「幼少期」
第1章 • 第1部
目を開けた瞬間、僕の目にまぶしい光が飛び込んできた。
うわ、まぶしっ!
どうやら、まだ生きているらしい。
数秒後、ようやく目が光に慣れてきた。
周りを見てみると、そこには血まみれのマスクをつけた医者がいて……そして、もう二人いた。
名前は知らない。
一人は筋肉質で、頬骨が目立つ黒髪の男。
もう一人は、整った顔立ちをした女性で、アーモンド色の髪に……なんというか……ものすごく大きな目をしていた。
それより問題は、この二人はいったい誰なんだ?
もしかして、僕が助けた女の子の両親か?
でも、あの子は金髪だったよな。
もしかして、血のつながった親じゃないのか?
まあ、それはともかく……僕にはちゃんとお礼があるんだろうな?
僕は周りを見回した。
この建物は、どうやら全部木でできているらしい。
そして、明かりといえばロウソクだけ。
いくら無料の病院だったとしても、さすがにこれはひどくないか?
というか……ここ、電気すらないのか?
いや、待て。
これ、病院というより田舎の家みたいなんだけど……。
医者が僕に何かを話しかけてきた。
でも、何を言っているのかまったく分からない。
その言葉を聞いた途端、周りにいた人たちが心配そうに僕を見始めた。
女性は泣くのを必死にこらえているようで、男はそんな彼女を申し訳なさそうな顔で見ている。
これは……もしかして……。
ちょっと待て。
まさか、僕が死んだと思われてる?!
このままだと、生きたまま埋められるんじゃないか?!
僕は慌てて、
「おい! 僕、生きてるから!」
と伝えようとした。
しかし、僕の口から出てきたのは、腕を折ったときに出したような、甲高い叫び声だけだった。
すると、みんなの表情が一瞬で変わった。
安心したような顔になり、女性にいたっては嬉しさのあまり泣き始めた。
そして男は、僕を軽々と抱き上げ、何かを叫び始めた。
……僕のことを心配してくれたのは、まあ嬉しいんだけど……
僕たち、そもそも一度も会ったことないよね?!
僕は逃げようとした。
しかし、体が重く、思うように動かない。
まあ……そうだよな。
トラックに轢かれたんだし、まずは自分の体を確認しないと。
幸い、この部屋には鏡があった。
僕は鏡を見た。
そこに映っていたのは――
誰かに抱きかかえられている、一人の赤ん坊だった。
……ん?
ちょっと待て。
これって、つまり僕は……。
——
第1章 • 第2部
それから約三か月が過ぎた。
ようやく僕は、新しい両親の名前を知ることができた。
とはいっても、かなり苦労した。
二人とも普段から、
「愛しいあなた」
「あなたったら」
みたいな、聞いているだけで恥ずかしくなるような言葉をよく使うのだ。
本当に、聞いているこっちが恥ずかしくなる。
でも、二人が言い争っているとき、何度も同じ言葉を繰り返していることに気づいた。
そこで僕は考えた。
たぶん、この二人の名前は――
ロイとアンナ。
……まあ、いまだに二人が何語を話しているのかは分からない。
日本語に英語、それからいろいろな言語を混ぜたような、不思議な言葉だ。
だから、僕の最初の目標は――
この世界の言葉を理解すること。
そして、二人が何を話しているのか知ることだ。
まあ……今のところ、あまりうまくいっていない。
でも、頑張ろう!
とはいえ、僕の一日の大半はベビーベッドの上で寝ているだけだ。
アンナはずっと家にいる。
一方のロイは、いつもどこかの森をうろついている。
……いったい、森で何をしているんだ?
まあ、そんなことを考えているうちに、アンナが僕を連れて町へ買い物に行く日もある。
そのおかげで、僕はこの世界のお金について知ることができた。
石の硬貨がだいたい十円。
銅貨が百円。
鉄貨が千円。
銀貨が一万円。
そして金貨が十万円くらい。
……うん。
この世界の経済について知るほうが、言葉を理解するより早かった。
面白いな、これ。
ん?
「どうやってここが異世界だって分かったのか」って?
そんなの、考えるまでもなかった。
まず、ここには電気がない。
もちろん、「ものすごく辺鄙な田舎だから」という可能性もある。
でも、車すらない。
そして二つ目。
通貨、見たことのない植物、見たことのない道具。
そして三つ目。
何よりも分かりやすいのが――
そこら中に、いろんな種族がいることだ。
エルフ、獣人、ドワーフ……その他いろいろ。
まあ、僕の両親はどうやら普通の人間みたいだけど。
そんなことより、僕が気になっているのは別のことだ。
――この世界には、魔法があるのか?
