表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋色のスティック  作者: ぱっち8
第8章
79/82

第78話「向かう先」


12月初旬の朝。


岡山駅の新幹線改札前は、学生やサラリーマン、観光客で賑わっていた。



「緋色、忘れ物ない?」


けいが心配そうに尋ねる。


「うん、大丈夫だと思う」


緋色は大きなリュックとスティックバッグを背負い直した。

中にはスパイク、スティック、着替え――そしてお守りが入っている。



「お父さん、引率って大変じゃないの?」


「そうだなぁ。久しぶりに責任ある仕事だけど……まあ、楽しみでもある」


巧真が穏やかに笑った。



「緋色も巧真も、ちゃんとご飯食べるんだよー!」


みっちゃんが沖縄弁で念を押す。


「東京は寒いけぇ、風邪ひかんようにねー」


「うん、ありがとうみっちゃん」



(お父さんと一緒に……なるんだ日本代表に!)


昨夜、巧真がU14のコーチを引き受けると告げた、あの瞬間の熱さが、まだ胸に残っていた。



その時、改札の方から見覚えのある集団が現れた。


「緋色ーーー!!」


声で誰かすぐに分かった。

照先輩だ。

その後ろから蒼、焔、青刃中のジャージを着た藍人と天音。



「お、もう揃っとるがん!」


「あ、緋色!おはよう!」


藍人が手を振りながら駆け寄ってくる。


「巧真さーん、今日からよろしくお願いしまーす!」


天音が爆音の挨拶。


「ああ、こちらこそ。今日からよろしくな」


巧真が苦笑しながら応える。



「ところで、お父さん」


緋色が父に尋ねた。


「島根勢と岡山駅で合流って、いつの間に決まったの?」


「神門監督と電話で話してたらな、自然とそういう流れになったんだ」


巧真が少しだけ笑った。


(自然と……)


緋色は少し緊張した。

颯真と、新幹線で同じ車両……。



「あ、来たきた!」


天音が指差す。


特急やくものホームの方から、出雲帝陵中のジャージを着た一団が歩いてくる。

中央には神門烈真。

その後ろにキャプテンの原田、宮儀、土紋――そして颯真。



巧真と烈真の目が合う。


「おう、久しぶりだな」


「ああ。まさか、こんな形で東京に行くことになるとはな」


二人は静かに笑い合った。

長い因縁を越えた今、その横顔は穏やかだった。



「じゃあ、そろそろホームへ向かおう」


巧真が皆を促す。


「お母さん、みっちゃん、行ってきます」


「がんばってね!ケガしないようにね!」


「楽しんでくるんだよー!」


けいとみっちゃんが笑顔で手を振る。


緋色は深く頷いて、改札を通った。



---



新幹線が発車してしばらく。

親世代と子世代がそれぞれの席に分かれて座る。



親世代の席。

巧真と烈真がペットボトルのお茶を片手に、和やかに昔話を始めた。


「酒は帰りにな」


烈真が笑う。


「ああ。楽しみにしてるよ」


巧真も笑い返す。



一方、子世代の席は妙に静かだった。


出雲帝陵勢は前の方の席。

3年生の原田と宮儀が小声で話し、颯真は文庫本を開き、土紋は窓の外を眺めている。


緋色はその後ろの席で、蒼と並んで座っていた。

反対側には藍人と天音、前の席には焔と照先輩。



「緋色、選考会の集合場所って大井だよね?」


蒼が尋ねる。


「うん。会場に集合して、初日が終ってからホテルらしいよ」


「緋色、なんか落ち着いてんじゃん」


藍人が笑う。


「そうかな?楽しみだよね、東京!」


緋色は窓の外に目をやった。

冬の田園風景が、後ろへ流れていく。


(でも初めての選考会で、凄い人達とプレーか……)


