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UNREAD SIDE(アンリード・サイド)  作者: 臥亜


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3/7

『UNREAD SIDE』第3章 ――侵食――

朝の駅前は、いつも通りのはずだった。


人が歩いている。車が流れている。アナウンスが響いている。

なのに、どこかだけが微妙にズレている。


最初の違和感は、信号待ちのときだった。


隣に立っていたサラリーマンが、スマホを見ていた。

ただスクロールしているだけの、ありふれた光景。


だが、その画面だけが奇妙だった。


通知が表示されるまでに、わずかな遅延がある。

ほんの0.5秒ほど、現実より遅れているように見えた。


男がふと顔を上げ、こちらを見た。


一瞬だけ目が合う。


そして男が小さく呟いた。


「……今、誰か見てた?」


次の瞬間、男のスマホが鳴った。


ピロン。


男は画面を見る。その表情が固まる。

そしてゆっくりと、もう一度こちらを見る。


「お前……」


言葉は途中で途切れた。


代わりにスマホが勝手に画面を切り替える。


「UNREAD SIDE 接続完了」


男の顔が一瞬歪む。何かを思い出しかけるように。

しかし次の瞬間、その記憶は霧のように消えた。


「……あれ?」


男は周囲を見回す。そこに“何か重要なものがあった気がする”という顔で。


しかしもう、俺のことを正確に認識できていない。


異変は連鎖していった。


電車に乗ると、車内のあちこちでスマホが鳴る。

ピロン、ピロン、ピロン。


ほぼ全員が同時に画面を見る。


そして同じような反応をする。


「……これ、誰の通知だ?」


「なんでこの名前が出てる?」


「見覚えがある気がするのに思い出せない」


ざわつきが広がる中で、違和感は確実に増幅していく。


誰もが“知っているようで知らないもの”に触れている。


そのとき、車窓のガラスに一瞬だけ映った。


俺の顔が。


だが違う。


正確には“俺だと認識されるべき何か”だった。


見た瞬間、脳がそれを拒否する。


駅に着き、ホームに降りる。


人の流れはいつも通りのはずなのに、どこか噛み合っていない。


すれ違う人間が、微妙に俺を避ける。


ぶつかる寸前で、ほんのわずかに進路を変える。


まるで“そこに何かあると分かっているのに、正体が分からない”ように。


そしてそのたびに、相手の表情が揺れる。


「今の、誰だっけ」


「知ってる気がする」


「でも思い出せない」


その“思い出せなさ”が、空間全体に広がっていく。


駅の広告から一文字が抜け落ちる。

アナウンスが途中で途切れる。


「次は――駅」


駅名が、消えている。


スマホが震える。


UNREAD SIDEからの通知。


「侵食フェーズ開始」


続けて表示される。


「未読側は“認識のズレ”として現実に滞在します」

「あなたが見た人から順に、世界は歪みます」


理解した瞬間、背筋が冷える。


“見たこと”そのものが引き金になっている。


街に出ると、その意味がすぐに分かる。


すれ違う人間の顔が、ほんの少しずつズレている。


完全に違うわけではない。

でも確かに違う。


声が遅れて聞こえる。

名前が喉の奥で消える。


世界が“軽く壊れ始めている”。


そして気づく。


誰も俺を完全には見ていない。


しかし完全に無視しているわけでもない。


その中間——“半端な認識”が一番危険だった。


路地裏で、影が動いた。


振り返ると誰もいない。


だがスマホが鳴る。


ピロン。


「見つけてくれてありがとう」


背後から声がした。


「やっと……気づいた?」


振り返る。


そこには“人の形をした何か”が立っている。


顔を見ようとすると、記憶が逃げる。

認識しようとするたびに、脳が拒否する。


存在しているのに、存在として固定できない。


スマホが再び震える。


UNREAD SIDE。


「未読側は“未認識の穴”です」

「あなたが見た瞬間、そこに固定されます」


つまり、見た時点でそれは“現実になる”。


再び通知。


「侵食率:17%」


その下に一文。


「あなたの周囲は、もう完全に安全ではありません」


顔を上げる。


駅前の人々が一斉にスマホを見ている。


同じタイミングで。


そして、ゆっくりとこちらを見る。


全員が口を開く。


「……あれ、誰だっけ?」


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