表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

慌ただしい日々が始まりました


 ローゼン学園の生徒会室。各国の要人が集うこの場所は、迎賓室と呼んでも差し支えないほど、豪奢な造りになっている。

 その長机を囲む生徒たちは、国の代表者らしく凛然としていた。


「みな、一昨日は学園外での行事にも関わらず、星祭りの見回りご苦労だった。一方、一年生は楽しむことができただろうか。来年は君たちが新入生を導く立場になる。今日の報告会議で学んだことを、ぜひ来年に活かしてほしい」


 クロードがひと呼吸おくと、整然とした返事が返ってくる。

 副会長である森人族のアラニオンが進行を務め、会議は滞りなく進んでいく。順番に報告される内容はどれも些細な出来事で、今年の星祭りが平穏に終わったことを感じさせた。

 最後の生徒が立ち上がる。


「特に問題はありませんでした」


 そう短く述べて着席すると、会議の終わりが近づいてくる。

 事務的なやり取りが続いたのち、クロードがいつものように問いかけた。


 「では最後、何かある者はいるか」


 誰も口を開かず、そのまま定例通りに終わるはずだった会議。

 その流れを変えたのは、静かに挙げられたひとつの手だった。



 サワサワ、ピチチチ、葉が揺れ、どこかで小鳥が鳴く。

 木漏れ日が降り注ぐ昼下がりの園庭で、優雅な紅茶の香りに包まれている、見目麗しいひと組の男女。

 そのうちの一人、オフィーリアは、静かにカップをソーサーに置くと、にこりと微笑んだ。


「えぇ、おかげさまで元気になったわ。心配してくれてありがとう」


 クロードは一言、それはよかった、と返した。


 そして沈黙が流れる。


 オフィーリアは白いアイアンテーブルに並べられた茶菓子を手に取り、上品に口にする。

 クロードは再び紅茶を嗜んでから、そういえば、と口を開く。


「……君の新しい友人だが、どういった経緯で仲良くなったんだ?」

「まぁ、ふふ、女の子同士の秘密です」


 そう言われてしまったら、何も言及できなくなる。クロードはんんっと咳払いをした。


 再び沈黙が落ちる。


 そよそよ、と二人の間に風が通り抜けた。


「……うふふっ、もうだめ。はぁ、面白いんだから。ごめんなさい、少し意地悪をしたわ」

「……オフィーリア、やはり君は」

「ええ、気づいていたわ。幼馴染をなめないことね。婚約者でもある私にまで秘密にするなんて、酷いじゃない」


 意趣返しだと笑うオフィーリアに、クロードはすっかり眉尻を下げる。


「……番だと、確信が持てなかった」

「あれだけ見ておいて?」

「……確信を得るための観察をだな」

「そう。それらしい理由を作ったものね。私に相談もなく」


 つん、とわずかに棘のある声色に、クロードはとうとう肩まで下げた。


「……悪かった。でも私は、私の婚約者を大切にしたいと思っている」


 オフィーリアは瞬く。

 普段は凛と伸ばされている高い背が、小さく丸まっているのを見て、ふっ、と綻んだ。


「……私には、番なんて必要ない」


 だがこの言葉にストンと笑顔が落ちる。


「クロード、あなた馬鹿なの?」


 オフィーリアの声はどこまでも冷ややかだった。


「なっ、馬鹿だと? 言葉が過ぎないか? 私は君を思って」

「番に出会って頭にお花でも咲いてしまったのかしら。クロード、あなたは竜王国の王太子なのよ。子が成せると神から保証されている番が、必要ないなんて、許されないわ」


 その言葉に、頭から冷水を浴びせられたかのような衝撃を受ける。


 クロードは個人の意思で伴侶を選んで良い立場ではない。

 本能も、感情も、理性も、関係がない。これは義務だ。


 拳を固く握りしめて、クロードは苦しそうに問いかける。


「……だが、オフィーリア、君はそれでいいのか」

「……ねぇクロード、私、あなたの子供を産まないですむのなら、その方がいいわ。私とあなたは幼馴染だけど、それ以上でもそれ以下でもないもの」


 ピチチ。ピチチチ。重い空気の中でも小鳥は歌う。


 二人は歳が近く、幼い頃はきょうだいのように育ってきた。距離ができてしまったのは、むしろ婚約が決まってからだ。


「クロード。考えてみて。もし、私に番が現れたなら、あなたはどうしていた?」


 そんなもの、決まっていた。



 ひと組の男女が、その在り方を変えようとしている頃。

 ローゼン学園のとある場所で、ミュリエッタは泥を被っていた。


「…………」


 どろり、と泥が肩から流れ落ちる。


「…………えっと」 


 目の前には同じく泥にまみれた男子生徒が二人。そろって青い顔をして、やっべぇ、と顔中に書いてある。

 髪に泥。

 制服に泥。

 靴に泥。

 そしてじわじわと冷たくなっていく体。


「まずは謝って欲しい」

「「すみませんでした」」


 どうやら喧嘩をしていたらしい二人の謝罪は、仲良くそろった。


 片方が投げた土入りのバケツを、もう片方が避けた結果、その軌道上にいたミュリエッタに被弾したらしい。

 元気でなにより、なんて対応が出来るほど、ミュリエッタは大人ではない。


「何してるのよ馬鹿男子! ミュリエッタ、大丈夫? ごめんね、こっち手伝いに来てくれたのにこんな目に合わせて。ちょっと待っててね、あいつら埋めてくるから!」


 そう息巻く友人を、ミュリエッタは慌てて止めた。


「待って待って、埋めるのは駄目。土壌が変わっちゃうわ」

「それもそうね! 蹴飛ばしてくるわ!」


 ミュリエッタはカリンに激励を送った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