戦神とサバイバルゲーム
無事に集落へ戻って薬を飲ませて、しばらくしたら小春の容態は安定した。
「さて、我に手料理を――」
「やった! ショッピングモールのグロームウォーカーを倒したのなら、集落をそっちへ移せる!!」
「もうここは限界だったからな……奇跡だ……」
ナッコフは言葉を遮られてしまったが、何か空気的に手料理を食べたいと言えない感じになってしまった。
「あそこのショッピングモールはまだ電気が来ていたぞ!」
「それなら冷凍食品とかも、もしかしたら無事かも」
「冷凍肉があれば、恩人のナッコフさんにハンバーグを食べさせてあげられそうだ」
「我が初めて聞く名前……ハンバーグという料理なのか!」
報酬を忘れられていなかったと知ってホッとすると同時に、聞いたことの無い料理名を言われてテンションが上がってしまった。
それもあって善は急げとばかりに手伝う事にした。
「さぁ、集落を移すには荷物も移動させなければならないだろう! 我がどんな物でも運んでやろう! まずは小春さんをベッドごと行くか!」
「うわっ、すごっ」
顔色のよくなった小春は、ベッドの上で子供のように喜んでいた。
***
ショッピングモールはかまぼこ形の構造上、大きな入り口が東西に二つだけある。
他にも小さい入り口はあるが、それらはドアで鍵がかかるので問題ないだろう。
大きな入り口の片方は完全に塞ぎ、もう片方はバリケードを造設しつつ、簡易的な扉を設置した。
グロームウォーカーたちは扉を破ってくることはあっても、開けてくる知能はないのである程度の対策にはなるだろう。
「すごい! 電気が通ってるよ!!」
室内の灯りに子供たちがキャッキャと喜んでいる。
しかし、鈴木はなぜか思案げな顔をしていた。
「どうした、鈴木」
「あ、ナッコフさん。ちょっと考えてしまって……」
「ふむ?」
「こんな世界になって全国で停電しているのが普通と思いきや、一部の大きな施設などでは電気が通っているようなんですよ」
「それがどうかしたのか?」
「だって変じゃないですか。発電所を動かすにも人がいて、まるで人為的に電気を送る場所を選んでいるような」
ナッコフとしてはこの世界の発電所とやらはわからなかったが、それでも電気についてはコンピューターゲームの時にアシモンから教わったので概要くらいは理解できる。
そこで気になることがあった。
電気が通っている施設があるのなら、わざわざ雷龍の角片などを使わずとも、そこへ行けば良かったのではないかと。
「俺、たまに思うんです。グロームウォーカーが多く巣くう大きな施設に電気が供給されていると仮定して、電気は何のために使うのかと。グロームウォーカーには必要ないし……」
「おい! 二人とも早くこっちに来てみろよ!! おもちゃ屋に面白いものがあったぜ!!」
途中、田中が大声で二人を呼びに来て話は中断されたのであった。
「これは……なんだ?」
呼ばれて向かった先には、棚に積まれた箱が大量にあった。
サイズは大人の肩幅の物から、その半分くらいの物まで。
厚さはそこまでない。
「いわゆるエアガンというオモチャだよ、電動式のエアソフトガンだから充電すれば使えそうだ」
「形的には銃だが、そんな物をオモチャにして大丈夫なのか?」
「ああ、ナッコフさんは海外の方っぽいからわかりにくいか。これは殺傷能力の無いオモチャで、プラスチックの弾が飛んで、当たっても少し痛いくらいだ」
「なるほど」
たしかにパッケージに描かれているものは、ナッコフが使っているM4カービンアサルトライフルに似た物や、それよりも小さいサイズの種類がある。
「なぁ、これで遊ばね?」
「お、おい田中。こんなときに……」
「田中……鈴木……」
ナッコフはギロリと睨みを効かせた。
身長二メートルの筋肉質な老人がそうしたら、普通の人間である二人は蛇に睨まれたカエルのように身をすくませてしまうのも道理だろう
「ほ、ほら……ナッコフさんも止めとけって言って――」
「面白そうだな。その電動式の銃のオモチャはどう使うんだ?」
「――え? ナッコフさん、こういうのに興味あるんですか?」
「うむッッッ!!」
ナッコフの返事は自信と気迫に満ち溢れていた。
まるで戦闘時の鬨の声のような響きで、おもちゃ屋の中をビリビリと震わせた。
耳をキーンとさせながら、常人の二人は苦笑いをする。
「まぁ、俺たちの恩人であるナッコフさんがやりたいならいいか」
「それなら集落のみんなでやろうぜ。電動ガンの数は足りてるし」
「いや、みんなを集める意味あるか?」
「ありあり。まだ慣れていないショッピングモール全体をフィールドにすることによって、内部を把握してもしものときの訓練にもなるしな」
