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UNREAD SIDE(アンリード・サイド)  作者: 臥亜


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4/7

『UNREAD SIDE』第4章 ――起源――

その夜、世界は静かすぎた。


車の音も、人の声も、いつも通り存在している。

それなのに、どこかだけが欠けている。


“意味のある音”だけが、抜け落ちていた。


俺は気づいていた。もう普通の状態には戻れないところまで来ている。


スマホの画面は消えなかった。


そこにはずっと同じ表示があった。


UNREAD SIDE


「侵食率:31%」


数字が増えているのに、何が進んでいるのかは分からない。

ただ、世界が少しずつ“薄くなっている”感覚だけがあった。


そのとき、画面が勝手に切り替わった。


通知ではない。メッセージでもない。

それは“招かれている”ような感覚だった。


「起源領域へ行きますか?」


拒否しようとした指は動かなかった。

最初から選択肢ではないように、意志が吸い込まれていく。


タップしてしまう。


その瞬間、視界が裏返った。


気がつくと、そこは“場所”ではなかった。


上下も左右もない。白でも黒でもない。

ただ、何かを“認識する前の空白”のような空間。


そこに、何かが立っていた。


人の形に見える。

だが、見ているうちにその印象が崩れる。


顔がないのではない。

そもそも“顔という概念”が成立していない。


視線を向けると、形が定まらない。


見れば見るほど、分からなくなる。


その存在が、ゆっくりとこちらに語りかけてきた。


声は耳ではなく、頭の奥に直接響いた。


「やっと来たね」


懐かしい声だった。

知らないはずなのに、なぜか心の奥がざわつく。


その存在は続ける。


「君はもう気づいているはずだ」


空間がわずかに揺れる。

そのたびに、見えかけていた“何か”が消えそうになる。


「ここは“場所”じゃない」


一拍置いて、声は続いた。


「人が見なかったものの集まりだ」


意味がすぐには入ってこない。


だが、次の言葉で理解してしまう。


「無視された瞬間、存在は少しだけ欠ける」


「気づかれなかった会話」


「読まれなかったメッセージ」


「見て見ぬふりをされた人間」


それらが積み重なっていくうちに——


「ここができた」


背筋が冷たくなる。


未読側。

それはただの現象ではない。


“見なかったことにされたものが集まる場所”だった。


声は淡々と続く。


「未読側は幽霊じゃない」


「死者でもない」


「ただ、“存在を最後まで認識されなかった人間”だ」


その言葉で、思い出してしまう。


電車で見た、あの“人の形をした何か”。

顔を見ようとすると記憶が逃げる存在。


あれは幻なんかじゃない。


「君は今、それを見ている」


声が静かに言う。


「見たものは、そこに固定される」


空間の奥で、何かが揺れた。


見えているのに、認識できない影が、ゆっくりと増えている。


「逆に言えば」


声が低くなる。


「見なければ、存在は薄れていく」


つまり——


見ても危険。

見なくても危険。


逃げ道がない。


そのとき、はっきりと分かった。


未読側とは怪物ではない。

霊でも呪いでもない。


もっと単純で、もっと嫌なものだ。


“誰にも気づかれなかったまま残ってしまったもの”だ。


そしてそれは、完全には消えていない。


ずっとこの世界の隙間にいる。


声が一段だけ低くなる。


「そして君は今、それに“触れている”」


その瞬間、空間がわずかに近づく。


“それ”がこちらを見ている。


顔はないはずなのに、確かに視線がある。


見られているという感覚だけが、強く残る。


スマホが鳴る。


UNREAD SIDE


「侵食率:52%」


その下に一行。


「起源接触完了」


画面が少しだけ歪む。


まるで世界そのものがスマホの中に沈んでいくように。


最後に、声が残る。


「君が見た未読は、まだ“優しい方”だ」


その言葉と同時に、空間がゆっくりと暗くなる。


スマホの通知が増える。


「未読側、増殖開始」


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