南の森②
魔物の数がいつもより多い。
しかも慣れた動物型ではなく対処の難しい昆虫型。
感情や痛みの概念が伝わらず、敵として対処する場合少しづつダメージを与えていく方法が通じない。
急所や、活動部位を速攻で破壊しないと、数に押されてしまう。
そして対処できない隊員たちが次々と離脱していく。
それ以外にも最近みかける魔物の種類が変わってきている。
何か大きな厄災の前触れだろうか。
リデアを守る守備隊として長く務める通称「ゴリ」隊長は、守備隊を統率しつつ魔物を撃退していく。
対処できる隊員も侵攻頻度の影響か、けが人が増えてきえおり戦力低下は否めない。
必然的に各隊員の負担も増え、けが人が増加していく非常にまずい状態となっていた。
その結果が現在の戦況に直結している。
正直だいぶ苦しい。外壁を壊されると防衛が破綻するため、街に籠って戦うことはできない。
近いうちに決断しなくてはならない。
この街を捨てるか、のだ。
最も街を捨てる決断ができるものは領主のみだが。
「左門が抜かれます。防衛人数が少なくなってます。」
聞こえてくる報告は耳を覆いたくなるものだった。
負傷などで離脱したか、もしくは逃げたか。
原因はいくらでも考えられるが、対処せねばなるまい。
問題は限られた人数でどうするか。
ゴリが難しい判断を迫られているときであった。
どーんと大きな音と共に、空から来訪者がやってきた。
(飛行呪文・・・高位術の使い手か)
切れ者の領主の事だ。もしかしたら援軍の手配をあらかじめしていたのかもしれない。
楽観的予測をしたくなる場面ではある。
降り立った人物は女性だった。
その姿の感想を思う前に女性は、きりっと目を吊り上げ「砕け散れ!」と叫ぶ。
電光石火の早業だった。
女性の手から放たれた閃光 ―電撃の類か― は、無数の枝を形成し眼前の魔物に襲い掛かった。
「こんなところかしら。・・・・許可得ずに倒しちゃったけど、問題ないわよね。」
強い。あれだけ苦戦してた数の魔物が一瞬で塵となって消えていく。
「た・・助かった。どなたか存じませんがありがとうございます。これで左門へいけます。」
ゴリは陳謝するとともに、次の工程へ思考を切り替える。
ここは片が付いたが、左門を破られたら街へ被害が出る。
一刻も早く対応しないと。
「なんだ、他の場所もっていうなら私が対処してあげるわよ。案内しなさい。」
上から目線の言葉であったが、実力者というものはどこか少し常識に欠けているものが多いと聞く。
この強さ、手伝ってくれるというのだからこれほどありがたい話はない。
「それでは、お願いいたします。案内しますの・・・」
言葉を言い終わる前だった。
「何してくれるんじゃあああああああああああ。」
胸を張り反り立つ女性の横っ腹を飛び蹴りが襲った。
「きゃああああぁああああん。」
飛び蹴りがまともに命中した女性は、場違いな悲鳴と共に飛ばされながらも、態勢を整えて着地する。
「なにすんのよ!私の一番のお気に入りのローブを足蹴にするなんて!」
「うっせぇわ!文句言うなら空から蹴り落とすような真似スンナ!」
「あんたが、勝手に足につかまるからでしょ。気色悪すぎてたえれなかったのよ! 」
・・・・・・・えっと何が起きてるんだ。
男がいきなり現れ突如ドロップキック。
そして始まる痴話喧嘩。
戦場のはずだったのに場違いな空気間に包まれる。
ゴリは頭を掻いて言葉を挟めずにいた。
その痴話喧嘩は、女性がかかと落としによって気を失うまで行われていた。
そのころ、街の中へと足を運んだルミナ達はあまりの怪我人の多さに言葉を失っていた。
「ひどいな。」
第一印象がそれだ。
正に野戦病院とはこのこと。
治療されず寝ころんでいる人も多数いた。
「回復魔法の使い手がいないとは思えないんだけど」
元の世界とは違い、この世界には魔法がある。
怪我人なら程度の差はあれ、治療できる素晴らしい技術だ。
その力があるのにこの状況。
「とにかく治療しましょう。勇者スキルを使っても構いません。」
ペンガロンその言葉に少し驚くルミナ。
勇者スキルの使用をあれほど慎重にといっていた本人からの言葉だ。
「有事です。急がないと間に合わない恐れがありますから。・・・ただし力は抑えて・・・あなたなら大丈夫でしょう。」
魔力コントロールについては勇者のお墨付きをもらっている。
「相棒のために頑張ったからな。」
最近呼び出せていない相棒達を想い、少し自慢げに思いにふける。
「僕が話をつけてきます。リオ君とルミナ君は準備をしておいてください。」
そういってそそくさと走っていくペンガロン。
・・・大丈夫なんかな。
懸念は的中し、大きな悲鳴と共に平手打ちを食らっているペンガロンがそこにはいた。
その着ぐるみ失敗だと思うわ。
改めてそう思うルミナであった。
勇者スキルで大人化し(子供だと技量の問題等めんどくさい話になる)
回復魔法を使っていくルミナ。
魔力量も桁外れだが、効果も凄まじい。
流石に部位欠損は何ともならないが、外傷部位に関してはほぼ完治までもっていっている。
野戦病院と化した広場は、瞬く間に活気を取り戻し談笑はびこる広場へと変わった。
「ふう」
最後の怪我人を治癒すると、ルミナは軽く息をこぼす。
「これを使ってください。」
看護していた人から濡れタオルを渡される。
「ありがとう。」
お礼を述べ、顔をを拭く。疲労があったわけではないが多少の汗があった為、心遣いがうれしい。
「回復を魔法に頼っていた分、使用者の限界や減少で回らなくなっていたところです。お礼を言うのはこちらの方です。」
そう言って頭を下げる。
ルミナにとってもここまで魔法を使用できるとは思っていなかった。
一度に大きな力を使えないという制限はあるものの(代償の消費のため)、小刻みなら問題ないとわかったこと。
使い方さえ分かっていればすさまじい効果を発揮する。
勇者スキルおそるべしである。
「ただ、負傷者が運ばれる数が目に見えて減ってきています。そこだけが懸念されますが。」
崩壊して怪我人の移送すらできなくなったのか。
そんな憂いを感じているのかもしれない。
(りんこさんとねぐさんがうまくやったんだろうな。)
援軍に行った二人の力量を知るルミナはそう確信していた。
看護をしていた人は再び頭を下げると、「仕事がありますので」と告げて早足で駆けていった。
働き者だ。自分の責務を全うしている。
それに比べて・・・・
うさんくさそうに相手にされないペンガロンに、見物に行ってしまったリオ。
働いているの俺だけじゃないか・・。
働けるのがルミナだけという事実はあるものの、不公平感が半端ない。
「まぁいいんですけどね。」
「何がいいんだい?」
ふと漏らしたため息と言葉が拾われる。
聞いている人がいるとはおもわなかったルミナが少しきょどる。
「ああ、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。凄腕の回復の担い手がいると聞いてね。・・・腕だけではなく外見も麗しいまでは聞いていなかったんだけど。」
青年・・いや壮年に達しようかという男性はにこやかにルミナの前で会釈をする。
口調が軽い。軟派な感じがする。そういった印象が一番に来た。
「よかったらここで働かないかい。好待遇を約束するよ。」
ナンパではなく勧誘だった。




