帰らずのダンジョン④
イーサン。
ルミナ以外にこの世界にいる勇者の名前。
しかも戦闘狂だって・・・。そいつが好き勝手に暴れるだけで、世界滅んでないか?
「だがあいつは今結界を隔てた魔界にいたはず。超えてくることはできねぇと思うんだが。」
魔界。
ファンタジーっぽい言葉が次々出てくる。
「世界の果て、結界の向こう側「魔界」。実在するのは知っていたけど。」
分断された結界の向こう側。隔離された世界。関わるすら考えが及ばない世界。それが魔界と呼ばれる世界の認識だ。
「といっても、今までのはおめぇらの話を聞いて、俺が出した推論にすぎねぇ。確実なのはそこのお嬢ちゃんの使命、動機が植え付けられたものだってことだ。その事実を踏まえて、今後はどうするんだ?」
進むのか。それとも引き返すのか。の2択だ。
「馬鹿にしないでよね。誰かに植え付けられようとそんなの関係ないわ。何よりやめてしまったら、私は何のために動いてきたのかわからなくなる。だけど・・・教えてくれてありがとう。楽しみが増えたわ。」
ここまでのことをしてくれたんだ。ただで済ます気はない。ねぐの目がそう語っていた。
「俺はもともと、何のために召喚されたかわからないんです。その理由を見つけるまでは、前に進みますよ。」
ルミナにとっては召喚されたこと自体が謎のままだ。その戦闘狂には関わりあいたくないが、理由を聞くため召喚者は探さねばならない。そのための情報、力は必要だ。
「俺は、ルミナについていく。・・・・親友だからな。」
リオの答えはシンプルだった。旅が終わってしまうとまた退屈になってしまう。ついていくぜと心強く答えてくれた。
「なら約束通り案内してやる。ついでに修行もさしてやる。勇者スキルの扱い方をな。」
りんこはそういうとにやりと笑みを浮かべるのだった。
勇者スキルの修業は単純だった。
「おいこら、もっと弱くしろ。コントロールしろ。食べれるところがなくなっちまうじゃねーか。」
「く・・っそおぉ。」
リオが大人の状態で放った剣閃は大きな熊の上半身を消し去ってしまう。
「ほらほら、あんまり力こめってぇえっと、ルミナ嬢ちゃんの魂削れちまうぞ。」
「リオ、がんばれ!いや頑張るなか。もっと弱めてくれぇええええ。」
勇者スキルの省エネコントロール。要するに最小で出力できるようにする訓練だ。
ルミナには感じることができないため、難しさがわからない。
だがリオはとても苦労している。力の調節ができていない。
念のためりんこさんがルミナの魂の総量を確認し、問題ないように見張っている。
大きな力を使えばルミナの魂が削られてしまう。リオは必死にコントロールしようとしていた。
ちなみに勇者スキルだが、りんこさんの推察通り、リオがスイッチとなっていた。リオがスキルの行使を停止しない限り大人の状態は続き、スキルも使用できる。
そしてルミナの方はというと魔力操作はゴーレム召喚で磨いたおかげでお手の物。出力コントロールをわがものとしていた。
よって今修行させられているのはリオだけとなった。
上半身がなくなった熊は、りんこさんの手により異空間のボックスに仕舞われている。食料は無駄にしない。必要分をついでに採取していくとのことだった。
「力を抑え込もうとしている間はうまくいかねぇ。放出を絞るんだ。」
りんこのアドバイスも感覚によるところが大きい。結局のところ繰り返すことで身に着けるしかないのか。
「勇者スキルを磨いておく必要があるのかしら。」
ねぐがちょっと気になるのよねと疑問を口にする。
りんこはその疑問には答えない。
「勇者のスキルが必要になる時が来るのかしら。あなたの推測だと。」
知ってることは話しなさいよねぇという圧をかける。
「勇者スキルが必要になるかどうかはわからねぇ。だが、魂を削りつつスキルを使うのだけはやっちゃいけねええ。最低限はそこだ。」
りんこ続けてこう断言する。
「少なくても魂を削る行為を「ペンガロン」は許さねぇ。あいつを連れ出すなら最低限身につけなきゃいけねぇことだ。」
「じゃあ魂の確認は私がやるから、リオの修業に専念しなさい。」
そういうと、ねぐは魔法を使用する。3度見ただけで魂の総量を確認する魔法を習得していた。
「そうだな・・・まかせるか。おい小僧!最終的には兎を狩ってもらうからな。もっと力を絞り込め。」
「ひぃいいいいい。」
リオの情けない悲鳴が聞こえる。
かくしてリオの修業はこの後も続けられた。
兎の食べれる部分を残したまま狩れるようになったのはたっぷり20日かかっていた。
さらに力のコントロールによって、大人化をしなくても済むようにもできる様になった。
ただ・・・・・・勇者スキル発動はリオのみ。当然大人か子供の選択もだ。そして解除もリオ次第。
代償がルミナだと考えると、いいところばかり持っていかれたというのがわかった20日間だった。
悲しい。
「食料も水も問題ない。このダンジョンに住んでもおかしくないわね。」
リオ以外のメンツはリオの修業の間、快適な時間を過ごしていた。気候も素晴らしい。自給自足にも向いている。
「外界との時間差がなけりゃあ、それもありだろうな。ただ、やっぱダンジョンだ。違和感はいずれ心のしこりとなる。おすすめはしねぇよ。」
このダンジョンは1層しかない。だが恐ろしく広い。出口を探すのは大変だ。
「そして入り口も知らなきゃはいれねぇ。」
りんこから案内された場所は、森の奥底にある洞窟の中の底が見えない穴だった。
「ここが裏ダンジョンの入り口だ。」
ダンジョンとは女神が作ったものであり、裏ダンジョンは女神にとってこの世界に干渉できる数少ない手段である。
この裏ダンジョンは女神が思うままにカスタマイズ化された空間である。ダンジョンの本質と言っていい。
故に破壊が可能な場所となっている。
「いいか、ここから先は勇者スキルの使用を禁じる。たとえ小規模であってもだ。理由は知ってのとおりだと思うが。」
「ダンジョン破壊をしないためですね。」
そうだ。とりんこは頷く。
「このダンジョンが無くなると、あの村は食料問題で崩壊する。ということは国が無くなるということだ。KINGにもさんざん言われていたからわかるだろうが、もしこの約束を違えたならば、俺はてめぇらを殺す。約束できるか?」
「それはルール次第じゃないでしょうか。使わないことで結局それが命にかかわることなら使用しない選択は約束できません。」
裏ダンジョンにはそれぞれクリアするためのルールがある。すのこダンジョンでは主に戦闘であった。あそこはルミナのスキルが役に立つルールであったが、少し間違えば死んでいた可能性もある。
力である勇者スキルを選択せずに死ぬことを約束することはできない。
それは問題ない。とりんこはきっぱり断言する。
「ルールは単純明快だ。俺に任せておけば何の問題もないことは保証してやる。」
だからスキルは使用するなよと念を押すと、ついてこいといって穴に飛び込んだ。
穴の奥の視界が通る場所で、りんこの姿が掻き消える。穴に落ち切ったわけではなく、途中で「裏ダンジョンの入口」とやらに入ったのだろう。
ルミナたち互いに頷くと、穴の中へと飛び降りるのだった。




