四門の二つ名
*…*三連休特別更新*…*
「どこに行こうかなー!」
白銀として、隊服に身を包んだ憩はご機嫌だった。
「どうせ食い物だろ、お前は」
「……そういう言い方するくせに、顔はニヤついてますよ」
「はぁ!? どこがだよ!!」
朔夜と千歳は憩を挟むように歩いていた。
漆黒の隊服を着た少女が、同じ隊服の青年に両脇を固められている。
周りの視線は3人に集まっていた。
「あ! おだんご屋さん!!」
「おい!! 危ねぇから走んな!!」
朔夜の静止も虚しく、数メートル先へ憩は走っていく。
「わぁー、美味しそう!!」
「キミ、こんなところで何をしているんだ」
憩が声の主に目をやると、軍服姿の男たちが含みのある顔をしていた。
「何を、と申されましても。おだんごを見ておりました」
「はっ、だんごとは呑気な。その格好、特務部隊だろう?」
「そうですが。おだんごを買いたいので、もうよろしいですか?」
「チッ、だんごなどどうでもいい!! いいから来い!!」
男は憩の腕をグイッと掴むと、その場から立ち去ろうとした。
「おい、陸軍様がこいつに何の用だ?」
朔夜が男の手首を掴みながら問う。
憩は状況が読めず、ただ朔夜を見つめることしかできなかった。
「その軍服……、貴様も特務部隊だな!!」
「御名答。んで、何の用だって聞いてんだよ」
朔夜に凄まれ、男はジリっと1歩下がる。
今にも牙を剥きそうな朔夜を見て、他の兵士が口を開く。
「……おい、もしかしてこいつ」
「……あぁ、やべぇのに手を出しちまったかもしれねぇ」
「おい!! こいつ知ってんのか!?」
手首を掴まれた兵士が、仲間に助けを乞うような視線を送る。
「……西門の死神だろ、お前」
「西門の死神!? あの、冷酷無慈悲だと言われてる兵士か!?」
男は憩から手を離すと、恐る恐る朔夜の顔を見る。その名の如く、死神のような冷たい目が男を射抜く。
「そこまで知ってんのか。なら話が早ぇ、さっさと失せろ」
朔夜は男から手を離すと、その場から逃げるように去っていく兵士たちの背を見ていた。
「だから1人で先に行くなって言ってんだろ!!」
朔夜は憩の腕についてしまった、真新しい痣を冷やしながら叱る。
だんご屋の店先にあった長椅子に、憩と朔夜は腰をかけており、
千歳は騒ぎが大きくならないよう、周りに説明して回っていた。
「……ごめんなさい」
「ったく、これで済んでよかったけどよ……。
女が隊服着て歩いてたら目立つんだよ、気をつけろ」
「……うん」
完全に落ち込んでしまった憩の頭を、朔夜がポンポンと撫でる。
同じ陸軍とはいえ、特務部隊が対吸血鬼討伐部隊であることは伏せられている。
要は陸軍にとって、特務部隊は何をやっているのか分からない異質の存在なのだ。
そんな部隊に楚々とした少女がいれば、ちょっかいもかけたくなるだろう。
「……杣さん、説明終わりました」
「助かる。ありがとな寒凪」
「……いえ。憩、大丈夫?」
「はい。ご迷惑おかけして、申し訳ございません」
憩は千歳に深々と頭を下げた。
「……同じ白銀なんだから、そんなこと気にしないで。
元はと言えば、陸軍が悪いんだから」
普段スンとしている千歳が、目尻を下げながら伝えた。
「ありがとうございます。あの、さっきの人たちが言ってた西門の死神って何ですか?」
「……杣さんの陸軍での通り名だよ」
「千歳様にもあるのですか?」
「寒凪は北門の掃除屋」
「……それ、気に入ってないのでやめてもらえません?」
「俺が死神を気に入ってるとでも思ってんのか?」
2人はまた、バチバチと火花を散らしながら睨み合う。
「ねぇ、朔夜。お兄様と漣様にも、通り名があるの?」
憩に袖を引っ張られ、朔夜の視線は千歳から憩へと移る。
「あぁ、白銀の奴らにはあるぞ。
旭は東門の聖人、細小波は南門のゴミだな」
「……違うよ憩。本当は南門のスケベだよ」
「どっちも違えわ!!」
3人の会話に割り入ったのは、漣本人だった。
「憩、陸軍に絡まれたって聞いたけれど、大丈夫だったかい?」
旭が心配そうに憩に声をかける。
千歳が説明して回った中に、相楽家の使用人がいたのだった。
「はい、朔夜が助けてくれました」
「そうか、いつも悪いね。ありがとう」
「いえ、痣が残ってしまって……」
朔夜は冷やしていた憩の腕を旭に見せる。
「憩、分かっただろう? みんなが朔夜みたいに優しいわけじゃない。
自分の身は自分で護るんだ。そのために護身術も習っているんだよね?」
「はい。同じ軍の方だったので、少し気を許してしまいました。今後はきちんと自衛します」
「うん、それでいい。相手が吸血鬼じゃないからって、油断は禁物だからね」
こくり、と頷いた憩の頭を旭は優しく撫でる。
「んじゃあ、次は俺からだ!!
俺の通り名をゴミとかスケベとか言ってた件について話そうぜ!!」
漣は朔夜と千歳の肩をガッチリ押さえている。
「別にどうだっていいじゃねぇかよ、通り名なんて」
「……僕も杣さんに同意」
「おいおい、お前ら自分の通り名がひでえからって、嫉妬すんなよー!!」
漣はガシガシと2人の頭を撫でる。
「やめろよ、気持ち悪い」
「……本当に距離感おかしい。うざい」
「はいはい、許してやんよ。かわいい後輩だからなー」
そう笑うと、再び2人の頭を撫でる。
「お兄様、漣様の本当の通り名は何ですか?」
「……南門の噛ませ犬、だよ。
漣本人は、南門の色男って言ってるからそう覚えてあげて」
旭は漣に憐れんだ目を向ける。
「何だよ旭、俺が眩しすぎるってか!?」
「うん、そうだね。漣がいると明るくて楽しいよ」
「ほら、聞いたか!! やっぱり俺は色男だからな!!」
漣は満足そうに朔夜と千歳を離す。
「クソほどうぜぇ。いこ、飯食いに行こうぜ」
「うん、お腹減った!」
「じゃあ、朔夜には悪いけれど、みんなでご飯に行こうか」
旭が提案すると憩が嬉しそうに笑う。
「……杣さん、残念」
「うるせぇ、いこがいいならいいんだよ」
「杣は憩が1番だからな!! その心意気に免じて俺が奢ってやるよ!!」
「だってよいこ。何食いたいんだ?」
「トンカツ食べたい!!」
憩はキラキラした目で朔夜を見る。
先程までの落ち込んでいた様子はどこへやら、だ。
「んじゃ、支払いは任せたぜ、先輩」
「おいおい、一体いくらかかんだよ……」
漣は財布を確認しながら、トンカツ屋へと向かうのだった。
火曜日も通常通り更新します!
次はあのキャラの紹介があるかも……!?
ブクマをしてお楽しみに⭐︎




