戦神と世界救済データセンター
ナッコフといぬっちは、アシモンに指定された地点へと向かっていた。
相変わらず灰色の廃墟が続き、人間は見かけない。
「ご主人様、もうすぐ目的地に到着しますが――」
ナッコフの横を、いつものように並んで歩くいぬっちがチラッと目線を上げる。
「あの、またその銃という物を使うのですか?」
「うむ! こちらの世界の武器であるし、サバイバルゲームでコツを掴んだからな!」
いぬっちは大きな溜め息を吐いた。
あのサバイバルゲームでは、一発もエアガンの弾を当てずに勝利をしているのだ。
ナッコフは年甲斐もなく楽しかったから、そんなことはお構いなしなのだろうと察する。
「さぁ、出てこいグロームウォーカー!!」
『Pi、PiPiPiPiPi』
目的地である建物の門から出てきたのは、生身のモンスターであるグロームウォーカー……ではなく、ロボットだった。
下半身は脚が六本ある昆虫のようであり、上半身は人間のようだが手部分の指は三本しか無い。
顔面は液晶がついていて赤い顔文字のような表示をしているが、今はニコニコ顔である。
「これはロボットという奴か」
「アシモン以外は初めて見ますね」
「赤く点灯していたらウイルスに感染しているから敵ということだったな。つまり撃ってヨシ! 狙いを定めて……うおおおおおお!!」
ナッコフはお馴染みのM4カービンライフルを構えて、トリガーハッピー状態でマガジンを全発射する。
銃身が加熱され、乱射によって砂ぼこりが舞い上がる。
そして、いぬっちは信じられない光景を目にする。
「あ、当たっていますよ!?!?!?!?」
「いや、その驚き方は少し失礼じゃないか?」
「あのご主人様がついに!! すごいですワン!!」
カァンッ! カカカンッ! と命中する音が響き渡る。
いつもだったら地面や壁としか接触しない弾丸が、ついに敵に命中したのだ。
今夜はハンバーグだ! というテンションである。
徐々に砂ぼこりが晴れてゆき、初めての倒された得物を目にすることができる――と思ったのだが。
「「……」」
ナッコフといぬっちは黙り込んでしまった。
敵ロボットは無傷だったからだ。
正確には少し表面装甲を凹ませたりしているが、普通に行動し続けている。
『PiPiPiPiPiー!!』
ロボットは三本指で器用に対物用のロケットランチャーを構え、放ってきた。
呆然としているナッコフの顔面にクリーンヒット。
爆煙が上がる。
横にいたいぬっちは舞い上がる風に晒されながら同情した――ロボットに。
「ウォォォオオオオ!!」
爆煙の中から、無傷だったナッコフが雄叫びを上げながら出てきた。
周囲の大気をビリビリと震わせるような、憤怒と絶望が込められている。
その目には涙。
「弾切れしたのだから、もう拳で倒すのも仕方がないよなぁ!!」
「ご主人様、丁度あそこに弾が落ちています」
「ナッコフパーンチ!!」
弾丸なんかよりも百倍強力な拳が、ロボットの装甲をひしゃげさせ、そのまま数百メートル先まで吹き飛ばし、地面に激突した衝撃でバッテリーが爆発していた。
「ふぅ……仕方がないパンチだった」
「そ、そうですね……」
そうは言いつつも、ナッコフは落ちていた弾丸を拾って、またいつでも銃を撃てるようにはしておいたのであった。
研究所の名前は『世界救済データセンター』と書いてあった。
本来、病院のようなラノリウムの床は輝き、清潔感もあるが、長らく放置されているのでホコリっぽくもある。
世界救済を掲げているのだから、この世界がこうなってしまったあとに名付けられた場所なのかもしれない。
アシモンから教えられた見取り図によると、所長の部屋に必要なものがあるらしい。
いつものように人間が誰もいない静かな建物の中を歩いていると、生きているのが自分たちだけのように錯覚してしまう。
黄昏時のような気分だ。
「ここが所長の部屋か」
「敵は――いなさそうですね」
ドアを開けると、長い間誰も入室していなかったであろうホコリっぽさがさらに強く感じる。
部屋の中は所長室というより、ベッドやバスルーム、冷蔵庫などもあって私室のようだ。
実際、生活感もあるのでこの中で暮らしていたのだろう。
所長の死体はないので、どこかで生きている可能性もある。
だが、周囲の状況からしてそれは望み薄だろう。
棚にあった映画のディスクを見つけ、手を合わせて祈りを捧げてから、それを漁った。
ついでにオススメされたポップコーンとコーラも部屋にあったのでもらっておく。
「さてと、あとはアシモンから注文があったデータとやらだが……」
「電灯すら付かないので、ここには電気が来ていないと思った方がよさそうですね」
「このパソコンという機械の電源を付けて、データを回収という手順を教えてもらったけど、それは無理そうか……」
電源が入らなければ、パソコンなどただの箱でしか無い。
あのショッピングモールにだけ電気がきていたのは、奇跡――それかAIが意図的に残していただけなのだろう。
データは回収できない、それならばどうするか。
「パターンBというやつだな。教えられた通りにケーブルを外してっと……」
ナッコフはケーブルを引き千切らないように注意しながら、そっと外していく。
結構な大きさのデスクトップPCを片手で持ち上げ、それを肩に乗せた。
「よし、これを持ち帰れば完了だな」
「電気が必要な機器……地球は不便なものを作りますね。魔力で使えるようにすればいいのに」
「ははは、それぞれの文化の違いというやつだろう」
ナッコフは肩にPCを乗せ、笑いながら帰路についた。