そう。
僕が気になっているのは、それだけだ。
だって、魔法でもなければ、どうして僕が前世の記憶を持ったまま生まれ変わったのか説明できない。
ちなみに、ロイとアンナには、自分が異世界人だということを話さないことにした。
そんなことを話したら、二人を悲しませてしまいそうだからだ。
それだけは、どうしても嫌だった。
二人は僕を大切にしてくれている。
僕の前世の両親と比べても、ずっといい親だ。
……まあ、そんな二人にも一つだけ欠点がある。
アンナだ。
彼女は毎日のように僕に自分の胸を飲ませようとして、僕の顔に胸を押しつけてくる。
でも、だいたい十分くらいすると諦めて、哺乳瓶をくれる。
正直に言おう。
この女性、ちょっと僕のイライラを刺激してくる。
そして僕にミルクを飲ませ終わると、アンナはロイを呼ぶ。
たぶん、僕について文句を言っているんだろう。
「もう! 私の赤ちゃんがまた私のおっぱいを飲んでくれないの! どうすればいいのよ! なんで二十歳で子供なんか産んだのかしら!」
……みたいな感じで。
正直、ちょっとイラッとする。
まあ、二人がそういう反応をする理由も分かる。
二人ともまだかなり若い。
だから、子供との接し方なんて分からないのだろう。
でも……二人を手伝ってくれる人はいないのか?
例えば、誰かが僕の面倒を見てくれるとか。
僕だって、そろそろ同じ顔ばかり見るのには飽きてきた。
それに、その人がいてくれれば、二人も少し休めるだろう。
まあ、誰か一人くらい、そのうち顔を出すだろう。
——
第1章 • 第3部
さらに三か月が過ぎた。
この世界に来てから、もう半年くらいになる。
そして僕は、なかなかいい成果を出していた。
少しずつ、この世界の言葉が分かるようになってきた。
そして、ついに――
ハイハイができるようになった。
その結果、三日ほどで家の中をめちゃくちゃにした。
アンナは、僕を探し回る毎日だ。
それから、どうやら僕の名前も分かった。
僕の名前は――ヴィック。
……あまり独創的な名前ではない。
まあ、文句は言わないけど。
それと――
神様たち、ありがとう!
僕の祈りがようやく届いたらしい。
ついに、両親以外の人間を見ることができた!
いや、もちろん両親のことは好きだ。
でも、毎日二人だけというのは、さすがにちょっと退屈だった。
そんなある日、父親と一緒に、もう一人の男が家にやってきた。
口ひげを生やした男で、身長はだいたい155~160センチくらい。
僕は興味を持った。
でも、最初はあまり信用していなかった。
見た目は三十歳くらい。
どうやら父さんより明らかに年上らしい。
そして、どうやらこの人は僕の叔父らしい。
ただ……。
ロイと全然似ていない。
いや、本当に似ていない。
顔も違う。
性格も違う。
もしかして血がつながっていないのか?
それとも、父親か母親のどちらかが違うのか?
よく分からない。
でも、このおじさんは意外と優しかった。
ただし――かなり不器用だった。
あるとき、僕を上に放り投げて、そのままキャッチしようとした。
……が、少しだけ失敗した。
僕はそのまま額から床に激突した。
その後、母さんは約40分間、叔父さんを説教していた。
まあ、僕は別に怒っていない。
それから叔父さんは、父さんと一緒にベッドやタンスなどの家具を部屋に運び込んでいた。
二人が作業を終えると、僕はすぐに家具のプロによる厳密な検査を開始した。
家具の隅々までしっかり確認する。
……ただ、すぐに見つかってしまい、僕はベビーベッドへ戻された。
いや、僕はただ気になっただけなのに。
どうやら、彼の名前はガレンというらしい。
そして、彼は騎士団に所属している。
どうやら、父さんも昔はその騎士団に所属していたらしい。
「騎士団って何なの?」って?
そうだな。
僕が聞いた話では――
そこには、汗だくの男たちと、立派な剣がたくさんあるらしい。
……つまり、身内向けのゲイクラブみたいなものなのか?
まあ、もちろん僕たちはロイとガレンの趣味や、熱い男同士の友情を否定したりなんてしない。
……そんなガレンも、長くは滞在しなかった。
六日ほどすると、彼は帰っていった。
——
第1章 • 第4部
叔父さんが帰ってから、二週間が過ぎた。
最初は少し警戒していたけど、今ではなんだか叔父さんが恋しくなってきた。
僕って、かなり人に懐くのが早いのかもしれない。
いや……もしかすると、単純に暇なだけなのか?
外で何か面白いことでも起きていないかな?
