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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第8章
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第83話「自分自身を」



「……大丈夫か?」



低くて―――― 温かい、いつもの優しい声。


その声が緋色の背中に届いた。




緋色は、ゆっくりと顔を上げ振り返る。


そこにはU14/15代表のコーチでもある父、巧真がいた。

見慣れた父の姿に、緋色は少しだけホッとした。


「……お父さん」




巧真は緋色の前に立ち静かに止まり話し始める。


「……今日はどうだった? 楽しめたか?」



緋色は、答えられなかった。

代わりに、ただ俯いて……自分の手のひらを見つめた。


練習のしすぎでマメがつぶれた手のひらの跡が、薄く残っている。

……最後のシュートを打った感触が、まだそこに残っている気がした。



「……全然、自分らしさが出せなかったんだ」



ぽつりと、声が漏れた。



「…そうか。」



巧真は優しく応える。


「いつもの光が全然見えなくて…。得意なはずのパスも全然みんなに繋がらなくて…。」



「…そうか。」



「……もう、もうU15は受からないと思う」



巧真はしばらく黙っていた。


夕暮れの空気が、二人の間をそっと通り抜けていく。



「…そうか。」



そして、ゆっくりと言った。



「……緋色は今、高い壁にぶち当たってるんだな。」



巧真は緋色の肩に軽く手を置いた。



「でもさ、顔あげて見てみろよ」



緋色は言われるまま顔を上げた。



そこには宿舎の明るいロビーの入り口で心配そうに見ている藍人たちがいた。

蒼、藍人、焔、凜太郎。

多那、澪凪、瞬。

みんなが緋色を見ていた。


チェックインの手続きもあるだろうがそれでも緋色を気にして、待ってくれている。



「お前には気にして助けてくれる仲間が…あんなにも沢山いるじゃないか」



――その瞬間。



緋色の中で、何かが広がっていく。



みんなの顔が見える。



成磐中の校庭で初めてスティックを握った日。

照先輩の豪快なシュート。

焔の3Dドリブル。

蒼が最後まで守り切ってくれた試合。

凜太郎との北海道。

功多、瞬とのライバルたちとの激闘。


颯真との力の限りの勝負……あの瞬間。


そして――。


さっきの最後のワンプレー。

澪凪の声。

多那の笑顔。

瞬のリターン。

四人で描いた、確かな青い光の円。



(……そうだ)


(僕はいつも1人じゃなかった…。)


(いつも…いつも誰かが助けてくれた)



「……昔、俺も壁にぶち当たった事があってな」



巧真の声が静かに続いた。



「1人で悩んで、悩んで、悩んで――」


「結果、逃げてしまったんだ。」



「……え?」



緋色は思わず父の顔を見た。


父がまっすぐに、ただ優しく緋色を見ている。

そこにわずかな苦さが滲んでいた。


「俺は自分の目の前に立つ、その高い…高い壁を乗り越えるのに何年もかかってしまった。」


巧真が俯く。


―――そして顔を上げ


「知ってるか?」


巧真がふっと笑った。



「神様は超えられる壁しか作らないみたいだぜ?」





















その言葉が緋色の胸に突き刺さる。



「壁の越え方は、そいつにしかわからない」



巧真は緋色の目を見て続けた。



「……さて。お前はどうやってその壁を乗り越える?」



緋色はもう一度ロビーを見た。


仲間たちがまだ待ってくれている。

心配そうに、でも誰もが信じる眼差しで。






――そうだ。


僕は1人じゃない。


いつも。

…いつも誰かがそばにいてくれた。

みんながこんな僕を信じて力を貸してくれていた。



「……緋色ならきっと大丈夫だよ。」



巧真のその温かい言葉が緋色の背中を、足を前へと押してくれた。



(……そうか)


(僕の心のせいだったんだ)



胸の中で何かが静かに解けていく。


緋色は止まっていた歩みを1歩…また1歩と進める。




今ならきっとできるような気がする。

みんなの顔が確かに見える。


今の自分にしかできないことを全力でやってみよう。


そう―――






信じてもらえるように――――


信じてみよう。

まずは「自分自身」を

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