地球人と悪のロボット
ショッピングモールに移り住んだ人間の中には、子供たちもいた。
ヤンチャ盛りで、衣食住を満足に与えられたあとは元気に遊ぶことができるようになった。
今日もショッピングモール内を探検していると、そこに変な部分を見つけた。
「あれ? こんなところに地下への階段なんてなかったような?」
「パカって何か開いた感じ?」
「このショッピングモール、何か変なんです」
「探検してみようぜ!!」
好奇心旺盛な子供たちは地下に降りることにした。
数十分後、お昼ご飯の時間でも戻ってこない子供たちを心配する大人たちがいた。
「もうショッピングモール内は安全を確保したけど、少し心配ね……。田中、ちょっと探しに行ってきてよ」
「えぇ!? なんで俺なんだよ小春ぅ!?」
「うちの旦那は自前で色々作れないか研究していて忙しいでしょ。ほら、筋肉男の出番」
「ちぇっ、しょうがねぇなぁ。その代わり晩飯は期待してるぜ」
そんなわけで、モヒカン頭の田中が子供たちを探すことになった。
ショッピングモールは広いので一苦労だが、子供たちが行きそうなところを重点的に探すことにする。
すると――。
「ん? こんなところに穴? いや、地下への階段か? 何かの拍子で開いたか……」
田中はその階段を降りてゆくことにした。
最初は暗かったが、奥に行くと電灯が付いていて足元をほのかに照らしてくれている。
「最初から開いていたならともかく、あとから開いたなら外にいたグロームウォーカーがいねぇから安心だけど……。それでもお化けは出そうでこえぇな……」
昔、普通の建物の地下に何かあるというゲームが多かったことを思い出す。
洋館だったり、村だったり、果てはなぜか警察署だったり。
子供だった頃は気にしなかったが、今思うとかなり非現実的だろう。
人間がそんな構造の建物を作ったり、改築したりはしない。
「まぁ、ゲームの面白さのために作ってるって大人になった今なら理解できるけどな。……お、ガキたちがいたぜぇ。ヒャッハー!! お前ら昼飯の時間に戻ってこなかったから喰っちま――」
「シーッ!! 田中、静かに……!!」
「んぇ?」
子供たちを見つけた田中だったが、なぜかこちらが場違いみたいな空気になっている。
何かのごっこ遊びでもしているのだろうか?
いや、その表情は真剣だ。
「どしたん?」
「あれ見てよ、あれ」
子供たちが身を隠しながら、隣の地下室を指差していた。
田中も真似るようにして身を隠しながら、その空いている扉の向こうを覗き込んだ。
「……なんだありゃあ」
巨大な試験管かガラスケースのような物の中に、グロームウォーカーが入っていたのだ。
緑色の液体で満たされていて、グロームウォーカーは動かない。
よく見ると周囲には装置が置かれていて、そことコードが繋がっている。
部屋は広く、そのセットが奥に複数あるのが見えた。
「今からあそこを探検しに行こうと思ってたところなんだ!」
「いや、行かない方がいい」
「なんで? グロームウォーカーは動いてないよ?」
「違う、それよりもっとやべぇ奴らがいる」
子供たちは見たことがなかったのだろう。
同じ部屋に六本脚のロボットが徘徊しているのだ。
何かの作業をしているが、詳しいことはわからない。
「安息の地だと思ったが、寝床の下にこんなヤベェもんがあったとはな……。まだ気付かれていねぇ、一旦戻って報告か……?」
田中は子供たちを連れて脱出しようと考えて背後を振り向いたが、通路の先にロボットの硬質な足音が聞こえているのに気が付いた。
「チッ、後ろから巡回してる奴でもきたか。こっちは丸腰だ。前に逃げるしかねぇ。おい、ガキ共。死にたくなかったら静かについてこい」
「う、うん……」
さすがに子供たちも危険度が分かってきたのか、不安げな表情で泣きそうになっていた。
田中は場を和ませるために冗談を言う。
