*白銀劇場* 〜憩ちゃんのマナー講座!?〜
※本編に関わるネタバレはございませんが、
62句の前半と後半の間に挟まるお昼ごはんのお話です。
これは、白銀のみんなが、お昼ごはんをただ食べるだけのお話――。
晩餐会前日、最終確認を終えた8人は書斎で過ごしていた。
若干しんみりとした空気が流れていたが、いつもの如く憩の明るい声が全てを打ち破った。
「あの、お兄様! 晩餐会はコース料理なのでしょうか? それとも、ビュッフェ形式ですか?」
「いこはまた飯の話かよ……」
「だってコース料理だったら、テーブルマナーがあるでしょ?」
「……たしかに、憩の言う通りだね」
旭さん、和さん、憩。
この3人は全く問題ないだろう、相楽の人間だし。
細小波さんも一応五神族だから、教育は受けてるはず。
杣さんも相楽で生活してたし、ぼたんさんと夕梨さんは女学校に通ってた。
そうなると問題は、僕だけ……?
「立食形式だそうだよ。コースだと、交流が狭まるからね」
「そうなのですね! 千歳さん、楽しみだね!」
「……そうだね」
嬉しそうな憩とは対照的に、千歳は内心焦っていた。
立食とはいえ、最低限のマナーはあるだろう。
……どうしよう、憩に迷惑をかけてしまうかもしれない。
「じゃあそんな憩のために、今日の食事は立食形式にしようかな」
「マジかよ!! 面白そうだな!! 俺、マナー自信ねえから助かるわー」
「俺もだな。普段、使わねぇし」
旭の言葉に乗っかる漣と朔夜。
それが何を意味しているのか、千歳にはわかっていた。
旭さん、気を回してくれた。
それに……、2人とも優しい嘘つきだ。
僕が、僕だけが恥をかかないようにしてくれてる。
恥じてないでちゃんとしないと。
「……憩、マナー教えてくれる?」
「私でいいの?」
「……うん、憩がいい」
「わかった! お昼ごはん、楽しみだね!」
「……そうだね」
先程の不安そうな表情ではなく、心から笑っている千歳のその顔に、男性陣も自然と顔が綻んだ。
「憩、それはダメだよ」
「も、申し訳ございません……」
8人はビュッフェ形式で昼食を取っていた。
サラダ、肉料理、魚料理、加えてサンドイッチやデザートなどの軽食も揃い、練習には最適の環境だったのだが――。
「憩、それもマナーが悪いよ」
「こ、これでもダメですか……?」
自らの皿にこんもりと料理を盛る憩を、旭が注意していた。
これでは、千歳にマナーを教えるどころではない。
まずは本人の食欲を制限するところからだ。
「いいかい、憩。晩餐会はご飯を食べるのが目的ではないんだよ。人との繋がりを深めたり、普段お目にかかれない人たちと交流するために行われるんだ」
「……はい、申し訳ございません」
「食べたい気持ちはわかるけれど、せめてその1/4にしようね」
旭の言葉に、憩は下唇を噛む。
兄の言うことに納得はしているものの、その量ではとても足りないからだ。
「いこ、晩餐会はこんなに料理出てこないんだぞ。お前が腹いっぱいになるまで食ったら、他の奴ら食う分ねぇよ」
「みんなの分がなくなるほど食べないもん!!」
「じゃあ、その量はなんだよ」
朔夜は憩の後ろに置かれていた皿を指さす。
少女は顔を真っ赤にしながら彼の言葉を否定していたが、10枚ほどの大皿にこんもりと料理が盛られていた。
まるで、これがビュッフェです。と、言われても納得してしまうほどに。
「こ、これは千歳さんと食べるの!!」
「……えっ? 僕?」
「憩、千歳を巻き込まないんだよ」
妹を注意しつつも、旭は内心嬉しかった。
今までの憩なら、兄の言葉に不満があっても、それを表に出すことはなかったからだ。
「まあ、いいじゃねえかよ! どうせ明日は食いたくても食えねえんだからさー」
「え? どうして、漣さん」
「俺らは四門だからさ、政治家だのなんだのに挨拶しなきゃなんねえんだよ。それが終わったと思ったら他の隊士たちが来るし、食ってる暇あんまねえんだよなー」
夕梨の質問に答えながら、漣は面倒臭そうにガシガシと頭をかく。
料理は美味えけど、前回もビフテキ2枚しか食えなかったなー。
目の前に料理があんのに食えねえから、憩には相当キツイだろうな。
「なるほど。そうなると、同伴している私たちもですね」
「あら、そんなの放っておいて食事すればいいじゃない」
「いいわけねぇだろが……」
話をまとめるぼたんに対して、我が道を行く和。
明日、和のお守りをするのは朔夜だ。
もう既に、頭が痛くてたまらない。
「ごはん……」
「だからご飯を食べに行くわけではないと言ったよね。それに、憩も白銀に所属しているということは、特務部隊の一員なんだよ?」
……お兄様の言う通りだ。
いつも、みんなが優しくしてくれるから忘れちゃうけど、私も特務部隊の一員なんだ。
総司令の孫で、東門の妹で、北門である千歳さんのペアなんだから。ちゃんとしないと。
憩は旭の目を見つめると、にっこりと微笑んだ。
「そうでした! 私も特務部隊の一員です。肝に銘じて参加いたします」
「うん、いい子だね。じゃあ、今日は好きなだけ食べていいよ」
「本当ですか!?」
旭の言葉に、憩は目をキラキラと輝かせながら飛び跳ねる。
「その代わり、きちんと千歳にマナーを教えること」
「わかっています! 千歳さん、ご飯食べよう?」
「……そうだね、食べようか」
美味しそうにご飯を頬張る憩の横で、千歳は少しずつマナーを教わっていた。