僕はなんとかテーブルによじ登り、窓の外を見た。
そこに見えたのは、森と、僕たちの家の庭。
そして、その近くにいくつかの家があるだけだった。
何か面白いものはないかと外を眺めていると――
森の中からロイが現れた。
……全身、血まみれだった。
しかも、何人もの男たちに文字通り引きずられるようにして、家の中へ運ばれてきた。
アンナはすぐに彼らのもとへ駆け寄った。
これ自体は以前にもあった。
でも、今回のロイは――
ほとんど腕を食いちぎられたような状態だった。
男たちはロイを家の中へ運び込み、アンナは何か祈りのようなものを唱え始めた。
「慈悲の女神よ、私に御加護を授け、この子を再び立ち上がらせてください、ヒーリング!」
僕は半信半疑で彼女を見ていた。
……本当に、こんなので治ると思っているのか?
その瞬間――
まばゆい光が部屋全体を照らした。
その光は、僕が生まれたときに見たものとよく似ていた。
僕は反射的に目を細める。
そして、一秒後。
ロイの腕は完全に治っていた。
しかも、流れ出ていた血まで、すべて体の中へ戻っている。
正直、見ていてかなり気持ち悪かった。
でも……今のは何だ?
まさか……。
まさか、これって……。
「魔法!」
僕は、この世界に魔法が存在する可能性があることには気づいていた。
だって、そうでもなければ、どうして僕が前世の記憶を持って生まれ変わったのか説明できない。
それでも――
僕は嬉しかった。
魔法だ!
絶対に勉強しよう!
そして、そのとき僕は気づいた。
自分でも、いつ、どうして口にしたのか分からない。
僕は以前から話そうとしていた。
でも、今まではいくつかの音節を出すことしかできなかった。
どうやら、その頃はまだ声帯が十分に発達していなかったらしい。
その場にいた全員が、僕を見つめた。
アンナは今の状況を忘れたかのように固まり、ロイは僕を揺さぶりながら叫んだ。
「あなた、聞いた?! ヴィックがしゃべったわ! まだ一歳にもなっていないのに、もう話してる!」
「たった一言だ。そんなに騒ぐな」
ロイはそう言った。
まるで大したことではないような言い方だった。
でも――
その顔には、どう見ても自慢げな笑みが浮かんでいた。
その顔が語っている。
「みんな見たか? これが俺の息子だ!」
……まあ、気持ちは分かる。
僕だって、自分のことを誇らしく思っている。
この世界での、僕の最初の言葉だ!
僕はその言葉を何度も何度も繰り返した。
百万回くらい言った気がする。
そして、さすがに少し飽きてきた。
そこでアンナは、僕に別の言葉を教え始めた。
……まあ、僕は話すことができた。
でも――
僕はあえて、何も話さないことにした。
だって、僕はまだあの胸の件を根に持っている。
これは、いわば復讐だ。
その後、僕はアンナの前では数か月間、一度もまともに話さなかった。
もちろん、その間も僕はこっそり新しい言葉を覚え、何度も練習していた。
——
第1章 • 第5部
さらに二年が過ぎた!
僕はようやく歩けるようになった。
……まあ、よく転ぶけど。
そして、普通に話せるようにもなった。
僕にとってはものすごい進歩だった。
しかし――
アンナにとっては、とんでもない問題だった。
なぜなら、僕はいつもアンナの後ろをついて回り、魔法を教えてくれと頼み続けているからだ。
「ヴィック、あなたはまだ小さいんだから、もう少し大きくなったら教えてあげる。ね?」
「嫌だ、母さん。今教えて!」
「分かってるわ。私だって喜んで教えてあげたい。でも、あなたはまだ魔力が少なすぎるし、それに体もまだ準備できていないのよ」
だいたい、僕とアンナの会話は毎日こんな感じだ。
自分がまだ何も知らない、ちっぽけな子供だということくらい、僕だって分かっている。
でも――
子供に魔法を教えるくらい、そんなに難しいことなのか?
……いや。
まあ、もし僕に二歳の子供がいて、その子が「魔法を教えて!」なんて言ってきたら――
たぶん、僕はエクソシストを呼ぶ。
「……分かった。じゃあ、読み書きを教えて」
ふん。
二歳児に読み書きを教えるなんて無理に決まっている。
だから、アンナも断ると思っていた。
「ただし、魔法のことで私につきまとうのをやめるならね」
正直、これは意外だった。
僕を黙らせるために言っているだけだと思っていた。
でも――
アンナは約束を守った。
そして、僕にアルファベットを教え始めた。
正直、家にアルファベットなんてものがあることすら知らなかった。
それから三週間。
アンナは僕に読み書きと算数を教えてくれた。
正直、僕に必要だったのはアルファベットくらいだった。
この世界の言葉自体は、かなり簡単で分かりやすい。
文字も簡単に覚えられる。
単語も難しくない。
むしろ――
僕が今まで見てきた中で、一番簡単な言語だ。
この世界の大半の人が読み書きできないことのほうが、僕には驚きだった。
これなら、すぐに使いこなせそうだ。




