第82話「声」
ピィーー!!
審判の笛が鳴り、後半が始まった。
緋色は深く息を吐いてピッチに踏み出す。
(もっと試合に絡まなきゃ・・・!)
浦崎の言葉が耳の奥に残っていた。
こんなもんだったか、お前――。
見放されたのか、期待されてるのかわからない… けど、その言葉に負けたくない。
緋色は前を見据えた。
試合再開直後、白チームがボールを保持する。
十河から短いパスが緋色へ回ってきた。
「相原!」
ボールを受けながら、前線を見渡す。
(誰に……篠原さんか、李吏さんか)
だが、3年生たちの動き出しのタイミングが読めず判断がわずかに遅れてしまった。
その隙を、皐月が素早くチェックに入ってきた。
(…しまった!)
スティックを差し込まれ、ボールを奪われる。
「あっ……っ!」
皐月がそのまま颯真へ繋ぐと、颯真は数タッチで簡単に中盤をこじ開けていく。
十河が振り切られるとフォローに入った岩倉までも颯真のスピードに乗ったドリブルについていけない。
勢いは止まらず軽やかに切り返し、サークルの左のスペースに颯真は視線を送る。
そこに、照が走り込んでいた。
颯真からの絶妙なスルーパス。
照が走りながら強烈なスイープヒットを叩き込んだ――!
「よっしゃもらったぁーーーー!!2点目!!!」
ピピィィーー!!
ボールはゴールネットに突き刺さり勝ち越しに成功
黒チーム 2-1 白チーム
「っしゃー!!」
照が拳を握る。
颯真は相変わらずの無表情のまま、喜ぶ照に目もくれず戻っていった。
緋色はその光景を目の当たりにし、
(やっぱり颯真はいつも通りのプレーで初めてのチームの中でもやれている。なのに……僕は―――)
試合が再開され緋色ボールが回ってくると後ろから大きな声が聞こえてきた。
「緋色ー、気にすんなー!次行くさー!」
多那が笑顔で手を振りながら走り出している。
緋色は反射的にパスを出してしまった。
「まだまだこっからさ、楽しもうぜー!」
多那がワンタッチで前へ運ぶ。
緋色「……はい!」
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その後も試合は続く―――
前半と同じだった。緋色のパスはなかなか味方に届かない。
「…くそっ!」
それでも、味方のフォローに何度も助けられながら試合は進んでいった
緋色がプレッシャーを受けて動けなくなると、後ろから声が聞こえてきた。
「緋色…!」
澪凪。
リターンパスを返すと、澪凪はワンタッチで別の方向へ展開し自分の位置に戻っていく。
「無理なら下げても良い。仲間が後ろにいるから大丈夫、任せてもいい。」
緋色がパスコースを見失って立ち尽くせば、近くで陽気な声が響く。
「こっちさ、緋色ー!任せろー」
多那。
緋色がボールを送ると、多那はスペースへ走り込んでチャンスを作る。
緋色は自然と二人にボールを返し、繋げるようになっていた。自分から仕掛けることができなかったが少しずつリズムを取り戻していく。
(僕、何やってるんだろう。助けられてばっかりで…)
いつもよりずっと呼吸が浅い。
黒チームは颯真を中心に攻撃を続けてくる。
颯真のドリブル、照のシュート、宮儀の飛び出し。
次々に襲ってくる個の力を、白チームはフォローしあい何とか凌いでいた。
緋色が上手く機能していなくても、白チームはなんとか持ちこたえていた。
それが、よけいに苦しかった。
(また、二人に頼ってばっかりだ……!)
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時間が、刻々と過ぎていく。
スコアは1-2のまま動かない。
どんどんと残り時間が減っていくなか、緋色はピッチの真ん中で息を切らせていた。
(このまま終わるのか……そんなのいやだ、終わりたくない!)
頭の中で浦崎の言葉が響く。
「こんなもんだったか、
・・・お前。」
――終わりたくない!
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残り、数十秒。
白チームが最後の攻撃を仕掛ける。
中盤で緋色がボールを受け、前を向く。
疲労と焦りから息が切れて足が重い。
それでも――。
(このまま、終わりたくない)
(負けたくない――)
緋色は息を吸い込み、ぐっと眼を見開いた
その瞬間。
視界に入った複数の光
澪凪が後ろから上がってくる。
多那が前線で動き出している。
瞬がサイドからカットインしている。
――きたっ!!
久しぶりの、確かな光。
ピッチの上に青い光の線が走りだし緋色から澪凪へ、澪凪からのリターンをそのまま多那へ、多那から瞬へ、そして瞬から――緋色へと、円を描くように繋がっていた。
三人の動きが、まるで強い追い風が吹くように緋色の背中を押してくれた。
「ここだ!」
緋色がパスを出す。
緋色から澪凪へ。
澪凪がワンタッチで緋色に戻す。そして多那へ。
「ははっ!きたきたきた!やっさー!」
多那が走りながら完璧なタイミングで瞬の元へ。
「ほほーぅ、なるほどー面白っっ!!ほいですほいです」
瞬がワンタッチで――緋色へ落とす。
サークルトップへ走り込んでいた緋色の元にイメージ通りのボールが返ってきた。
そのままダイレクトでシュート――!
黒チームのGK馬島が横っ飛びで反応する。
(…なんちゅー連携だよ!!くそっ届かない!)
ギリギリ…ほんの僅かギリギリ、スティックの先端がボールに触れる。
ガッ!
ボールの軌道が変わりゴール枠の外へ流れていった。
「おぉーーー!!すごっ!馬島ナイスキーパー!!」
黒のDFが驚きの声を上げる。それは誰の目にもスーパーセーブに見えた。
だが、馬島本人だけが気づいていた。
(……ちっ!!)
スティックの先端に当たりわずかに右手が痺れている。
本当の事を声には出せなかったが、馬島は結果でチームを鼓舞した。
ピィーー!!
審判の笛がなり試合終了。
白チーム 1-2 黒チーム
緋色は息を切らせて立ち尽くしていた。
「そんな……」
声が漏れた。
最後の崩しに手ごたえはあった。
持ち味の連携から攻撃。
しかし決めきれずの自分のミスで終わってしまった。
颯真がちらりと緋色を見て、何も言わずにピッチを去っていく。
緋色は自分の手のひらを見つめた。
(くそ……何もできなかった)
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その後のことを、緋色はあまり覚えていなかった。
U14戦がまだ残っていたが緋色はそこからも立て直せず試合は終わってしまう。
パスが通らない。青い光が見えない…周りが見えない。
黒チームとのラストワンプレーの流れるような連携はその後の試合では出てくることはなかった。
気がつくと、1日目が終っていた。
会場の出口へ向かう通路で―――
「緋色!」
藍人たちが駆け寄ってきた。
「どした?大丈夫か?」
「……」
凜太郎や焔も心配そうに駆けつけたが緋色の耳にはその声がうまく届かなかった。
少し離れた場所で多那と澪凪が緋色を見つめていた。
二人とも何も言わずただ見守っていた。
向こうから瞬が水を飲みながら近づいてきて、緋色の前にくると
「…緋色くーん、今日は……いまいちでしたね〜。最後はワクドキでしたけどっ!」
緋色「・・・・」
「あれ??」
返事ができず俯くことしかできなかった。
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宿舎に着きバスからどんどん選手が下りていく。
夕暮れの空気が頬に冷たい。
緋色は最後にバスから降り、バッグを背負って黙って1人歩いていた。
みんなの声が遠くで聞こえた気がした
ただ、歩いて、歩いて――。
その時。
低くて、温かい、いつもの優しい声。
「……大丈夫か?」




