南の森③
「勧誘・・・ですか。」
冒険する流浪の人間を勧誘することはあるのだろう。特に小説とかでは当たり前の風景だ。
だが、実際雇う側の立場になってみれば、いささか危機管理的には、軽率な行為であるといえる。
能力の確認をして・・・だけの事だろう。
つまり人となり、過去など分からないまま、採用しているということになる。そういった人間をそばに置くという行為はトラブルを抱える元となりかねない。
ルミナにとっては違和感を感じずにはいられなかった。
そのため返答は少し固辞したものとなった。
「仲間と一緒に来ていますので、個人では採用目的を聞いても返答できません。またの機会でお願いします。」
やんわりと断る。
我ながら無難に断れたと自画自賛のルミナであったが、相手の表情は驚き8割、笑い2割といった感じであった。
「ごめんごめん。てっきりこんな時期にこの街に来ているものだから、そういった前提で来ているのかと思っちゃってた。」
早合点してた。そういうと青年は「気が変わったらよろしく」といってさっていった。
社交辞令だったのかな。疲れた思考の中ではそれ以上の感想は出てこなかった。
「街を見回ってきたけど、だいぶ疲弊しているね。」
遊んでいるようにしか見えなかったペンガロンの口から、まじめな言葉が出てきた。
「疲弊している・・・・。疲れるほど長期間戦闘が続いているということですか。」
額の汗を拭きながら少し疑問に感じながら答えるルミナ。
ルミナの目から見ても広場での暗い空気は通じるものがあるが、「広場」が病院となっていたのである。
長期的な戦闘が続いているなら、あの場所はもっと病院らしくなっていたのではなかろうか。
ありていに言えば屋根や敷居など、看護院の数であったりということだ。
「病院は満員だったよ。衛生環境は悪くなかったけど改善は難しいだろうね。」
「病院がある?満員。。ってじゃあそこも行かないと。」
広場での治療で終わった気になっていたが、そんな話を聞いておとなしくはしていられない。
出来ることはやらないと。
だが、ペンガロンは静かに首を横に振る。
「病院で負傷者はいなかった。全て感染症や病気の類だ。君の。。。ううん、僕たちの出る幕はないよ。」
「そ・・そうなんですか。回復魔法じゃ・・。」
万能回復魔法さんじゃなんとかならないのか。
「治らない。部位欠損が治らないのと同じ。君が回復魔法をかけた瞬間、その人の病状は進行することになるだろう。僕たち風でいうと、「回復魔法はその人間の活性力を上げる魔法。」傷を塞げるけど病気は治せない理由はそこだ。」
だから対処法としてはポーションや薬草などの摂取により、自己免疫力による回復を促す方法がスタンダードだと教えてくれた。
説明はルミナにとっては理解しやすいものだった。知識の元が同じ世界だから。
「毒とか病気とかを治す魔法ってあるんですか。」
「あるよ。もっとも回復ではなく、攻撃魔法になるんだけどね。」
攻撃・・・ちょっとイメージしにくいかも。
「毒とか病原菌を攻撃するという表現だよ。対象物だけ攻撃する魔法っていうものがある。それを利用するんだけどね。知識と技術が問われるのでちょっとお勧めできるものではないかな。」
知識は何となく何とかなりそうなイメージはあるけど・・・・技術もなんとか・・・だけど。
「やらないと死んじゃうっていう場面以外は、やりたくないかな。」
話を聞く限り至極まっとうな意見であったので、ルミナはすぐに「わかった。」と答えた。
「現象だけ見ると回復魔法で治ると錯覚されやすいんだけどね。そうやってさらに大きな被害を出してしまうんだ。」
君には説明が通じて助かるよ。といわれた。
と同時に、疑問もわいてくる。
「病気ですか・・・」
防衛で戦力が必要な時期に病気。タイミングが悪いといえばそれまでだけど。
「ああ、関連があるだろうね。調べる価値はある。」
「こっちも報告することはあるぜ。」
いつの間にかりんこが帰ってきていた。右手には魔物の死骸が握られていた。
・・左手には、ねぐさんの右足首が握られていた。引きずられてきたんだろうか。
あられもない姿になっている。また喧嘩になってねぐさんが負けたんだろということは分かった。。
「お疲れ。どうだった。」
華麗にスルーして話を進めるペンガロン。もうなんか慣れてきた感じ。
「単純におかしい。魔物は昆虫型だったが、俺が見ただけで6種類以上は確認した。」
そういって魔物を地面に捨てる。
見てみると確かに羽が生えて節足で昆虫というのはわかる。大きさは流石に魔物というだけあってそれなりに大きいが。
昆虫って大きいものを見るとそれなりにグロテスクなんだな。
ルミナは死骸を直視した後目をそらした。
「なるほど、自然発生ではない。使役者がいるね。」
この情報だけでそこまでわかるのか。
日頃のペンガロンの行動を見ていると、いささか信用できないところもあるんだが。
「昆虫が複数種類いると自然発生ではない根拠はなんですか。」
とりあえず疑問を口に浮かべる。話に置いて行かれた感じがするのは居心地がよくない。
「自然における昆虫の大量発生はほぼ一種類なんだ。なぜならその一種が他の種をほぼ駆逐するからだ。共同で依存するなんて考えにくい。」
「まれに共存というか、無視される種がでて複数種ということもあるが、レアケースであるうえにせいぜい3種程度に収まるはずだぜ。」
そしてそういった種は増えることはない。生き残るだけだという。
簡潔な説明ありがとう。筋は通っているのは理解できた。
「で、使役者というのは。昆虫を操っているということか。」
何となくわかった呈で口にしてみる。だがルミナが考えていたよりもことは重大なことであった。
「昆虫を複数種操り増やし襲わせる。この能力を俺が有効に活用するなら、対処できない数まで増やして一気に殲滅を狙うだろうぜ。」
「そこなんだよね。能力をうまく使えない要因があるのか。繁殖させている数のキャパを単純に超えているものが流れてきているだけなのか。どうも推測の域を出ない・・・・情報が必要だね。」
集まっている情報が少ない。調査が必要だとペンガロンはいう。
だが自分たちは目的が有って旅をしている。ここで寄り道をする余裕があるのだろうか。
だが、思考の行きつく先でルミナはふと考え直す。・・・余裕しかないわ。
急ぐ旅でもなければ、焦る必要もない。
何より困ってる人がいることは確実だ。
「調査しましょう。原因があるなら取り除かないと。」
この街は病んでいく。確実に。
「僕も同意見だね。・・・なぁに、回り道でもないさ。こういったトラブルっていうのは目的と直結することも十分ある。現状でこの街単体では調査もおぼつかないだろうしね。」
「大本を叩けばすぐ収まる。別に難しいことじゃないと思うんだがな。」
力技が出来る人の論理だ。そしてできてしまうから現実味がある。
いざとなればその策で十分だろう。
「話は決まったね。まずはギルドか運営のトップに相談しよう。」
3人で今後の方針が決定される中、引きずられている彼女の事を気遣う人はいなかった。