「なるほど……意外と考えてるんだな……」
「まっ、人数が多い方が楽しいってのが一番だけどな!」
「おい」
鈴木はそうツッコミつつも、ナッコフがワクワクした表情をしているので別に良いかと思うようにした。
それからのスケジュールは、ハンバーグの下ごしらえのあとに、サバイバルゲームをして、対戦後にハンバーグを食べるということになった。
まずはハンバーグの下ごしらえだ。
スパイスや調味料はショッピングモールに大量にあったし、肉も電源が生きていたために大きな冷凍室に吊されている。
野菜は前の集落で育てていたものがあるし、冷凍や乾燥、レトルトの野菜もある。
卵はそこらへんにいたニワトリを飼育している。
もちろん、米もある。
「うひゃー、冷凍肉の塊って重いな……どうやって運ぼう……」
「田中の妻よ、我に任せておけ」
ナッコフは百キロ以上ありそうな冷凍肉の塊を、軽々と担いでいく。
ファミレスの厨房まで運び、ドスンと下ろす。
「ありがとうナッコフさん。あ~、でも、こりゃ自然解凍するまでは硬すぎて切れないか……」
「ふむ、斬れば良いのだな?」
「えっ?」
ナッコフは手をチョップの形にして、目に見えぬほどの速さで斬りだした。
「む、そういえば、どんな形が適しているのだ?」
「す、すごっ……手刀で……。あ、細切れのミンチだけど、さすがにそこまで細かい作業は難し――」
「案ずるな、憤ッ!」
ナッコフは冷凍肉を空中に投げ、手刀を閃かせると、ボタボタと落下してきたのは見事なミンチ肉だった。
「うっそー!? 一家に一人欲しい!!」
「分身は少し大変だから、それは難しいな……」
「ちぇ~、残念。こんな強くて格好良いお爺ちゃんがいたら、絶対に頼りになるもん」
「他に何か手伝うことはあるか?」
「あとは下ごしらえとかだから大丈夫ですよ。お米はうちの頼りないけど、それなりに格好良い夫が運んできてくれてますし」
「そうか。では、あとは任せた。我は……サバイバルゲームというものをやってみたいのでな」
「はい。恩返しのハンバーグの完成を楽しみにしておいてくださいね、ナッコフさん」
***
大体の人間は料理の邪魔だと追い出されたので、サバイバルゲームへ参加することになった。
ナッコフが使うエアガンは、M16という黒いアサルトライフルにスコープを付けたものだ。
本来、狙撃銃では無いM16にスコープは付けないのだが、なぜかおもちゃ屋に置いてあったのだ。
ナッコフは見た目で気に入ったので使うことにした。
「参加者は十名、それぞれ銃を持ったな! それじゃあ、僭越ながら経験者の田中が説明させてもらう!」
ルールは、二チームに分かれての領地占領戦だ。
片方は田中と鈴木がいるチーム五名。
もう片方はナッコフと、お年寄りと子供のチーム五名だ。
バランス的には、強いナッコフがいるので偏らせた感じだ。
自分の陣地側に二ヶ所、相手の陣地側に二ヶ所の計四ヶ所の旗が立っており、その敵の旗を先に取った方が勝ちだ。
打たれた場合は『ヒット!』と宣言して、両手をホールドアップしながら退場する感じだ。
フィールドはショッピングモール全部だ。
銃の狙いはもちろん、敵より先に発見することが重要になるだろう。
その過程でショッピングモールの地形も覚えられるので一石二鳥だ。
「――という感じだ。それじゃあ、三分後に開始で! きちんと長袖の服とゴーグルは外さないようにして、ケガにだけは注意しろよ!」
「すまぬ、我に合う長袖がないのだが……」
「ナッコフさんは大丈夫じゃないかな、うん」
実弾で撃たれても平気なので、プラスティックの弾で撃たれてもケガをするはずも無い
自分だけお揃いではないので、ちょっとだけ不機嫌になるナッコフであった。
ショッピングモールの端と端に移動して、開始時間を待つ。
ナッコフチームは子供と老人しかいない。
「強そうなお爺ちゃん、よろしくね!」
「ナッコフさん、よろしく頼みますぞ」
「ふっ、我に任せろ。銃は本物でも経験済みだ、撃つのも撃たれるのも」
「すごい! 百戦錬磨の銃使いナッコフお爺ちゃんだ!」
そして開始時間になった。
先頭を歩くナッコフは、銃での戦い方をきちんと覚えていた。
射程がある銃は先に発見した方が圧倒的有利になるため、注意しなければならない。
それに待ち伏せも考え、クリアリングという部屋の視覚を確認するというのもある。
緊張感を持ち、一歩一歩進んでいく。
目的地は、敵の旗がある拠点だ。
「……!」
その超人的な耳と目によって、敵が移動しているのを発見した。
ナッコフは覚えたてのハンドサインで敵の数、注意しろというのを後方の味方に伝えた。
圧倒的優位……!
