一般人とザコモンスター
モヒカン頭のガッシリした男――田中はショッピングモールの中を歩いていた。
透明な天井から光を取り入れるタイプなのだが、今は外が曇りで室内が暗くなっている。
破損状況は少なく、略奪も行われていないので外見は綺麗なのだが、その分かなり不気味に見えてしまう。
その理由は人がいないからだろう。
だが、人以外の存在はいる――。
「奴らに見つかったら終わりだ……。そうなる前に診療所へ行って薬を……」
田中と、鈴木とその妻――小春は幼なじみだった。
田中は小学校の頃から小春に恋をしていたが、鈴木も入れた三人の関係を壊したくなかった。
中学、高校と進んでも告白できずにいたのだが――ある日、小春から相談された。
鈴木に告白したいという内容だった。
田中は笑顔を見せて、二人ならやっていけるぜと言い放ってやった。
その日の夜だけ、田中は泣いた。
それから世界が〝こんなこと〟になったあと、偶然にも鈴木夫婦と再会したのだ。
相変わらず小春は綺麗だったし、こんな状況でも昔以上に幸せそうだった。
鈴木に彼女を任せてよかった、と思った。
だが、最近になって小春が病気になって倒れてしまったのだ。
医者である鈴木は町で薬を探すも、略奪がされていないのは敵――グロームウォーカーが徘徊している場所だ。
それでも比較的、グロームウォーカーの数が少ない商店街に薬があるかもしれないと思い、攻略しようとしていたところにナッコフが現れた。
最初は薬を持っているかもしれないと思い脅したが、なんやかんやあってグロームウォーカーを倒してくれる流れとなった。
しかし、商店街には目当ての薬がなかった。
そのため、さらに多くのグロームウォーカーが徘徊しているショッピングモールを狙う事になった。
集落でまともに戦えるのは成人男性である田中と鈴木くらいだ。
さすがに今回は生きて帰れるかどうかわからない。
田中は黙って一人でショッピングモールまで遠征してきたのだ。
「たしかここらへんに診療所があったはず……」
田中はショッピングモール内を静かに隠れながら進み、中央にある診療所まで辿り着いた。
途中、グロームウォーカーにも遭遇していない。
「へ、へへ……チョロいチョロい……」
そのまま診療所の中へ進み、薬棚を見つけた。
突如、ガタッと後ろから音がして、振り返る。
「か、風で扉が閉まっただけかよ。驚かせやがって……」
あとは医者である鈴木から聞いた薬の名前が書かれたラベルを見つけ、その瓶を手に取るだけだった。
「あった……! これで小春は助かる!」
そのとき、診療所の奥の部屋から物音がした。
田中は二度目なので驚かず、警戒を緩めていた。
「また風で窓か何かが動いた音かよ」
そのまま出口へ向かおうとしたのだが、再び音がした。
さすがにそこまで楽観的ではない。
ヤバいと思った瞬間、診療所の奥からグロームウォーカーがノッソリと歩いてきた。
たぶんここを住処としていたのだろう。
成人男性よりも遙かに太い腕を伸ばしてくる。
「くそっ!? 死んでも薬だけは持ち帰ってやる!!」
田中は持っていたハンドガンを発砲。
グロームウォーカーの身体に数発打ち込み、怯んだところを横からすり抜けた。
急いで診療所から飛び出し、ショッピングモールの出口へ全力疾走する。
後ろからは銃声を聞いて合流した数匹――いや、数十匹のグロームウォーカーが追いかけてきていた。
「うおおおおお!! ヤバいヤバいヤバい気合い充分だけど普通に死ぬぅぅぅうううう!?」
砂ぼこりと地響きを伴った大軍が押し寄せてくる。
無理だ、どうやってもこんな質量の塊に勝てる人間はいない。
田中は絶望しつつも、走る足を止めない。
全力疾走以上の限界スピードを出して心臓が爆発しそうになっても、足が取れそうになっても、薬だけは何としても届けなければならない。
「死ぬ、たぶん俺は死ぬ!! それでも、一歩でも縄張りから離れたところで死ねば、あとで死体から薬を探してくれる!!」
田中はかすむ目で、前方にグロームウォーカーのような巨大な人影がいるのを見てしまった。
もう距離も稼げない。
ついに死に花を咲かせるときだ。
「あああああああ!! 俺が死んでも、あの子を任せたぞ鈴木ぃぃぃいいいい!!」
「お主を死なせるわけにはいかんなぁ」
老人の声がした。
それはしわがれた声だが、恐ろしい程に力強く、この声なら絶対に大丈夫だという安心感を与えてくれる。
それはグロームウォーカーのような巨体に見えたが、前方にいるのは一騎当千の〝人間〟だった。
龍殺し、人魚喰い、救国の英雄、最強の軍神――ナッコフレディ・アスガルド。
「――なぜなら、お前を助けたら美味いものを食わせてくれるらしいからな! 出でよ――〝神弓アポロテミス〟」
ナッコフの右手と左手に巨大な二つの弓が出現し、それが合体して輝かしき神弓となる。
丸太のような腕で弦を引き絞り、太陽に見間違えるほどの光の矢をつがえた。
それを横にいたいぬっちが心配そうに見ている。
「ご主人様、威力が強すぎてそれは使わないのでは……」
「ここは直線で被害は少なそうだし、手料理のためだ! いぬっちも日本の手料理を食べてみたいだろう!」
「……それは、まぁ……食べたいですね」
「よし! というわけで発射だ!」
冗談のようなやり取りだが、大量のバケモノを瞬時に分解するような光の一射――表現的には極太ビームと言った方が正しいモノが放たれた。
天地を覆う閃光、すべてを破壊する轟音、臓腑までに響く振動。
丁度空いていたショッピングモールの入り口から出口まで一直線で、間にいた数十体のグロームウォーカーを消滅させた。
ついでに薬を持っていた田中を巻き込んでしまいそうだったが、そこは従魔であるいぬっちがフォローしていた。
「あ、ありがとう……」
「いえ、仕事ですから」
田中はいぬっちに襟首を咥えられ、射線軸から回避することに成功していた。




