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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第8章
82/82

第81話「繫がり」

ホーンが鳴り、紅白戦が始まった。


緋色は中盤の真ん中に位置取りパスを受け取る。


最初の数分は、両チームの探り合いだった。

大会でしか知らない3年生たちと、自分が同じビブスを着て味方としてピッチに立っている。

それだけで、緋色は不思議な感覚だった。


中盤の競り合いから、白チームがボールを奪う。

皐月(黒)をかわし十河(白)が前を向く。


「相原!」


十河が緋色にパス。


ボールを受ける前に、緋色は前を見渡していた。

瞬が左サイドのスペースに走り込んでいた。


(さすが瞬、いい動き出し!……ここだ!!)


ボールが、瞬のスティックに吸い込まれていく。


「ほほーーーーぅ!ナイスパ~ス、さすがは緋色くん」


瞬がトラップと同時にターン、難なくサークルイン。

強烈なシュートを放つが、惜しくも黒のGK・馬島がセーブ。


「相変わらず取りにくいシュートをっ…!!あぶねぇ!」


「あー、惜しい」


瞬が涼しい顔で戻ってくる。


緋色は、少しだけ息をついた。


(……通った。通用する!)



---



試合開始から7分。


今度は黒のターン。


颯真がボールを持つ。

中盤からスピードのあるドリブルで前進する。


白の中盤が簡単に抜かれると白のDF――徳島県、鳴海中3年の阿波(あわ) 澪凪(みなぎ)がフォローに入り飛び出してくるが、颯真は即座に切り返し――。


カバーに入った原田もブラインドにし、軽やかに2人を引きはがす。


「ちっ、速い……っ」


一瞬で、2人は置き去りにされる。


そして――。



颯真が前を向いた瞬間。

左サイドから、照がDFの間に走り込んできた。


颯真からの絶妙なスルーパス。


照が、走りながらリバースシュートを放つ――。


「もらったぁーーーーーーーー!!」


放たれた豪快なシュートはゴールネットを揺らした。


ピィーー!!


「っしゃーーー!大会1号!!!」


照が両手を上げガッツポーズ。

颯真は無表情のまま、ベンチに目もくれず戻っていった。


黒 1-0 白。


緋色は、その光景を見ていた。

颯真は、知らない3年たちの中でも普通に機能している。

個で打開し、いつも通りの凄いパスをなんなく通す。


(さすが颯真だ……)



---



試合再開。



白の中盤で、緋色がボールを受けた。


「僕も負けていられない!!」


前線を見渡すと中央に瞬、そして右のスペースに篠原(白FW・岐阜)が走り出していた。


(…!あそこへ――)


うっすらと青い光が篠原へと繋がり、緋色がそこへパスを出す。


だが――。


ボールが放たれた先に、篠原はいなかった。


「えっ…!?」


ボールは読んでいた相手DF(堀田)の飛び出しに拾われてしまう。


「すまん、相原!」


篠原が振り返って手を上げ、申し訳なさそうに謝る。


「すいません!」(…しょうがない!次だ)


青い光は、見えていた。

たまたま篠原は走り込んでこなかったんだ。


緋色は、首を傾げながら戻った。



---



白の自陣サークル付近で、こぼれ球に反応した十河がボールをキープ。


すぐさま瑞樹と皐月が前線でプレスをかけてくる。


「うおっはや…!」



「……こっちっす!」


岩倉がフォローに入りボールを受けると、すぐさまスクープの体勢。


「おおおおお…!」



ボールは高く弧を描いて宙をロケットのように飛んでいく。

驚くほどの飛距離。


「まじかあいつ、まさかここから……!!?」


ハーフラインを超え、相手サークル付近まで――。


「そんなんありかよっ!飛びすぎだろ!!」


黒のDF先田(伊舌中・宮城)が慌てて振り返る。

ボールはコート左に落ちる。その先に、瞬と多那、その後方に緋色が走り込んでいた。


「やっさー!もらったーーー!」

「待ち伏せ作戦~成功っ」(戻ってないだけ)


多那が前線で左サイドギリギリでボールを拾うとスピードを落とすことなくドリブルを仕掛ける。


瞬は右サイドからGK前へと走りこむ。


黒チームの百舌鳥が多那につくが、エンドライン際への左抜きで抜かれてしまう。


「ちょ……はやーーーー」


瞬についていた堀田がフォローに入るが、多那はすぐさまGK前に走る瞬へパス。


「ほいです。」


GKを背に瞬がワンタッチで、走り込んできた多那へリターンパス。リターンされたパスを多那は簡単にゴールを決めてしまった。


中央へ走りこんでいた緋色は目の前の光景に驚いていた。


ピピィーー!



(・・・すごい!!!全部のパスコースが……自分にも見えるきれいな青い光だった!この2人にも同じ景色が見えてたんだ)


緋色にパスは来なかった。

だがボールがゴールに突き刺さった瞬間、自分の想像通りの光景にワクワクが止まらなかった。


「はっはーやってやったさー!!」

「僕のお陰ですね~」


多那と瞬が両手を上げて喜んでハイタッチしている。



白 1-1 黒。




緋色は、息をついた。


(多那さん、瞬……きっと僕のパスはこの2人なら!)