銃を構え、トリガーを引き、そして――。
「……な、なぜ当たらない!!」
全弾外していた。
神はすべての才能を与えていたのかもしれないが、異世界ミドガルにはない〝銃〟の才能だけは与え忘れていたのだろう。
むしろ一般人より酷い、クソAIMだ。
「あっちの方向から撃たれたぞ!! 撃ち返せ!!」
さすがに敵側が気が付き、田中がモヒカンを揺らしながら叫んでいた。
「ナッコフさん、下がって!!」
「ワシたちで応戦じゃー!!」
先に発見した裕利は一瞬で消滅し、単純な総力戦へと移行した。
各自がショッピングモール内の物陰に隠れながら、手に持っているそれぞれのお気に入りエアガンで応戦していく。
バラ撒かれるプラスティックの弾――は、あとで回収するが今は考えない。
ゴーグルもしているので危険性が一切ないものだが、それでも双方の脳内映像ではマフィアの抗争のような迫真の戦場に見えている。
どちらかが全員死ぬまで打ち合うような気迫だ。
「あ、当たらない……!!」
ちなみにナッコフはクソAIMで撃破数0である。
最初は拮抗しているかのように見えたが、敵チームは外で戦ってきた田中と鈴木が率いるチームだ。
クソAIMと子供とお年寄りだけのナッコフチームは一人、また一人と『ヒット!』の宣言をして脱落していく。
そして――。
「なにぃ!? 我一人になってしまっただとぉ!?」
ナッコフ一人と、敵チーム五人になっていた。
「こ、このような苦境に立たされたのは人生で初めてかもしれない……何たる戦況だ……!!」
「ククク……もう諦めろナッコフさん。投降すればハンバーグは保証しよう」
「いや、田中。勝っても負けてもハンバーグは食えるだろ」
もう田中と鈴木のチームは勝利ムードだ。
いくら最強のナッコフでも、クソAIMではどうしようもない。
「でも、ナッコフさんの身体能力なら撃つよりも普通に旗を取りに行った方が早いのでは?」
鈴木がポロッと必勝法を漏らしてしまうも、どこからともなくやってきたいぬっちが自信満々で言い放つ。
「偉大なる戦神、我が主人であるナッコフレディ・アスガルドがそんな卑怯なことをするはずがない!! 誇り高きご主人様は、そんな汚いマネをするなら自らの死を選ぶだろう!! ね、ご主人様――って、いない……」
ナッコフは全力で走っていた。
それはまるで風のように軽やかに、猪のようにパワフルに。
目標地点はもちろん敵チームの旗だ。
取れば勝てる。
「うぉい!! お前のご主人様、躊躇なく走っていったぞ!!」
「……ワン」
「今さらただの犬のフリをするな!! くそっ、撃て撃て!!」
「ダメだ!! デカくても速すぎて当たらねぇ!!」
ナッコフは少年のような笑顔で旗を取って宣言した。
「我の勝ちぃー!!」
「ずりぃー!!」
「ズルくはない、我はルールをちゃんと守って勝ったのだ」
「さすがにそれは予想外だろ!!」
「勝ちは勝ちぃ~」
そんな小学生のような言い争いをしていると、呆れた顔で小春が空鍋を叩いて鳴らしてきた。
「ほらー、くだらないことで喧嘩しなーい。出来上がったハンバーグを食べさせませんよー!」
「ぐぬぬ……我も反省した」
「まぁ、ハンバーグのためには仕方がない……」
対戦した全員は握手を交わして、次の戦場であるハンバーグへと向かったのであった。




