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春のプールはジャージの季節  作者: 与一
二 やわらかな光
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安心と快適の舞台裏

「さて、次はこちらです」

先生が指差したのは、プール入口付近にある小さな個室だった。磨りガラスのドアが付いている。

「こちらは消毒室になります。プールに入る前には必ずここを通っていただきます。中には水温を一定に保つための特殊なフィルターが搭載されていますよ」

なるほど、感染症対策か。徹底しているな。

「プールの水は常に循環濾過され、塩素消毒も行われていますので、衛生面も安心してください」

説明は丁寧で分かりやすい。

さらに奥へ進むと、壁一面にモニターが並んだ制御室のような場所が現れた。様々な数値がリアルタイムで表示されている。

「このように、プールの温度や湿度、水質などはすべてこのコントロールパネルで管理されています。今は27℃に設定されていますが、季節によって調整可能です」

パネルに触れる仕草に、液晶画面が明るく光った。

「水温も高いんですね」

思わず口にすると、先生は頷く。

「ええ。春先でも温かいので快適に泳げます。特に初心者の場合、冷たい水だと体が縮こまってしまいますからね」

確かにそうだ。中学の頃、水泳の授業で足がつって危ない目に遭ったことを思い出す。あのときも水が冷たかった。

「すごいわね……全部機械で管理されているなんて」

芦川も目を丸くして声を漏らす。

「どうですか? なかなか壮観でしょう」

満足そうな笑みが、空間の明るさと重なった。

「はい! すごいです!」

俺と芦川は同時に感嘆の声を上げる。まさか学校にこんな素晴らしいプールがあるとは思わなかった。水泳部でなければ縁のない場所だと思っていたが、こうして見学できるのは貴重な体験だ。

「このプールは、体育の水泳の授業や競技会、水泳部の練習だけでなく、体力向上のために他の部活動や、希望する生徒にも開放されています。健康増進にも役立ちますからね。プールの維持には費用がかかりますので、水泳部としても、他の人たちに利用してもらったほうが存続のためには良いんですよ。時々、市の水泳クラブの子供たちに開放することもあります」

最後にそう付け加え、学校としての配慮や運営の事情も示してくれた。公立高校ならではの現実的な側面が、説明の端々から感じられる。

「消毒装置はあそこに見える大型のタンクです。絶えず循環しながら、一定量の塩素とオゾンで殺菌と脱臭を行っています。このおかげで、塩素特有の強い匂いも抑えられているんですよ」

壁際に据え付けられた金属製のタンクを指差す。複雑なパイプが四方に伸び、まるで巨大な生き物の血管のようだ。ブーンと低い駆動音がかすかに響く。

「水温も見てください。プールサイドのあちこちに温度計がありますから」

指先の先には、プール縁に取り付けられたデジタル表示器が光っている。「29.6℃」という青白い数字が浮かび上がっていた。

「水温が低すぎると筋肉が冷えて怪我をしやすくなりますし、高すぎると体力を消耗してしまいます。このくらいの温度が、人間が最も快適に運動できると言われているんですよ」

俺は水面に視線を落とす。確かに、この水温なら裸足で踏み入れても心地よさそうだ。

「へぇ……本当に細かく管理されてるんですね」

素直に感心する俺に、先生は穏やかに頷く。

「ええ。最近は技術の進歩で、こうした継続的かつ均一な処理が可能になりました。だから常に清潔で安全な水を提供できるんです」

水温表示の近くにある小さなコントロールパネルを軽く叩く。複雑なディスプレイが埋め込まれており、操作の仕組みがなんとなく伝わる。

「さらに、水圧や水流を調整するポンプシステムもあります。このプールは、泳ぎ方に応じて水流を変えられるんです。クロールやバタフライのように抵抗が必要な泳ぎでは強めに、平泳ぎや背泳ぎのように流れる感覚を重視する場合は弱めに設定できます」

専門的な説明だが、分かりやすく、つい聞き入ってしまう。

「へえ……だからコースごとに水流が違うんですね」

改めてプールを見渡す。奥のコースと手前のコースでは、水面の揺れ方が微妙に異なるのが分かる。

「その通りです。佐藤君、観察力がありますね」

褒められて少し照れくさくなる。

指先のほうを見ると、プールの片隅に、コンクリートの段差がいくつか作られた部分がある。水際まで滑らかに続き、車椅子や歩行補助具を使う人でも入水しやすそうだ。

「プールサイドへの出入り口にはスロープも設けてありますし、万が一転倒しても衝撃を吸収できる素材です。完全バリアフリー設計ですね」

「なるほど……誰にでも開かれているんですね」

芦川が驚きと感心を込めて声を上げる。先ほどまでの翳りはなく、純粋にこの施設の配慮の行き届きぶりに目を丸くしている。


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