---




試合が15分を過ぎたころ、緋色が再びボールを持った。


今度は中央。

李吏(白FW・山形)が、左中盤に降りてきてスペースでもらおうとした。


「へい!!」


緋色がボールを出す


だが――。


李吏が、走り込みを止めた。

別の方向にステップを切っていた。


ボールはサイドへと流れていく。


「おい、前に当てろよ!!呼んだだろ」


なかなかパスが受けられず苛立つ李吏が手を上げてアピールしている。


「…すいません!」



立ち尽くす緋色の足が止まり下を向く。


「くそ…見えてなかった…」



その時――。

ボールが流れた先へ影が走りこむ。



「緋色…!」


声が、後ろから飛んできた。


振り向くと、阿波 澪凪がラインぎりぎりでボールを止めていた。

DFのはずの阿波が、中盤を越えてフォローに走っていた。


澪凪は緋色にボールを返し


「大丈夫……もう一回だ」


緋色はハッとして、右サイドの多那へ展開。

多那が走り出す。


「やっさー!みなぎー、ナイスフォローさー!!さぁいくよー緋色!!」


緋色はつられて多那のフォローに走り出していた。


(阿波さん……DFなのに、ここまでフォローに!?)



---



その後、緋色のパスはほとんど通らなかった。


今まで通せたパスが通せない、時折光る青い光は瞬に2、3本のみ。




一方、黒チームでは――。


颯真が明らかに機能していた。

ドリブルで個人で打開し、3年だろうと関係なく自分のパスを通す。


黒チームは明らかに颯真のパスに動かされていた。


局面での取られないキープ力、ゴール前へのスルーパス。

GKの好セーブもあり得点にはならないが異彩を放っていた。



緋色は必死に食らいつくがパスが繋がらない。


(なんで!!?…いつもなら…!)


簡単なパスはできるのに得点チャンスのパスが通らない。


多那がたまらずリターンパスを要求している。




「……緋色ー落ち着くさー!無茶しても面白くないよー、楽しめたのしめ!」


緋色にボールを戻すと、阿波がすぐにもらいに来てくれた。


「緋色、大丈夫だ。焦らなくてもいい」


そういうと相手のプレッシャーをかわしDFにパスを回し自分の位置に戻っていった。


「……すいません」


この2人のフォローがいなければ、自分はピッチで何もできていなかった。

そんな自覚が、じわりと広がっていく。


それでも、白チームは何とか持ちこたえていた。

原田の守備、澪凪の前への意識、岩倉のロングフィード、浦崎の好セーブ。

緋色のパスが通らなくても、他のメンバーがフォローし合い何とか耐え抜いていた。


そして時々――多那-瞬のライン緋色が絡みなんとかチャンスを作る。

多那がいろいろな場面で顔を出しチャンスメイクをすることで白チームは攻撃を組み立てていた。


「(僕……役に立ててない)」


胸の奥が、重くなっていく。



---



前半終了のホーン。


ピィーー!!


スコアは、1-1。


緋色は、下を向き息をつきながらベンチに戻った。

ジャージで汗を拭く。

水を取るが、口にできなかった。


ベンチの周りで、選手たちが息を整えている。

誰もが、汗だくだった。


緋色は、黙って下を向いていた。



「相原」


声をかけられて、緋色は顔を上げた。


白チームのGK、浦崎廉。


(……浦崎先輩?)


浦崎は、特に怒ってる風でもなかった。

ただ、淡々と――。


「…こんなもんだったか、お前」


「……えっ」


緋色の心臓が、跳ねた。


「全国でやり合った時、俺はお前に1点取られたんだぜ?」


浦崎は、視線を前に向けたまま続ける。


「あの時のお前のパス、もっとヤバかっただろ」


「……」


緋色は、答えられなかった。


「遠慮せずもっと絡んで、もっとパス出していけよ」

「お前は、それができる選手だろ?」


そう言って、浦崎は水を飲み始めた。


「……すいません」


言葉が、胸の奥に重く沈んでいく。


(こんなもんだったか――)

(もっとパス出していけよ――)


でも――。


(自分なりに出してるのに…)

(なんで…繋がらない?)

(どう……したら…)


答えのない問いだけが、頭の中で渦を巻いていた。



「大丈夫さー、緋色」


笑顔で隣に座ってきたのは、多那だった。


「気にすんなー、何とかなるよ。死ぬわけでもないしさ、楽しもうぜ!後半も!」


肩を、ぽんと叩かれる。


澪凪が静かに反対側に座り、水を飲む。

緋色と目が合うと、わずかに微笑む。


「……はい」


緋色は、無理やり笑顔を作った。


その向こうで、瞬が涼しい顔で扇風機の前に座っていた。


「あちぃーーーー。緋色くん~。後半もボクに通してね~」


緋色は、小さく頷いた。


(多那さん……阿波さん……瞬……)


三人の存在は、確かに救いだったが浦崎の言葉が頭から消えない。


(こんなもんだったか、お前――)


緋色は、もう一度ピッチを見た。


3年生たちが、息を整えている。

原田、岩倉、十河、篠原、李吏――。

本気の目をした、ラストチャンスにかける3年生たち。


その中で、自分は――。


緋色は、ぐっと拳を握った。


(後半……絶対に繋げないと)


でも、…どうやって?


答えは、まだ見えなかった。


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