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春のプールはジャージの季節  作者: 与一
五 午前の学校
44/49

まだ誰も来ていない

朝、いつものように自宅を出る。校門を通り過ぎて、下駄箱で上履きに履き替えた。昇降口から伸びる廊下は昨日と全く変わらない光景だ。4日目だから、さすがに慣れた道のりではある。

もうすっかり慣れた教室に入る。いつもなら先に来ている芦川は、今日はまだ来ていない。

ふと、昨日のことを思い出す。2時間目のプールサイドでのストレッチ。ジャージ姿のまま、先生の指示で行うストレッチは、なんだか新鮮だった。そして、洗面器を使った息継ぎ練習。あの時の芦川の横顔。真剣な眼差しで水面を見つめる姿が、今でも脳裏に焼き付いている。彼女の臙脂色のジャージの袖口が水に触れそうになっていた光景も。

今日が補習の最終日。何となく感慨深いものがこみ上げてくる。4日間という短い期間だったが、この特殊な環境で過ごした時間は、俺にとって大きな意味を持つようになっていた。特に芦川との関係性は。幼馴染だけど、中学は別だった。そして高校でまた一緒になり、会えば話すようにはなっていたが、ここまで一緒に過ごすことはほとんどなかった。

今日が補習の最終日。何となく感慨深いものがこみ上げてくる。4日間という短い期間だったが、この特殊な環境で過ごした時間は、俺にとって大きな意味を持つようになっていた。特に芦川との関係性は。幼馴染だけど、中学は別だった。そして高校でまた一緒になり、会えば話すようにはなっていたが、ここまで一緒に過ごすことはほとんどなかった。

この補習を通して彼女の新たな一面を見ることができた気がする。特に昨日のプールサイドでストレッチをしている時の姿が頭から離れない。あの臙脂色のジャージに包まれた彼女のシルエット。プールサイドでジャージ姿のまま静かに身体を伸ばしていた光景が、頭から離れない。

「おはよう」

不意に教室の入口から声がした。振り返ると、芦川が立っていた。今日も登校時は臙脂色のジャージの上に黒いセーラー服の上着を着ている。

「あれ? 遅かったな」

俺は思わず声に出した。普段なら俺より早く来て準備していることが多いのに。今日に限っては俺のほうが早かった。

「ちょっと用事があってね」

静かに答える芦川の表情はいつもと変わらずクールだ。彼女はカバンを机に置き、俺の隣の席に座った。教室は他に誰もいないので、俺たち二人だけの空間になっている。

「今日は補習の最後だな」

俺が声をかけると、芦川は小さく頷いた。

「うん。最終日かぁ……」

彼女の声にはどこか感慨深いものが含まれていた。昨日までの補習を振り返るように、窓の外を見つめる芦川の横顔に静かな美しさを感じた。

「佐藤と一緒だったから……」

突然、芦川が呟いた。俺は思わず彼女の顔を見た。

「なんだかあっという間だったかも」

その言葉に胸が熱くなるのを感じた。彼女も同じように感じてくれていたんだと思うと嬉しい。

「そうだな。俺も芦川がいたから楽しかったよ」

正直に言うと、芦川の頬がほんのり赤くなったような気がした。彼女は何も言わずに視線を逸らした。その仕草が妙に可愛らしい。

「ところでさ、佐藤は春休み、何か予定とかあるの?」

突然の質問に戸惑いつつも答える。

「んー、特にこれといった予定はないかな。課題やったり、ちょっと外に出たりするぐらいだけど」

「ふーん、そっか」

芦川は軽く頷いた。

「そういうお前はどうなんだ?」

俺が尋ね返すと、彼女は少し考えてから答えた。

「まあ、プラネタリウムには一度は見に行きたいわね。新しい投影が始まるらしいから」

「天文部だもんな」

「そうね。好きだし」

芦川は嬉しそうに頷いた。その横顔が、春の光に照らされて、とても美しく見える。臙脂色のジャージと黒のセーラー服のコントラストがいつも以上に映えている。

「それに、他にもやってみたいことがあってね」

芦川は優等生だから、俺と違ってしっかり春休みの計画を立ててるんだろうなと、妙に納得した。俺は相変わらずだらだら過ごしちゃう予感がする。

「今日も座学を1時間してから、プールサイドで実習だな」

俺が言うと、芦川は無言で頷いた。彼女の唇が少し笑みを浮かべている。

「そうね。最後だし、頑張ろう」

確かに最後。この4日間はきっと一生忘れない。そんな気がする。1時間目が始まるチャイムが鳴った。


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