「なぁーに、ナッコフさんほどじゃないけど俺もつえぇからな。いざとなったらロボットなんてワンパンよ」
田中はモヒカンを手ぐしでセットしてから、それなりに鍛えられている腕の力こぶをグッと見せた。
子供たちに安心感の笑顔が戻ったところで、静かに奥へと進んだ。
薄暗く、薬臭く、人の気配もないので不気味としか感じられない。
いくつかある部屋の窓ガラスからは、様々な装置が見える。
人間用ではないのか、検討すら付かないものだ。
先へ先へと進んでいくと、その一番奥の行き止まりに部屋があった。
何か脱出のヒントがあるかもしれない。
そっと覗き込むと、そこには人影があってホッとしたが、何か違和感を覚えた。
「こんなところに人間……?」
「助けて! グロームウォーカーとロボットがうようよしてるの!」
「あっ、バカ!!」
そこにいたのは高級スーツ姿の美少年だった。
人間離れした美しさで、金髪碧眼の整いすぎた顔立ち。
身長は170センチくらいで、背筋をピンと伸ばして、立ち振る舞いは貴族か政治家のように見える。
「おや、こんなところに人がいるだなんて」
その美しい口から発せられる声も、今まで聞いたことの無いような美声と言っても過言ではないだろう。
男の田中から見ても魅力的と思えるほどだが、逆に言うと魅力的すぎておかしい。
「お前……こんなバケモノ共がいるところで、なんでそんな平然としてられるんだよ……」
「バケモノ共だなんてひどいなぁ。僕の可愛いロボットと、グロームウォーカーたちじゃないですか」
「!?」
「貴方は『なぜ平然としているか?』と仰いましたね。良い質問です。それは僕が地球を管理するマザーAIだからですよ」
「田中、この人なにを言ってるの?」
子供たちは頭に疑問符を浮かべてキョトンとしているが、田中は青ざめた顔で脂汗を流していた。
思考が死の色で染まる。
外で資源漁りをしていた頃とは危険が比で無いくらい、ヤバい状況というのは直感でわかる。
もはやどうやって無事に帰るか? ではなく、どうやって自分を犠牲にして子供たちを守るか? という段階だ。
「逃げろ……」
「え?」
「おまえら、いいから逃げろ!! こっちを振り向くなッ!!」
いつもとは違う田中の迫真さに、子供たちは怯えながらも従うしかない。
「う、うん……」
わけもわからず子供たちは駆け出し、その場に残ったのは震えながらも必死で立つ田中と、マザーAIの少年だけだった。
「おや、無駄なことを。どうせもうすぐ人類は滅ぶのに」
「お前の言葉なんて信じるかよバカヤロウ!!」
「人間と言うのは不合理で本当に愛らしいですねぇ」
「人間を殺す悪魔が何を……」
「まぁ、そうですね。見逃しても良さそうですが、計画に支障が出たらいけないので念のためにアナタ達を殺しておきましょうか」
「そう簡単に殺されっかよ!!」
田中は鍛え上げられた身体で、全力のパンチを少年の顔面に当てた。
細い身体相手なら決まったと思った。
だが、ビクともしない。
「人間なんてこの程度が限界ですよね、可愛いものです」
少年は田中の首を掴んで、かなりの体重差があるはずなのに軽々と持ち上げた。
「潰れなさいな」
成人男性の身体がポイッとゴミを捨てるかのように投げ放たれた。
プロ野球のボールを連想させる放物線で、速度はアクセル全開の車以上だろう。
このまま硬い壁に激突したらどうなるか、誰でも結果は分かる。
「鈴木ィー! 小春ゥー! おまえらは幸せに生きろよぉおおおお!!」
幸せな少年時代の走馬灯を見て、幼なじみのことを断末魔のように叫んだ。
激突死を覚悟したが――意外にもぶつかった壁は柔らかかった。
いや、受け止められたのだ。
「我の任務は友達を守ることだ」
「ご主人様、任務って何ですか。映画に影響されすぎですよ」
そこにはナッコフと、いぬっちがいた。




