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UNREAD SIDE(アンリード・サイド)  作者: 臥亜


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『UNREAD SIDE』第2章 ――忘れる側の選択――

目が覚めたとき、電車の中ではなかった。


自分の部屋でもない。


白い天井。


無機質な光。


病院のようで、病院ではない場所。


壁に窓はない。


ただ一つだけ——


正面に、スマホが浮いていた。


画面が勝手に点く。


通知。


「ルール説明を開始します」


あのアカウントだ。


UNREAD SIDE。


次の瞬間、映像が流れた。


見知らぬ“部屋”。


そこには人が立っている。


だが顔が、ぼやけている。


いや違う。


見えそうになるたびに、記憶が逃げる。


音声が流れる。


「あなたは今、“未読側候補”です」


「戻る方法は一つ」


画面が切り替わる。


三人の名前が表示された。


【選択】

母親

親友

昔好きだった人


喉が、詰まる。


「……は?」


声が出た瞬間、名前の下に説明が出る。


※この中から一人を“忘れてください”

※忘れた相手は“未読側に落ちます”

※あなたは“通常側に戻ります”


息が止まる。


意味がわからない。


いや、わかってしまうのが怖い。


忘れるってなんだ。


ただの記憶じゃないのか。


選ぶってなんだ。


画面が淡々と続ける。


「忘却は救済です」

「未読側は、代わりに存在します」


背中が冷たくなる。


つまり——


助かるためには、誰かを“存在ごと落とす”必要がある。


手が震える。


母親。


親友。


昔好きだった人。


一番最初に思い出したのは母だった。


朝起こしてくれた声。


弁当の匂い。


病気のときの手。


次に親友。


くだらない話。


深夜の電話。


笑いすぎて息ができなかった時間。


最後に——


昔好きだった人。


言えなかった言葉。


見れなかった最後の背中。


全部が、同じ重さで押し寄せる。


「……ふざけるな」


声が漏れる。


その瞬間、画面が変わる。


「制限時間を開始します」


部屋の壁に、カウントダウンが浮かぶ。


00:10:00


心臓が跳ねる。


スマホが震える。


通知。


母親から。


「ごはん食べた?」


親友から。


「お前今日変だったぞ」


昔好きだった人から。


「久しぶり」


指が止まる。


これ全部、まだ“つながっている人間”。


なのに——


この中の一人を“消す”。


突然、画面に変化。


三人の名前の下に、追加情報。


【選択補足】


忘れた相手は、あなたの世界から“完全に消えます”

写真・記録・会話履歴・記憶補正すべてに影響します


背筋が凍る。


ただ忘れるんじゃない。


存在そのものが世界から削除される。


00:08:12


母親のメッセージがまた来る。


「今日は帰るの?」


親友。


「今度飲みに行こうぜ」


昔好きだった人。


「まだ覚えてる?」


“覚えてる?”


その一言で、心が壊れかける。


00:05:00


選べ。


選ばなければ——全員が未読側へ。


つまり。


自分が消える。


喉の奥で何かが鳴る。


呼吸が浅くなる。


画面に映る三つの名前が、少しずつ滲む。


まるで——


誰かがこっちを見ているみたいに。


00:03:21


そのとき、気づく。


通知がもう一つ増えている。


UNREAD SIDEから。


「ヒントを出します」


画面が暗転。


そして、一行だけ。


「一番“忘れたくない人”を選んでください」


息が止まる。


一番忘れたくない人。


それは——


00:01:00


手が動く。


止まらない。


震えながら、選択に触れる。


その瞬間、スマホが勝手に切り替わる。


「選択を確認しました」


画面に表示。


「母親:選択済み」


血の気が引く。


「ちがう」


声が出る。


「俺はそんなつもりじゃ——」


だが画面は続く。


「忘却プロセスを開始します」


世界が、少しだけ静かになる。


ポケットの中のスマホが、また鳴る。


母親からの通知。


「……誰?」


その瞬間。


名前が消えた。


履歴から。


連絡先から。


写真から。


そして最後に——


頭の中から。


気づくと、涙が出ている。


でも理由がわからない。


ただ一つだけ確かなことがある。


何か、とても大事なものを失った。


そのとき、スマホに通知。


UNREAD SIDE


「おめでとうございます」


「あなたは通常側に戻りました」


窓のない部屋が消える。


気がつくと、電車の中に座っていた。


誰かが隣にいる。


でも顔が思い出せない。


ただ一つだけ、スマホに残っていた。


未読メッセージ。


「次は誰を“読む”?」


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