表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋色のスティック  作者: ぱっち8
第8章
80/82

第79話「分かれ道」

【タイトル】

第79話「分かれ道」



東京駅で新幹線を降りると、ホームの寒さが体に刺さった。


「うわっ、寒みぃーー!」


照が首をすくめる。


「人もすごいなぁ……何かイベントでもしてるのかな?」


蒼が辺りを見回した。


「みんな、はぐれないようにな」


巧真と烈真が先頭に立って歩き出す。

その後ろを、緋色たちが続いた。



新幹線の改札を抜け、案内表示を頼りに電車を乗り継いだ。

さらに別の電車に乗り換えて――。


「何回乗り換えるん……」


天音がぼやく。


「岡山と全然ちがうがん、みんな忙しそうじゃなぁ」


照が笑った。


電車の中でも、にぎやかさは続いていた。

照は天音と一緒に、まだ颯真にあれこれ話しかけている。

颯真は短く返事をしながら、つり革を握っていた。


焔と土紋は、隣に並んで座っている。

時々、小声で何かを話しているようだった。


(焔と土紋くん、自然になってきたな……)


緋色は窓の外を眺めた。

東京の街並みが、岡山とはまるで違う密度で流れていく。



「緋色、緊張してるのか?」


藍人が小さく尋ねた。


「うん、会場が近づいてきたからちょっとだけ。藍人は?」


「俺は楽しみの方が大きいかな!」


二人で笑った。


やがて、目的の駅に着いた。


「さあ降りるぞー!」


烈真の声で、全員がホームに降り立つ。

冷たい風が、頬を切るように吹いた。



競技場までは歩いて十分ほど。

歩道を進む間も、照と天音は何かしら騒いでいる。


「あれだ」


焔が前を指差した。



――東京オリンピックホッケー場。



青い人工芝のフィールドが、12月の灰色の空の下で広がっている。

スタンドの存在感、整備された設備――一目で、これまでとは格の違う会場だと分かった。

すでに何人もの選手が、それぞれのジャージを着て集まっている。


「うわぁ……すごく大きくてきれいなとこだな。ここでプレーできるんだ」


緋色は目を光らせ、思わず声を漏らした。


全国大会の会場とはまた違う、独特の張り詰めた空気。

一人一人の佇まいに、目に見えない重みがあった。


「行こう」


巧真が促す。

緋色は深く頷いて、一歩踏み出した。



---



受付を済ませ、ビブスを受け取る。

緋色のビブスは白の6番だった。



「あ、緋色!」


聞き覚えのある声に、緋色は顔を上げた。


「凜太郎!」


北海道のジャージを着た凜太郎が、手を挙げて駆け寄ってくる。


「久しぶり!待ってたよ!」


「もう来てたんだね!」


「ああ、長旅だったよ。東京は……凄いね。北海道とは違うよ」


凜太郎の顔を見ただけで、緋色の肩から少し力が抜けた。



「お、こっちもいたか」


今度は別の方向から声がする。


「功多……!」


鹿児島の涌陽中、藍・ウォール・功多が立っていた。

横には岐阜日夕館中の桜虎徹もいる。


「お前ら、来てたのか」


「緋色、また会えたな」


懐かしい顔ぶれが、自然と集まってくる。

全国で戦ったライバルたち。

声をかけ合い、再会を喜び合う。


切磋琢磨した仲間との再会が、緋色の心を少しだけ軽くしてくれた。



やがて、スタッフのアナウンスが響いた。


「全選手、メインスタンド前に集合してください」


緋色たちは指示に従って移動する。

全国から集まった選手たちが、ぐるりと並んだ。



前に立ったのは複数の大人たち。


中央には田村健一。

U15代表監督として、またU14・U15選考会の統括責任者だ。


その横に、神門烈真。

U14代表監督。


そして――相原巧真。

U14技術コーチ就任後の、初めての公の場。


他にもGKコーチ、フィジオ、各カテゴリの補佐コーチたちが、列の後ろに並んでいた。



「今日からの三日間、君たちには日本代表へ続く道を歩んでもらう」


田村監督の声が響く。


「U15候補、そして今回は特別にU14世代の選手にも集まってもらった。それぞれの目標に向かって、最後まで全力で挑んでほしい」


選手たちが静かに頷く。

烈真と巧真も、それぞれ短い挨拶をした。


「よろしくお願いします!」


全員が一斉に頭を下げた。



---



その後、体力テストが始まった。


50メートル走、シャトルラン、ジャンプ力測定――。

全員が混ざり合った状態で、次々とこなしていく。


緋色も淡々とこなす。

息を整え、フォームを意識し、数字を出していく。



だが、隣で走る3年生たちのスピードに、思わず目を見張る瞬間もあった。


(速い……!)


全国優秀選手たちの中でも、3年生の身体能力は別格だった。

身長も、体格も、2年生の自分とは差がある。


それでも――。


(数字では、負けてない)


緋色は静かに自分の立ち位置を確認した。


シャトルランで上位の成績を残し、身体的にはついていけている。

ジャンプ力測定では、3年生の中に混ざって食らいついた。


(やっぱりみんな、個々のレベルが高い……!)


体力テストが進むにつれ、選手たちの表情が引き締まっていく。

ここからが本番、という空気が、徐々に競技場を満たしていった。



---



すべてのテストが終わり、選手たちが息を整えていると、再びアナウンスが響いた。


「これより、U15候補とU14候補に分かれてミーティングを行います。U15はAルーム、U14はBルームへ移動してください」


緋色は、はっと顔を上げた。


(来た……)


周囲の選手たちが、それぞれの方向へ動き出す。

凜太郎、功多、虎徹、藍人、天音、蒼、焔、土紋――。

みんな、Bルームの方へ向かって歩いていく。



「緋色!」


凜太郎が振り返った。


「お互い、頑張ろうぜ!」


「……うん!」


「手加減しないぞ」


藍人も小さく笑った。


「こっちこそ!」


緋色も笑顔で返す。


焔と土紋も、それぞれ緋色を見て頷いた。


「行ってきます!」


緋色は表情を引き締めて、踵を返した。



颯真はすでに歩き出している。

何も言わず、ただAルームの方へ向かっていた。

緋色は、その背中を追いかけた。



---



Aルームの扉の前で、颯真が待っていた。


緋色はその場で一度目をつむり、深呼吸して足を止める。


「……行くぞ」


颯真がドアを開ける。


中には、すでに選手たちが着席していた。

ほとんどが3年生。

知らない顔ばかり――。


扉が開いた音に、全員の視線が一斉にこちらへ向く。


(……っ)


期待と疑念の混ざった視線。

「あれが14歳特別枠のやつらか」と言いたげな目。


颯真は気にせず歩いていき、空いている席に座った。


緋色も、深呼吸して足を踏み出す。

一歩、また一歩。

知らない3年生たちの間を抜けて、空いている席へ。



(……ここからだ)


緋色は、静かに席に着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