少しだけ、胸の奥がそわそわする。

でも、隣には蒼がいる。

反対側には藍人と天音、前の席には焔と照先輩。

このメンバーなら、何でもできるような気がしていた。



――しかしその平穏は、長くは続かなかった。



「颯真ぁーーー!!」


通路を歩いてきた照が、出雲帝陵中の席に突撃する。


「おめえのドリブル凄すぎじゃろ!!どうなっとんなーーー!」


「でしょでしょーー!」


天音もすかさず加わった。


「俺もずっと聞きたかったんよ!どうやってんのーー??」


颯真は文庫本から目を上げる。


「……普通ですけど」


「普通じゃねーーー!!」


「あたりめぇじゃぁぁ!普通であんなんできたら世界終わるが!」


原田と宮儀が苦笑している。

巧真と烈真が遠目に見て笑っているのが見えた。


颯真は静かに席を立つ。


「……場所、譲りますよ」


「待て、待て、待てーー、はなそうでーーー!!」


颯真は照に捕まってしまう。

土紋はその隙に立ち上がった。


(……あっち行こう)



土紋は車両を歩いて、焔が座っている席の方へ向かった。



「焔、ここ、いい?」


土紋が声をかけた。


焔が少し驚いて顔を上げる。


「あ、いいよ!」


土紋が、照のいた席に座った。


「選考会、頑張ろうぜ」


「うん、そうだね!」


(あれ……土紋って、こんな感じだったっけ……?)


しばらく沈黙。

新幹線の走行音だけが響く。



「前の試合、お前の3Dドリブル、止めるの大変だったよ」


土紋が口を開いた。


「……いや、でも最後は止められたし……」


「……俺も対策してきたからな」


「対策か……」


土紋は窓の外に目を向けた。


「正直、悔しかったんだよ。U12の選考会では歯が立たなかったからさ」


(……?)


「だから、あの後は必死で練習した。颯真先輩に毎日叩き込まれたんだ」


「そうなんだ……」


「で、中国大会の決勝で本気で出し切ってやり合って……気が済んだ」


「……気が、済んだ??」


土紋は少しだけ口角を上げた。


「俺、お前のこと勝手にライバルだ!って追いかけてたんだよ。でも、追いつけたかどうかより、焔との対戦が楽しかったんだ」


焔は言葉が出ない。


「今回は味方として、よろしくな!」


(土紋、物凄く大人だな……気持ちが強い)

(俺はまだ負けた整理できてないのに……そうだ)


焔は、晴れた顔で頷いた。


「……うん!よろしく!」


土紋が、ちょっとだけ口角を上げた。



---



後ろの席で、緋色と蒼が二人の話に聞き耳を立てていた。


「焔、なんだか打ち解けたみたいだね」


蒼が小さく笑う。


「うん。土紋くん、1年生なのにすごく大人だね」


緋色も微笑んだ。


「いいね……案外いいコンビになりそう」


藍人も頷く。


「うん、見ててなんか嬉しいな」



緋色はふと、前方の席に目をやった。

照と天音が、まだ颯真に絡んでいる。


「いや、聞かせろ!教えてくれー!」


「教えるとか……ないですし」


「あるじゃろがー!」


颯真の隣で、原田と宮儀が小声で「照は相変わらずだな」と笑っている。


(照先輩、天音……すごいなぁ。颯真と、あんなに自然に話せて)

(僕は……まだ目を合わせるのも精一杯なのに)


緋色がそっと窓の外を見る。


「緋色?」


藍人に呼ばれて、顔を上げた。


「ううん、なんでもない」


緋色は笑顔を作る。

藍人は何か言いたそうに緋色を見たが、何も言わずに視線を戻した。



---



やがて、新幹線は名古屋を過ぎ、静岡を抜け、関東へと近づいていく。

窓の外の景色が、田園から都市の街並みへと変わっていった。


緋色は流れていく景色を、ただ静かに眺めていた。


――声をかけてみたい。けど…


「次は絶対に負けない」と心に誓った相手に、何て言えばいいんだろ。



『まもなく、東京。終点、東京です――』


車内アナウンスに、緋色は、はっと顔を上げた。

窓の向こう、灰色の冬空が広がっている。

岡山で見ていた青空とは違う、薄く曇った冷たい空。



――東京の空が近づいてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