戦神とハンバーグ
集落の住人たちはファミレスに集まっていた。
テーブルと椅子もあるし、食器や厨房もあるのでここが食堂の役割になる。
電気式のIHも使えるので、温かい食事も作れる。
だが、料理の基本は地道な手作業だ。
包丁で玉ねぎを半分に切って、外側を剥いて、芽を取り除いてからみじん切りにする。
根気がいる作業で、目に染みたりもするので慣れていないと大変だ。
そのみじん切りにした玉ねぎをフライパンで炒め、ソース用を少し取り分けておく。
パン粉と牛乳――は無いので、粉乳を入れて混ぜたものを用意しておく。
ハンバーグ用のミンチ肉は塩を入れてよく揉む。
これらをすべて入れたあと、さらに卵、コショウ、ナツメグなどのスパイスを追加投入。
再びこねる……ハンバーグとはひたすらコネコネする料理なのかもしれない。
叩き付けるようにして、空気を抜いておく。
それを中央を窪ませた小判型に整える、これは中に火を通りやすくするためだ。
フライパンを温めておき、そこに投入するとジュワァという音がし始める。
蓋を使って蒸し焼きして、時々肉汁をかけるようにする。
きちんと火が通ったら皿に移して一旦の完成だ。
ここでまだフライパンを洗わずに、ソースも作る。
残った肉汁がソースの良い隠し味になり、ハンバーグを引き立てる陰の立役者となるのだ。
――こうして、ようやくナッコフ達の前に皿が出された。
「おぉ……これがハンバーグというものか……!」
テーブルに置かれたのは大きなハンバーグとライスの皿だ。
ナッコフは初めて見る料理をマジマジと観察する。
「ふむ、肉を焼いた物か……焼いた肉程度なら我の故郷でも見たことがあるな……。まぁ、せっかく作ってもらったのだから、食べはするが……今までの感動はないだろうな……」
少し残念そうにしながら、ナイフで切ってみる。
その瞬間、ジワッと見たことの無いような量の肉汁がしみ出してきたのだ。
「こ、これは……! 信じられんくらいの肉汁が溢れだしてくるだと!? いや、問題は味だ……。見た目などいくらでも取り繕える……」
フォークで、デミグラスソースがたっぷりとかかったハンバーグを口に入れる。
一噛みした瞬間、肉汁が口内に染み渡る。
見た目からして予想はしていたが、それ以上に濃厚な肉汁の味が口の中を駆け巡り、旨みで脳が支配された。
「はぉあ!! 美味い!! 何だこの肉は!! これが本当にただの牛肉なのか!?」
「あ、そういえばナッコフさんが見たのは運んできた牛肉だけでしたね」
「なにぃ!? 他に何か入っているとでも言うのか!? 隠し球があるのか!?」
「これは合い挽き肉です」
「あいびき……にく……?」
「牛だけで無く、豚も混ぜた肉です。ハンバーグはミンチにするという特性上、こういうこともできるんですよ。あとは畑で取れた玉ねぎを飴色になるまで炒めて入れたり、ハンバーグに最高に合うナツメグを入れたりと、シンプルな見た目よりも隠されていることが色々と多い料理なんですよ」
「なるほど……侮れぬな……ハンバーグ……。この戦神ナッコフを打ち負かすとは……」
そう言いながら、モグモグ、パクパクと平らげていく。
ライスとのハーモニーもたまらないし、横にあった芋を間に挟むとなおのこと美味く感じる。
「どうですか? 満足ですか?」
「ああ、我は大満足だ。このソースも良かったな……デミグラスソースと言ったか……」
「それもケチャップとウスターソースを混ぜたものですね」
「ふっ、様々な材料が混ざり、この一つのハンバーグという料理を作り上げている。まるでこの集落のようだな」
腹と心が満たされ、満足げに言った。
それをいつの間に横でジーッと見つめながら、涎をダラダラと垂らしているいぬっちがいた。
小春はそれに気が付き、声をかける。
「あら、ワンちゃんも食べたいの? でも、熱いし、玉ねぎが入ってるから……」
「私はブラックドッグという種族なので、熱いのも玉ねぎも平気だ!! 失敬な人間め!!」
「あらあら、ごめんなさいね。まだあるけど、食べる?」
「た、食べる……」
ナッコフはそれを笑いながら見ていた。
「ははは、さすがのお前も小春さんには敵わないようだな!」
「美味しすぎるワン!!」




