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UNREAD SIDE(アンリード・サイド)  作者: 臥亜


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5/7

『UNREAD SIDE』第5章 ――最初の未読――

その夜から、世界の“ズレ”ははっきりとした形になっていった。


人の顔がわずかに噛み合わない。

声が一瞬だけ遅れて届く。

目が合ったはずなのに、次の瞬間には記憶から抜け落ちている。


日常は続いているように見える。

だがその精度だけが、少しずつ壊れていく。


まるで世界そのものが“思い出し方”を失っているようだった。


スマホはずっと鳴っていた。


UNREAD SIDE


「侵食率:67%」


数字は増え続けているが、その意味はもう分からない。

進行なのか、停止なのかすら曖昧だ。


ただ一つ確かなのは、何かが近づいているという感覚だけだった。


その夜、通知は変質した。


メッセージではない。

アプリでもない。


画面が勝手に切り替わり、表示された。


「閲覧制限解除」


その瞬間、視界が裏返る。


そこは電車でも街でもない、名前のない場所だった。


白でも黒でもない。

上下も距離も曖昧で、“空間として成立する直前の世界”のようだった。


そこに、人の形をしたものがいくつも立っていた。


だがそれらは人間ではない。


顔を見ようとすると、認識が崩れる。

知っているようで、まったく知らない。

思い出そうとすると、記憶の方が逃げていく。


その中心に、ひとつだけ“明確な存在”があった。


それは確かに人間の形をしていた。


だが、そこにいるだけで周囲の認識が乱れる。


見れば見るほど、存在が揺らぐ。


その存在が、ゆっくりとこちらを見た。


そして静かに言った。


「やっと見えたか」


その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわつく。


知っている。

でも思い出せない。


思い出そうとした瞬間、記憶の輪郭だけが崩れていく。


その存在は続けた。


「俺は最初の未読だ」


空気が止まる。


意味は理解できるのに、理解したくない言葉だった。


「最初に見なかったことにされた人間」


「最初に名前を呼ばれなかった人間」


言葉がゆっくりと沈んでいく。


「最初に“読まれなかったメッセージ”」


その瞬間、すべてが繋がってしまう。


未読側は現象ではない。

怪異でもない。


“最初の一人”から始まった連鎖だった。


その存在は淡々と続ける。


「お前は覚えていないだろう」


「俺がそこにいたことを」


頭の奥で何かが引っかかる。


確かにあったはずの記憶。


送らなかった返信。

読まなかったメッセージ。

気づいていたのに無視した誰か。


その存在は言う。


「お前は選んだんだよ」


「見ないことを」


空気が重くなる。


「だから俺は未読側に落ちた」


その言葉は怒りではない。

恨みでもない。


ただ事実としてそこにある。


その瞬間、理解してしまう。


未読側は罰ではない。

怪物でもない。


“見なかったものが、消えずに残った結果”だった。


その存在が一歩近づくと、世界がわずかに崩れ始める。


駅の記憶。街の音。人の顔。

それらがすべて曖昧になっていく。


「俺はまだ終わっていない」


その声だけが異様に鮮明だった。


スマホが鳴る。


UNREAD SIDE


「侵食率:89%」


その下に一行。


「最初の未読、顕現完了」


周囲の“何か”が一斉にこちらを向く。


電車で見た影。

路地裏の気配。

思い出せない人影。


それらすべてが、ゆっくりとこちらへ意識を向ける。


そして気づく。


最初の未読は、どこか遠くにいる存在ではない。


すでにこちら側に“出てきている”。


その存在が最後に言う。


「もうすぐだ」


「お前も、読まれなくなる」


その瞬間、スマホの画面が完全に黒くなる。


そして白い文字が一行だけ浮かぶ。


「UNREAD SIDE 完全同期開始」


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