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悪役王女の青くない春  作者: 雨傘 はる


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苦い現実


名乗りを受け、王妹の紋の入った柄飾りを渡すと、深紅の彼──セルジオ・マリレイ──は、ひどく感慨深そうな表情で褒賞を眺めた。

幼い頃からを知られている相手らしいので、少々の気恥しさがある。


誤魔化すように紅茶を口にして、シュヴィアは話題を変えようと試みた。


「何か探れましたか」


「いくつかご報告が」


すぐに応じたセルジオは、胸元に国王の紋の入ったバッジを付けている。


やはりただで謹慎していたわけではないらしい彼は、諜報活動に注力し、有益な情報を仕入れてきていた。

近衛騎士隊の副隊長という立場は、伊達ではない。


それを足がかりに、シュヴィアは持てるすべての力を総動員し、一気に追い討ちをかけた。

シュヴィア自身も直接先代王弟に会ったり、情報収集のため社交に励んだり。なかなか忙しなかったが。


「証拠さえあれば」


両親と姉を手にかけ、兄を害そうとした証拠を。

先代王弟にはのらりくらりと面会を避けられ続け、国政と外交で手いっぱいだった今までは、決定打を得られなかった。


けれど、やっと手に入れた。

小説には、手に入れるための具体的な方法の記述がなかったから、少々手こずった。


本来であれば、時期はもう少し後。兄とヒロインの仲がもっと進んでからだ。

原作の兄とヒロインの手柄を掠めるようでもあるが、まあ気にしない。


「……そしたら、会えるかな」


健気で可愛らしいシュヴィアに。ああ、会いたい。本当に。


「姫殿下?」


そうなったら、今のシュヴィアはどこへ行くだろう。

同じ身体に二つの人格が混在するわけにはいかないから、元の世界に戻るのだろうか。

あるいは、輪廻転生の輪に入るのか。


どっちにしろ、以前のシュヴィアが戻って来てくれるなら、誰にとってもいい。

戻って来られないとしたら、今のシュヴィアで頑張ろう。


でも、願わくば。


「姫殿下!」


「え?」


強く呼ばれて目を瞬くと、どこか焦った表情のセルジオがいた。

首を傾げれば、ぎゅうっと寄せられた眉間の皺が深くなる。


「どこへも行かれないでくださいね」


「……はい」


今は、まだ。








王弟直筆のとある暗号型の手紙、兄の元側近への指示書、捕らえた側近の自供。

両親と姉の事故に見せかけた暗殺と、兄への毒殺未遂の証拠のみだが、目に見える証拠を手に入れた。

指示書の暗号解読がめちゃくちゃ大変でした。いやもうほんと。


それを持って兄の元へ行くと、概ね予想していたのか、彼は一つ頷いて影に捕縛を指示した。

元王族の捕縛、表沙汰になれば大事件である。秘密裏に片づけることになるだろう。


「あともう一つ」


兄とセルジオ以外を部屋から出し、影すらも遠ざけた部屋で、シュヴィアは務めて淡々と切り出した。

アンネですら傍に置かないのは、兄の反応が予想できないからだ。


「陛下の恋人であるメイドですが」


「マリアンヌ?」


なぜ今その名を、と兄が怪訝そうな顔をする。シュヴィアは表情を変えない。


非道なまでに冷静な声で、シュヴィアは告げる。


「────あのメイドは、先代王弟の庶子です」


ぞわりと背筋が震えるほど、室内の空気が凍えた。

シュヴィアと同じほど表情を変えない兄が、同じサファイアの瞳を爛々と燃やしながら、まっすぐに見据えてくる。


幼少の頃から怯え続けた兄の圧に負けないよう、怖気づく心を奮い立たせ、正面から見返した。


「探らせたところ、メイドの母は先代王弟の妾として生計を立てていました。メイドも幼少より先代王弟と面識があるようです」


「……連座ということか」


罪人、それも国王夫妻と王太女の暗殺という大罪を犯した者の子となれば、共に罪を贖うのが当然かもしれない。

命をとられることはなくても、少なくとも何らかのペナルティは受けるだろう。


とはいえ、だ。

シュヴィアは、あえて軽く肩を竦めた。


「メイドが事件に関わった証拠はなく、父と慕う男が先代王弟と知っていたかも定かではありません。認知もされていません」


「……」


「しかし、血筋に間違いはありません。言い方を変えれば、陛下とわたしの従姉妹でもあります」


シュヴィアと兄の父母姉を殺めた男の娘。仇の子。

けれど、血筋の少ない王家の貴重な血を持つ者でもある。


まあ有り体に言えば、認知されていないから、()()()()()()()()()

この場にいる誰もが口を揃えれば、それが事実となるのだ。


「メイドの処遇については、決定に従います」


「……おまえ個人の気持ちは、話してはくれないのだな」


この間から、どうも兄は優しげで困る。シュヴィアは苦笑した。


「陛下の意が、わたしのそれです」


「おまえは、おまえの心を話していい」


「……では、一つだけ」


誰かを裁くというのは、ましてそれが血縁や親しい者であるというのは、国王や王妹だって苦しい。


暴くにせよ、秘するにせよ、墓場まで語ることのできない事実がある。

何が小説だ。何が物語だ。これは現実で、綺麗事ばかりで成り立つ世界じゃない。


だから。


「陛下」


慄く本音など、ねじ伏せて笑って見せよう。

眉間に皺を寄せた不器用な笑顔でも、シュヴィアの精一杯の勇気を振り絞って。


「わたしには、共に背負う覚悟があります」




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