「冒険者」
第7章 • 第1部
あれから半年ほどが経ち、幸いなことに、僕は少しずつあの日記の一件を忘れ始めていた。
もちろん、今でもララを見ると、時々あの絵を思い出して吐き気がすることはある。けれど、これでもかなり進歩したほうだ。
最初の数週間なんて、まともに食事もできないし、眠れないし、ララの顔を見ることすらできなかった。
そんな僕を救ってくれたのは……ロイとの森への狩りだった!
正直、自分でも驚いている。どうやら新鮮な空気を吸いながら狩りをするのは、かなり気分転換になるらしい。ロイと二週間ほど狩りに出かけていたら、いつの間にかララの日記のことをすっかり忘れていた。
あまりにも頻繁にロイと森へ通っていたせいか、最近では一人で弱い魔獣を狩ることまで許してもらえた。
どうやらロイも、ようやく僕が一人前の男になったと認めてくれたらしい。
まあ、僕にとってもこれは非常にいい経験だ。何しろ、僕は将来冒険者になるつもりなのだから。
ダンジョンを探索し、モンスターに捕まった美女を救い出し、あわよくばハーレムを築き、老後のための資金まで稼ぐ……。
ククク……。
……コホン。
少々夢を見すぎたようだ。狩りの話に戻ろう。
僕は魔獣の胸から魔石を取り出していたのだが、どれも同じ色をしていた。
最初は、魔獣の魔石はすべて同じ色なのだと思っていた。ところが、ロイによると、魔石の色は魔獣の強さによって異なるらしい。
弱い魔獣の魔石は鮮やかなオレンジ色をしている。一方、最も強い魔獣の魔石は、暗い赤色か、あるいは完全な黒色をしているそうだ。
もっとも、そうした魔獣はもう百年ほど目撃されていないらしい。
ちなみに、魔石を持っているのは魔獣だけだ。
……と言いたいところだが、例外が一つある。ドラゴンだ。
ドラゴンにも魔石があるのだが、魔獣のものとはかなり性質が異なるらしい。
魔獣の魔石とは違い、ドラゴンの魔石は体内に魔力を蓄え、それを口から炎として放つために使われる。魔石の色も、ドラゴン自身の鱗の色によって決まるそうだ。
また、魔獣とは違い、ドラゴンは魔石を失っても生きていられる。ただし、魔石を破壊されてしまえば、もう炎を吐くことはできなくなる。
……まあ、これはこれで興味深い話ではある。
けれど、僕にはそれ以上に気になることがあった。
人間たちはドラゴンを絶滅させようとしている。それなのに、なぜ半竜人たちは何もしないのだろうか?
彼らだって、ドラゴンの親戚みたいなものじゃないのか? だったら、どうして助けようとしないんだ?
……まあ、いつか半竜人に会うことがあったら、直接聞いてみることにしよう。
今は、ほかにやるべきことがある。
僕は街へ向かった。
## 第7章 • 第2部
街に着くと、僕はさっそく冒険者ギルドへ向かった。今日狩った魔獣の魔石を売るためだ。
ギルドの扉を開けると、そこには筋骨隆々の男たちが大勢いた。女性は受付嬢以外に一人も見当たらない。
……ここ、本当に冒険者ギルドか?
それともガチャクラブか何かか?
依頼受付のカウンターには、十六、七歳くらいの可愛らしい女性が立っていた。この世界ではすでに成人している年齢らしいが、僕からすればまだまだ子供にしか見えない。
彼女の後ろには部屋の鍵がいくつも掛けられていた。どうやら冒険者専用の宿泊施設があるらしい。普通の宿屋よりも安く泊まれるようだ。
僕は今日狩った魔獣の魔石を、まとめてカウンターに置いた。
そして、悲しい現実を知ることになった。
冒険者でなければ、魔石の売却額から七割も差し引かれてしまうらしい。
さらに、冒険者でない者がBランク、Aランク、Sランクの魔獣を狩り、その魔石を売却することは、原則として違法になるそうだ。
もちろん、王族や貴族などは例外らしいが、僕のような人間には関係のない話だ。
ちなみに、冒険者になっても一年間依頼を受けなければ、資格を剥奪されることがあるらしい。
……残念ながら、僕はまだ冒険者になれない。
この世界では十四歳になって初めて成人と認められ、その年齢に達してからでなければ冒険者登録ができないのだ。
とはいえ、初めて自分の力で稼いだお金だ。僕はとても嬉しかった。
七割も差し引かれたとはいえ、かなりの数の魔石を持ち込んだおかげで、それなりの金額にはなった。
さて、そろそろ帰ろうか。
そう思った矢先、視界の端に気になる光景が映った。
二十五歳くらいの男が、ギルドの受付嬢と何やら言い争っていたのだ。しかも、二人が話しているのはドラゴン語だった。
もちろん、ロイもその様子に気づいて、慌てて仲裁に入ろうとした。
……が、ロイには何を言っているのか理解できない。
そこで、僕が代わりに声をかけることにした。
カウンターの上には見慣れない硬貨が置かれていた。どうやら彼は、自分の国の通貨で支払おうとしているらしい。しかも、人間の言葉を話せないようだ。
仕方なく、僕はドラゴン語で話しかけた。
「すみません。よければ、僕が手伝いましょうか?」
男はすぐに僕のほうを向いた。
「お前のドラゴン語はひどいな」
……なんだこいつ。ずいぶんな言い草だ。
まあいい。これ以上大声で騒がれても困る。
僕は手持ちのお金をすべてカウンターに置いた。
「僕が部屋代を払います」
男は慌ててお金を押し返そうとしたが、受付嬢も相当うんざりしていたらしい。彼女はすぐにお金を受け取り、男に部屋の鍵を渡した。
「俺はお前の助けなんか必要としていなかった。誰にも借りを作りたくないんだ」
そう言うと、男は見慣れない硬貨を僕の手に押しつけた。
「お前には使い道がないだろう。……名前は?」
「ヴィッ……いや、ヴィキルだ」
危ない。つい、いつもの名前を口にするところだった。
「お前のドラゴン語には腹が立つ。それに、人間に借りを作るのも気に入らない。だから、俺がお前にドラゴン語を教えてやる。明日、ここに来い」
「ちょっと待て。そこまでしてもらう必要は……」
僕が言い終わる前に、男はそのまま階段を上がり、自分の部屋へ向かってしまった。
……今、何が起きた?
どうやら、本当に明日もここへ来ることになりそうだ。
僕は受付嬢のほうを振り返った。
「一つアドバイスなんですが、ギルドに両替所を作ったほうがいいですよ。そうすれば、少なくとも宿泊代くらいは払えるようになるでしょう?」
……はあ。
初めて自分で稼いだお金を、会ったばかりの見知らぬ男のために使ってしまった。
何やってるんだ、僕は。




