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UNREAD SIDE(アンリード・サイド)  作者: 臥亜


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6/7

『UNREAD SIDE』最終章 ――既読――

気がつくと、世界は元に戻っていた。


駅の音も、人の声も、光もある。

いつもの朝と変わらないはずだった。


スマホの画面も正常だった。


通知も来る。

SNSも動く。

既読もつく。


すべてが“元通り”に見えた。


ただ一つだけ違う。


誰の顔を見ても、名前が出てこない。


知っているはずなのに、思い出せない。


関係があったはずなのに、確信がない。


それでも日常は続く。


違和感を抱えたまま、世界は普通のふりをして進んでいく。


そのとき、スマホが鳴った。


UNREAD SIDEではない。


普通の通知だった。


見覚えのある名前から。


「おはよう」


たったそれだけのメッセージ。


反射的に“既読”をつけた。


その瞬間だった。


世界が一瞬だけ、静止した。


音が消えたわけではない。


時間が止まったわけでもない。


ただ、“意味”だけが消えた。


目の前にいるはずの人が、わずかに揺らぐ。


輪郭が薄くなる。


既読をつけた相手の名前を思い出そうとする。


だが——出てこない。


顔も、声も、関係も。


すべてが曖昧にほどけていく。


スマホがもう一度鳴る。


同じ名前。


同じメッセージ。


「おはよう」


既読をつける。


今度ははっきりと“何か”が消える。


目の前の椅子が空になる。


さっきまでそこにいたはずの人間が、最初からいなかったように。


息が止まる。


通知履歴を開く。


そこには、知らない名前が並んでいる。


だがその一つ一つに“既読済み”のマークがついている。


思い出そうとする。


無駄だった。


思い出す前に、記憶が削れていく。


そのとき、画面が勝手に切り替わる。


UNREAD SIDE


その文字が、最後のように表示された。


しかしアプリではない。


通知でもない。


画面そのものが“言っている”。


「既読処理完了」


続けて、一行。


「認識対象を削除しました」


手が止まる。


削除?


何を?


そして理解する。


既読とは、“読むこと”ではなかった。


存在を確定させる行為だった。


だから——


読まれたものは、固定される。


そして固定されたものは、消せる。


世界は静かに説明を始める。


もう誰もいないのに。


「あなたが見たものは存在します」


「あなたが既読をつけたものは確定されます」


「確定された存在は、再編集可能です」


背筋が凍る。


つまり。


既読は救いではない。


“削除権限の発動”だった。


周囲を見渡す。


人はいる。


だが確信が持てない。


さっきまで会話していた相手の名前が出てこない。


写真も曖昧になる。


履歴が少しずつ欠けていく。


そして気づく。


この世界には最初から


“消えても問題ない人間”が混ざっていた。


その境界を決めるのが、既読だった。


スマホが最後に震える。


UNREAD SIDE


「最終同期完了」


その下に一行。


「あなたが最後に読んだものは、あなた自身です」


息が止まる。


画面に映る自分の顔が、少しだけズレている。


名前を思い出そうとする。


だが出てこない。


履歴を見る。


すべてのメッセージに“既読”がついている。


その瞬間、気づく。


自分はずっと


“誰かに読まれていた側”だった。


そして今。


最後に読まれたことで、


その存在が確定した。


ゆっくりと、視界が薄くなる。


音が遠くなる。


名前がほどける。


最後に残るのは通知だけ。


UNREAD SIDE


「既読完了」


そして——


何もなくなった。


(終)

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