバントもなし、コントロールを乱した相手の初球、難しい球を強引に引っ張って併殺。誰も口には出さなかったけれど、これで今日はうまくいって引き分けどまりだなと感じた。


『決めた――――――っ!!三塁ランナー田沼、ホームイン!サヨナラ!ゴーレムズ、サヨナラ勝ち!エスバーンの直球を弾き返した四角のサヨナラタイムリー!』


 同じように四球で出たランナーを相手は手堅く送って、暴投の直後にヒットを打たれて試合終了。最悪の負け方に思えたけれど真の悲劇は翌日が本番だった。




『大き~い!ぐんぐん伸びた打球がライトスタンドに突き刺さる―――っ!!今日はゴールデンゴーレムズのための試合だ!一足早い夏の花火大会だ―――っ!!』



 オープナー策が大外れ。先発というよりは一番手の投手として起用された二吉さんが二回持たずに8失点と爆発炎上。一昨日も投げていてオープナーを知らされたのが昨日の夕方だったのだから厳しいマウンドだった。その後も順調に失点を重ねて五回が終わって13-0、しかもまだノーヒット……さすがにみんなすっかり参っていた。


 六回表の先頭、代打のわたしの名前がコールされてもスタンドの反応は薄かった。最近はそれなりに歓声をもらえていたけれど今日はファンも心が折れたみたいだ。


『打った!レフト前に落ちた、ヒット!ブラックスターズようやく初安打!』


 勝敗に全く関係ないどうでもいいヒット、そんな空気だった。得点が入ったわけでもなく、そのまま試合は進んで大量失点の完封負け。ところが試合後このヒットの評価は一変した。



「……あれがなかったらノーヒットノーランだった……危ないところだったわ」


「どんな内容でも負けは負け……とはいえずっと残っちゃうのは不名誉だしねぇ」


 最後までわたしのヒット1本しか出なかった。もちろんわたしのヒットがなければ相手の投手の心理も展開も変わるからまた違った展開になって、わたしじゃない別の誰かがノーヒットノーランを阻止したかもしれない。他に何一ついいところのない試合だったおかげでこのヒットが目立って、わたしの名前がまた少しだけ有名になった。



「みち、あなたは少ないチャンスで輝いている。ただの安打や本塁打とは呼べない、試合を、チームを救う一打……私があなたを過大評価していたわけではなかったと日に日に証明されている。ミルルトの大川から打った逆転3ラン、フェニックスとの連戦では土壇場での同点タイムリーに根津の心を砕くホームラン……最高だった」


「あはは……試合後のお立ち台には一度も呼ばれてないけどね」


「勝ち越し打の後に逆転されたり一人しか呼ばれない敵地での活躍だったり、運がないところがあった。しかしインターネット上、ファンが選ぶMVPにはあなたが実は今日を含めて5試合も選ばれている。皆わかっている、あなたの活躍を」


 もう三回もヒーローインタビューを受けて、今月の月間MVP候補のみやこに言われてもなぁ。もしこれが一部の記事で噂されているように仲よくしているふりをしているだけの関係だったら皮肉や嫌味にしか聞こえなかった。でもみやこは本心を言っている。



「みち、世間はようやくあなたを認めた。もっとわかりやすい形で……そう、来週の火曜日……確かあなたが教えてくれた日付。そこで明らかになる」


「………?」


 来週は金曜と土曜にオールスター。いつもなら休みの月曜日も試合が組まれる変則日程。わたしたちは谷間の投手を使わずに一日ずつ先発をスライドさせるからヒュウズの登板は月曜になる。みやこがこんな簡単な間違いをするとは思えない。なんで火曜日?



 ゴーレムズ相手に惨敗を喫し、その後本拠地に広島を招いても一勝二敗の負け越し。月曜の試合は結局雨で流れて前半戦はもうヒュウズは登板しないことになった。みやこの予告のこともすっかり忘れていた火曜日……球界を揺るがす大事件が起きたのだった。

 原田 辰美 (黄金軍監督)


 東京ゴールデンゴーレムズの監督。優勝回数、実績、若手の抜擢や力の落ちたベテランの見切りなど、全てにおいて名将とされているが圧倒的な戦力があるから勝てているだけという声もある。


 元になった人物……グータッチと変顔が特徴的なあの監督。暴力団とはちゃんと手を切ったのかな? 



 田沼 侑 (黄金軍外野手)


 若大将と呼ばれる無敵の怪物。20歳ながらすでに日本最強打者。打率、ホームラン、勝負強さ、どれも非の打ち所がない。この物語のラスボス候補の一人。


 元になった人物……オリジナルキャラ。松井秀喜とイチローのいいとこ取りというイメージ。無敵。


『若大将シリーズ』は、俳優加山雄三が田沼雄一という青年を演じた映画。名前はそこから取った。勉強、歌、喧嘩、何をやらせても完璧。どんなスポーツでもありえない劣勢からの逆転勝利。女性たちのほうから勝手に寄ってくる………昭和の時代にも『なろう』はあったのだ。


 ブームというものは周期があり、今の『なろう系』ブームが終わったとしても半世紀後くらいにまた蘇ることだろう。

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