「始まり」
第1巻 • 第0章
人の人生なんて、驚くほど簡単に変わってしまうものだ。
つい最近まで、僕は義父に家を追い出された。
母は義父にそんなことをしないでくれと頼んでいた。でも、義父は母に選択を迫った。
「俺とあいつ、どっちを選ぶ?」
母は迷うことなく、義父を選んだ。
それだけ、母はあの人を愛していたんだろう。
その日の夜、母は何度も僕に謝った。泣きながら、許してほしい、理解してほしいと何度も訴えてきた。
まあ、僕は母を恨んではいない。
結局、僕に嫌悪感を抱かなかったのは、母だけだったから。
それだけでも、感謝するべきなのかもしれない。
僕は学生の頃から、ずっと「早く死にたい」と思っていた。
友達なんて一人もいなかった。
ましてや、彼女なんてできるわけがない。
女の子たちは僕にチャンスすら与えてくれなかった。
……まあ、理由はだいたい分かっている。
僕には金も、地位も、容姿もなかった。
それに、学校ではよくいじめられていたから、いつもどこかしら怪我をしていた。
一度なんて、腕を折られたこともある。
あのときは本当に叫んだな……。
ハハハ、まるで生まれたばかりの赤ん坊の泣き声みたいだった。
僕の人生は、矛盾した感情ばかりを抱かせてくる。
そして今、僕はゴミ箱のそばに座っている。
腹は減っている。
当然、食べ物を買う金なんてない。
僕は料理人になろうとしていた。
一応、料理人になるための学校にも通っていたし、マクドナルドで働こうともした。
でも……。
こんな汚くて臭い乞食を、料理人として雇いたい奴なんているか?
掃除員や警備員にまで応募した。
それでも、どこも僕を雇ってくれなかった。
そんな僕にも、すぐに一つの道が見つかった。
失業手当だ。
金額は少ない。
それでも、食べ物を買うくらいなら何とかなる。
仕事を探して断られるたびに、僕はその紙を差し出して、署名してもらえるよう頼んだ。
相手が署名してくれたときは、本当に嬉しかった。
今の僕に必要なのは、あと一つの署名だけ。
新しい従業員を募集しているレストランへ向かいながら、僕はこれ以上ないほど浮かれていた。
ただ一つ、イライラすることがある。
信号だ。
青になるまで、あと一分もある。
僕は信号機に向かって悪態をつきながら、ふと道路のほうを見た。
すると、小さな女の子が道路に飛び出しているのが見えた。
どうやら、彼女の凧が道路に落ちてしまったらしい。
近くには誰もいない。
僕は女の子を道路から離そうとした。
何度大声で叫んでも、彼女は僕の声を聞こうとしない。
彼女が気にしているのは、自分の凧だけだった。
周囲を見回す。
その瞬間、ものすごい速度でこちらへ向かってくるトラックが目に入った。
そして、その進行方向には女の子がいる。
僕は何も考えず、道路へ飛び出した。
持てる力をすべて使って、女の子を思いきり突き飛ばす。
その直後――
僕はトラックに轢かれた。
道路に倒れた僕の周りには、自分の血が広がっていた。
それなのに、僕は笑っていた。
嬉しかった。
やっと死ねる。
本当に……やっと。
ふと、そんなことを考えた。
もし、あのまま失業手当をもらえていたら……。
僕は、新しい人生を始めることができたのだろうか?




