第二章 護衛騎士 8
翌朝。体に重みを感じて目を覚ましたルカは硬直していた。ルカを枕にして、メイがすやすやと眠っているのだ。声をかけ、肩を揺すってもメイは「ぅん……」とか「んにゃ……」しか言わない。当然、その寝言を可愛いと思う余裕がルカには少しもなかった。
メイもルカも服を着ているから大丈夫……ではない。恋愛関係でもない男女、それも導師と護衛騎士が同じベッドの上にいる。こんなところ、誰かに見られでもしたら――
「へぇ? あんなに嫌がってたのに、結局ヤることヤッたんだ?」
音もなくベッド横に現れ、にやにやと邪悪に笑うのはエフィ。ルカは必死に否定した。
「ち、違います誤解です! 僕とメイさんは別に何も……!」
「あはっ! 照れなくもていいよ? 純粋無垢で人畜無害な子犬みたいな顔してるけど、ルカだって男の子だもん。性欲はあるよね。大丈夫、なーんにもおかしくないよ」
「だから、違いますって……!」
「はいはい。で、メイで何人目? 今まで何人その可愛い顔で誑かしてきたの? メイとフロースには内緒にしといてあげるから、ぼくにだけこっそり教えて?」
メイが体に乗っていなくて、相手がエフィでなければぶん殴っていた。怒りと羞恥でルカの感情はぐちゃぐちゃに掻き乱され、危うく汚い言葉を吐き捨てそうになる。その様子を愉快そうに見つめるエフィだったが、引き際は心得ているらしい。顔の前で両手を合わせると、「ごめんね?」と可愛らしく小首を傾げた。
「……エフィさんのこと、嫌いになりそうです」
「えー、ひどーい」
軽い調子で言うと、エフィは腰羽でルカの左耳を指した。そこで初めて、ルカは左耳に何かついていることに気づく。外してみると、それはイヤリングだった。眩い金色の輝きを放っており、精緻な装飾が静かに揺れている。見るからに高そうだが――
「これって……」
意識を凝らす。するとイヤリングからメイの霊光を感じた。そして、それがもう一つあることもルカは知る。場所は近く、ルカは眠っているメイを見た。
少し躊躇ってから白銀の髪をそっと持ち上げる。柔らかそうな耳たぶに、ルカが手にしているのと同じイヤリングがあった。
「メイ、起きて。朝だよ」
無遠慮にメイの肩を揺するエフィ。もっと丁寧に起こしてくださいと言いたいところだが、こうでもしないとメイは起きないような気もした。もぞもぞと動き、猫のように体を伸ばすと、メイはゆっくりと金色の瞳を覗かせた。
「ん……? あれ、ルカさんだ……。ふふ、おはようございます……えへへ……」
寝惚けた声で言うとメイはふにゃふにゃ笑い、枕にそうするようにルカの体に頬を擦り寄せてくる。厳しい訓練の日々を思い出してルカは理性を保ち、なんとか朝の挨拶を絞り出した。すぐ傍で「何想像したの?」とにやにやするエフィのことは無視することにした。
ルカのその反応を不思議そうに見つつ、メイが体を起こす。だがその顔は眠たげなまま。放っておくと二度寝しそうなメイの頬を、エフィの腰羽がぺちぺちと叩いた。
「おはようエフィ……くすぐったいよ……」
「おはよ。ほんっと、メイって朝弱いよね」
呆れ気味に呟くエフィ。そのことを意外に思いながらルカも体を起こした。少しずつ意識が覚醒してきたのだろう。メイは少し恥ずかしそうだった。
「ご、ごめんなさい。見苦しいとこ見せちゃって。それに、ルカさんのこと枕にしちゃいました。重たくなかったですか……?」
眉尻を下げながらメイが訊いてくる。ルカは大丈夫ですと答えたが、気にするのはそこなのかと心の中で思わず呟いた。異性と一緒に眠ったことよりも、枕代わりにしたことを気にするなんて。
「よかった……。あ、そのイヤリングわたしが作ったんです。気に入ってくれましたか?」
期待に満ちた目でルカの手にあるイヤリング、そしてルカを見つめるメイ。ルカはイヤリングを左耳につけて頷いた。
「もちろんです。けど、どうしてこれを?」
「お礼です。ルカさん、たくさん血をくれたから」
昨晩の出来事が鮮明に蘇る。ルカはどうにか、あの光景を頭から追いやった。
「ありがとうございます、メイさん。大切にしますね」
イヤリングに触れる。あどけなく笑い、メイもイヤリングに触れた。




